両利きのテニス初心者だけど、気づいたら美少女参謀とプロを目指してた   作:二刀

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第22球 クラブの良さ

 

 クラブの練習が終わって、汗を拭いていると、ふとさっきの人のことが気になった。

 二ノ宮彩斗さん。あの強烈なサーブ&ボレーの大学生。

 

 ……二ノ宮。

 

 あれ? その名字……どこかで。

 

「なぁ神宮寺君。さっきの二ノ宮彩斗さんって……」

 

「ん? ああ、彩斗さんね。千両君がさっきサーブ受けてたね。すごいだろ、あの人」

 

「二ノ宮、彩斗さん……だよな。あの二ノ宮優斗君と同じ名字……」

 

「あれ、気づいてなかったの? 彩斗さん、二ノ宮優斗の兄貴だよ」

 

 ……は?

 

「えっ!? あの二ノ宮君のお兄さん!?」

 

「そうそう。二ノ宮兄弟。弟の優斗も全国レベルだけど、兄貴の彩斗さんは高校時代はジュニア上位。そんでもって今はインハイ常連の超天才テニスプレーヤーだよ」

 

 ……まじか。

 俺を完膚なきまでに叩きのめした優斗君の、お兄さん。——道理で強いわけだ。あんなのが兄弟そろって。二ノ宮家、どうなってるんでしょうか。

 

「じゃあ二ノ宮君もこのクラブで練習してるのか?」

 

 何気なくそう聞いた。二ノ宮君ともここで会えるならまた試合したい。

 

 でも神宮寺君が難しい顔になった。

 

「いや……二ノ宮君はここには来ないんだ」

 

「え、そうなの?」

 

「うん。なんか……兄弟でいろいろあるらしくてさ。詳しくは俺もよく知らないけど。彩斗さんも二ノ宮君の話はあんまりしないんだよね」

 

 ……ふうん。

 

 なんだろう、ちょっと気にはなるけど――まぁ他人の家の事情だ。

 詮索するもんじゃないな。彩斗さんともっと仲良くなったら、いつか、自然に聞ける日が来るかもしれない。

 

 *

 

 その日から俺は毎週土日にクラブに通うようになった。

 親には無理して通わしてもらってるけどありがたい限りだ。そんでもってクラブに通ってみて分かったことがある。

 

 クラブのいいところは男子と打てることだけじゃなかった。

 まず――コートだ。

 

「千両君、今日はこっちのハードコート、空いてるから使おうぜ」

 

 神宮寺君に誘われて初めてオムニ以外のハードコートで打ってみた。

 

 ……うお。

 球の跳ね方が全然違う。

 

 俺が普段使ってる聖蹊学園のオムニコート――砂入りの人工芝のやつ――だと、球足がちょっと遅れて、跳ねすぎない感じがする。

 でもハードコートは、球足が速くて、しかも高く跳ねる。同じ強さで打ったつもりなのに感覚がまるで違った。

 

「あー、最初はびっくりするよね。コートが変わると球も変わるからね」

 

 神宮寺君が笑った。

 

「日本の学校はだいたいクレーかオムニが多いんだ。でも大会はいろんなコートでやる。ハードもあれば、クレーもある。芝は日本じゃ特殊であんまりないけど……、それぞれ球の速さも、跳ね方も、滑り方も、全然違うんだよ」

 

「そ……そんなに違うのか」

 

「違う違う。日本じゃオムニが一般的だけど、海外じゃオムニなんてほとんどないみたいだし。このハードは、地面が固いから球の回転も落ちないしよく跳ねる。けれどもコートが全然すべらないから、気を付けないとこけちゃうよ。打点も高くなりやすいし、攻撃的なプレーがよくあって、見ごたえのある試合になりやすいんだ」

 

 ……知らなかった。

 コートの種類でこんなに変わるのか。ってことは聖蹊のオムニだけで練習してたら、いざ違うコートの大会に出たとき全然対応できないってことだ。

 

「だからここでいろんなコートを試せるのは、結構でかいんだよ。藤ヶ谷テニスガーデンは、ハード、オムニ、クレー、ぜんぶあるからな——」

 

 なるほど。これは確かに大きい。

 大会はいろんなコートで行われる。その全部に対応できるように普段からいろんなサーフェスで打っておく。

 これも勝つために必要なことなんだ。一つ賢くなった気がするな。

 

 *

 

 それにもう一つ。

 

 クラブには――上を行く人たちが、すぐそこにいる。

 Aコート。インハイや、プロを目指す大学生たちのコート。彩斗さんもそこで練習している。

 

 練習の合間に俺はよくそのコートを眺めていた。

 ……まだあそこに行くにはもう少し必要だな。

 

 この前の彩斗さんとの一ゲーム。序盤はよかった。

 俺も相手のサーブが取れたし、両手フォアでコースを付けた。けど結局ギアを上げた彩斗さんのサーブの速さ、ボレーの多彩さ、それに完封された。

 もう少しだった。少し地力をためればきっと届くはず――。

 

「すごいだろ」

 

 いつの間にか、神宮寺君が隣にいた。

 

「俺さいつかあのAコートで彩斗さんたちと対等に打ち合いたいんだ。それが今の目標」

 

 ……あ、それ俺も思った。

 

 今まで「全国一位」なんて、でっかい目標を掲げてたけど。正直遠すぎて実感がなかった。でも――まず、あのAコート。あそこで打てるようになる。それなら、目指す場所がはっきり見える。

 

「神宮寺君。俺も、あそこ目指すわ」

 

「お、ライバル宣言?」

 

「おう。先に行くかもよ」

 

「言ったな~。負けないからな」

 

 ……いいな、これ。

 部活じゃ男子は俺は一人だった。ちょっとのことだけど同じ男子の、同じ目標を持つやつなんていなかった。でもここには神宮寺君がいる。競い合える相手がいる。これもクラブに来てよかったことの一つだ。

 

 *

 

 練習が終わって家に帰る。

 くたくただけど、いつものようにタブレットを開いた。

 

 今日のデータを入力すると、アプリが、勝手に数値を更新してくれる。……これ、ほんと便利だな。藤崎が作ったやつ。入れるだけで、今の自分がまるわかりだ。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

総合評価(抜粋)

 フォア    E+ ←E-

 バック    E+ ←E-

 フットワーク D ←E+

 ネットプレー E ←F+

対応サーフェス

 オムニ  C-

 ハード  F- ←新規

 クレー  F- ←新規

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 お。フットワークがまた上がってる。ネットプレーも、むぎ先輩とクラブの練習で、ちょっとずつマシになってきた。

 

 それに「対応サーフェス」なんて項目まで増えてた。ハードとクレーが「F-」。まだ慣れてないけど経験はしたってことか。藤崎、こんな細かいとこまで……。

 

 ……ふう。

 

 部活とクラブとデータテニス。やることはどんどん増えて体は毎日へとへとだ。

 

 でも毎日が充実していた。

 強くなってる実感がある。

 

 二ノ宮優斗。あいつに完敗したあの日。

 あのとき感じた悔しさと無力感が、今は燃料になってる。

 

 待ってろ、次に会うときは――もう、あの日の俺じゃない。

 

 

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