両利きのテニス初心者だけど、気づいたら美少女参謀とプロを目指してた 作:二刀
俺、軽部隼人(かるべ はやと)には夢があった。
それはバラ色の高校生活だ。
聖蹊学園高校は、元・お嬢様女子校。おととし共学になったばかりで女子の比率がやたら高い、ここは楽園だ。……ここに入れば出会いなんて選び放題だろ。そう思って俺はここを選んだ。
結論から言う。
……誤算だった。
まず女子がみんなまともすぎた。
お嬢様校の名残ってやつか品があって落ち着いてて、軽いノリの俺なんかまるで相手にされない。
「出会い」を求める空気がどこにもなかった。
ちゃらい見た目のおれが話しかけても、にこやかに、でもすーっと距離を取られる。……えー、聞いてた話と、全然違うんだが。
残念なことにクラスでも浮いてしまった。クラスに男子は三十人中十人くらい。その男子もほとんどが帰宅部か学外の活動で教室にいない。つるむ相手もなかなか見つからなかった。
はっきり言うと俺はボッチだった。
そんな俺が唯一仲良くなれたのが――千両利士だった。
*
千両は、まぁ今は利士か、軽いというかあまり深く考えてなさそうな、フィーリングで行動してそうな感じのヤツ。
第一印象は正直ちょっと怖かった。
色素の薄い明るい茶髪。ツンと尖った短髪にやや鋭い目つき。身長は180くらいかな、上背もある。
黙ってると不良っぽいというかとっつきにくい雰囲気がある。元野球部らしくて体つきもしっかりしてた。
……最初はヤンキー系か?と身構えたもんだ。
でも話してみたら全然違った。
むしろ俺と同じくノリが軽い。「テニス始めようと思っててさー」とか言いつつ、休み時間はだらだら駄弁って、購買のパンを買いに走って、しょうもない話で笑ってる。
見た目はとっつきにくいのに、意外と話しやすいヤツだった。そのギャップですぐ打ち解けた。
そんな感じで最初の一か月はよかった。
俺と利士、教室の隅で二人、ずっとくっちゃべってた。
「なぁ利士。この学校、出会いなくね?」
「んーそうかー? おれは考えたことないなー出会いとか」
「ええっ。あるだろ普通。俺たち花の高校生だぜ。もっとこう、青春っつーか、キラキラを期待してたのに」
「んなもん期待してたのかよー。あ、そういや購買の限定メロンパン、もう売り切れてたぜ」
「まじか!早すぎだろ!」
……みたいな、生産性ゼロの会話を延々としていた。
正直あれはあれで結構楽しかった。中身が何もなくて、でもそういうどうでもいい時間が楽しかったんだよな。
……それが、だ。
*
ある日から利士が変わり始めた。
最初の変化は、付き合いの悪さだ。
「利士——、放課後カラオケ行こうぜ」
「お、隼人、すまん、今日部活だわ」
「じゃあ明日ゲーセンいこうぜー」
「ごめん、明日も部活あるんだわ」
「……今週末は?」
「クラブ。土日はテニスクラブなんだわ」
……は? テニスクラブ?
なんかテニス部に入ったと思ったら、外部のテニスクラブにまで通い始めたらしい。
気づけば利士は——、毎日毎日、テニス、テニス、テニス、テニス!
教室で駄弁る暇もない。あいつは——、利士はテニスに魂を売りやがった。
俺は——、ぼっちに逆戻りである。……おい利士、お前どうしちまったんだ——。
*
で、ここからが本題だ。
利士がテニスにのめり込んで、俺との付き合いが悪くなったちょうどその頃。
なぜか――女子が利士に注目し始めた。
いやいや! 待て! おかしいだろ!
俺は出会いを求めて、必死にアピールしても見向きもされなかった!
なのに利士は女子のことなんかこれっぽっちも気にしなかったのに!
ただテニスバカになっただけ!
なのに! なんでお前が注目されるんだよぉぉぉ!!
「ねえ千両君って、すごい頑張ってるよね」
「最近なんかかっこよくなったよね」
「真剣なまなざしがいいよね——」
「テニス部、男子一人ですごいよね」
……聞こえてくる、女子の声。
ウォォォォ!!
なんだそれ。なんだ! その好意的な評価は。俺には一度も向けられたことのないやつだ。
正直めっちゃうらやましいいい!
