次章以降も書く予定ですが、私生活が落ち着きましたら再開する予定です。
感想、評価、お気に入りを含め、読んでくださった皆様に改めてお礼申し上げます。
大会終了から数日後。
「第四回真佐杯お疲れ様会」と題されたサーバーに3人は集まっていた。
激闘を終えた3人の、小さな打ち上げだった。
「お疲れ様でした」
「お疲れ様です」
「お疲れ様でした」
それぞれ飲み物を片手に乾杯する。
ビール、ハイボール、炭酸水。
シュワシュワと小気味いい音も、通話では共有しきれない。
しかし、どんな状況だって酒は酒。
のど越しを感じながら、マイクのやや遠くでAttoが美味いと言っているのが聞こえる。
「そういえば」
しのびたるとが笑う。
「ファイナル凄かったですね」
「はい、まさに激戦って感じでしたよね」
悠斗も同意する。
「AttoさんはNadia戦の後、チャットにこの会の日時だけ残してそれ以来消息不明でしたけど……」
「あー……」
Attoが歯切れの悪い返答。
「やっぱりメンタルにきてたんですか?」
「いえ、決してそういうわけではないので、もし心配をかけていたのであればすみません。その……あの後、妻に怒られてまして」
「えぇ……? どういうことです?」
「いやまぁ、今はいいじゃないですか。ほら、たるとさん飲んでないですよ!」
「いや僕炭酸なんで。飲んでも何も変わらないですよ」
やんややんやと進む飲み会だったが、悠斗はふと気になったことがあった。
「結局Attoさんはファイナルの様子を見たんですか?」
「いや、見てないです。結果だけならXで見ましたよ。箱木さんが優勝でしたね」
「あっ、そうなんですね。アーカイブは残ってるので、何なら今みんなで見ますか?」
「結構です」
やけに即答だった。
「え、いやでも……気になりませんか?」
「なりません」
「ぷっ……」
「何ですかたるとさん」
「それってあれですか? もしかして自分が負けた大会だから?」
「もちろんです。何が楽しくて自分が勝ってない大会の映像なんて見たいんですか。しかも今回の配信卓、僕は全敗なので未来永劫この大会のアーカイブは見ません」
「えぇ……?」
「まぁ気持ちは分からなくもないですけどね。じゃぁ、優勝は箱木さんだったわけですけど、どんな展開だったか予想できますか?」
「ほう……これは面白いクイズですね。何か賭けましょうか?」
通話越しでもAttoがにやりと笑っているのが分かる。
酒の席で引くわけにはいかない。
悠斗の勝負師としての血がタイミングを考えず騒ぎだした。
「じゃあ僕はAttoさんが当てられないに一票! かなりいい展開だったので難しいですよ! Attoさんが当てたらハイボール一気飲みします!」
「たるとさんは?」
「えっ、僕もですか?」
「もちろんです」
「えー……じゃあ、僕もYutさんと同じく当てられないにします」
ワクワクしている悠斗の反面、しのびたるとはやや呆れている。
「ではまずは、箱木さんが勝ってストレートに優勝したか、Nadiaさんが勝ってタイに戻したか。そこの予想からでいいですか?」
「望むところです」
「はい」
一瞬の沈黙。
「そうですね……Nadiaさんが勝ち、タイゲームの末箱木さんが優勝。違いますか?」
「ぐわああああ」
「おー合ってるすげぇ」
「よしよしよししょし。まずは一勝です。さぁどうぞ召し上がれ」
「くそおおおおお」
悠斗は勢いよくグラスを傾けた。
炭酸が喉を跳ねるように刺激するが、気合でねじ伏せて胃に送り込む。
「うぇ……。流石Attoさん、やりますね。どうして分かったんですか?」
「箱木さんは星遺物オルフェゴールとの対戦がないままでしたからね。でも、一戦交えれば妨害の切り方が把握できるかなと……まぁ、ぶっちゃけほとんど勘ですけどね。」
「なるほどなぁ」
「ところでたるとさんは飲みましたか?」
「げっ。分かってます、飲みますって」
しのびたるとがぐびぐび飲んでいるのが伝わる。
「ふぅ……飲みました」
「じゃあこれにて……」
「いえ」
「? どうしました? しのびさん」
「僕らだけ飲んでいるのはムカつきます。第二問行きましょう」
「おっ、いいですね。乗ってきましたね、たるとさん。やりましょう」
「いやいやいやマジすか?」
Atto、ウッキウキである。
悠斗は困惑したが、確かに負けっぱなしも良くない。
悠斗はAtto、を超えてやると決めたばかりなのだから(?)
