龍園翔のTS幼なじみがいる教室へ   作:白黒パーカー

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もっとよう実の二次創作が増えてほしいです


1話:幼なじみ

 

 

 

 転生してしばらく経った今だからこそ、言えることがある。

 

 二度目の人生を手に入れたことが嬉しかった。一度目はありきたりで、退屈な人生だったから、余計にそう感じる。

 

 大好きな物語、『ようこそ実力至上主義の教室へ』で生きていけることも、当然嬉しかった。あの実力至上主義の学校に通って、原作キャラたちとともに学校生活を送ることを、小さな頃から今か今かと待ちわびていた。

 

 ……ただ、ひとつだけ。不満、とまでは行かないけど、納得いかないことがあるのは確かで。

 それは——、

 

「ちょっと翔くん、待ってよ! 歩くの早すぎ!」

「うっせぇな。ちんたら歩いてるオマエが悪いんだよ」

「もー、いじわる!」

 

 まさか龍園翔の幼なじみ(♀)になるなんて、思わなかったよね!

 

 

 

 

 

 

 四月。

 バスの中はすごい、気まずい空気に包まれていた。

 誰も私たちに目を合わせてくれない。少しでも早く目的地に着いてくれ、頼むと言わんばかりにみんな背を丸めている。怪物に目を付けられたら終わり、みたいな絶望的な雰囲気が漂っていた。

 

 その原因は私の隣で、偉そうに足を組んで後部座席にふんぞり返る幼なじみのせいだろう。

 

「ねー、翔くん。みんな怖がってるからさ、もーちょっと優しい雰囲気出せないかなー?」

「あぁ? なんでオレが知らねーやつの気を遣わなくちゃいけねぇんだよ」

 

 うーん。

 これぞ、翔くん。そこいらの不良なんて目じゃない堂々とした振る舞いだ。

 

 龍園翔、といえば1年Cクラスを統べる自称王様。この世界は『暴力』によって支配されている。実力は暴力の強さで決まる! なんて、考えているヤベー奴である。

 1年生編では、反則スレスレ、どころかバレなきゃ犯罪じゃねぇ、を基本スタンスに暴れに暴れまくっていた。

 

 そんなヤベー奴の幼なじみが私である。

 

 正直、女の子に転生しただけでもビックリなのに、翔くんの幼なじみになるとは思いもしなかったよね。

 属性の盛りすぎって感じ。

 

 彼との関係はすごくシンプルでテンプレート。

 家がお隣同士で、両親が仲良しなこともあって、小さな頃からよく一緒に遊んでいた。そんなごく普通な幼なじみの関係。

 

 小さな頃はちょっとヤンチャなぐらいの可愛い男の子だったのに。原作でもあった小学生の遠足でヘビを殺してから、今の激ヤバ王様に大変身である。

 ショタ翔くんを返してほしい。昔はいろはちゃん、いろはちゃん! って可愛く呼んでくれたのに。

 

 やっぱり不満です。納得いきません。

 

「じー」

「うぜぇ、ぶん殴るぞ」

「暴力はんたーい」

 

 ジト目で反抗したが、拳を握られたら手も足もでない、いろはちゃんなのです。

 男女の肉体の差は埋められない。特に普段から暴力を生業としている幼なじみには勝てないのだ。

 

 両手を挙げて降参すれば、気分良さそうに笑っちゃって、まぁ。こんな乱暴な男と、今日までよく関係が続いてるよ、もう。

 中学時代なんて場所も場所なだけあって、不良たちの抗争に何度巻き込まれたことか。翔くんに恨みを抱く不良に定期的に人質として駆り出された、野蛮なスーパー囚われのお姫様だったしね。

 普通の女子高生だったらトラウマものだよ?

 

 でも、それもひとまずおしまい。

 いや、むしろ始まりの間違いかな?

