バタフライエフェクト   作:ブッチ神父

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いざアビドスへ!
零刻はプレ先時空の反転したトウコちゃんの今でした。壱刻からは本編時空トウコちゃんが本編開始前のアビドスから始まります。
唯一本編開始前の描写があるっていうのと、ブルアカで始まりと言えばやっぱここな気がするので。


アビドス編
壱刻 無窮の砂漠へ


 澄み渡る青き空、眼前に広がる砂の海が灼熱の風を運び込む。広大な学区、アビドスには今日も熱い太陽の眼差しが降り注いでいた。

 アビドスといえばアビドス高等学校と答えるものが多いだろう。なんと言っても当時は3大校と呼ばれ、ゲヘナやトリニティと同じく多くの生徒をその懐にかかえていたのだ。

 それだけではない。かの学校は戦闘力も他の学校の追随をゆるさぬほどであった。そう、アビドスもかつては繁栄をほしいままにしていた。

 

 ……さて、この文章をご存知だろうか?

 

 祇園精舍の鐘の声、諸行無常の響きあり。娑羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす。

 驕れる人も久しからず、ただ春の夜の夢のごとし。猛き者もつひにはほろびぬ、ひとへに風の前の塵に同じ。

 

 簡単に要約すると

 

『どんなに栄える者も必ず衰えるという道理がある。繁栄を極めようとも永劫に続くことは無く、いつかは滅び去る。』

 

 という内容となる。

 アビドス学区はまさにこの好例と言えるだろう。

 原因は年々広がる砂漠の侵食による生活地域の縮小。それにより、住民たちは別の学区への移住を余儀なくされていた。住民も日を追うごとに少なくなり、昔はマンモス校と呼ばれたアビドス高等学校も今は小規模となった。

 かつての栄華を誇ったアビドスは先の文章の如く、見る影もなく衰えたのだった。

 

「だけど、それはあくまで見た目だけの話。現実はそんな環境に適応した人だけが残る、煮詰められた10倍濃縮めんつゆになったと俺は考えるわけ!」

「……まぁた訳の分からない例え話をしだしたと思ったらアビドス高等学校の話?そろそろ耳にタコが出来そうなんだけど。」

 

 一人の少女がドヤ顔で言いながら近くのコンビニで買った蕎麦をズルズルと啜り、もう一人の少女は目頭を押さえながらアビドス高等学校の校門を抜けていく。

 

 この二人はアビドス高等学校に転校してきた生徒だった。何故転校することになったのかというと、たまたま百花繚乱の仕事で調停していた彼女の脳裏に自身が所属している百鬼夜行連合学院から転校してこの地で修行しよう!と修行部も真っ青なイカれた思いつきをしてしまったからだった。

 それに友人を巻き込んでこの地獄(アビドス学区)にやってきたのだ。巻き込まれた人間は堪ったものではない。

 

「それ以前に僕を巻き込む必要なかったでしょ?百花繚乱で必死に百蓮を扱えるように頑張って来たのに全部おじゃん!なにもかもナミのせいだよ!?」

 

 半泣きで『ナミ』と呼ばれた少女、比良坂ナミにつかみかかる。しかし慣れた動きでひらり、ひらりと避けていく。それにより更に少女の顔が怒りと悲しみで歪む。

 

「ま、まあまあ、そんな怒んなよ?トウコだって、ある程度の奴に勝てたとしても神秘無しでアヤメや俺に勝てない時点でダメだったんだって!」

「うるさい!……こうなったら」

 

 頭に血が上り切った少女、時量師神トウコはかつて自身が所属していた部活の掟に則り、ナミをぐうの音も出ないようにしてやろうと決めた。

 

 ──百花繚乱紛争調停委員会の掟に従い、比良坂ナミに決闘を申し込む。

 

 そう言いかけたところで銃声が木霊する。音の主はこちらに苛立ちを隠さず近づく。桃色のボブカットのような髪にあまねく全てを射殺さんと橙と碧の瞳を鋭く瞬かせる少女が銃をこちらに構えていた。

 その姿には見覚えがあった。自分達と同じ一年生でありながら様々な場所で天才と言われた少女、小鳥遊ホシノその人だった。人物像までは把握していなかったが警告も無しに銃を撃つ。事前情報の通りかなり気性が荒い人なのだろう。

 

「……ユメ先輩の代理で転校生の受け入れ対応に来てみたらこれだよ。──こんなところで喧嘩するつもりなら容赦せず喧嘩両成敗だけど。」

 

 非常に間が悪い。梔子ユメが出迎えてくれるという話だったのにもかかわらず、やって来たのはアビドスの狂犬、暁のホルスetc…様々な異名が絶えない初対面によろしくない本人が来るとは思っていなかった。それに加え、あまりにも喧嘩っ早い。

 ほんのちょっとしたじゃれ合い(決闘)を調停対象として即座に実行する姿はある種、百花繚乱としての目線であれば100点満点と言えるだろう。

 トウコは初日から問題を起こしてしまった、と頭を抱えているがナミはくつくつと笑っていた。

 

 ナミはこの状況が自身にとって非常に得のある状況なのではないかと感じていた。上手くやれば思惑通り彼女と戦えるのではないか。戦えるのであればそれで良し、そうでないのであればあちらの敵愾心を煽ればいい。

 

「なあ、この学校には決闘って言う制度はあるのか?」

「ちょっとナミ!!!」

「藪から棒になに?どうでもいいから先にこっちの質問に答えなよ。喧嘩をするつもりなのか、そうでないのか……どっちなの?」

「俺の質問の返答次第だなぁ?もしあるのであれば手順を踏んで問題なく行いたい。……ないのであれば、そうだなぁ…致し方ないが校則は破らせてもらおうと考えている。」

 