「では第二問は僕から。第二戦は10ターン以上経過した。僕はAttoさんが当てられないに賭けます」
「じゃあ僕は当てられるに!」
「うーん……そうですねぇ、経過した、と答えます」
「ぐわああああ」
悠斗は呻く。
「Attoさん、Yutさん、僕の勝ちです。さぁ美味しいお酒が待っていますよ」
しのびたるとのご満悦そうな声色。
悠斗とAttoはそれぞれグラスと缶を開け、ようやく終わりかと思ったとの時、今度は悠斗が第三問!と叫んだ。
悠斗は二杯飲んでいる。全員が平等に飲むまで終わってたまるか。
そう思い始めた悠斗は間髪入れずに出題する。
「大会中のコメント欄にぽん酢さんはいたかどうか! 僕はAttoさんが当てられるに賭けます! しのびさんはどうですか!」
「まだ続くんですかこれ……っていうか、このお題じゃ推理もくそもないじゃないですか! えぇい、当てられない!」
何だかんだノリのいいしのびたるとであった。
いや、ノリが良いというよりか、人が良いと言うべきか。
「では回答を……居た!」
「Attoさん、正解! しのびさん、美味しいシュワシュワが待ってますよ!」
「いや何で分かったんですかAttoさん!」
「勘です。僕はぽん酢さんと話したこともないので、そもそも良く知りません」
「くそおおおおでは第四問!!」
「ええええまだやるのしのびさん!?」
「Attoさんだけ一杯少ないのずるいですよ!」
「よしきたどんと来い!!」
「第4回真佐杯の真佐さんのアバターのアホ毛は何本だったか。僕は当てられないに賭けます」
「ええええいやいや知らんよそんなもん!! 当てられない!」
「ふっふっふ。残念でしたね。僕は大会直前、まつりさんがXでアバターに課金した報告を見ていました。答えは3本です」
「「ぐわあああああああああああ」」「ってかあほ毛3本って何なんだよ!」「余計な事すんなやあのクソアマァ!!」
こうして夜は更けていく。
研究に明け暮れた日々もいったん終わり、胃が痛くなるようなプレッシャーからも解放された。
勝利の美酒とまではいかないが、戦いを共にした仲間と飲む酒はとても美味いのだと、悠斗は知った。
ひとしきり酒を飲ませ合い(一人は炭酸がなくなり、途中からフライパンに入れた水を一気飲みしていた)、3人はぐったりしてきた。
「Attoさん、次はどうしますか?」
「次……ですか。実は、今大会でNRは一区切りしようと思っていました」
「えっ……それって、引退ってことですか?」
「本気で言ってます?」
悠斗は思わぬ衝撃を受けた。
酔いも吹き飛ぶその一撃だったが、Attoは言葉を続ける。
「優勝したら辞めるつもりでした」
「そうですか……」
「ただ」
Attoは少しだけ笑った。
「負けちゃいましたからね」
悠斗も、しのびたるとも笑った。
「悔しいですか?」
「悔しいです。今すぐにでもギルティアとかいうカードを引き裂いてやりたいです」
「それは僕も同感です。あんなカード、発見されるべきではなかった」
「えっ、一番最初にギルティアを大会に持ち込んだのってしのびさんじゃ……」
「Yutさんはまだ酒が足りないようですね」
「いえ何でもありません本当に何でも」
悠斗はもう限界だった。
主にお腹が。
「それに」
Attoが続ける。
「今回、凄く楽しかったんです」
悠斗としのびたるとも頷いた。
「楽しかった……そうですね」
「はい」
Attoは頷く。
「一人じゃ、きっとここまで来れませんでした。Yutさんがいて、たるとさんがいて、ヴェンデットがあった。だからこんなにも楽しい日々を過ごせました。だから……ありがとうございます」
通話が静かになる。
少し照れ臭かった。
Attoも悠斗も酔っぱらっていたし、しのびたるとも雰囲気に当てられていた。
だから素直になれた。
社会人のいい大人が、正面切って友達にお礼をいうことなんてそうあるものではない。
だが、嬉しくもあった。
「じゃあ」
しのびたるとが言う。
「次もやりますか」
「そうです! やりましょう!」
悠斗が即答する。
むしろ始まったばかりだ。
Attoは少し考えた後に、笑った。
「そうですね」
そして、こう言った。
「じゃ、チームでも作りますか」
「チーム?」
Attoは続ける。
「どうせ研究するなら、ちゃんと名前があった方が面白いでしょう」
「確かに」
「何かあります?」
しのびたるとが考える。
悠斗は、ぴったりな名前を知っていた。
悠斗が見返していた先日の真佐杯のアーカイブ。
Atto対箱木戦の終了時のコメント欄。
悠斗はバカみたいなテンションのコメントに思わず笑い、スクリーンショットでそのコメントを保存していた。
「僕、良い名前知ってます」
「Yutさん、聞かせてください」
Attoにうながされた悠斗は、サーバーに画像を共有する。
その画像には、叫びまわる調味料のコメントが一つ。
『うおおおおおおおAttoにしのびたると、Yutのヴェンデット研究所エグすぎるうううううううううアンブレラ社にみんな気をつけろおおおおお!!!!!!!!!』
「あはは、何ですかこれ」
「Attoさん、ぽん酢さんってこんな人なんです」
「これはまぁ……面白そうな人ですね」
「でも、良いんじゃないですか? アンブレラ社」
「ですよね、しのびさん。アンデットの研究所ですし」
数秒の沈黙。
Attoが言った。
「アンブレラ社、これでいきますか」
「「はい」」
二人の声が重った。
「でもこれ、絶対悪の組織じゃないですか」
「言えてますね。でも実際、ヴェンデットって環境的には悪のデッキかもしれない」
また笑い声が響く。
「じゃあ決まりですね」
Attoが言った。
「そうだ、Attoさん。チームを作るなら、もう1人引き入れたい人がいるんです」
「ほう……どなたですか?」
悠斗は胸を張って紹介した。
「monoさんと言って、第3回真佐杯の時に一緒にヴェンデットを研究した方です。かなりの研究家で、ネギを持って不貞腐れたパンダのアイコンです」
通話越しにAttoが大声で笑うのが分かる。
「もちろんいいですよ、そんな面白そうな方は是非紹介して下さい。ではYutさんから…………」
第四回真佐杯は終わった。
かつての王は敗れ、新たな王が生まれた。
環境は変わった。
だが。
研究は終わらない。
挑戦も終わらない。
好きなデッキで勝つために。
好きな仲間と笑うために。
アンブレラ社。
その始まりは。
第四回真佐杯の後に行われた、酔っぱらってIQの下がった、最高に楽しい打ち上げだった。
第4回真佐杯の様子↓↓
https://www.youtube.com/live/U18cDGQfCjY?si=VLz22GljvFo1_far
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