 

 なんたって私たちは今日から、あの“高度育成高等学校”に入学するのだから。

 隣に座る翔くんに、ニコッと美少女スマイルを浮かべる。

 

「高校も、同じクラスだといいね」

「はっ。いい加減、お前の顔も見飽きたからな。たまには違う女の顔も見たいぜ」

「もー、翔くん! そんなヒドイこと言わないでよー!」

 

 あんまりな発言に、ぷんすか怒りながら、目的地に到着した私たちはまずクラス表を確認しに行く。

 AからDクラスへと自分たちの名前があるクラスを探していく。

 

「ねぇねぇ! 翔くん、Cクラスに私たちの名前があるよ!」

 

 1年Cクラスの名簿には龍園翔と、“虎賀(こが)いろは”という私の名前が記入されていた。

 やっぱり、翔くんはCクラスだよねー。私は翔くんと違って優秀だから、ワンチャンBクラスもあるかなー? なんて思ったけど、さすがにCクラスだった。

 

 まぁ、()だもんね。私。

 

「んだよ。最悪だな」

「素直じゃないなー。そこは運命だね、って喜んでほしいところかも。……あ、無視して行かないでよ!」

 

 モジモジとあざとく言った、渾身のぶりっ子をスルーするとか。こいつ、それでも王様か? 女隣に侍らせろよ。幼なじみは対象外ってか?

 

 別に翔くんのこととか恋愛対象じゃないけどさ。これでも私、結構な美少女なんだよ?

 お肌や髪のケアにも人一倍気を使っているし、可愛いって思って貰えるように口調とか仕草も気をつけている。

 

 小さな頃は一人称が俺だったけど、高校生となった今では、心の中でも私である。

 

 それなのにさ。ここまでぞんざいな扱いを受けちゃうと、さすがに自信なくしちゃうよ。

 

「むー」

 

 不貞腐れながら、翔くんの後を追う。

 歩幅の小さい幼なじみがいるのに、ズカズカと進む気遣いのなさに感服していると、Cクラスの教室に到着した。

 

「おーぷん!」

 

 そんな掛け声とともに中に入れば、なんというか、ガラの悪い、よく言えば体育会系な生徒が多く見受けられた。

 もちろん、インドア派や大人しそうな子もいないわけじゃないけど、Cクラス評価だけあってAクラスみたいな真面目そうな雰囲気はまったく感じられない。

 

 そんな風に教室を観察していると、翔くんはさっさと自分の席にドカりと座り込んでしまった。思わずジト目を向けるが、言ってどうこうなるものでもないので私も諦める。

 

 えーと、私の席はどこかな? なんて探していると見つけた。そして、後ろの席にはなんと原作キャラの椎名ひよりちゃんがいた!

 原作でもそうだし、名簿にも名前があったから知ってはいたけど、文字という情報と直接会えるのとでは、感動が全然違う。

 

 いや、マジ美少女。やっぱりああいうのを文学少女と言うのだろう。持ってきた本を両手に集中している様子は様になっている。

 

「……あの、私の顔に何かついてますか?」

 

 あちゃ、ガン見し過ぎちゃった。

 私の視線に気づいたひよりちゃんが本から顔を上げ、こちらを困ったように見ていた。

 

「あはは、ごめんね。あんまりにも可愛くてつい見すぎちゃった」

「か、かわっ?」

 

 言われ慣れてないのか、唐突な私の発言になおのこと困惑するひよりちゃんが、可愛すぎてつらい。

 

「読書好きなの?」

「え、えぇ。本を読むのが趣味なんです」

「それって、確かABC殺人事件だっけ? アガサ・クリスティのミステリー小説」

「この本を知っているんですか!」

 

 さっきまで大人しかったひよりちゃんが、私の言葉を聞いて目をキラキラと輝かせて、尋ねてきた。

 そんな彼女がおもしろくて、ついつい笑ってしまう。

 

 やっぱりここでも本が好きなんだ。

 

「あ、いきなりすいません。中学の頃は身近に読書をする子がいなくて、つい」

「ふふ、大丈夫だよ! もし良かったらなんだけど、学校が終わったら本屋さんに一緒に行く?」

「えぇ! ぜひともよろしくお願いします」

 

 私の提案に花の咲いたような笑顔で頷いてくれた。

 いいな、こういうの。中学時代はマトモな女子友達なんて作れなかったから、余計に嬉しくなっちゃう。

 

「私、虎賀(こが)いろはって言うんだ! 苗字でも名前でも好きな方で呼んでね」

「では、いろはさんとお呼びさせてください。私は椎名ひよりと言います」

「じゃあ、ひよりちゃんね! よろしく!」

「はい、よろしくお願いします」

 

 わぁ、初女子友達。

 ひよりちゃんは絶対に退学させないために、頑張るぞー!

