両利きだけど、それって武器になるの? ~気づいたら俺、テニスでプロを目指してた~ 作:二刀
俺の武器って、なんだ。
ベンチでぼんやり、そんなことを考えてた。
ファーストセットはとられた。セカンドセット、ゲーム<4-0>。
四ゲームとられた。もうほとんど後がない。次は二ノ宮君のサービスゲーム、間違いなくキープされるだろう。
……いや。考えろ。藤崎なら、こう言う。「なんで、やられてるのか」を、考えろって。
二ノ宮君は、コースが正確だ。俺の届かない、際のところに、針の穴を通すみたいに、打ってくる。だから、俺は走らされて、そして最後に決められる。
……待てよ。
それって、つまり。
二ノ宮君は、「俺が取れないコース」を、狙ってるってことだよな。
じゃあ。俺も、同じことを、すればいいんじゃないか?
……単純な話だ。ラリーって、ただ相手の球を、打ち返すだけじゃない。いかに、相手が取れないコースに、打つか。いかに、ポイントを取るために、コースを突くか。
それが、重要なんじゃないか。
……そういえば、俺、あんまり、そういうこと、あまり意識してなかったな。まったくコースを気にしてなかったわけじゃないけど、来た球を、なんとなく返すことだけ考えてた。
……試してみるか。
*
ゲーム、<0-4>。
俺のリターンゲーム。二ノ宮君のサーブが来る。
いつもなら、ただコートの空いてるところに返すだけ。でも、今日は——コースを、狙う。二ノ宮君の、いないところ、コートの端っこ。
来た。返す。狙うのは、逆サイド。思い切り、振り抜いて——。
スパァン!? ドガッ!
「……アウト フィフティーンラブ<15-0>」
審判の、コール。
……あー、外した。惜しい、ライン、越えた。
「おいおい、なんだよ、あのコース……」
「千両選手、いきなり、コース突いたな」
「もう少しでエースだったぜ……」
観客が、ざわつく。
……外したけど。
手応えは、あった。今のは、狙って、打った。コントロールが、甘くて、アウトしただけ。方向は、間違ってない。
うっ。二ノ宮君がこっちを見ている……。
……無視、無視。知らんぷり。
……よし。
もう一回。今度こそ。
パァァン!
ここ……、もっと際どく……二ノ宮君のバック側クロス、スピンを意識っ!!
パァァン!! バシッ!!
やった!! けれども二ノ宮君、予想してたみたいだ。すぐに返ってきた!
パシッ!
けどリターンがいいとこ行ったから、返球はネットに阻まれた。
「フィフティーンオール<15-15>」
「おおぉ……」
「いいコース……だな」
「バック側にきついクロス、こっから反撃か……」
っしゃ! これならいける!
*
ラリーになったら、俺は、極力二ノ宮君を左右に振ることを意識した。
幸いカバーリングは、得意だ。両手フォアハンドはリーチがある。左右に振られても、普通の両手バックハンドより、届く範囲が広い。だから可能な限り、相手の空きコートエリア、厳しいコースでつないで——。
そして俺の、左手側に。二ノ宮君の、クロスが、来た。
……ここだ。
俺は、左手で、ラケットを構えた。そして、ぐっと、踏み込んで。打点の高い位置で下から、上へ。思い切り、振り抜く。
ドガッ!
今度も、しっかり、トップスピンをかけた。最初のリターンでこれをアウトしたのは、回転が足りなかったからだ。大事なのは、一回戦で掴んだあの感覚。スイングスピードを、上げること。100%の力で振りぬくこと!
ボールは、ぐん、とネットを超え、そして——二ノ宮君のバック側の、すごく短いコートの際に、バシっと突き刺さった。
ショートクロス。
二ノ宮君は、一瞬、反応が、遅れいたのが見えた。
彼のラケットの、ほんの少し外、届かない。ボールが、すり抜けた。
……決まった!
二ノ宮君から、初めて。俺が、ウィナーを、取った!
「よっしゃっ!」
*
二ノ宮君が、こっちを見てた。……今ちょっとだけ。あのニコニコした笑顔が、消えた気がした。
まさか、ショートクロスが来るとは、思わなかったんだろう。しかも、俺の左手側、つまり二ノ宮君から見て、遠いコースからだ。
……へへ。
左手側に来た球を、左のフォアで、ショートクロス。これは普通の選手にはできないと思う。両手バックじゃ、こんな角度作れない。俺が両利きだからできることだ。
そして。
二ノ宮君が、俺の左手ショートクロスを、警戒し始めた、その時。
今度は、逆。
俺の、右手側に来た球を。右のフォアで——同じように、ショートクロス。
ドガッ!
