機動戦士ガンダムSEED DESTINY ~空白の少女~   作:割戸三葉

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投稿、間に合いませんでした・・・。


143.策に溺れる策士

ステーション3まで進んだところで、オーブ軍の前進は止まった。

前方には防衛線を組み直したザフトのMSが、およそ150機。

さらにその後方から、新たに120機ほどの増援が姿を現している。

 

対するオーブ軍は、ステーション5から続いた戦闘で少なくない損害を出していた。

出撃時と比べれば損耗率は25%に達し、戦闘が可能なMSはおよそ260機まで減っている。

先ほどまでのように数で押し込み、そのまま突撃を続けられる状況ではなかった。

 

「各隊、追撃を中止。隊列を組み直せ」

「了解! 全隊へ通達します!」

 

クサナギの艦橋で、ソガは正面モニターを睨んでいた。

オーブ側のMSが次々と速度を落とし、散開していた部隊が再び艦隊前方へ集まってくる。

一方のザフトもステーション3周辺へ機体を集め、こちらの次の動きを待つように防衛線を整えていた。

 

ソガの視線が、その背後に浮かぶ巨大な構造物へ移る。

 

ステーション3。

レクイエムの射線を構成する中継設備の1つだった。

ここを破壊できれば、少なくとも今までのような精密射撃を続けることは困難になる。

 

「あと少し……」

 

思わず漏れた言葉に、ソガはすぐに頭を振った。

足りない戦力を数えても仕方がない。

オーブもスカンジナビアも、この戦いへ投入できる戦力のほとんどをすでに出している。

 

カガリは、その軍を自分に預けた。

国を守るために戦えと命じ、その指揮を任せたのだ。

ならば、ここで兵を無駄に使い潰すことだけはできない。

 

「損傷機は後方へ。補給可能な機体は弾薬と推進剤を補充させろ」

「了解」

「ザフトが前へ出てきた場合は迎撃する。こちらから仕掛けるな」

「各隊、現位置で待機させます」

 

命令が伝わり、前線の動きが少しずつ収まっていった。

双方のMSが互いの射程を意識した距離で隊形を整え、砲口だけを相手へ向けている。

ほんの少し前まで無数のビームが飛び交っていた空間に、不自然な静けさが戻っていた。

 

今は損害を増やす時ではない。

勝機が来るまで耐える。

そのための種は、もうすぐ芽吹こうとしていた。

 

ソガはそう考えながら、ザフト側の動きを待った。

 

だが、何も起こらない。

 

防衛線を整え終えたザフトは、こちらへ1機も前進させようとしなかった。

牽制射撃すらなく、挑発するような動きも見えない。

 

「……妙だな」

「敵、防衛線を維持したままです」

「増援を待っているのでしょうか」

「それなら、なおさらこちらへ圧力を掛けてもいいはずだ」

 

ソガは眉をひそめた。

攻めれば守りやすい位置から離れることになる。

それは分かる。

だが、こちらも損耗している以上、ザフトにとって今は押し返す機会でもあるはずだった。

 

それでも敵は動かない。

 

互いに銃を向けたまま、ステーション3の前で時間だけが過ぎていった。

 

*****

 

ダイダロス基地の作戦司令部では、新たに現れた反応を前に空気が張り詰めていた。

 

「ステーション3側面に新たな艦隊反応。戦艦1隻、大型輸送艦4隻を確認」

「MS搭載数は」

「正確には出ていません。しかし艦種から推定して、およそ60機です」

「60機か……」

 

戦術表示には、正面のオーブ軍とは離れた位置に新たな光点が並んでいた。

まだMSはほとんど展開されておらず、センサーで捉えられるのは艦艇の反応が中心だった。

だが、その位置は無視できるものではない。

 

「オーブの別働隊でしょうか」

「それ以外、何に見える」

 

作戦司令は眉間を押さえながら答えた。

正面の部隊と距離を取り、こちらの側面へ回り込む位置にいる。

もしステーション3防衛隊がオーブ本隊へ攻撃を仕掛ければ、その横腹へ60機近いMSをぶつけられる位置だった。

 

「助攻部隊と見ていい。正面だけを見て前へ出れば挟まれるぞ」

「正面の敵は、およそ250機余り。側面には60機規模の助攻部隊」

「こちらの残存戦力は355機です」

「数だけなら戦えるな」

「ですが、これで全部という保証がありません」

 

別の幕僚の言葉に、司令部が静まった。

つい先ほどまで敵は150機程度しか確認されていなかった。

それが短時間のうちに倍以上へ膨れ、今度は側面にまで別働戦力が現れている。

 

今見えているものだけを敵のすべてだと考えるのは危険だった。

 

「ステーション3は現位置を維持。敵が動くまで防衛線を崩すな」

「了解!」

 

その時、オペレーターが声を上げた。

 