 

 それから、ひよりちゃんとこれからの学校生活や興味のある本など、たわいもない話に花を咲かせていると、担任のおじさん、坂上先生がやってきて、学校の説明が始まった。

 

 3年間の学校生活やSシステムについて、そして10万ポイントのプレゼント。クラスのみんなは、そんなサプライズに大なり小なり色めき立っていた。

 私は原作知識で知っているから、驚きもしないけど、翔くんはどう思っているんだろ?

 

 ちらりと、翔くんの席に目を向ける。

 

「…………ッ!」

 

 わお。野性味溢れるというか、ギラギラした目つきで笑みを浮かべている幼なじみ。

 ふふ、さすがの翔くん。どこまでわかったのかは私にはわからないけど、先生の話した内容に何か気づいたのかな? 

 

 ふむ。じゃあ、私もちょっとアシストしてあげようか。

 

「さて、何か質問のある生徒はいるかな?」

「はい!」

 

 元気よく手を挙げると、クラスの視線が私に集まった。

 

「虎賀さんですね? どうぞ」

「ポイントって、毎月1日に10万ポイントが入るんですかー?」

 

 私の言葉に、坂上先生は少しだけ驚き目を見開く。

 

「ふむ。そうですね、ポイントは毎月1日に振り込まれる。それは間違いないです」

「なるほどー、あっ。あとひとついいですか?」

「いいですよ、続けて」

 

 どこか期待に満ちた目で私を見る坂上先生に、少しだけタメを作り、あざとさたっぷりな笑みを浮かべる。

 

「学校の敷地内にあるものなら何でも購入可能って話でしたけどー。もしかして目に見えないもの、たとえばー、欠席を取り消すとか、遅刻を見逃してもらうみたいな権利とかも買えちゃったりしてー?」

「……ッ! そう、ですね。現状は不可能ではない、とだけ伝えておきましょう」

「はーい、わかりました!」

 

 先生の言葉に今度はクラスのみんながざわついた。

 まぁ、そうだよね。私がわけわかんない質問をしたと思ったら、坂上先生が真面目に答えるんだもん。

 

「他に質問者は? では、これで説明を終わります。ぜひとも、これからの学校生活を楽しんでください」

 

 坂上先生が教室を出ていった。

 私は、ふーっとため息をついて、ひよりと話すために後ろを振り返る。

 

「ひよりちゃん、10万ポイントもらえるなんて、本買い放題だねー!」

「いろはさん? え、えぇ、嬉しいですけど、先程の質問はどういう……」

「おい、いろは」

「翔くん? なにー」

 

 ひよりちゃんとこれから楽しくお話しようと思ったのに。ズカズカとやってきた翔くんが、獰猛な笑みで私を見下ろしていた。

 

「入学式が終わったら、すぐに寮に戻るぞ。俺の部屋に来い」

「えー! 私、ひよりちゃんとデートの約束してるんだけど!」

「いえ、デートの約束はしてませんが」

 

 ひよりちゃんの言葉をスルーして。

 自称王様の理不尽な命令にぷんすこしていると、ギッと睨みつけられた。

 

「いろは。二度は言わねぇぞ。俺に従わないなら、……殴ってわからせてやろうか?」

「ぼ、暴力はだめですよ!」

 

 翔くんの言葉に、ひよりちゃんが怯えながらも助けてくれるなんて。

 嬉しい! けど、まぁ、これ以上は可哀想か。周りもなんだなんだとさっきとは違う意味でざわついてるし。

 

 こんなことでポイントは減らしたくない。

 

「もー、翔くんは相変わらずわがままなんだから。いいよ、仕方ないから翔くんの幼なじみとして、その命令を聞いてあげましょう。えへん!」

「ちっ、相変わらず一言余計だな」

「翔くんには言われたくないかもー」

 

 腰に手を当て、ドヤ顔でえへんと胸を張ると、興が醒めたのか舌打ちとともに翔くんは教室を去ってしまった。

 ふふ、数十年彼と幼なじみをやっているのだ。これぐらいでビビる私ではないのです。

 

 一触即発の雰囲気が散ったことで、クラスのみんなもホッとしている。

 私は、今も心配した顔をするひよりちゃんに向き合う。

 

「ひよりちゃん、うちの幼なじみがごめんね。今日の放課後一緒にお出かけ行けなくなっちゃったよ」

「私は大丈夫です。……けど、いろはさんは問題ないんですか?」

「私ー? 大丈夫だよ。拳も飛んでないし。翔くんにしてはすごーい手を抜いてくれたしね!」

「あれでですか?」

 

 あれー?

