両利きのテニス初心者だけど、気づいたら美少女参謀とプロを目指してた 作:二刀
クラブの練習が終わって、汗を拭いていると、ふとさっきの人のことが気になった。
二ノ宮彩斗さん。あの強烈なサーブ&ボレーの大学生。
……二ノ宮。
あれ? その名字……どこかで。
「なぁ神宮寺君。さっきの二ノ宮彩斗さんって……」
「ん? ああ、彩斗さんね。千両君がさっきサーブ受けてたね。すごいだろ、あの人」
「二ノ宮、彩斗さん……だよな。あの二ノ宮優斗君と同じ名字……」
「あれ、気づいてなかったの? 彩斗さん、二ノ宮優斗の兄貴だよ」
……は?
「えっ!? あの二ノ宮君のお兄さん!?」
「そうそう。二ノ宮兄弟。弟の優斗も全国レベルだけど、兄貴の彩斗さんは高校時代はジュニア上位。そんでもって今はインハイ常連の超天才テニスプレーヤーだよ」
……まじか。
俺を完膚なきまでに叩きのめした優斗君の、お兄さん。——道理で強いわけだ。あんなのが兄弟そろって。二ノ宮家、どうなってるんでしょうか。
「じゃあ二ノ宮君もこのクラブで練習してるのか?」
何気なくそう聞いた。二ノ宮君ともここで会えるならまた試合したい。
でも神宮寺君が難しい顔になった。
「いや……二ノ宮君はここには来ないんだ」
「え、そうなの?」
「うん。なんか……兄弟でいろいろあるらしくてさ。詳しくは俺もよく知らないけど。彩斗さんも二ノ宮君の話はあんまりしないんだよね」
……ふうん。
なんだろう、ちょっと気にはなるけど――まぁ他人の家の事情だ。
詮索するもんじゃないな。彩斗さんともっと仲良くなったら、いつか、自然に聞ける日が来るかもしれない。
*
その日から俺は毎週土日にクラブに通うようになった。
親には無理して通わしてもらってるけどありがたい限りだ。そんでもってクラブに通ってみて分かったことがある。
クラブのいいところは男子と打てることだけじゃなかった。
まず――コートだ。
「千両君、今日はこっちのハードコート、空いてるから使おうぜ」
神宮寺君に誘われて初めてオムニ以外のハードコートで打ってみた。
……うお。
球の跳ね方が全然違う。
俺が普段使ってる聖蹊学園のオムニコート――砂入りの人工芝のやつ――だと、球足がちょっと遅れて、跳ねすぎない感じがする。
でもハードコートは、球足が速くて、しかも高く跳ねる。同じ強さで打ったつもりなのに感覚がまるで違った。
「あー、最初はびっくりするよね。コートが変わると球も変わるからね」
神宮寺君が笑った。
「日本の学校はだいたいクレーかオムニが多いんだ。でも大会はいろんなコートでやる。ハードもあれば、クレーもある。芝は日本じゃ特殊であんまりないけど……、それぞれ球の速さも、跳ね方も、滑り方も、全然違うんだよ」
「そ……そんなに違うのか」
「違う違う。日本じゃオムニが一般的だけど、海外じゃオムニなんてほとんどないみたいだし。このハードは、地面が固いから球の回転も落ちないしよく跳ねる。けれどもコートが全然すべらないから、気を付けないとこけちゃうよ。打点も高くなりやすいし、攻撃的なプレーがよくあって、見ごたえのある試合になりやすいんだ」
……知らなかった。
コートの種類でこんなに変わるのか。ってことは聖蹊のオムニだけで練習してたら、いざ違うコートの大会に出たとき全然対応できないってことだ。
「だからここでいろんなコートを試せるのは、結構でかいんだよ。藤ヶ谷テニスガーデンは、ハード、オムニ、クレー、ぜんぶあるからな——」
なるほど。これは確かに大きい。
大会はいろんなコートで行われる。その全部に対応できるように普段からいろんなサーフェスで打っておく。
これも勝つために必要なことなんだ。一つ賢くなった気がするな。
*
それにもう一つ。
クラブには――上を行く人たちが、すぐそこにいる。
Aコート。インハイや、プロを目指す大学生たちのコート。彩斗さんもそこで練習している。
練習の合間に俺はよくそのコートを眺めていた。
……まだあそこに行くにはもう少し必要だな。
この前の彩斗さんとの一ゲーム。序盤はよかった。
俺も相手のサーブが取れたし、両手フォアでコースを付けた。けど結局ギアを上げた彩斗さんのサーブの速さ、ボレーの多彩さ、それに完封された。
もう少しだった。少し地力をためればきっと届くはず――。
「すごいだろ」
いつの間にか、神宮寺君が隣にいた。
「俺さいつかあのAコートで彩斗さんたちと対等に打ち合いたいんだ。それが今の目標」
……あ、それ俺も思った。
今まで「全国一位」なんて、でっかい目標を掲げてたけど。正直遠すぎて実感がなかった。でも――まず、あのAコート。あそこで打てるようになる。それなら、目指す場所がはっきり見える。
「神宮寺君。俺も、あそこ目指すわ」
「お、ライバル宣言?」
「おう。先に行くかもよ」
「言ったな~。負けないからな」
……いいな、これ。
部活じゃ男子は俺は一人だった。ちょっとのことだけど同じ男子の、同じ目標を持つやつなんていなかった。でもここには神宮寺君がいる。競い合える相手がいる。これもクラブに来てよかったことの一つだ。
*
練習が終わって家に帰る。
くたくただけど、いつものようにタブレットを開いた。
今日のデータを入力すると、アプリが、勝手に数値を更新してくれる。……これ、ほんと便利だな。藤崎が作ったやつ。入れるだけで、今の自分がまるわかりだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
総合評価(抜粋)
フォア E+ ←E-
バック E+ ←E-
フットワーク D ←E+
ネットプレー E ←F+
対応サーフェス
オムニ C-
ハード F- ←新規
クレー F- ←新規
:
:
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
お。フットワークがまた上がってる。ネットプレーも、むぎ先輩とクラブの練習で、ちょっとずつマシになってきた。
それに「対応サーフェス」なんて項目まで増えてた。ハードとクレーが「F-」。まだ慣れてないけど経験はしたってことか。藤崎、こんな細かいとこまで……。
……ふう。
部活とクラブとデータテニス。やることはどんどん増えて体は毎日へとへとだ。
でも毎日が充実していた。
強くなってる実感がある。
二ノ宮優斗。あいつに完敗したあの日。
あのとき感じた悔しさと無力感が、今は燃料になってる。
待ってろ、次に会うときは――もう、あの日の俺じゃない。