 何故そうまでして神経を逆撫でするのかトウコには理解できなかった。彼女は一刻も早く、自身は無関係ではないが問題を起こす意図は全くないという事を伝えねばならない。

 今後この学校で生活していく上でいきなり肩身の狭い思いをしたくはないとトウコは強く感じていたが、ナミにとってそんな些末な事はどうでも良かった。

 

 ────この地の最高戦力。この文字だけでどれだけ心が恋い焦がれ、踊り狂っているのか表現しきれない。自身の牙がどこまで通じるのか、歯牙にもかけずに勝てるのか、はたまたその逆か。あらゆる方法をもってして闘争に身を委ねる事こそ、相対する『最強』に手向ける礼節なのだと彼女は考えていた。

 

「……じゃあ、答えは喧嘩両成敗(叩き潰す)だよ。」

「……面白くなってきた!」

「はぁぁぁぁあん!?」

 

 その答えを言い切るよりも早くホシノは引き金を引く。一方は銃口から射線を予測し、蕎麦を犠牲に回避し、もう一方はこの軌道に銃弾が来ることを()()()()()()()()()()で回避する。

 この事にホシノは強い違和感を覚えたが、戦意の無い異質な方は無視でいいと結論付ける。問題はすさまじい速度でこちらに肉薄してくる蕎麦を啜っていた方だ。

 

 明らかに戦い慣れている。ショットガン相手に取り回しの効かない範囲まで肉薄し接近戦を仕掛ける。普段であれば慣れたもので逆にカウンターでスラグ弾接射をお見舞いしていたが、戸惑いの方が大きい。何故ならば相手は()()()()()()()()()で接近戦を押し付けてきたのだ。

 それに弾も無駄使いできない。必中必滅で動くべきだ。動きを見極め、一撃を以て沈める。そう決めてからは早かった。

 

 互いに接近し、肉弾戦を仕掛ける。何度も拳や足刀を交差させ、時には距離を取り銃による一撃を見舞う。互いにそのようなやり取りが続いた。

 ホシノはナミの闘い方が非常に変則的であると認識していた。接近したからと言って、銃を撃たない訳ではない。確実に撃つことのできない態勢であるにもかかわらず、必ず撃ち込んでくる。それこそ背を向けた状態でもこちらの急所に狙いを定めている。

 極めつけはこちらは一方的に避けるが鎮圧対象であるナミは避けもせずに全てを受ける。何を考えているのか分からなかったが、手を緩めるわけにもいかない。油断や驕りは敗北を招く。

 

 今までの戦いでそんなものとは無縁と言える生活であったが、ここにきて異質な光景に気圧されているのも事実だった。そう思案している内にまた一撃見舞う事に成功する。

 

「──グッ…クゥッ……ハハハハ!!!楽しいなァ!?自分の技を試し、相手の技を受けるのはッッ!!!」

「気色の悪い…!弾の無駄だから早く倒れろ!」

「やぁだね!試してない技がいっぱいあるんだ……存分に試させてくれよ!」

 

 ────それにアンタの様子見は見切った。そう言うや否やホシノの放った銃弾はナミに向かって吸い込まれるように進む。しかし、それを紙一重で彼女は回避する。

 ほんの少し動揺すれども、そもそも小手調べでしかない。避けられたところで何の問題もない。次手の組み換え、相手の対処を越えればいい。

 

「────そうすれば、様子見を見切られたところで問題ない……そう思ったろ?」

「クッ!?」

 

 次の瞬間には銃を握られており、離脱不可能な状態だった。引き寄せられ、勢いそのままに強烈な足刀蹴りが炸裂する。

 

「いいかい最強さんよ、小手調べってのは()()()()()()だ。そいつが本腰を入れた動きには元となる動作がある。──つまり応用に入る起点の動きは一緒なんだよ。……どれだけ早かろうが、どれだけ難解だろうがそこを突けば変わんねぇよ。」

 

 目を白黒させながら吹き飛ばされ、肺から空気が躍り出ていく。幸いにも銃から手を放さず、向こうが手を放して勢いそのままに飛んだだけだ。銃撃されたわけではない。……まだ終わっていない。

 それはナミも同じくアビドス最強(小鳥遊ホシノ)がこの程度で終わるわけがない、そう思っていた。

 

「……ゲホッ……っぺ…たかだか一回攻撃が当たったくらいで喜ぶなんて能天気だね。……次は無い、一撃で仕留める。」

「……そうでなくちゃァな!俺達の闘いはこれからもっと混ざり合うんだから!」

 

 両者ともに全身に神秘を漲らせる。本気で目の前の敵を打ち倒す。面倒事を増やした厄介者から打ち倒すべき敵へ、小手調べから本番へ、互いに本気を出し尽くすつもりだった。

 流石にマズいと思い、全身に神秘を漲らせてナミを止める。

 

 一瞬の出来事だった。何が起こったのか理解する間もなくナミがトウコに制圧されていた。それもまるで()()()()()()()()()()()いつの間にか結果だけが残っていた。

 

「────そこまで。もういいでしょナミ?」

「ぐえっ……ってトウコ!お前普段使わないくせにこういうとこで使うのかよ!」

 

 そうして力を出して鎮圧すると同時にホシノの目の前に巨大な盾が降ってくる。その後に一人の生徒が空から降ってきた。

 

「うわっ……ってユメ先輩!危ないじゃないですか!」

「あっ……ごめんね…ってそうじゃなくて!ホシノちゃん、転校生ちゃんをいじめちゃダメでしょ!!!」

 

 薄翠色の綺麗な髪をたなびかせながら頬を膨らませていた。

 現アビドス生徒会会長梔子ユメ、その人であった。

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