両利きのテニス初心者だけど、気づいたら美少女参謀とプロを目指してた 作:二刀
「ちょっと練習の準備をするから、タブレットを見て、あなたの課題を確認しておいて」
身長・体重・骨格筋量とかを測ったあと、藤崎はそう言って、コートに向かっていった。
課題って……そんなのまで書いてあるのか。なんか、見るのが怖いんだが。
アプリを開くと、いくつもタブがあって、その一つに「課題リスト」があった。
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【課題リスト】
・セカンドサーブ
・配球(コースの打ち分け)
・トップスピン
・スライス
・フットワーク
・目の練習
・ネットプレー
・コートカバー
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うわ……、俺の課題、多すぎ。
それにこれを全部こなしても、一つひとつがヘナチョコじゃ意味がない。全部の質を上げないと、藤ヶ谷オープンみたいに、中途半端なことになる。まずは基礎と技術、そして反復だな。
アプリには、どのトレーニングが何に効くか、藤崎のコメントまで添えられていて、すごく見やすかった。……これ、藤崎が作ったのかよ。まじで、あいつ何者なんだ。
そうこうしてると、藤崎が呼んできた。コートの準備ができたらしい。
「アプリは見たわね。また都度都度、更新しておくから、暇なときに見ておいて」
「ああ。……それより、なんだこれ」
コートがいつもと違った。テープで区切られている。シングルスのコートが、九分割されていて、それぞれに数字が振ってあった。少し異様な光景だ。
「これが、今からあなたが練習するコートよ」
「なにこれ。いったい何すんの」
「千両君は、そもそもコースの打ち分けができていないわ。ラリーは続けられても、コースを狙えていない。だから、これで狙う練習をする。球出しは、市川さんにお願いするわ」
「おっす~、きっしん。この前ぶりだね~」
「市川さん」
「今日からきっしんの練習、付き合うよ。コーチからも頼まれてるし、サポートチームの仕事だからね~。じゃあ、はじめるよー。……3!」
なんの説明もなく、市川さんがボールを出してきた。
「千両君、言われた数字に向かって打つのよ!」
「えっ!?」
とっさに構えて、打つ。昨日覚えたトップスピンが、まっすぐ「3」のコートに入った。
「さすがね。次!」
「1!」
市川さんが、次々とボールを出してくる。なんか知らんうちに練習がはじまった。
やばっ。というか早く動かないと、打点に入れない! しかも市川さん、ペースがはやい! 声を聞いてからもうボールがこっちにきた。すぐに判断しないといけない。めっちゃ、頭が回る!
「これは、今まで何となく打ってきたボールを、コースを意識して打ち分ける練習よ! これを100球続けて、二分休憩。また100球を三セット繰り返す! ストローク、フットワーク、視野、思考力。ぜんぶ、いっぺんに鍛えられるわ」
きっつ――! 藤崎が何か言ってるけど、正直全然聞こえてません!!
「2!」「5!」「1!」
……でもしばらくするとちょっとだけ慣れてきた。そんでもって不思議と楽しい。狙ったコートにズバッと入ったときの、あの快感がクセになる。これはしんどいけど辛くない練習だ。コースを「狙う」ってこういうことか。今までただ返すだけだったのが嘘みたいだ。
「慣れてきたわね。じゃあ――もっと早くしてみましょう! 早く動かないと左手に持ち帰るタイミングがなくなるわよ! 千両君!」
……前言撤回、やっぱつれぇわ。藤崎は絶対楽しんでる。
「強い選手ほど、返球が速くコースが厳しいわ。慣れてきたらどんどん空きコートに球出しするわよ! ほら、ちゃんとグリップを意識して! あなたの持ち味は両手フォアでしょう、体にそれをしみ込ませるのよ!」
くそぅ、イキイキしやがって。こっちは息をする暇もない。
「49球目! 左サイドに出すわ。それを、ショートクロスで右サイドに返してみて!」
……お。来た。
二ノ宮戦で唯一通用した俺の武器、ショートクロス。
市川さんが、左に球を出す。
俺は左手で構えて、ぐっと踏み込んで下から上に振り抜く。スイングスピードを、思い切り上げて――。
スパァン!
