両利きのテニス初心者だけど、気づいたら美少女参謀とプロを目指してた   作:二刀

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第32球 仲間と好敵手

 

 決勝まであと1時間。

 

 次の試合を待つベンチでひと息ついていると、聞き慣れた声が飛んできた。

 

「うぃーっす、利士!」

 

 振り向くとそこにいたのは軽部隼人だった。相変わらずのチャラチャラした格好、浮いてるぞお前。

 

 しかし、その後ろになんと栗原さんと、市川さんもいた。

 

「隼人!? なんで、ここに」

 

「いやお前、さっき『三回戦まで来た』って言ってたじゃん、LIMEで。だから応援しに来てやったんだよ。そしたら……」

 

 軽部がトーナメント表を指さした。

 

「お前!? まぁじで決勝まで来てんのかよ! ハンパねぇなぁ、おい! 話が違うじゃねえか! この前テニス始めたってのは嘘なのか!」

 

「あー……それな、勝ち進んじゃってさ」

 

「勝ち進んじゃって、じゃねえよ! 決勝だぞ決勝! 俺、テニスのルールよく分かんねえけど、決勝がすげえのは分かるぞ!」

 

 隼人が、大げさに頭を抱える。はは、相変わらず、うるさいやつだ。でも来てくれたのは素直に嬉しい。

 

「千両君、すごいっすね。決勝とか、マジでやばいっす」

 

 栗原さんが、腕を前にしてニコッとピースしながら笑った。

 

「あれ、栗原さんと軽部、知り合いだっけ」

 

「千両君なーに言ってんすか、同じクラスっすよ。フツーに話したことくらいあるっす。会場でばったり会ったんす。『栗原さんも利士の応援か?』って」

 

「おう。クラスの有名人だからな、千両は」

 

「有名人? なんだそれ」

 

「自覚ねえのかよ。『テニス部の男子がめっちゃテニス頑張ってる』って、クラスで噂になってんだぞ。藤崎さんともいっつも一緒にいるしな」

 

 ……藤崎の名前は、関係ないだろ。なんでそこで出てくるんだ。

 

「あはは。きっしー、モテモテだねー」

 

 市川さんが、いつもののんびりした調子で笑った。データ分析でずっと練習を手伝ってくれた人だ。

 

「市川さんまで……。っていうか来てくれたのか。ありがとう」

 

「うん。藤崎さんに勝ったら決勝だって聞いてさ。これは見なきゃーって。きっしーの次の試合、データばっちり取るよ~、楽しみにしてるんだから」

 

 最後までサポートチーム魂が抜けない人だ。

 

 ……なんだかこそばゆいな。

 

 藤ヶ谷オープンのときは、応援なんてほとんどいなかった。

 

 それが今はこうして何人も見に来てくれる。二か月でいろんなものが変わった。

 

「ま、せっかく来たんだ。しっかり勝てよ、利士。俺、お前のテニス、ちゃんと見るの初めてだからな。カッコ悪いとこ見せんじゃねぇぞ」

 

 腕を突き出してきたのでグータッチする。軽部の軽い一言が、なぜか胸に効いた。

 

 

 *

 

 

 応援団との会話もそこそこに、コートへ向かおうとしたそのとき。

 

「よう。お前が、千両利士か」

 

 声をかけてきたのは、背の高い、がっしりした体つきの選手だった。

 短く刈った髪に、日に焼けた肌。人懐っこい笑みを浮かべている。

 

「源烈(みなもとれつ)、二年だ。今日の決勝の相手。よろしくな」

 

 ……この人が源烈。優勝候補。神宮寺君と藤崎も名前を挙げていた相手だ。

 立っているだけで、地面を踏みしめているような、どっしりした存在感がある。

 

「千両利士です。よろしくお願いします」

 

「それより噂で聞いたぞ。お前、前は野球やってたんだって?」

 

「あ、はい。中学まで、野球部で」

 

「ハッハッハ! やっぱりか! 俺と同じだな!」

 

