覇王なんてもう辞めたい 〜嘘から始まる世界征服〜   作:深海 星

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006 その通りです!

 薄暗い部屋の中。

 長い楕円型のテーブルに十人の男女が座っている。

 年齢はバラバラだが、皆黒い王冠のマークの入った戦闘服を着ており、その中の一人だけ白衣を着ていた。

 そのさらに奥、巨大モニターの前にルナが立っていた。

 

「覇王様から新たな指令が下りました」

 

 室内がざわめきだす。

 

「おお……!」

「ついに……!」

「来ました……かッ!」

「頭いてぇ……」

 

 二日酔いのクロガネだけは気持ち悪そうに頭を押さえていた。

 ルナは室内が静まるのを待ち、続ける。

 

「覇王様の指令はこうです」

 

 巨大モニターに文字が表示される。

 そこにはデカデカと『水』と一文字だけ表示された。

 

 ざわ……ざわ……

 

「水の確保……それも……」

 

 ざわわ……!?

 

「とびきりに“美味”なモノです!!」

 

 ざわわ……!ざわわ……!!

 

 ざわめきが大きくなる。

 

「水……!!」

「美味な水!!」

「覇王様の美味しい水!!」

「頭いてぇ……」

 

 ルナが手をかざす。すると先程までの喧騒が嘘の様に静まる。

 

「そして……昨日深夜、極秘情報が入りました」

 

 ざわ?

 

「灰域の奥深く……高尾マウンテンに謎の水源が確認されました」

 

 ざわんわ……ざわんわ……!!!

 

 赤髪の隊員が興奮気味に体を乗り出す。

 

「つ、つまりルナ様!覇王様はそれを予知しておられた……と?」

 

「……」

 

 その問いにルナは瞼を閉じ、背を向ける。

 辺りには緊張感が走り、『ゴクリ』とその場のクロガネ以外の全員が唾を飲み込む。

 ルナが振り返り瞼を開けた。

 

「その通りです!!!」

 

 ルナは腰に手を当て、その小さな胸を張りながら自信満々に言った。

 と、同時にモニターに『その通り!』と表示される。背景画像には覇王の写真が使われており、やけに写りが良かった。

 『おお』と歓声が上がる。

 この場のメンバーはルナが選考した覇王信仰の強い者たちで固められており、異論を唱える者など一人もいなかった。

 

「それでは作戦行動の会議を始めます……会議室に移動しましょう」

 

「「「「ハッ!!!」」」」

 

 先程までの浮ついた空気が一転して引き締まったモノへと変化する。

 ルナを先頭にして隊員たちが部屋を後にする。

 扉には『覇王様クラブ』と書かれたプレートが貼り付けてあった。

 

「頭いてぇ……」

 

 クロガネだけは未だに頭を押さえて動けずにいた。

 

 

 

 

 

 

 

 (ルナに連れられて車に乗ったけど……)

 

 荒野を走る複数の装甲車。黒い王冠マークの入ったその一団は煙を上げ目的地に一直線に向かっていた。

 玲の周りにはルナと、新型兵装を装備した部隊員たちが乗っている。

 

 (この物々しさはなに……???)

 

 言われるままに車に乗り、目的も告げられずに何処かへ連れて行かれる。

 玲は内心混乱しながらも、外側は完璧に覇王の仮面を被っていた。

 腕を組み、片足を膝の上に乗せる。その姿はまさに覇王そのものだ。

 その姿を見た部隊員たちはコソコソと会話を始める。

 

「すっげぇ、俺覇王様と同じ車だよ……」

「ああ、覇王様……今日も神々しい……!」

「俺、この戦いが終わったら覇王様のサイン貰うんだ」

 

 (なんでもいいけど……外見れないから暇だなぁ)

 

 部隊員たちの会話を気にも留めず、玲は呑気なことを考えていた。

 そんな玲の隣で端末を確認していたルナが口を開く。

 

「覇王様……まもなく目的地に到着します」

 

「……そうか」

 

「はい……まもなく覇王様のご要望の“美味い水”が手に入ります」

 

「ん?……そうか」

 

 ルナの目はどこまでも真剣だった。

 ただ、他の隊員と同じ戦闘服を身に纏ってるにも関わらず、全体的にダボっとしていた。

 その姿は小さな体躯も手伝って大変庇護欲をそそられるものであった。

 

 (水一本買いに行くのに、えらく大人数だな……みんなも喉乾いてたのかな?)

 

 その時、ルナの端末からけたたましい音が鳴り響く。

 

「ッ!……敵影です!皆、戦闘体制!」

 

「「「ハッ!!」」」

 

 次の瞬間、装甲車は全車停止し、部隊員たちが洗練された動きで車を降りる。

 

「覇王様、敵を排除して参ります……この中から出ないようにお願いしますね」

 

 そう言って下車したルナを見ながら玲は思った。

 

(敵って何の???)

 

 

 

 

 ――――――――――――

 

 

 

 

 人の見当たらない荒野。そこを浮遊するバイクで駆ける集団がいた。全員が戦闘服を着ており、バイクと服には九条の社紋が入っていた。

 その先頭を走っていた男が口を開いた。

 

「迅隊長!前方に複数の装甲車を目視との報告!王冠の紋様も確認!間違いなく覇王軍です!!」

 

「……了解した。総員全速力で敵へ接近、敵へ攻撃を仕掛ける」

 

「「「「了解!」」」」

 

 直後、集団が加速する。

 景色が勢いよく後ろへと流れだし、あっという間に目的地へと到着する。

 そこには複数の装甲車が停車しており、すでに銃声が聞こえてきていた。

 

「……始まったか」

 

 (俺は……覇王を……)




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2026.6.3.2時。2話の序盤の勘違い描写、3話のラストを加筆修正しました。
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