「全く!あれほど暴力はダメって言ったのに……どうして言う事を聞いてくれないの!?転校生ちゃんボロボロじゃない!」
そう言いながらユメは盾を背負う。口をリスのように膨らませながら、私怒ってるんだからね!?といった雰囲気を醸し出している。誰がどう見ても怒っているのではなく、構ってくれなくて拗ねているゴールデンレトリバーにしか見えない。
これに関してホシノも多少ばつが悪いようで、銃をしまいつつ悪態をついていた。
「……全く、誰のせいでこんな面倒な事をするようになったのかまるで分ってない。…確かに浅はかでした。すいませんでした。」
「謝る相手が違うでしょ!ちゃんと転校生ちゃんの方を向いて謝るの!」
「…はあ、どうもす──……ってちょっと大丈夫!?」
ホシノが急にぎょっとした声で安否を確認するのを聞いたユメは反射的に先程まで激しく戦闘をしていたナミに視線を向ける。
トウコに立たせてもらったのにもかかわらず、あらゆる所から血を噴水芸の如くぴゅっぴゅと飛ばすナミの姿とそれを見てオロオロとしているトウコの姿だった。
「……んえ?ああ、これの事か?これの事ならいつ…も……の──」
そう言うや否や倒れ込み、地面と熱いヴェーゼを交わしていた。
あまりの情報量の暴力にかける言葉が多すぎた。何故そうなるまで攻撃を受け続けたのか、止血を何故していないのか、というか本来いつも見慣れているのではないのかとトウコを問い質したくもあった。
結局あらゆる問答を置いて最初に口を突いて出てきたのは
「ホ、ホシノちゃん!ほ、保健室!保健室に早く!」
「あれだけの失血量だとまず動かさずに圧迫止血しないと!そこのあんたもぼーっとしてないで早く手伝う!」
「は、はい!」
そこからはドタバタと大童だった。止血をしても止まらず、もっと圧迫する必要があった。出血箇所が多すぎる等の対処箇所が多く、頭を抱えながら処置を行った。
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処置は無事に滞り無く行われた。そのおかげで保健室まで運び込むことができた。これで問題ない、あとは医者に状態を診てもらって終わりでいいだろう。
ただ一人納得がいかないといった雰囲気を醸し出していた。
「
処置をした人間全員がそっぽを向いていた。己の所業から目をそらす為だった。それもそうだろう、見ていられないのだ。全員が見つけた最適解がこのようなモノを作り出すことになるとは誰も思いもしなかったのだ。
「──
自身の行いがあまりにも浅慮だったことは理解しているし、その後の後始末が出来なかったのも自業自得だと納得はしている。しかし
いくら闘いが好きとは言え、まだまだうら若き女子高生だ。多少なりともおしゃれとかも気にしていたのにこのような仕打ちを受ける言われはないと包帯越しに涙を流していた。
「……そ、それは僕たちも分んないって言うか…でもでも!全身にある裂傷を圧迫するにはこれが一番早いって僕と小鳥遊さんが思いついたからっていうか……」
「──ちょっ!こっちを巻き込むな!そっちが勝手に始めたんでしょ!」
「ま、まあまあホシノちゃん!実際二人同時に『包帯で全身ぐるぐる巻きにしよう!』って言いだしたわけだし……」
「先輩は黙っててください!!!」
ひぃん……、と生徒会長の威厳もあったものではないうめき声をあげて縮こまってしまった。
色々とめちゃくちゃな状況に頭を抱え込みそうになる。包帯で全身ぐるぐる巻きにされているにもかかわらずモゴモゴと話すミイラに何故かミイラの発する音が正確に理解できる人間。整理する必要がある物が多すぎてどうしようもなくなっていた。
「
「
保健室のベッドという実質的な棺桶に横たわるミイラがさめざめと泣いている横で罪悪感と呆れが混じった声音で対応する転校生。どう足掻いても絵面は最悪で初対面だったホシノとユメが引いていくのも時間の問題だった。
「……ユメ先輩。」
「多分ホシノちゃんと同じ事を考えてると思うよ?本当になんでお話がちゃんと出来てるんだろうね?」
「……………そうじゃないです。」
「えっ!?うっそぉ!?」
それも気にならない訳ではないが、問題はそこではない。この劣悪な環境下におかれ、挙句の果てには途方もない借金を抱え込んだ学校にわざわざ転校してきた理由と今後の動向を聞いておきたかった。
どう考えても予後の悪い青春を送ることになるのは火を見るよりも明らかだ。なのにどうして今後が約束された学校や部活を辞めてまでアビドスに来たのか。
「……あの人達に
「あっ!そういえばそうだった!……あんまりな状況で飛んじゃってたね。私聞いてくる!」
そう言って彼女はすすり泣くミイラと会話する生徒の元へと駆け寄っていく。
ユメは今の状況を全て包み隠さず伝えたうえでこの学区の復興を手伝ってもらえるか確認を取るというのだ。果たして、その話を聞いて手伝ってくれる人がいるというのだろうか。いや、いないだろう。
仮に手伝うとしたとしても都合の良いように利用されるのがオチだろう。
しかし、万が一にでもこのアビドスの現状を何とかする手助けをしてくれるのならば手を貸して欲しいとホシノ自身も思っていた。
だが、それと同時に怪しいとも感じていた。人手がいくらあっても足りない現状に百鬼夜行のエリート中のエリートである百花繚乱に所属している生徒がアビドスに転校してくる。……どう考えても虫が良すぎる。何か目的があると考えるのが普通だろう。
そう、
