両利きのテニス初心者だけど、気づいたら美少女参謀とプロを目指してた   作:二刀

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新章 相模テニストーナメント編

※あとがきに更新時間についてのお知らせがあります。

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第3章 相模テニストーナメント編
第27球 開幕、両手フォアの少年


 

 相模テニストーナメント。グレード4。

 

 ランキングを持たない選手でも登録すれば出られる大会だ。プロを目指すような全国クラスの選手はまずあまり来ない。

 その代わり地元で腕を鳴らす選手や、これから上を目指す新人がしのぎを削る。新人の登竜門と呼ばれる場所だった。

 

 会場は神奈川の総合運動公園。十面以上のコートに選手と、その関係者がひしめいている。

 夏の日差しがオムニコートの砂を、白く照らしていた。

 

 そして俺はその一面に立っていた。

 

 *

 

 千両利士。

 テニスを始めて三か月。今日が二度目の公式戦だ。

 

 一度目の藤ヶ谷オープンジュニアは、二回戦で二ノ宮君に完敗した。セットスコアは<0-6、1-6>。手も足も出なかった。

 あのときの俺はサーブも配球も何もかもが中途半端だった。

 両手フォアが通用すると思い、実際は自分がどれだけ穴だらけで課題ばかりのプレーヤーであることを痛感させられた。

 

 あれから二か月。

 部活とクラブで死ぬほど練習した。藤崎が主導するデータテニスで、自分の弱点、一つずつ潰してきた。

 

 これが今のパラメータだ

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

千両利士(藤ヶ谷オープンジュニアからの変化も記載)

総合評価

 サーブ    B-⇐G+

 フォア    B-⇐G+

 バック    B-⇐G+

 フットワーク B⇐F+

 ネットプレー C+⇐G-

サーブ成功率

 1ST 83.5⇐55%

 2ND 91⇐40%

サーブ平均速度

 1ST 147⇐135km/h

 2ND 92⇐80km/h

スイングスピード

 フォア 117⇐105km/h

 バック 117⇐105km/h

ショートクロス成功率

 フォア側 70⇐30%

 バック側 70⇐30%

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 自分の特性なのかはわからないがどうも左右の偏りが少ないようだ。そして——、総合評価がほぼオールBになっている!

 正直これを見たとき喜びで叫びあがりそうになった。

 今日はその成果を試す日だ。

 

 ……正直緊張はある。でもそれ以上に確かめたい気持ちが強い。今の自分がどこまで通用するのか。

 

 *

 

 一回戦。相手は藤正人(ふじ まさと)。地元の高校に通う二年生だという。

 

 藤ヶ谷オープンで俺が辛勝した田中君。あのときは競り合いの末になんとか勝った。アンダーサーブを狙われたのは苦い思い出だ。

 藤君はたぶん、あの田中君と同じくらいのレベルだ。半年前の俺なら苦戦していたはずの相手だった。

 

 第一ゲーム。俺のサービスから始まった。

 

 フラット気味のファーストサーブをコーナーへ叩き込む。スイングスピードを上げる訓練を、二か月続けてきた。その成果が球の伸びにはっきり出ているのがわかる。

 

 俺のサーブは平均147km/h、調子がいいと150km/hを超える。ボールは藤君のラケットに触らせず後ろに通り過ぎていった。

 

 サービスエース。

 

「ッシ!」

 

 腕の中で小さくガッツポーズをする。幸先のいいポイントが取れた。

 

 続くポイントもファーストサーブを落としたが、セカンドサーブが深く入る。

 藤ヶ谷オープンのときは、セカンドサーブがダブルフォルトまたは打ちごろの球だった。

 

 今は回転をかけたセカンドが安定して入る。サーブで崩される心配がほとんどなくなり相手をベースラインに押さえることができる。

 

 その結果、最初のサービスゲームをキープすることができた。これは今後のプレーの幅を広げる事ができるので地味にでかい。

 

 問題は相手のサーブをどう破るかだ。

 

 俺はリターンの構えで藤君のトスを見た。フォームから、コースを読む。センター!

 来た球を左手のフォアでクロスラインぎりぎりへ運ぶ。

 

 パァン。

 

 リターンエース。

 

 藤崎にコースを狙う練習を嫌というほど叩き込まれた。コートを九分割、十八分割して、市川さんの容赦ない球出しで、だ。

 あのとき身についたコース感覚が今この試合で生きている。狙ったところへボールがちゃんと飛ぶ。

 

「すげえ……、また決めた」

「あの新人、何者だ……」

「両手フォアなんて初めて見たぞ」

 

 いつの間にかコートの周りに人が集まっていた。観客の声が耳に届いて少しだけ気分がいい。

 

 藤君も食い下がってきた。お互いのペースに慣れてきたのか何度か長いラリーになる。

 

