両利きだけど、それって武器になるの? ~気づいたら俺、テニスでプロを目指してた~   作:二刀

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第15球 自分の武器

 

 俺の武器って、なんだ。

 

 ベンチでぼんやり、そんなことを考えてた。

 

 ファーストセットはとられた。セカンドセット、ゲーム<4-0>。

 四ゲームとられた。もうほとんど後がない。次は二ノ宮君のサービスゲーム、間違いなくキープされるだろう。

 

 ……いや。考えろ。藤崎なら、こう言う。「なんで、やられてるのか」を、考えろって。

 二ノ宮君は、コースが正確だ。俺の届かない、際のところに、針の穴を通すみたいに、打ってくる。だから、俺は走らされて、そして最後に決められる。

 

 ……待てよ。

 それって、つまり。

 

 二ノ宮君は、「俺が取れないコース」を、狙ってるってことだよな。

 

 じゃあ。俺も、同じことを、すればいいんじゃないか?

 ……単純な話だ。ラリーって、ただ相手の球を、打ち返すだけじゃない。いかに、相手が取れないコースに、打つか。いかに、ポイントを取るために、コースを突くか。

 

 それが、重要なんじゃないか。

 ……そういえば、俺、あんまり、そういうこと、あまり意識してなかったな。まったくコースを気にしてなかったわけじゃないけど、来た球を、なんとなく返すことだけ考えてた。

 

 ……試してみるか。

 

 *

 

 ゲーム、<0-4>。

 

 俺のリターンゲーム。二ノ宮君のサーブが来る。

 

 いつもなら、ただコートの空いてるところに返すだけ。でも、今日は——コースを、狙う。二ノ宮君の、いないところ、コートの端っこ。

 

 来た。返す。狙うのは、逆サイド。思い切り、振り抜いて——。

 

 スパァン!? ドガッ!

 

「……アウト フィフティーンラブ<15-0>」

 

 審判の、コール。

 

 ……あー、外した。惜しい、ライン、越えた。

 

「おいおい、なんだよ、あのコース……」

「千両選手、いきなり、コース突いたな」

「もう少しでエースだったぜ……」

 

 観客が、ざわつく。

 

 ……外したけど。

 

 手応えは、あった。今のは、狙って、打った。コントロールが、甘くて、アウトしただけ。方向は、間違ってない。

 

 うっ。二ノ宮君がこっちを見ている……。

 

 ……無視、無視。知らんぷり。

 ……よし。

 

 もう一回。今度こそ。

 

 パァァン!

 

 ここ……、もっと際どく……二ノ宮君のバック側クロス、スピンを意識っ!!

 

 パァァン!! バシッ!!

 

 やった!! けれども二ノ宮君、予想してたみたいだ。すぐに返ってきた!

 

 パシッ!

 

 けどリターンがいいとこ行ったから、返球はネットに阻まれた。

 

「フィフティーンオール<15-15>」

 

「おおぉ……」

「いいコース……だな」

「バック側にきついクロス、こっから反撃か……」

 

 っしゃ! これならいける!

 

 *

 

 ラリーになったら、俺は、極力二ノ宮君を左右に振ることを意識した。

 幸いカバーリングは、得意だ。両手フォアハンドはリーチがある。左右に振られても、普通の両手バックハンドより、届く範囲が広い。だから可能な限り、相手の空きコートエリア、厳しいコースでつないで——。

 

 そして俺の、左手側に。二ノ宮君の、クロスが、来た。

 

 ……ここだ。

 

 俺は、左手で、ラケットを構えた。そして、ぐっと、踏み込んで。打点の高い位置で下から、上へ。思い切り、振り抜く。

 

 ドガッ!

 

 今度も、しっかり、トップスピンをかけた。最初のリターンでこれをアウトしたのは、回転が足りなかったからだ。大事なのは、一回戦で掴んだあの感覚。スイングスピードを、上げること。100%の力で振りぬくこと!

 ボールは、ぐん、とネットを超え、そして——二ノ宮君のバック側の、すごく短いコートの際に、バシっと突き刺さった。

 

 ショートクロス。

 

 二ノ宮君は、一瞬、反応が、遅れいたのが見えた。

 

 彼のラケットの、ほんの少し外、届かない。ボールが、すり抜けた。

 

 ……決まった!

 

 二ノ宮君から、初めて。俺が、ウィナーを、取った!

 

「よっしゃっ!」

 

 *

 

 二ノ宮君が、こっちを見てた。……今ちょっとだけ。あのニコニコした笑顔が、消えた気がした。

 

 まさか、ショートクロスが来るとは、思わなかったんだろう。しかも、俺の左手側、つまり二ノ宮君から見て、遠いコースからだ。

 

 ……へへ。

 

 左手側に来た球を、左のフォアで、ショートクロス。これは普通の選手にはできないと思う。両手バックじゃ、こんな角度作れない。俺が両利きだからできることだ。

 

 そして。

 

 二ノ宮君が、俺の左手ショートクロスを、警戒し始めた、その時。

 

 今度は、逆。

 

 俺の、右手側に来た球を。右のフォアで——同じように、ショートクロス。

 

 ドガッ!