「おおっ、二ノ宮からブレイクしたぞ」
「ゲーム、<1-4>。 二ノ宮リード」
観客が、沸いた。
右からも、左からも。両方から、極端な角度のショートクロスが打てる。
二ノ宮君は、どっちも、警戒しなきゃ、ならない。左の角度も、右の角度も。
……これだ。
これが俺の、武器だ。
両利きだから。両方の手でフォアで。どっちのサイドからも、相手が取れない角度に、打てる。
ラリーで、二ノ宮君を、左右に振って。際どいコースに、追い込んで。そして、最後に、ショートクロスで仕留める。
主導権がほんの少し俺に傾いた。
ゲーム、<1-4>。
ラブゲームで、負けると思ってた。でも、取れた。二ノ宮君から、一ゲーム、もぎ取った。
このまま。このままいけば——。
*
次のゲーム。俺のサービスゲームだ。
いけるぞ。さっきの、ショートクロスで、ウィナーを取る。サーブで主導権をとって、ラリーに持ち込んで、左右に振って仕留めるんだ。
パァァン!! ドカッ!
二ノ宮君が、リターンを、打つ!
俺は、見た。二ノ宮君がリターンを、返す。こっちだ。狙うコース。ラリーに、持ち込む——。
さあ、来い。ここから、俺の——。
ズパーン!!
……えっ。
ボールが、俺の、ラケット一本分は遠い横を、すり抜けていった。
……なんだ、今の。
俺の想像を、はるかに超えるスピードで、リターンが返ってきた。いや、リターンじゃない。俺が、ラリーに持ち込もうとした、その一番、最初の球を。二ノ宮君は、とんでもない速さで、とんでもないコースに、叩き込んできた。
俺が、ショートクロスで、組み立てようとした、その、組み立ての、入り口ごと、潰された。
……よく、分からなかった。
二ノ宮君が、何を、したのか。
ただ、分かったのは。
「はは……、うそだろ……」
乾いた笑いが漏れた。今までのは。二ノ宮君が、
「本気、じゃ、なかったのかよ、さっきまで」
まだまだ本気じゃなかった、ってことだ。
俺が一ゲーム取れたのも。たぶん彼にとっては、取らせてもいい。そういう一ゲームだったんだ。
俺がショートクロスっていう、武器を、見つけて。
「いけるかも」って、思った、その瞬間に。
二ノ宮君はギアを、一つ上げた。それだけで俺の組み立ては、全部吹き飛んだ。
*
ゲーム、<1-6>。
セカンドセット、二ノ宮君の、取得。
「ゲーム、セット&マッチ。ウォンバイ、二ノ宮 カウント<0-2>」
……こうして、俺の、初めての大会は、終わった。
二回戦。完敗。<0-6>、<1-6>。
俺はコートに立ち尽くしながら、遠くを見ていた。
「終わっちゃったなぁ……」
不思議とただ悔しいだけじゃ、なかった。
手も足も出なかった。全国レベルは、想像のはるか上だった。俺の武器は、ほとんど通じなかった。
——でも、最後に、一つだけ、掴んだ。
左右、どっちからも打てる、ショートクロス。両利きの、俺にしか、できない角度。
あれは——通じた。一瞬だけど。あの二ノ宮君をのけぞらせた。
……まだ、しょぼい。しょぼいなぁ。まだ、一瞬しか通じない。
もっとだ、もっと研ぎ澄ませる必要がある。あれが俺の、武器になるかもしれない。
ネットを挟んで、二ノ宮君と握手した。
「いい試合だった。……特に、最後の、あのショートクロス。あれ、ちょっと、ぞくっとしたよ」
二ノ宮君が、またにこにこ笑って、言った。
くそぅ、涼しい顔しやがって。でも最初の、初めて会った時の、底の見えない笑顔とは、ちょっと違う気がした。
「またやろう。次は、もっと強くなった、君と」
……っ。 その言葉が、悔しくて。でもなんか嬉しくて。
俺は、ぐっと、手を握り返した。
「……次は、勝つよ」
二ノ宮君は、ちょっと目を丸くして。それから楽しそうに笑った。
「うん。楽しみにしてる」
*
負けた。完敗だった。
あっという間だった。この試合で、たくさんのものを、思い知った。
全国レベルの、壁は、とんでもなく、高い。
でも——その壁に、ほんの少しだけ、爪を、引っかけたと思う。
次は。次こそ。あの壁を、超えてやる。
【作者あとがき】
この度はお読み頂きありがとうございました。
一つの目標、最初の大会まで書ききりましたー!
この後、二ノ宮君は噂で千両君が初心者と知ってビビり散らかします。
それでは引き続きよろしくお願いします。