ボールがぐんと曲がってコートの隅、対角の浅いところに突き刺さった。
「おお~ きれいに決まったね~!」
「……ふふ。やっぱり、それは得意なのね」
へへ。 そうなんだよ。
「ほら、調子に乗らないで右サイドからも、いくわよ50球目! 今度は右手のショートクロス!」
「おう、任せろ!」
右に来た球を、右手のフォアで、同じように。
スパァン! また、決まった。
「いいわね。あなたのショートクロスは、確実に、武器になりつつある。……ただし」
藤崎が、すっと目を細めた。
「それ以外がまだまだよ。得意なことばかりやってると課題が埋まらないわ。さ、のこり50球。今度はトップスピンとスライスの打ち分けも、市川さんに指示してもらうから」
「ッ鬼ーーーっ!」
「ほかにも、いろいろ準備してるわ。テニスだけじゃなく、体力・筋力トレーニングもね。楽しみにしてて」
「悪魔ーーーっ!」
藤崎鬼軍曹は、淡々とデータを取っていた。市川さん、なんかさっきよりペース上がってません? 俺は目の前が真っ暗になりそうだった。
*
「次は、サーブの練習よ」
「はぁ、はぁ……よ、ようやく、楽しそうな練習に……」
見ると、サービスエリアに、小さなコーンがいくつか置かれていた。
「これを的にして、狙って打つの。まず習得しなきゃいけないのは、セカンドサーブ。前回の大会の、最大の課題ね」
「あぁ、そうだな」
「セカンドで重要なのは、スピン。……このヒントだけ言えば、今の千両君なら、何が大事か、分かるんじゃない?」
スピン。スピンに必要なのは……思い切ること。中途半端なスイングだと、逆に回転がかからない。つまり――。
「スイングスピードか!?」
「その通り。セカンドサーブにも、スイングスピードが効くの。意識して打ってみて」
なるほど。よく考えれば、単純な話だ。思い切り振ることがスピンにつながるなら、サーブも同じはず。
ボールを手のひらに乗せて、空に押し出す。そして、思い切り――。
「っらぁ!」
スパァン!
「おおっ」
「いい感じね。この調子なら、すぐにセカンドの確率は上がりそう。……でもね、千両君。はっきり言うわ。まだまだヘナチョコよ、あなたのセカンド」
「なん……だと……」
俺の、過去イチうまく決まった、このセカンドが、まだヘナチョコだと!?
「フォームがなってないわ。背中が曲がってるし、膝のタメも作れてない。唯一ほめられるのは、その思い切りの良さくらい」
「……グスン」
「改善のしがいがある、って言ってるの。さっきのサーブ、ビデオに撮ったから。ほら見て」
見せられたビデオの俺は、確かに、背中が曲がってた。……いや、そうだけどさ。もうちょっと、お手やわらかに。
それから、俺のサーブフォーム魔改造計画が始まった。何度もダメ出しされて、メンタルが日に日にやつれていくのを感じた。
*
練習が、ようやく終わった。
もう全身がくたくただ。腕が上がらない。
ベンチに座り込んでタブレットを開いた。アプリの、パラメータの画面。
……ん?
フットワークが、F から、F+ に、上がってる。
それに、フォアのショートクロス成功率が、ちょっとだけ、数字が増えてた。
……お。お、お。
上がってる。ちゃんと上がってるじゃん。今日一日のあのきつい練習がちゃんと数字になってる。目に見える形で俺は強くなってた。
「どう? 数値、上がってたでしょう」
いつの間にか、藤崎が後ろに立っていた。
「あ、あぁ…」
「これがデータテニスの面白いところ。頑張りがちゃんと見えるのよ。現金な千両君にはもってこいの練習。今日のあなたは、昨日のあなたより、確実に強くなってるのよ」
……なんか。
くたくたで、メンタルもやつれて、鬼だの悪魔だの言ってたけど。この数字を見たら不思議ともう一回やってもいいかなって気になってきた。藤崎の言う通り、俺って現金だな。
「藤崎」
「何」
「明日も、やるぞ」
「……ふふ。いい返事ね」
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千両利士 パラメータ(抜粋・更新後)
総合評価
サーブ G+
フォア G+
バック G+
フットワーク F+ ←F
ネットプレー G-
サーブ成功率
1ST 55%
2ND 40% ←30%
ショートクロス成功率
フォア側 40%←30%
バック側 40%←30%
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