両利きのテニス初心者だけど、気づいたら美少女参謀とプロを目指してた   作:二刀

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第2章 テニス雌伏編
第17球 データテニス


 

*ここから新章です。

 

=========================

 

 試合が終わった次の週の、月曜日。

 俺と藤崎、そして稲葉コーチが、学校のフリー教室に集まっていた。

 

 部活に行って、これからのことを相談しようと思ってたんだけど。藤崎も同じことを考えてたみたいで、そのままここに連れてこられた。稲葉コーチは、もとから呼んであったらしい。

 

 なんだろう。妙に改まった空気である。

 

「さて、千両君。まずは先日の試合、よく頑張ったみたいだね。お疲れ様。全国レベルの選手が相手だったと聞いたよ。なかなか得難い経験をしたな」

 

 稲葉コーチが、そう切り出した。なんかやらかしたんかと思った。良かった良かった。

 やっぱり、ああいう大会で全国レベルと当たるのは、珍しいのか。まぁそうだよな。全国レベルなんて、レアなモンスターみたいなもんだ。

 

「稲葉コーチには、すでに試合結果を伝えてあるわ。ビデオも見てもらった。千両君が一回戦でどう戦ったか。どう苦境を挽回したか。そして、二回戦でどう敗退したか」

 

 藤崎が、淡々と言った。

 うわ。コーチも知ってるのか。あの二ノ宮君に何もできずに負けたところ。こうも公になってると、さすがにちょっと恥ずかしい。

 

「さて、その大会で君はどう思った。どう感じた。――率直な意見を聞かせてほしい」

 

 ……そうだな。

 いろいろ考えたけど、結局のところ、自分のテニスには、足りないものが多すぎる。経験はもちろん、技術も、練習も。細かいところを数えたらきりがない。

 

「はい、実は……」

 

 俺は、あの日、風呂の中で考えていたことを、そのまま伝えた。セカンドサーブのこと。ストロークの配球のこと。トップスピンがまだ安定しないこと。二ノ宮君に、最後に何をされたのかも分かっていないこと。

 

「ちゃんと、自分のことを振り返っているようだな。いい傾向だ」

 

 コーチが頷いた。

 

「そのうえで、だ。君は、これから、どうしたい?」

 

「強くなりたいです」

 

 即答した。

 

「一回戦も、楽な試合じゃなかった。二ノ宮君に至っては、何をされたのかも分からなかった。もっと経験を積んで、たくさん練習して、試合に勝ちたい。強くなりたいです」

 

「――わかった。そう考えているなら、何も問題ない。大事なのは、本人の気持ちだからな。君を試合に出させてよかったよ」

 

 コーチが頷きながら、藤崎を見た。藤崎も頷いている。

 

 ……ん? 何? なんか、あるのか?

 

「千両君」

 

 藤崎が、まっすぐ俺を見て言った。

 

「あなたには、これからデータを使った効率的な練習と、その実践を、やってもらいたいの」

 

「……どういうこと??」

 

 *

 

「まずはこれを見てほしいの」

 

 藤崎がプロジェクターを立ち上げ、一枚のスライドを映した。

 これは……テニスコートか? コートの絵から線がいくつも伸びていて、その周りにたくさんのグラフと数字が並んでいる。

 

「これはこの前の田中君との試合で、あなたがラリーで打った球のコースと、トップスピン、スライス、フラットの割合を示したものよ」

 

「ほぇぇ……」

 

 すまん。一体、どういうことでしょうか。何が何だか分かりません。藤崎先生、教えてください!

 

「このデータから分かる通り、あなたの打球は、けっこう……いや、かなり偏りがあるの」

 

「……つまり、どういうことだってばよ」

 

「千両君の、得意と不得意が、分かるってこと」

 

「ファッ!」

 

「この前から真白が、聖蹊テニス部のデータを取っているのを、何度か見ているはずだ。ビデオを撮ったり、ノートを取ったりしていただろう」

 

「あっ……」

 

 そういえば。あの大会のときも、藤崎や市川さんがビデオを撮って、「データ」がどうとか言ってた。あれは、このことだったのか。

 

「真白はな。練習や試合で取ったデータを分析して、練習効率を最大化する研究をしているんだ。正直、これはもうプロの領域に片足を突っ込んでる。それが、こいつのすごいところでな。プロ顔負けの内容なんだよ」

 

 なる、ほど。

 それをすれば……どうなるんだ? ……いや、ちょっと考えてみよう。この前藤崎に「考える癖をつけろ」って言われたばかりじゃないか。

 

 藤崎は、データを取った。それを分析して、人の得意・不得意が分かった。得意ってのは、その人の武器、長所。不得意ってのは、苦手、つまり、なくすべき――。

 

 ガタッ!

 

「課題が、分かるってことか!?」

 

「そのとおりよ。まぁ、千両君の場合は分析しなくても、課題はまるわかりだけど」

 

 ……あれ。ずっこけそうになった。

 

「冗談よ。私が特に力を入れているのは、選手のパラメータを、できるだけ見える化すること。たとえば、スイングスピード。これ、前の試合で重要だって分かったでしょう?」

 

 あ。トップスピンのヤツか。

 

「これが、毎日の練習で数値として見えるようになれば、日々の成長が分かる。数値が上がれば、モチベーションも上がる。もっと上を目指したくなる。正のスパイラルが組めるの」

 

「こういう練習は、プロはもちろん、最先端のテニススクールも取り入れ始めている。まだ高校では珍しいがな」

 

 コーチが補足する。

 

「聖蹊学園は、もともとテニスの強豪校。それに資産家のバックアップもあって、設備に力を入れているの。スピードカメラや、他にも普通はなかなかない機材も揃ってる」

 

