魔法科高校の劣等生の弟(仮)   作:検討使

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入学編4

そのまま、6人でしばらく話していた俺はそろそろかなと思案し始める。

そんな俺の空気を感じ取ったのか、雫がほのかに囁き、

 

「ごめんなさい。

そろそろ私たちは両親との食事会があるから、引き上げさせてもらうね。」

最後に挨拶をした後に雫がほのかを連れ、講堂の出口に向かう。

 

「皆さん!明日からもよろしくお願いします。」

ほのかが名残惜しそうに言葉をかけ、姿を後にした。

 

「お兄様方、お待たせいたしました。」

達也の同級生と話を咲かせていると、背後から渦中の人の声が聞こえた。

 

「早かったね、深雪。」

振り返りながら、俺は話を切り上げる。深雪はそのまま達也の近くに寄り添った。

この妹は過去の体験の影響もあり、兄にベッタリなのは相変わらずだ。

 

勿論、俺と深雪も兄妹仲は悪いどころか世間的に良い方だとは思う。

家では普通に話すし、達也を交えずとも気軽に冗談が言い合える仲だ。

俺にそこまで甘えないのは婚約者に夕歌さんがいるからだろうか。

 

「深雪、お疲れ様。良い挨拶だったよ。」

達也は深雪を労う。

 

「達也兄様、ありがとうございます。和也兄様もありがとうございました。」

律儀に礼を返した深雪が、俺の後ろに居る女子生徒に目を向ける。

 

「そちらの方々は……」

 

「あぁ、こちらが柴田美月さん。

そしてこちらが千葉エリカさん。同じクラスなんだ。」

 

「……はじめまして、柴田さん、千葉さん。司波深雪です。

わたしも新入生ですので、お兄様達と同様、よろしくお願いしますね。」

 

「柴田美月です。こちらこそよろしくお願いします。」

「よろしく。達也君と和也君同様、あたしのことはエリカでいいわ。

……司波さんってどちらかというと和也君似ね。」

 

初対面の人間の容姿について言及することは

幾分かマナーの悪い行為ではあったが、深雪は気にせずに答える。

 

「ええ、よく言われるわ。

それと、私のことは深雪って呼び捨てでいいわよ。エリカ。」

深雪は馴れ馴れしさと紙一重の砕けた態度を気にした様子も見せず頷いた。

 

入学前に深雪は父である司波龍郎と小百合との関係に

和也の仲介により、一定の区切りをつけていた。

 

その経験もあってか以前より情緒を制御し、

四葉家次期当主候補としての自覚が芽生えたのか、

更に社交的に振る舞えるようになっていた。

 

達也と言えばはそんな感傷とは無縁であるが……

しかし、エリカの親しげな物言いに、戸惑いを覚えたのは達也の方だった。

 

「あはっ、深雪って見掛けによらず、実は気さくな人?」

「エリカは見た目通りの、開放的な性格なのね。わたしは好きよ、そういう裏表のない人。」

 

二人は何やら通じ合うものがあったようだ。すっかり打ち解けた笑みを交わす深雪とエリカ。

苦笑いする達也と和也も交えてしばらく、取り留めもない雑談をしていた。

 

式の後、クラスに顔を出し親睦を深めるか、帰宅するかは各人の自由、

とは言え、どうやら講堂はもうそろそろ閉まるらしい。

 

「せっかくですから、お茶でも飲んでいきませんか?」

「いいね、賛成! 美味しいケーキ屋さんがあるらしいんだ♪」

代わりに投げかけられたのは、ティータイムのお誘いだった。

 

家族が待っているのではないか、と訊くつもりはない。

俺達もこのまま自宅に戻る予定だったからだ。

兄弟妹3人で昼食を摂ろうと考えていたが、具体的な予定があるわけではなかった。

 

「お兄様方、どういたしましょうか?」

深雪が控えめがちに問いかける。

 

「せっかく知り合いになったことだし。これも何かの縁。提案に乗ろうか。」

そう言って、達也はあっさり頷いた。

 

「うん。いいんじゃないかな。」

特に反対する理由もなかったので、エリカの提案にのる形に話はまとまった。

 

-----

エリカに先導されて辿り着いたケーキ屋で、

昼食を済ませた俺達は、しばらくそのまま雑談に興じた。

 

もっともお喋りをしていたのは女性三人で俺と達也は聞き役に徹していた。

自宅に戻ったのは夕方に差し掛かった頃で、陽が傾き始めていた。

 

