両利きのテニス初心者だけど、気づいたら美少女参謀とプロを目指してた   作:二刀

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第18球 てっぺんまでの地図

 

「ん? 練習するんじゃないのか?」

 

「その前に。練習に向かう前に、次の目標を決めないといけないわ」

 

「ああ、そうなのか」

 

 目標。……さっきの、全国ジュニア一位じゃないのか?

 

「それは大目標。それに至るまでのステップを、ざっくり考えていきましょう」

 

「お、おう」

 

「大事な話よ。もしこれが実現すれば、あなたは全国から注目されるようになる。……まぁ、今のほぼオールG評価で言うのは、気が早すぎるけどね」

 

「ですよねぇ」

 

 藤崎は、マーカーを持ってホワイトボードの前に立った。

 

「千両君。あなた、野球部のとき、大会に出たことはあるのよね」

 

「おう。そんなに強くはなかったけど、県大会までは出てたぞ」

 

「高校テニスも、似たような感じよ。県大会、地方大会、全国大会がある。全国は、いわゆるインターハイね」

 

「なるほど」

 

「そして、高校テニスには、もう一つ、別の大会の系統がある。全国ジュニアのルートよ」

 

「ルート? どゆこと?」

 

 藤崎はホワイトボードに、二本の線を引きいろいろと説明し始めた。

 話がややこしかったので、俺はノートを出して整理した。

 

 ①高体連系=部活ルート

  高校のテニス部として、学校単位で出る公式戦。インターハイがこの頂点。

 

 ②テニス協会系=ジュニアルート

  学校とは無関係に、個人としてジュニア登録して出る大会。

 

「テニスには野球の甲子園みたいに、同世代が一堂に会する一大大会がないのよね。そもそも、協会のルートとか世界ツアーとか、種類がいろいろあってややこしいの」

 

「へぇ……」

 

「部活ルートは、学校単位。団体戦と個人戦がある。うちの部活は、ジュニア登録してる子もそこそこいるけど、ほとんどは部活メインね」

 

 ほーん。まぁ、普通の高校生は部活中心が当たり前か。そこにプラスして、個人のジュニア大会にも出るって感じなのか。この前の栗原さんもジュニア登録もしてるって話だし

 

「で、千両君。あなたは――部活ルートには、行かないわ」

 

「え……なんで?」

 

「理由は簡単。うちには男子部員があなたしかいないからよ」

 

「あ……」

 

 そうだった。うちの聖蹊学園、おととし共学になったばっかりで男子がほとんどいない。元お嬢様高校だから、男子の入学率が低くて、そのうえ女子強豪のテニス部に入る物好きなんて――俺くらいだ。そもそも団体戦、組めるわけがない。

 

「だから、あなたが出るとしたら、個人戦なのよ。ただ、それも部活ルートでやるより――ジュニアルートに、絞ったほうがいいと思うの。あなたが目指すのは、全国ジュニアの頂点だから」

 

「なるほどな。じゃあ、そのジュニアルートってのを、詳しく教えてくれ」

 

 *

 

「ジュニアルートには重要なポイントが二つあるわ。グレード制と、ランキング制よ」

 

 グレード制と、ランキング制。……いきなり、よく分からん単語が出てきたぞ。

 

「順番に聞くわ。まず、グレードって?」

 

「大会のランク、と思えばいい。グレード4が一番下で、数字が小さくなるほど、格が上がる。一番下のグレード4から、都県のグレード3、関東のグレード2、そして頂点が、全日本ジュニアのグレード1」

 

 ……ん。ちょっと待てよ。考えてみよう。

 グレード4が一番下で、数字が小さいほど上。ピラミッドってことか。下から、地区の小さい大会、県の大会、関東の大会、そして頂点に全国。野球で言ったら、地区予選、県大会、地方大会、甲子園、みたいなもんか。

 

「それって、つまり……下のグレードで勝ち上がって、上のグレードに出られるようになる、ってことか?」

 

「そう。理解が早いわね」

 

 お。藤崎に珍しく褒められたな。考える癖がちょっとついてきたかも。

 

「で、そこに関わるのが、ランキング制。出場した大会の成績に応じてポイントがもらえるの。上のグレードの大会ほど同じ成績でももらえるポイントが多い」

 

「ポイント、ねぇ」

 

「そして、過去一年くらいの間に稼いだ、上位のポイントの合計で、ランキングが決まる。このランキングが高いほど、上のグレードの大会に出る権利や、有利なシード権がもらえる」