「私自身、面白い試みだと思っていてね。プロがやっていることを、高校生のトレーニングに取り入れたら、どんな効果が出るか。まだ実験的な段階だが、基礎理論はもうある。あとは、実践して試すだけなんだ」

 

「そして、千両君。あなたの大枠のデータは、もう取ってあるわ。ちょっとタブレットを貸して」

 

 俺は授業で使ってるタブレットを渡した。藤崎はいくつかポチポチと触って、俺に返す。

 

「あなたのタブレットに、私が作ったトレーニングアプリを入れたわ。あなたのパラメータが見られる。起動してみて」

 

 俺は、ホーム画面に増えた新しいアプリを、起動した。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

評価はSSS, SS, S, A, B, C, D, E, F, G 各段階で±の30段階評価

*利士の場合バックでもフォアになります

 

千両利士

 

総合評価

 サーブ    G+

 フォア    G+  

 バック    G+

 フットワーク F

 ネットプレー G-

サーブ成功率

 1ST 55%

 2ND 30%

サーブ平均速度

 1ST 135km/h

 2ND 80km/h

スイングスピード

 フォア 105km/h

 バック 105km/h

トップスピン平均回転数

 フォア 1300RPM

 バック 1300RPM

スライススピン平均回転数

 フォア 1200RPM

 バック 1200RPM

ストローク平均速度

 フォア

  トップスピン 70km/h

  スライス   60km/h

  フラット  100km/h

 バック

  トップスピン 70km/h

  スライス   60km/h

  フラット  100km/h

ショートクロス成功率

 フォア側 30%

 バック側 30%

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 ……なんか、めっちゃ分析されてる。

 え、どういうこと。うわ、俺、セカンド率、低すぎ……。総合評価、Gばっかりじゃねえか。

 

「まだ暫定のデータよ。コース配球率なんかは、サンプルが少ないわ。これから試合をたくさんこなして、埋めていきましょう。あと、身長・体重・骨格筋量も、後で測らせてちょうだい」

 

「ほとんどGなんですけど……しかもマイナス……」

 

「事実だもの。でも、それでいいわ。今日、ここがスタート地点。基本的に、練習の指標にするのは、今見てもらった項目。毎日確認して、一つずつ伸ばしていくの。トレーニングメニューは、別途指示するわ」

 

 *

 

「……ということよ」

 

 藤崎がすっと目を細めた。

 

「あれだけ負けたくない、強くなりたいって言ってたんだから――やるわよね?」

 

「藤崎さん……こわっ!!」

 

「逃がさないわよ。せっかくのこんないい素材」

 

 素材て。

 でも――稲葉コーチが、横で、ふっと笑って言った。

 

「言っておくが、千両君。このデータを使いこなせれば、間違いなく強くなれる。それは私が保証する。そこに適切なトレーニングを足す。そこは私も手伝おう」

 

 元プロの人、稲葉コーチが保証する。なんかそれだけで背筋が伸びるな。

 

「それと、もう一つ」

 

 藤崎がふいに声の調子を変えた。

 

「このデータには、まだ表れていない、見えないパラメータがあるの」

 

「見えないパラメータ?」

 

「あなたの、両手フォアハンドよ」

 

 藤崎はまっすぐ俺を見ていた。いつものクールな顔。でもその目の奥が、熱い。

 

「私はね。あなたを初めて見たとき、猛烈に感動したの。両サイドをフォアで打つ、あんな選手は見たことがなかった。データには表れない、あなただけの武器。これと私のデータテニスを掛け合わせたら――全国ジュニア一位だって、夢じゃない」

 

「ぜ、全国一位!?」

 

 いやいや。気が早すぎるって。俺、今総合評価Gばかりだぞ。

 

「……笑わないで、聞いてくれる?」

 

 藤崎の声が、少しだけ低くなった。

 

「私はね。挑戦したいの。怪我をして諦めるしかなかった夢に。……私はもう、コートには立てない。自分の手でてっぺんを取ることはできなくなった。でも――それでも、叶えたいの。なんとしても、この世界で。私は、私なりの方法で」

 

 ……。

 

 藤崎の過去のことは、よく知らない。怪我をした、ってことくらいだ。けれども今の言葉には、ずっしりと重いものを感じた。

 

「だから千両君。あなたの力を、貸してほしい。――あなたと一緒なら、私はもう一度、てっぺんを目指せる気がするの」

 

 *

 

 藤崎は、いつもクールで理屈っぽくて機嫌がイマイチ分からないところがある。

 でも今の顔は違った。

 めっちゃ、マジです、っていう迫力がある。――こいつは、本気だ。本気で、全国を取るつもりなんだ。諦めた夢を、俺と一緒に、もう一回つかみにいこうとしてる。

 

 ……ははっ。

 

 なんだよ、それ。

 ……面白いじゃないか。

 

「やります」

 

 俺は、即答した。

 

「全国一位、めっちゃでかい目標だけど。藤崎が本気なら、俺も本気でやる。っていうか――そんな面白そうな話、乗らなきゃ損だろ」

 

 藤崎が、ちょっとだけ目を見開き、ふっと、口元をゆるめた。

 

「……いい返事ね」

 

「よし。じゃあ、さっそく取りかかろうか」

 

 稲葉コーチが、ぱん、と手を叩いた。

 

 こうして、俺の、データテニス漬けの日々が始まった。

 総合評価、(ほぼ)オールG。ここからどこまで行けるか。

 

 ……正直、ちょっとわくわくしてた。

 

 

 




【作者あとがき】
 新章です。
 ここからの利士君は、優秀なブレインといっしょに俺tueeeをするべく
 猛進していきます。

 引き続きよろしくお願いします。
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