玄関には普段は並ばない靴が2セット。

「どうやら親父達が来ているようだな。」

分かりきった事を俺は敢えて口に出す。

 

龍郎からは「仕事が終わり次第、そちらに寄る。」とメッセージを貰っていた。

事前に昼は外で済ませると龍郎には連絡を入れ、帰着は夕方になると伝えていた。

 

「おかえり。それが一高の制服か……入学おめでとう。」

「相変わらず仲がいいのね……おめでとう。」

龍郎からはこれまで父親らしいことを

してこなかった(これなかった)彼のせめてもの祝いの言葉が出る。

小百合は深雪と達也の密着度合いに、毎度のことながら呆れ気味だ。

 

形だけの家族とはいえ、これまでの冷え切った関係とは段違いに前進していた。

とはいえ、これ以上に仲を深める意志は互いにはなかったが。

 

「わざわざ、ありがとうございます。」

自身に害がない人間に、わざわざ隔意を抱かせる必要もないと考えた達也が律儀に答える。

 

「お二人ともありがとうございます。飲み物を入れて参りますね。」

深雪が制服のままキッチンに向かう。

 

「二人ともありがとう。本当に来てくれるとは……」

稀に龍郎にメッセージを入れていた俺はまさか龍郎が一人でならまだしも、

小百合を連れてくるとは思っていはいなかった。

 

「なにも家族ごっこをするためじゃないわ。これはFLTに貢献している貴方に筋を通すため。

本当は高校に行かずに、そのまま入社してほしいくらいだわ。」

達也に向かい、いつもの口調で小百合がまくし立てる。

 

達也が所属するCAD開発第三課が

FLT内で発言権を高めていることに焦りの色を見せる開発一課の小百合は

年に似合わず落ち着いた達也に苦手意識はあるものの、

彼女は達也の仕事それ自体は評価していた。

 

「……本家が入学を許可したんだ。仕方なかろう。」

龍郎がいつもの諦念を抱いた口調で口を挟む。

 

飲み物が載ったトレイを持った深雪がテーブルに戻り、近況を伝える。

それは家族のやり取りというよりかは、どこか業務連絡染みていたが。

 

「……なにはともあれ、ひとまずは入学おめでとう。これからの学校生活も頑張ってくれ。」

言いたいことは伝えたと、龍郎と小百合は家を後にした。

 

兄弟妹の家は龍郎の名義(司波深夜から相続)だが、二人が寄りつくことは稀であった。

二人は再婚後、元々小百合の住んでいた高層マンションに生活の場を移していた。

 

「着替えて、夕食のお支度をしますね。」

制服のままだった深雪が一旦、自室に戻る。

 

「兄さん、俺も着替えてくるよ。」

「あぁ、そうだな。」

 

自分の部屋に戻り、まず上着を脱ぐ。

脱いだブレザーをハンガーに掛ける際にエンブレムに目が行く。

 

「こんなもの……」

 

(国際評価基準の)魔法が全てだとは思わない。

改めてこんなただの柄に振り回されるなど、滑稽だなと自嘲する。

 

しかし、記号化されたものに人は意味を見出す。

達也の胸中を考えれば、俺がこれ以上悩んでも仕方がないと、部屋着に袖を通した。

 

リビングに向かうと既に達也は着替えを終え、寛いでいた。

程無くして、私服に着替えた深雪が下りて来た。

 

彼女は普段外では絶対に着ない、目のやり場に困る丈のスカートを履いていた。

いつものことだが、達也を挑発しているのだろうか。俺は呆れ気味に深雪に声を掛けた。

 

「深雪、手伝うよ。

兄さんはそのままでいいよ。」

声を掛け、キッチンに向かう。

 

この時代、家庭内でもロボットに寄る自動化が進み、料理をわざわざする人も少なくなった。

もちろん、趣味でキッチンに立つ人はいるし、

いくらジェンダーレスが進んだとはいえ、料理はまだ女性の聖域という空気も残っている。

 

和也をただの兄として見ている深雪は、逆に特に意識せずに済む彼のことを信頼していた。

そんな深雪を俺はこれまでもずっと注意深く観察してきた。

 

(これが叔母上の策なのだろうか……)

 

三年前、沖縄でいくらドラマチックな体験をしたとは言え、

ここ最近の深雪が達也に向ける情愛は明らかに兄妹のそれを越えていた。

 

精神干渉されている痕跡は見えないし、その兆候も感じられない。

純粋に恋慕の情を募らせているようだ。

 

(前途多難だな……)

 

今は兄弟妹の平穏を噛み締め、目の前の問題はひとまず棚に上げた。

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