「後方より友軍機1、急速接近!」

「友軍?」

「識別確認。ミネルバから派遣された機体です!」

 

作戦司令は戦術表示へ目を向けた。

1つの反応がステーション3防衛線へ近づき、そのまま速度を落とすことなく通過していく。

 

「どこへ行く気だ」

「進路……側面の敵艦隊です」

「何だと?」

 

機影は、単機のまま60機規模の戦力を抱える艦隊へ向かっていた。

 

ステーション3の前線でも、その動きはすぐに確認されていた。

 

『後方より友軍機!』

『ミネルバから増援が1機来るとは聞いている』

『あれか!?』

『速い! 速すぎる!』

 

ステーション5から後退した部隊と、その撤退を支援した部隊は、今では1つの防衛線としてステーション3周辺に展開している。

彼らの頭上を、見覚えのない黒い大型MSが猛烈な速度で通り抜けていった。

 

防衛隊指揮官はすぐに通信を開いた。

 

「そこの友軍機、停止しろ! 単機で前へ出るな!」

 

返事がない。

 

「聞こえているのか! 敵は60機規模だぞ!」

 

指揮官の再度の呼びかけに、一言だけ返ってきた。

 

『気にするな』

「……何?」

 

返事はそれだけだった。

黒い機体は一度も速度を落とさず、側面へ現れた艦隊との距離を詰めていく。

 

「おい、待て! 単機で何をするつもりだ!」

 

呼び止める声に、もう返答はなかった。

 

*****

 

ステーション3の側面に現れた艦隊には、戦場とは思えないほど緩い空気が流れていた。

 

艦橋の正面モニターには、遠くステーション3を挟んで対峙するオーブ軍とザフト軍の姿が映っている。

双方ともまだ撃ち合いを再開しておらず、光点だけが戦術表示の上で睨み合っていた。

 

「オーブも随分と押し込んだものだな」

「我々が出るまでもないのでは?」

「それならそれで結構だ。こちらまで損害を出す必要はない」

 

艦隊指揮官は椅子へ身体を預けたまま、戦況表示を眺めていた。

 

「MS隊の発進は」

「まだ待機中です。出しますか?」

「必要ない。ザフトがこちらへ来る様子もないだろう」

「了解」

 

大型輸送艦の格納庫には、ダガーLが並んだまま固定されていた。

その中に少数のウィンダムが混じっているが、どの機体にも発進命令は出ていない。

パイロットたちもコクピットには入らず、待機区画で戦況を眺めている者が多かった。

 

彼らはオーブ軍の指揮下にはいない。

ブルーコスモスを支持する複数の国々が、独自に送り込んだ部隊だった。

 

「オーブには援助を断られましたが、本当に問題ありませんか」

「だから何だ。我々まで戦うなと言われたわけではない」

「ですが、共同作戦ではありません」

「戦後にザフトへ何かを要求するなら、我々も戦ったという事実は必要だ。ここまで艦隊を出した以上、何もしていないとは言わせんよ」

 

指揮官は遠くの戦場へ目を向けた。

オーブがザフトを削るなら、それでいい。

必要になれば最後に戦力を出し、自分たちも戦闘へ参加したという記録を残せばいい。

 

その時、警報が鳴った。

 

「高速接近反応!」

「何だ」

「MS1機。ザフト側からこちらへ向かっています」

「1機?」

 

艦橋の何人かが笑った。

 

「偵察か?」

「この艦隊相手に?」

「対空火器に任せろ。MS隊を出すほどでもない」

 

だが、その笑いは長く続かなかった。

 

「接近速度、上昇!」

「速い……!」

「対空戦闘! 迎撃しろ!」

 

艦の各所から対空砲火が放たれた。

無数のビームと実弾が、迫る黒い機影へ集中する。

 

その中心へ、ネメシスは速度を落とさず飛び込んだ。

 

No.2の目が射線を追う。

次に撃たれる位置が見えるより早く、黒い機体の軌道が変わった。

 

右へ加速した直後、機体がその場へ縫い付けられたように停止する。

照準が追いつくより早く真下へ沈み、次の瞬間には逆方向へ跳ねる。

噴射方向と機体の動きが一致せず、撃つ側からすれば、どこへ動くのか予測することさえできなかった。

 

『何だ、あの動き!』

『照準が追いつかない!』

『正面、来るぞ!』

 

ネメシスは対空砲火の隙間へ入り込んだ。

黒い大型機が戦艦の上部構造へ迫り、右腕の大型ビームサーベルを抜く。

 

艦橋が目前へ迫る。

 

ネメシスは避けなかった。

すれ違いざまに刃を振り抜き、青白い光が艦橋基部へ深く食い込む。

そのまま機体を艦体へ沿わせ、サーベルを外板へ押しつけたまま艦尾へ向かった。

 