 

 ……えーと。整理するぞ。

 

 大会に出て、勝つ。勝つとポイントがもらえる。上の大会ほど、ポイントが多い。ポイントが貯まると、ランキングが上がる。ランキングが上がると、もっと上の大会に出られる。その繰り返しで、頂点を目指す――。

 

「分かった。要するに、ポイントを貯めて、ランキングを上げて、一個ずつ上のグレードに登っていく、ってことだな」

 

「そのとおり。よくできました」

 

 なんだ、ちゃんと考えれば、分かるじゃん。俺。

 

「ただし。今のあなたはランキングがゼロ。だからまずは一番下のグレード4から出場する必要があるの。グレード4にはランキングがなくても、登録さえすれば誰でも出られる『フリーエントリー』の大会がある。この前の藤ヶ谷オープンもそれにあたるわ」

 

「あー、だから初心者の俺でも出られたのか」

 

「そういうこと。まずはグレード4で結果を出して、ポイントを稼ぐ。話はそこからよ」

 

 なるほどな。全体図が見えてきた。

 今いるのは一番下。そこから、ポイントを稼いで、県、関東、そして全国へ。長い道のりだな、でも――道筋が分かると、なんか燃えてきたな。

 

「ちなみにその先には世界もあるわ。ITFっていう、国際大会のルート。プロを目指すならいずれそこを通ることになる。……まぁ今はずっと先、というか全く関係のない話だけど」

 

 世界か——。

 ……いや今はまだ想像もつかないな。まずは目の前の一歩だ。

 

 *

 

「ここまでで、大体わかったかしら」

 

「うーん……テニスの大会って、すっごくややこしいのな」

 

「野球みたいに、分かりやすい甲子園が、一つあるわけじゃないからね。補足だけど、プロを目指す高校生は、全員このジュニアルートを通るわ。なっちゃん部長は、インターハイと全国ジュニアの両方を目指してるから、鬼みたいなスケジュールをこなしてるけど」

 

「ひえっ」

 

「つまり、部長はプロ志望、ってことよ」

 

「……プロ、かぁ」

 

 なっちゃん部長が、プロを目指してるのか——。

 なんか、身近な人がそういう目標を持っていると急に現実味のある言葉になるな。プロ……かぁ、すごいな。

 

「で。ここからあなたの当面のスケジュールを整理するわ」

 

 藤崎がホワイトボードにずらりと予定を書き出していった。

 

 *

 

【千両利士 当面の大会スケジュール(案)】

 

 <1年>

 ・8月 相模テニストーナメント(グレード4)

    ……まずはここで初優勝を狙う。

 ・10月 藤ヶ谷市民オープン(グレード4)

 ・11月 湘南ジュニアカップ(グレード4)

 ・12月 神奈川インドアジュニアカップ(グレード4)

 ・1月 神奈川オープンジュニア(グレード4~3)

 ・2月 県央ジュニア選手権(グレード4~3)

 ・3月 神奈川県ジュニア(グレード3)

    ……ここまでで、県レベルに到達する。

 

 <2年>

 ・7月 関東ジュニア(グレード2)

 ・8月 全日本ジュニア(グレード1)

    ……ここが当面の最終目標。

 

 *

 

「うっそ。めちゃくちゃハードじゃん!」

 

「これでも絞ったほうよ。一年と少しで、グレード4から、全日本ジュニアまで。普通なら、ありえないスケジュール。でも――あなたならできると思ってる」

 

「藤崎のハードルが高すぎる……」

 

「当たり前でしょう。全国ジュニア一位を目指すんだから。一つずつ、ポイントを稼いで、勝ち上がるの。まずは、八月の相模テニストーナメント。ここで初優勝。それが、すべての始まりよ」

 

 相模テニストーナメント。初優勝。

 藤ヶ谷オープンでは一勝しかできなかったのに……次は、優勝。やれんのかな……、いや、やるしかない!

 

「……よし。やってやんよぉ!」

 

「いい返事ね。じゃあ、それを見据えて、今日から練習メニューを組むわ。覚悟しなさい」

 

「ひぃぃ~」

 

 やっぱ不安になってきた。

 

 




【作者あとがき】
 セリフ改行タイミングを都度都度に変えてみました。
 こちらの方が読みやすいかな……。ご意見あればコメントください。

 引き続きよろしくお願いします。
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