両利きだけど、それって武器になるの? ~気づいたら俺、テニスでプロを目指してた~ 作:二刀
正式に、テニス部に入った。
入部届を出すとき、なっちゃん部長が「待ってたよー!」と肩をバシバシ叩いてきて、ちょっと痛かった。でも嬉しかった。歓迎されるって、いいもんだな。
一年生の子らも最初は引いてたけど、すぐに慣れていったみたいだ。よかった。
で、入部して最初に分かったこと。
テニス部の練習、思ってたのと違う!
俺はてっきり、毎日パコーンパコーンってラリーやるもんだと思ってた。違った、練習のほとんどは、地味なやつだ。
ランニング、ストレッチ、素振り、フットワーク。ボールを使わない時間が、めちゃくちゃ長い。やっとボールを打つと思ったら、球出しでひたすら同じフォームの反復。右、右、右。次バック、じゃなくて俺の場合は左、左、左。
――まあ、でも。別に、嫌いじゃない、こういうの。
むしろ慣れてる。野球も同じだった。素振り何百回、ノック何百本、走り込み。試合でかっこよく打つ前に、地味なやつを死ぬほどやる。スポーツってそういうもんだ。
淡々とこなす。基礎は大事です。むしろ、体を動かしてるだけで楽しいからな。
*
基礎練の合間に、ルールも覚えた。
これがまた、最初は「???」だった。
点の数え方が変なんだよ。ゼロが「ラブ」で、一点取ると「フィフティーン(15)」、次が「サーティ(30)」、次が「フォーティ(40)」。数字だと規則性がないし、なんで1、2、3って数えないんだ。違和感バリバリ、誰だこれ決めたの。
でもまあ、何回か見てたらなんとなく慣れた。要は4点先取で一ゲーム。何ゲームか取るとセット。何セットか取ると勝ち。簡単な点取り合戦だな。
あと、サーブとリターンってのがある。
各ポイントの最初に、自分でボールを上げて打ち込むやつ。野球でいうピッチャーの第1球みたいなもんか。でもって面白いのが、サーブを打つ側がけっこう有利らしい。
だから「自分がサーブの番のゲームは、ちゃんと取りきる」のが基本なんだって。それをキープって言うらしい。要は先手を取るのが大事なんか。
ほーん、と思った。
……いや待てよ。
ってことは、だ。
サーブが有利ってことは、サーブが下手だとその有利を捨てることになるってことだよな。逆に言うと、サーブがちゃんと打てれば自分の番は守りやすい。
じゃあ、サーブもちゃんと覚えなきゃいけないやつだな、これは。
そう思って、ちょっとサーブの練習も交ぜてもらおうとしたんだけど、藤崎から待ったが入った。
「気が早い」
ばっさり言われた。
「あなたは、まずストローク。回転を覚えるのが先。見ておく、知っておく分には良いけど、サーブはそのあと」
うっ。そうだった。
俺、フラットしか打てないんだった。なっちゃん部長のぼよんってやつ(トップスピン、っていうんだったな)を返せなかった、あの悔しさは忘れられん。
あれを返せるようになるには、まず自分が回転をかけられるようにならなきゃいけない。
順番がある、ってことだな。あれもこれも、いっぺんには無理よってやつ。
……まあ、確かにそうだよな。サーブよりまず、目の前のあれだ。下から上に、こすり上げる。
*
というわけで、俺の当面の課題は決まった。
トップスピン。下から上に、ラケットでボールをこすり上げて、回転をかける。
これがな、結構難しいんだよ。
頭では分かってる。藤崎の説明も聞いた。ラケットを下から上に振り抜く。ボールの後ろから上に向かって、こする。
でも体がいうこと聞かない。
俺の体、もう「叩く」で完成しちゃってるんだよな。この前藤崎がいってたけど野球の名残ってやつ。
ボールが来ると、無意識に上から潰しにいく。何百回も振ってきた動きだから、勝手にそうなるんだわ。
ちょっと上にこするくらいじゃ無理だわ。最後の最後でバシーんと叩いちゃう。
結果パコーン、ってきれいなフラットが飛んでく。うまく打ててるんだけど、これじゃダメなんだ。今は、わざと「きれいに飛ばさない」のが正解。変な感じ。
……どうすりゃいいんだ、これ。
ちょっと、考えた。
叩く癖が抜けないなら、いっそ、叩けない振り方をすればいいんじゃないか。極端に、下から上にだけ振る。ボールが前に飛ばなくてもいい。とにかく「こする」だけをやってみる。
やってみた。
ボールがぼてっと近くに落ちた。全然飛ばない。
でも。
あ、今の、ちょっと回転かかってた気がする。落ちたあとで変な転がり方した。
……これか? この感覚か?
よく分かんないけど、何かのとっかかりは、掴んだかもしれない。とりあえず、これを繰り返してみよう。飛ばなくていい。こする感覚を体に覚えさせる。
地道だなー。めちゃくちゃ地道。
でも、嫌いじゃない。むしろ、できなかったことが、ちょっとずつできていくのは楽しいまである。
*
あと、自主練で朝にランニングを始めた。
正直、入部して最初の何日かで気づいたんだけど、俺、結構体力落ちてる。
野球やめてから、ろくに運動してなかったツケだ。ラリーちょっとやっただけで息上がってたの、あれ普通に運動不足だ。
テニスって、思ってたより全然きついスポーツだったんだよな。コートの中を、左右に何回も全力ダッシュ。一試合やったら、野球の何倍も走るんじゃないか、ってくらい。
だから、走ることにした。朝、学校行く前に、家の周りを軽く。徐々に距離を伸ばしていこう。
こういうのは、地道にやるしかない。一日二日で体力は戻らないからな。野球で知ってる。毎日コツコツ積むやつなんだよね。
いやー、しかし。
やること、多いな!
ストロークの回転、フットワーク、体力、いずれサーブも。覚えることが山積みだ。二日前まで「楽しい!」だけで打ってたのが、嘘みたいだ。
でも、不思議としんどくはない。
やること多い=伸びしろだらけ、ってことだろ。全部できるようになったら、俺、どれだけ打てるようになるんだ。想像すると、ちょっとにやけてくる。なっちゃん部長をギッタギタにしてやるぜ!
とりあえず今はストローク、回転の習得! フラットはできてるみたいだからその分、先に進んでる……はず?
まぁ行き詰まってきたら藤崎大先生に頼ろう! 助けて真白えもんってさ。
というかマジでテニス知識ハンパないのよね。教え方も上手いし、最近の一年生どうなってんの。
でも他の一年は普通な感じがするし、あんな感じなの藤崎だけっぽいしなぁ。今度聞いてみよ。
*
そんな感じで、一週間が過ぎた。
その日の放課後。今日こそ壁打ちで回転を習得しちゃる!と息巻いてたら、見慣れない人がコートにいた。
大人の女の人。ジャージ姿で、コートの隅で、なっちゃん部長と何か話してる。先生……じゃない、よな。うちのジャージじゃないし。
誰だろ。
ぼーっと見てたら、藤崎が、その人のところに小走りで寄っていって、何か話して、それから俺の方を振り向いた。
で、手招きした。
俺を、呼んでる。
「千両君、ちょっと来て」
なんだ?
ラケット置いて、近づいていく。その大人の人が、俺をじっと見てた。なんか、品定めされてる感じ。なっちゃん部長が俺を見るときの「面白いやつ」って目とも、藤崎の「意味分かんない」って目とも、違う。もっと、こう、値踏みするような目だ。
藤崎が、その人を手で示して、言った。
「千両君、紹介する。こちら――」
*
ん。
……コーチ?
【作者あとがき】
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