自分が騙されていたとしてもその裏に不条理を押し付けられる人がいない事に安堵する人なのだ。自分の事など二の次で困っている人を助ける事が彼女にとって最も大切な事。苦しむ人がいる事に堪えられない心根の優しすぎる人。
だからこそ、小鳥遊ホシノは梔子ユメの善意に付け込む者たちを許せない。
────そんな奴らなど放っておけばいい、貴方の心を砕いて接する価値すらない。どれだけ言っても彼女は聞いてくれない。ならば自分自身が彼女のセーフティネットになろう、そう決めてホシノは今まで生きてきた。
この二人もそんな俗物共と同じなら────
「……絶対に許さない。報いはしっかりと受けてもらう。」
そんな事もつゆ知らず、ユメはホシノに手を振ってこちらに来るように促す。
それに今のアビドスの状況的に二人では焼け石に水だ。多少の清濁併吞の度量は必要だろうと理解はしている。
そもそも学校の借金諸々の事情を知ったうえで協力しようなどというお人好しがいるはずもない。今回も協力は得られないだろうと分かりきった答えを得るためにユメの元へ向かう・
「それで、話の決着はつきましたか?」
そう聞くと彼女は微妙そうな顔でこちらに振り向く。
「えっとね?二人とも一応生徒会に入ってくれるって……」
「そうでしょうね。この現状で手伝うお人好しなんて……はい?」
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「むごご……」
「いい加減泣き止みなよ。いつもすぐ直るんだから、ちょっとの辛抱でしょ?」
「ねえねえ、二人とも今大丈夫?」
「えっと、梔子先輩ですね?この度はウチのおバカさんがご迷惑をおかけしました。」
「え?……ああ!それに関してはホシノちゃんも悪いというか、その、こっちもごめんね?」
未だ泣き止む様子を見せないナミに少し面倒に感じ始めていた時だった。ここの生徒会長であるユメから話しかけてきた。ナミの対応に少し疲れてきたところだったので丁度良かった。
そう考えていたところに
「いや、それじゃなくて……二人ともこれからアビドス高等学校に所属することになるんだけど、生徒会に入って一緒にアビドス復興を手伝ってくれないかな?」
この発言の後に少し怪我をしたナミが話そうとした僕を遮って返答する。それが
……噂ではもっと先の未来が見える生徒がいるそうだが、そこまで見えてしまうのは筆舌に尽くしがたい精神的苦痛だろう。
ただ、惜しむらくはナミの状態が多少違うという所だが誤差の範囲だろう。
それよりも問題なのは、この場で僕が代わりに返答する場合だ。これを行うという事はあらゆる可能性が広がる。望む一本道からあらゆる可能性が指数関数的に広がる。
全てを観測することが出来れば多少手綱は握れるのだろう。しかし、与えられた手札は少し先の未来と
「それに関しては僕の口からは答えられない、だから──」
自分では持ち合わせない回答なのでミイラの口元を開けて対応を変わろう。
「ふぅ、娑婆の空気はうんめえでございますわね~!……ていうか俺に答えさせるのかよ。誘ったのは俺だけど、トウコはトウコでやりたいようにやればいいじゃん?」
「ずっと一緒にいるんだから分かるでしょ?
「…………あっそ。」
若干険悪な雰囲気にのまれたユメがこちらをオロオロとしながら交互に見てくる。答える事なんて分かり切っている癖に変な所で僕に自由意思を持たせようとする。
「あの、えっと…喧嘩は良くないんじゃ~ないかな~……なんて…」
「ん?ああ、喧嘩じゃないぞ。いつもの事だから。それとさっきの返事、俺は生徒会に入るぜ。」
「ほんと!?やったぁ!」
「……んん?」
何やら含みのある言い方だった。こちらを見るなり知らんと言った様子でそっぽを向く。つまり、自分は所属するつもりだが、お前はお前で決めろということだろう。
普段は飄々として一本自分の中に芯がある癖にこういう時に限って子供のように拗ねてしまう。……本当に頭を抱えそうだ。
「ちょっと待ってよ。俺はってどういう事?」
「言葉通りだぞ?
「え?……それじゃ、トウコちゃんは入ってくれないの?」
小動物のように瞳を潤ませながらこちらを見つめてくる。あの噂のホシノがアビドスで大人しく言うことを聞いているのはこれにやられたからか?と感想を抱いていた。
それよりもツッコミどころが多すぎる。ナミに言いたいこともあるし、別に生徒会に入らないわけではない。そもそも見た未来では2人とも所属するというものだった。
逆に言えば
「いや、僕もそのつもりだから心配しないで!」
「本当に大丈夫?無理してやる必要は無いからね?……でもやっぱり手伝ってほしいと言うかぁ…。」
「本当にやるから!」
本当だと言っても本当かどうか測りかねている様子だった。とっさに出た同調の言葉なのであれば無理強いすることになるのでそれだけは避けたいのだろう。
この状況に陥れた当の本人は我関せずと言った様子であった。余りにも頭にきたので噛みつこうとそちらを見る。
「……ナミ!拗ねて八つ当たりみたいに僕に選ばせるのはやめてっていつも言ってるよね!?答えも決まってて僕もそうするって分かってるくせに…!」
それを聞いてナミはニヤリと笑う。してやったと言うより、最初からそうすれば良かったと言いたげに。
「何でもかんでも知ってる通りなんて意味ないだろ?そんなもんそこらのスケバンとかヘルメット団にでも食わせとけ。それにさ──」
見えるものの言いなりでいようとするな!これはお前の物語なんだからよ、といたずらっ子のように微笑んでいた。