 俺も左右に大きく振られるようになった。けれども俺は両手フォアで、そのほとんどに追いつく。リーチが長く守備範囲が広いのは両利きの特権だ。

 

 そしてただ拾うだけじゃ終わらせない。

 

 藤君のフォアストロークから放たれたダウンザライン。俺の左手フォア側に鋭く突き刺さる。

 

 藤君がこれで決まったと思って、ネット前に詰めてきた。

 その動きを見ていた。右足をついている、ストレートを潰しているから俺がクロスに打つと考えているのだろう。

 

 しかし俺はその逆をついた。

 追いついた球をストレートにパッシング! 藤君の足が止まった。

 

 抜いた。

 

「おおーーー!」

「すげぇ、あのコース抜くか!普通!」

「やばいな、度胸ある!」

 

 守りから一転攻めへ。コートカバーリングと両手フォアによるコース配給。この切り替えこそ俺がこの二か月でいちばん伸ばしたところだ。

 

 一回戦は、スコア<6-3、6-1>。ストレートで勝ち切った。

 

 *

 

 一回戦で弾みがついた。

 

 二回戦。相手は大久保進(おおくぼ すすむ)君。ここ地元ではそこそこ名の知れた選手らしい。

 

 ただコートに入った俺は一回戦とは少し心持ちが違っていた。かねてからの懸念が一つ消えていたからだ。

 

 80%超えのセカンドサーブ。藤ヶ谷オープンで最大の課題だったあれが、一回戦を通してずっと安定して入っていた。

 ダブルフォルトに怯えなくていいのは心理的に随分といい。負担が軽くなっていることがわかる。

 

 その手応えが自信に変わっていた。そして自信があると、攻めに思い切りが出る。

 

 スコア<1-1>

 俺のサービスゲーム。

 

「シッッ!」

 

 ファーストサーブは落としたがセカンドも今となっては俺の自信の一つだ。流石に大久保君は反応してくるが、リターンがわずかに浅くなった。

 その瞬間、俺は左サイドへ踏み込んで、右手のフォアを鋭く振り抜いた。

 

 スパァン。

 ショートクロス。

 

「うおおっ、今の角度!」

「あんなショートクロス、取れるわけがない」

「えげつないな……」

「あいつ右でもこれなのかよ……ハンパないな」

 

 ボールはリターンの対角線の浅いところへ、鋭く切れ込んで突き刺さった。

 大久保君は一歩も動けなかった。

 

 二ノ宮君に完敗したあの試合で唯一通用した俺の武器だ。あれから毎日磨き続けてきた。

 コートの隅を狙うご褒美みたいな練習を何百本も。その積み重ねがこの一球に詰まっている。

 

 右からも左からも同じ角度が打てる。これは両利きの俺にしか出せない球だ。

 

 大久保君はつぶやいていた。「なんだよ、あれ」と。

 気持ちは分かる。3ヶ月前の俺なら同じことを言っていた。

 

 サービスゲームは危なげなくキープ。リターンは角度をつけたストロークで相手を押し込んでブレイクする。

 

 二回戦もスコア<6-2、6-2>。ストレートで、勝ち切った。

 

 *

 

 試合を終えて受付へ結果を報告に行く。

 

 二回戦突破。自分の名前がトーナメント表の一つ上へ進んでいる。少し自分が誇らしい気持ちになる。

 

 藤ヶ谷オープンでは味わえなかった感覚だな。あのときは二回戦で終わった。なんだか感慨深い。

 

 こうやって勝ち進んでることを母親に伝えたらなんていうだろうか。……たぶん、ふーんで終わるな。

 

 受付の外に出ると、藤崎の見慣れた姿が立っていた。

 

 今日は制服である。黒髪をいつものように流して、タブレットを片手に持っていて、試合を見てくれていたらしい。

 

「お疲れさま。二つともストレートね」

 

「おう。なんとか」

 

「全然なんとかじゃないでしょう。二試合とも相手に流れを渡さなかった。よく組み立てられてたわ。練習の成果が見られてた」

 

 けど藤崎の目がすっと真剣になった。

 

「次の相手はたぶん知ってる顔だと思う。三回戦で当たる」

 

「……知ってる顔?」

 

「ええ」

 

 藤崎がタブレットの画面をこちらへ向けた。トーナメント表の次の対戦カード。

 そこに並んだ名前を見て、俺は納得した。

 

 次の相手は――神宮寺健。

 クラブで、藤ヶ谷テニスガーデンで一緒に汗を流してきたあいつだった。

 

 




【作者あとがき】
 お知らせです。
 本日は20:10にもう一話更新行います。

 また諸事情により、今後の更新を毎日朝7:00ではなく
 平日は夕方18:10、土日祝は20:10に行います。
 作品詳細にも記載します。ご了承ください。

 引き続きよろしくお願いします。

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