 

「おおっ、二ノ宮からブレイクしたぞ」

「ゲーム、<1-4>。 二ノ宮リード」

 

 観客が、沸いた。

 

 右からも、左からも。両方から、極端な角度のショートクロスが打てる。

 

 二ノ宮君は、どっちも、警戒しなきゃ、ならない。左の角度も、右の角度も。

 

 ……これだ。

 

 これが俺の、武器だ。

 

 両利きだから。両方の手でフォアで。どっちのサイドからも、相手が取れない角度に、打てる。

 

 ラリーで、二ノ宮君を、左右に振って。際どいコースに、追い込んで。そして、最後に、ショートクロスで仕留める。

 

 主導権がほんの少し俺に傾いた。

 

 ゲーム、<1-4>。

 

 ラブゲームで、負けると思ってた。でも、取れた。二ノ宮君から、一ゲーム、もぎ取った。

 

 このまま。このままいけば——。

 

 *

 

 次のゲーム。俺のサービスゲームだ。

 いけるぞ。さっきの、ショートクロスで、ウィナーを取る。サーブで主導権をとって、ラリーに持ち込んで、左右に振って仕留めるんだ。

 

 パァァン!! ドカッ!

 

 二ノ宮君が、リターンを、打つ!

 

 俺は、見た。二ノ宮君がリターンを、返す。こっちだ。狙うコース。ラリーに、持ち込む——。

 

 さあ、来い。ここから、俺の——。

 

 ズパーン!!

 

 ……えっ。

 

 ボールが、俺の、ラケット一本分は遠い横を、すり抜けていった。

 

 ……なんだ、今の。

 

 俺の想像を、はるかに超えるスピードで、リターンが返ってきた。いや、リターンじゃない。俺が、ラリーに持ち込もうとした、その一番、最初の球を。二ノ宮君は、とんでもない速さで、とんでもないコースに、叩き込んできた。

 

 俺が、ショートクロスで、組み立てようとした、その、組み立ての、入り口ごと、潰された。

 

 ……よく、分からなかった。

 

 二ノ宮君が、何を、したのか。

 

 ただ、分かったのは。

 

「はは……、うそだろ……」

 

 乾いた笑いが漏れた。今までのは。二ノ宮君が、

 

「本気、じゃ、なかったのかよ、さっきまで」

 

 まだまだ本気じゃなかった、ってことだ。

 

 俺が一ゲーム取れたのも。たぶん彼にとっては、取らせてもいい。そういう一ゲームだったんだ。

 

 俺がショートクロスっていう、武器を、見つけて。

 「いけるかも」って、思った、その瞬間に。

 二ノ宮君はギアを、一つ上げた。それだけで俺の組み立ては、全部吹き飛んだ。

 

 *

 

 ゲーム、<1-6>。

 

 セカンドセット、二ノ宮君の、取得。

 

「ゲーム、セット&マッチ。ウォンバイ、二ノ宮 カウント<0-2>」

 

 ……こうして、俺の、初めての大会は、終わった。

 

 二回戦。完敗。<0-6>、<1-6>。

 

 俺はコートに立ち尽くしながら、遠くを見ていた。

 

「終わっちゃったなぁ……」

 

 不思議とただ悔しいだけじゃ、なかった。

 

 手も足も出なかった。全国レベルは、想像のはるか上だった。俺の武器は、ほとんど通じなかった。

 

 ——でも、最後に、一つだけ、掴んだ。

 

 左右、どっちからも打てる、ショートクロス。両利きの、俺にしか、できない角度。

 

 あれは——通じた。一瞬だけど。あの二ノ宮君をのけぞらせた。

 

 ……まだ、しょぼい。しょぼいなぁ。まだ、一瞬しか通じない。

 もっとだ、もっと研ぎ澄ませる必要がある。あれが俺の、武器になるかもしれない。

 

 ネットを挟んで、二ノ宮君と握手した。

 

「いい試合だった。……特に、最後の、あのショートクロス。あれ、ちょっと、ぞくっとしたよ」

 

 二ノ宮君が、またにこにこ笑って、言った。

 

 くそぅ、涼しい顔しやがって。でも最初の、初めて会った時の、底の見えない笑顔とは、ちょっと違う気がした。

 

「またやろう。次は、もっと強くなった、君と」

 

 ……っ。 その言葉が、悔しくて。でもなんか嬉しくて。

 俺は、ぐっと、手を握り返した。

 

「……次は、勝つよ」

 

 二ノ宮君は、ちょっと目を丸くして。それから楽しそうに笑った。

 

「うん。楽しみにしてる」

 

 *

 

 負けた。完敗だった。

 

 あっという間だった。この試合で、たくさんのものを、思い知った。

 全国レベルの、壁は、とんでもなく、高い。

 

 でも——その壁に、ほんの少しだけ、爪を、引っかけたと思う。

 

 次は。次こそ。あの壁を、超えてやる。

 

 




【作者あとがき】
 この度はお読み頂きありがとうございました。
 一つの目標、最初の大会まで書ききりましたー!
 この後、二ノ宮君は噂で千両君が初心者と知ってビビり散らかします。 

 それでは引き続きよろしくお願いします。
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