 私の発言を聞いて、ひよりちゃんが若干引いているんだけど。

 もしかして、私の感覚が麻痺してる感じ?

 

 

 

 

 

 

 入学式はつつがなく終わり。

 翔くんがクラスとの交友を深めるわけもなく、有言実行と言わんばかりに、私は彼の寮に連れてかれた。

 どなどなどーなー。

 

 私は床にペタンと女の子座りをして、翔くんはベッドでふんぞり返っていた。

 こういうの普通は逆じゃない?

 

 私もさすがにドン引きです。

 

「もー、初めて女の子と買い物に行けると思ったのにさー。翔くんはひどいよねー」

「知るか。んなことはどうでもいい。……むしろ、こうなったのはお前の自業自得なんだぜ?」

「えっ、私?」

 

 ニヤニヤと翔くんはそう言ってくる。

 

「お前もこの学校もほんと愉快だな。俺が想定していた以上の情報を引き出してくれるなんて。……王の右腕として、十分な働きだ」

 

 げっ。もしかして、私質問しすぎちゃった?

 ちょっとした翔くんのサポートのつもりで、口出ししちゃったけどさ。

 

 というか、私をここに呼び出した理由わかっちゃったんだけど。

 絶対面倒ごと押し付けようとしているよね?

 

 以心伝心、翔くんは私の内心の声に頷いた。

 

「要件がわかったみたいだな、いろは。幼なじみとして嬉しく思うぜ?」

「こういう時だけ、幼なじみを使うの、ズルいと思うんだけどなー!」

 

 私の嫌そうな顔に、翔くんは気分を良くしたように笑みを深める。

 ほんと、男ってサイテーだよねー。私、元男だけど。

 

 もう、断れないことわかって、そう言ってるんだからさー。

 

「……はぁ。それでー? 私に何してほしいのー?」

「この学校のことが知りたい。毎月貰えるポイントの変動とその基準。あとは他のクラス、いや他の学年の情報を集めてこい。それに加えてうちのクラスで使えそうな手駒も探せ。その間に俺は、あのクラスを支配する」

「うへぇ、結構押し付けてくるじゃん、もう! 鬼クズ翔くんのバカー!」

 

 それほぼ全部じゃんか! 

 もうもうもう! これじゃあひよりちゃんと満足にお出かけも行けないじゃん!

 

 ふがーっと、怒りに任せて、翔くんのベッドにダイブする。

 ぽふん、と反発する枕に顔を埋めた。

 

 ベッドに翔くんがいる? 知らないよ、そんなドラゴンボーイ。

 

「おい、人のベッドに乗ってんじゃねぇ」

「つーん、知りませーん。私はベッドの上のサンマになったんですー」

「意味のわからねぇことを言うな。どけ、今すぐに」

 

 なんて、翔くんは文句を言うけど、私のことを無理やり退かすことなく会話を続けている。昔から変わらない、私たちのやり取り。原作ではありえない翔くんとの日常。

 ふと、枕から顔を離し、チラッと翔くんの顔を見上げる。

 

 翔くんは私のことを見向きもしないで、これからの計画でも立てているのか、無言で笑みを浮かべている。

 野性味も獰猛さもない、いつもより静かなそれ。それでも、その表情には色があって。

 

 ——あぁ、いいね。

 

 学校に来る時とは違う。心から楽しんでいる笑顔。どこか退屈そうにしていた中学最後を知っているからこそ、今の笑顔に私の胸の内が熱くなる。

 トクトク、と心臓が鼓動する音が早くなる。

 

 自然と私まで笑みを浮かべてしまう。

 

 安心していいよ、翔くん。

 ここにはキミの求めていたものが全て集まっている。

 実力、暴力、支配。最後に誰が勝っているのか、私にはわからない。

 

 ホワイトルーム最高傑作の男、綾小路清隆がいる限り、翔くんに本当の意味での勝利が手向けられることはないのかもしれない。

 屈辱的な敗北で終わる未来もあるかもしれなくて。

 

 あぁ、それでも。それでもだよ。

 

「翔くん、楽しみだね」

 

 

 ——私はね、キミのそんな顔が見たかった。

 

 

 

 

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