巨大な船体に、赤熱した切断痕が一直線に伸びていく。

装甲が裂け、内部区画から火花と空気が噴き出した。

遅れて爆発がいくつも起こるが、ネメシスはその炎より速く船体後方へ抜けていく。

 

艦尾へ到達すると、黒い機体が急反転した。

 

戦艦の巨大なエンジン噴射口が正面に入る。

ネメシスの腹部装甲が開き、内側から砲口が露出した。

 

位相収束砲が発射される。

 

高出力の光が噴射口から機関部へ突き刺さった。

一瞬遅れて船体内部が膨れ上がり、艦尾から連続して爆発が走る。

機関部で起きた誘爆は止まらず、巨大な艦体が中央から折れるように崩れていった。

 

「戦艦の艦橋が!」

「機関部に爆発を確認!」

「艦内誘爆止まらないようです!」

 

輸送艦群から見るその様子は悲惨なものだった。

戦艦が爆発し、破片と炎が周囲へ広がる。

退避命令が全艦へ届くよりも早く、艦体は制御を失っていた。

 

大型輸送艦の格納庫で、ようやく発進命令が出る。

 

『全MS緊急発進!』

『急げ! 戦艦がやられた!』

『ダガーL、出せる機体から出ろ!』

 

固定アームが次々と外れ、ダガーLが宇宙へ飛び出した。

遅れて数機のウィンダムも続く。

目の前では、先ほどまで艦隊の中心にいた戦艦が爆発を繰り返していた。

 

『あいつだ!』

『1機しかいない、囲め!』

『撃て!』

 

ダガーLのライフルから一斉にビームが放たれた。

 

ネメシスが加速する。

その進路へ射線が集まるより早く停止し、直後には横方向へ滑る。

敵がそちらへ照準を振った時にはもう反転しており、黒い巨体は別方向から隊列の内側へ入り込んでいた。

 

『また消えた!?』

『違う、後ろだ!』

 

ダガーLが振り向く。

ネメシスはすでにその背後を通過していた。

 

大型ビームサーベルが1機の胴体を斜めに切り裂く。

補助アームが別の機体のライフルを弾き、空いた正面へネメシス本体が踏み込む。

2機目が撃つ前に刃が肩から胸部へ走り、その機体も爆発の中へ消えた。

 

『狙うな! こいつは狙って当たる相手じゃない!』

『隊長!』

『周囲へばら撒け! 逃げ道ごと塞げ!』

 

部隊指揮官の命令に、ダガーLたちが一斉に距離を取った。

今度はネメシスそのものではなく、その周囲へ向けて無数のビームが放たれる。

 

黒い機体の上下左右を光が埋めた。

 

すべては避けきれない。

数本のビームがネメシスの肩と腰部装甲を捉えた。

 

『当たった!』

 

歓声が上がる。

 

だが、黒い装甲の表面を赤紫の光が走っただけだった。

ビームは装甲表面で散らされ、ネメシスの速度はほとんど変わらない。

 

『効いてない……?』

『直撃したんだぞ!?』

『何なんだ、あれは!』

 

指揮官機が再びビームライフルを構える。

その瞬間には、ネメシスが正面にいた。

 

『な――』

 

大型ビームサーベルが振り抜かれる。

ダガーLの機体が上下に分かれ、爆発が通信ごと呑み込んだ。

 

指揮官を失った部隊の動きが乱れる。

距離を取ろうとする機体。

輸送艦へ戻ろうとする機体。

なお射撃を続けようとする機体。

それぞれが別方向へ動き始めた。

 

その中央を、ネメシスだけが迷いなく進んでいく。

 

コクピットの中で、No.2の口元が緩んでいた。

 

周りには敵(マト)しかない。

右を向いても、左を向いても、前にも後ろにも敵(マト)がある。

 

味方の位置を気にする必要がない。

射線へ誰かが入る心配もない。

壊してはいけないものを選り分ける必要もなかった。

 

壊していいものだけが、いくらでも並んでいる。

No.2にとっては、それだけのことだった。

 

もっとも、目の前に並んでいるのはダガーLばかり。

オーブの高性能機なら、ネメシスの性能を示す材料としてもう少し価値があっただろう。

 

それでも、この程度の部隊を単機で潰したという記録は残る。

ネメアの機体が、1機で艦隊を壊滅させたという結果も残る。

 

No.2自身は、ネメアという組織に忠誠心など持っていない。

だが、ネメアの名に値が付くことが、自分たちにとって不利益ではないことくらいは理解していた。

 

「まあいい。L-31が戻らないせいで、こっちは稼働率が下がらなかったのだ。これくらいは息抜きにさせてもらう」

 

ネメシスの正面で、立て直そうとしていたダガーLの一団が散開する。

 

No.2はその中心へ機体を向けた。

次の瞬間、黒い巨体が再び加速し、敵の群れの中へ飛び込んでいった。

 

 

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