空の向こうから、なにかが僕たちを覗き込んでいる。
善悪なんてどうでもいい。ただ、この胸に燻る愛や、嫉妬や、未練――人間という生き物が垂れ流す、醜く肥大した感情だけを、奴らは愉しげに“観測”している。

降臨した“使徒”の前に、世界はあっけなく削られていく。
抗うための兵装《感情燃焼機関》は、僕たちの感情そのものを燃料にして炎を上げる。戦えば戦うほど心は摩耗し、大切な記憶の輪郭が、体温と一緒に消えていく最低の兵器。

命を燃やす英雄たちのまぶしさに、僕はいつも目を細めていた。
才能も、出力もない僕には、戦う資格すらない。世界の救済なんてどうでもよかった。僕の狭い視界には、ただ一人、幼馴染の小宮依里だけがいればよかった。

誰よりも壊れやすいあいつが、世界の“救世主”へ祭り上げられていく。
依里の声が、どこか遠くのスピーカーから聞こえる気がして、胸の奥が冷たく震えた。

遠くへ行かないでくれ。僕を置いていかないで。

……だから、あいつが傷つき、無力な少女に戻るたび、心の底で酷く安堵してしまう自分を、僕は殺せそうにない。

当の依里は、「私がやらなきゃ、みんな死んじゃうから」と、取り憑かれたような笑顔で心を焼き、また戦場へ向かう。

これは、世界を救う英雄の物語じゃない。
……愛するほどに壊れ、守りたいと願うほど怪物に堕ちていく、僕たちの記録。

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英雄はまだ人間だった
  第壱話  「コンビニの灯り」
  第弐話  「プリンを買う理由」2026年05月29日(金) 20:39
  第参話 「誰かを、本当に救えたり、するんですか」2026年05月29日(金) 20:40
  第肆話 「何も心配いりません」2026年05月29日(金) 20:40
  第伍話 「第一使徒」2026年05月29日(金) 20:41
  第陸話 「スープの嘘」2026年05月29日(金) 20:41
  第漆話 「死んだアスファルトみたいな色だった。」2026年05月29日(金) 20:42
  第捌話 「私には、ただの騒音にしか聞こえなくて」2026年05月29日(金) 20:42
  第玖話 「……透ってあったかいよね」2026年05月29日(金) 20:43
  第拾話 「残像」2026年05月29日(金) 20:43
英雄の作り方
  第拾壱話 「名前の葬列」2026年05月29日(金) 20:44
  第拾弐話 「遺品たちの夜」2026年05月29日(金) 20:44
  第拾参話 「神殺しの輪郭」2026年05月29日(金) 20:44
  第拾肆話 「被適合者の調律」2026年05月29日(金) 20:45
  第拾伍話 「泥の底から、空の底へ」2026年05月29日(金) 20:45
  第拾陸話 「兵器たちの葬列」2026年05月29日(金) 20:46
世界を殺す約束
  第拾漆話 「極刑台のハッカー」2026年05月29日(金) 20:46
  第拾捌話 「約束の底」2026年05月29日(金) 20:46
  最終話 「世界を殺す約束」
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