 源君が、豪快に笑った。

 

「俺ももとは野球少年でな。色々あって、テニスに鞍替えしたクチだ。まさか、決勝の相手も、野球出身とはな。こいつは、縁を感じるぜ。ポジションは?」

 

「ショートです」

 

「お、内野か。俺は外野で四番だったんだぜ。しかしショートか……、道理でお前のフットワークが機敏なわけだ」

 

 言われてみれば、源さんの力強い体つきや、堂々とした雰囲気はピッチャーを打ち崩す四番バッターみたいだ。

 

「テニス歴、どれくらいだ?」

 

「えっと……五月から、です」

 

 源さんの、笑顔が、止まった。

 

「……は? 待て、今年の、五月?」

 

「はい」

 

「おいおい、嘘だろ。三か月で決勝まで来たのか、お前」

 

 源さんが、目を丸くして、それから、また大きく笑った。

 

「ハッハッハ! すげえな! 俺なんかここまで来るのに二年半かかったぞ。お前、とんでもないな。……噂の両手フォア、楽しみにしてるぜ」

 

 屈託のない笑い方だった。格上の優勝候補なのに、偉ぶる感じがまるでない。気持ちのいい人だと素直に思った。

 

「まあ、こうやって、お互いテニスを始めたんだ。同じ野球仲間として、これからも仲良くやってこうぜ!」

 

 源さんが手を差し出してきた。大きくてごつごつした手だった。

 

「……はい。よろしくお願いします」

 

 握り返しながら不思議な気分だった。これから勝負する相手なのに。なんだかずっと前から知り合いだったみたいだ。

 

「じゃ、コートで待ってるぜ。言っとくが手加減はしねえからな!」

 

 そう言って源さんは、軽やかに去っていった。背中まで堂々としていた。

 

 *

 

 源さんの背中を見送っていると、藤崎が後ろに立っていた。

 

「気持ちのいい人ね。……でも相手としては厄介よ」

 

 藤崎が、タブレットを開いた。

 

「源烈。フラットショットによる強烈なストロークが武器。回転を抑えた速くて鋭い球をベースラインから打ち込んでくる。それでいてラリーがしぶとい。桁違いの粘り強さで、一発で決まらなくても何球でも続ける。」

 

「フラット……」

 

 それはテニスを始めた頃の俺が、得意だったショットだ。

 今はトップスピンもスライスも、打ち分けられる。でも源さんは、そのフラットを武器にここまで来た。

 

 野球部出身という同じ場所から始めて、違う道を選んだ相手だ。

 

「正直に言うわ。源さん相手に、内田君のような弱点になる武器を、千両君は持っていないわ」

 

 藤崎の声が少し固くなった。

 

「ストロークによるパワーで押すテニスは現テニスの主流ともいえる。その分いろいろと対策はあるのだけど、一つは——緩急」

 

 え、それが来るのか。

 

「パワーと、ラリーの粘りで真っ向から勝負してくる相手には、緩急で相手のペースを崩すことが有効よ。——まぁそれは千両君が一番わかってると思うけど」

 

「俺には内田君のような緩急の技術はないぞ」

 

 藤崎がうなずいた。

 

「ええ、だからこそ、これはどうかしら……」

 

 *

 

 ……なるほどな。決勝の舞台、センターコートに向かいながら考える。

 

 藤崎の作戦、こうだった。

 

『真向勝負してきなさい。それが今のあなたには一番作戦だと思う。

 けれども必要と感じたなら何でも挑戦して、自分が今まで経験したことをぶつけるのよ、千両君』

 

 つまりは、全部ぶつける、臨機応変にってやつだ。

 

 なんか逆に緊張がとれたような気がした。

 

 決勝。優勝候補、源烈。

 

 ラケットを握り直して、センターコートへ足を踏み出した。

 

 




【作者あとがき】
 いつもお読みいただきありがとうございます。
 ちなみに私はセンターコートに立ったことはありません。
 あそこは選ばれものが立てるところです。

 引き続きよろしくお願いします。

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