しかもだ! 利士のやつ! いつの間にか藤崎さんとめちゃくちゃ仲良くなってる。
藤崎さん。藤崎真白さん。
長い黒髪をさらりと流した、切れ長の目の和風美人。
かわいい揃いの聖蹊学園でも藤崎さんのクールビューティは有名だ。
いつも冷静で表情をあんまり崩さない。クールで近寄りがたくて。
男子が話しかけても塩対応、でご高名なあの藤崎さんだ。学年でも指折りの美人として知られてる。
なのにだ! その藤崎さんが利士とは放課後、よく二人で並んでなんか真剣に話してる。
タブレット片手に、時々ふっと表情を緩めたりしている。なん……だと……あの藤崎さんが……。
「ねえ、千両君と藤崎さんって……なんか、お似合いじゃない?」
「わかる。あの二人、いい感じだよね」
……は?
お、お、お、お似合い、だと……。
俺が必死こいて空振りしてる横で。テニスバカの利士が、学年一の美人と、お似合い認定。
正直めっちゃめっちゃめっちゃうらやましいいい!
しかも栗原さんとも最近よく一緒にいる。栗原さんってテニス強いんだろ? この前表彰もらってたって話。
……おい。
出会いを求めてた俺がぼっちで。出会いなんか求めてない利士がハーレム街道(事実誤認)
これが、この世の、理不尽か……。
*
とどめは体育だった。
最近利士の体つきが明らかに変わってきた。
肩幅が広がって腕が太くなって、なんかこう、たくましくなってる。
元から鋭い目つきと相まって、……様になってきやがった。体操着の上からでも鍛えられてるのが分かった。
体育の持久走。
ぜえぜえ、俺が死にそうになりながら走ってるのに、利士のやつは涼しい顔で、先頭集団をスイスイ汗ひとつかいてないみたいな顔で走っていきやがった。
「利士……お前……なんで……そんな……元気……」
「ん? あー、毎朝五キロ走ってるからな」
……毎朝、五キロ、だと……。
こいつ何者になったんだ。俺の知ってる利士はこんなんじゃあなかった。
一緒にパンの取り合いしてた、あの利士はどこ行った。
*
……くそ。
悔しい。なんかすげえ悔しい。
置いていかれてる。完全に置いていかれてる。
利士はどんどん遠くに行っちまう。
かっこよくなって、モテて、強くなって。俺はここでぼーっと突っ立ってるだけ。
……いや。
待てよ。
俺だってやればできるんじゃないか?
利士がテニスで変われたなら。俺だって何かに打ち込めば変われるんじゃないか?
モテたい。普通にモテたい。かっこよくなりたい。
藤崎さんとは言わないけど、誰か俺のことも見てほしい。
……よし。
決めた。
俺も部活、入る!
利士ばっかりいい思いさせてたまるか。負けてられん。出会いは! 自分で! 勝ち取るんだ!
*
* *
*
――で。
「軽部、なんか部活の見学行ってるらしいぜ」
俺、千両利士はクラスメイトのそんな噂を小耳に挟んだ。
へえ、隼人が部活。あいつ、めんどくさいこと嫌いそうだったのに意外だな。まぁ何かやる気になったんならいいことだ。応援するわ。
……っと、それより。
俺は準備してきたプロテインを、ぐびっと飲みながらタブレットを開いた。
今日の朝練の数値を入力する。
うーん、どれどれ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
総合評価(抜粋)
サーブ D-←G+
フォア D-←G+
バック D-←G+
サーブ成功率
1ST 75%←69%
2ND 58%←52%
:
:
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
お、サーブの成功率がまた上がってる。フォアとバックもついにD-までいった。
……ふへへ。
いかんいかん、これを見ると変な声が出る。
毎朝五キロ走って、朝練して、放課後は部活、土日はクラブ。正直しんどいです。
でもこうやって数字が伸びてるのを見ると、もう一回だけと頑張れる。
次の大会は八月。相模テニストーナメント。そこで初優勝を狙う。藤ヶ谷オープンのリベンジだ。
よし! 今日も練習行くか!
……あ、そうだ。今度隼人もテニス練習に誘ってみようかな。あいつ最近なんか元気なさそうだったし。
一緒に体を動かせば気晴らしになるかもな。
俺は、ラケットバッグを担いで、コートへ向かった。
*軽部隼人(かるべはやと)
身長175、髪は茶髪のロン毛スタイル。
中学時代はバスケットボールを頑張っていたが、先輩と揉めて退部。
バスケ自体は好きだが、部活にちょっと苦手意識を感じていた。
勉強は普通にできる。
【作者あとがき】
ここまでお読みいただきありがとうございました。
引き続きよろしくお願いします。