大好きだった姉が結婚をしてひどく落ちこんでいると、姉から姉そっくりのアンドロイドが届く。
姉は「彼女を婚約者にして」と言い、初恋をした姉へ未練を持ったまま、自分に優しくしてくれるアンドロイドに心が揺れ動く。


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理想である不完全で完璧なアンドロイドの姉

 生きる気力がなくなった。

 人生において、最も輝かしい時間と言う人が多いであろう高校生活。

 その一年目を過ごす俺はひどく落ち込んでいた。

 今から二カ月前である六月に、大好きな七歳年上の姉が結婚したからだ。

 両親と姉に俺。四人で楽しく暮らしていたのに、三人の今は毎日が憂鬱だ。

 

 別に姉と結婚した人を恨んでいるわけじゃない。

 いい人そうだし、俺が見たことのない晴れやかな笑顔を出させているんだから祝福をして当然だ。

 だが、それはそれとして悲しい。

 

 七歳も年齢があると姉ではなく、一緒に暮らしている一人の女性として認識するようになる。

 姉は俺に説教もすれば、雑用をよくさせてくる。でもよく相談に乗ってくれ、勉強も見てくれた。

 たくさんの言葉を交わし、中学一年生の頃には恋愛感情を持っていた。

 でもそのときには今の旦那さんと付き合っていたから我慢するしかないものだった。

 小学校五年生からずっと片思いをしていたけど、姉が結婚したことで自然とあきらめていくようになる。

 

 ……いや、あきらめられないだろ。告白して振られたわけでもないし、家族だから電話や直接会うことだってある。

 

 そんなふうに好きという感情がぐつぐつと煮立つように心の奥底に残っていると、姉夫婦からプレゼントが来た。

 やたらと大きい箱を開封すると、それは人形だった。箱の中にある説明書を見ると、自律する高級アンドロイドらしい。

 その姿は姉そっくりのつやつやとした黒髪セミロング。ややたれている目。すらりとした体と小さな胸。百四十六という低身長。

 すべてが姉と同じだった。

 

 立ち上がると心を落ち着けるために自分の部屋の中をぐるぐると五周したあとに目を閉じて感情を抑えようとするも、箱の中で横たわっている状態でさえもいとおしい気持ちが出てしまう。

 そんな気持ちは頭を強く横に振ってなくす。これは姉ではない。

 

 なんで送ってきたのかとすぐさま姉へと電話をする。

 声だけじゃなく姿も見たいので、テレビ電話で。

 コール音が二回目で大好きな姉の顔が出る。

 

『やっほぅ。私からのプレゼントは……届いたようだね』

「届いたけど、なんなのさ、あれは」

 

 姉は俺の向こう側を見てから、安心した表情になる。かわいいけど、今だけは届いたアンドロイドのほうが優先事項だ。

 

『あれを私だと思って大事にしてもらいたいなって。それと婚約者にして。あ、きちんと結婚可能な高級アンドロイドだし、役所には事前に登録したから安心してね』

 

 今の世の中、子供は生産施設で作れることもあって、お金に余裕がある人たちは好みのアンドロイドを作っては結婚相手にしている人も多い。

 そのせいで、人間らしい生き方じゃない! と怒っている人たちが作った反アンドロイド団体なんてのもあるけど。

 色々と言いたいことはあるけど、今はひとつだけ声を大にして言いたい。

 

「あの子が婚約者だって? 一体どうしてそうなったんだ」

『あなたが私への初恋のせいで前に進めないなら、私を超えていくための女の子をプレゼントするね。それにほら、もうあの子って呼んでいるぐらいに気に入っているでしょ?』

「人格を持つのなら物扱いしないのは当然だろ。でもアンドロイドだから姉さんとは……待って、俺の気持ちを知っていたの?」

『うん。別にもてあそんでいたわけじゃないのよ? 私を好きだという気持ちは嬉しかった。でも家族だから』

「……そっか」

 

 こう言われて、やっと失恋したと実感できた。

 だからといってすぐに気持ちを切り替えられるわけじゃないけど。

 電話を切った俺はアンドロイドのマニュアルをじっくり読む。

 

 ひとまずは箱に入れたまま、スマホで操作アプリを入れてからアンドロイド起動の指示を出す。

 すると、姉そっくりのアンドロイドの頭部周辺にホログラムが出る。人とアンドロイドを識別できるものとして法律で義務付けられているやつだ。

 

「プリンセスファクトリー製AL14型カスタム、起動します。ネットワーク接続完了。セットアップはすでに完了済みです。個人認証を始めてください」

 

 どんなときでも道具を初めて使うときは感動がある。特に今のような俺専用のものだとわかる言葉をかけられたときなんて。

 俺はアンドロイドに認証を要求されたため、感動したのも束の間、慌てて財布から国民IDカードをアンドロイドの目の前へ持っていく。

 そしてその目がカードに書かれてあるコードを読み取った。

 

「認証完了しました。……はじめまして、ご主人様! 私はナツキと言います。これからよろしくね?」

 

 体を起こしたアンドロイドは箱から出ると俺へ作られた、機械的な完璧すぎる笑みを向けてきてナツキと名乗る。

 俺の目の前に立った彼女は頭ひとつぶんと少しほど小さく 姉のあまったるい声そっくりで、でも姉とは一文字だけ名前が違うアンドロイドが俺に視線を向けてくる。

 姉に似ているが、本物と比べてトキメキがないのは偽物だからだろうか。

 困惑しているために返事を返せないでいると、ナツキは箱から立ち上がって体のあちこちを動かして動作確認をしている。

 その動かす動作だけでも洗練された美しさを感じ、人じゃやりづらいことをやってアンドロイドという意識が強まった。

 

「私は君のお姉さんそっくりに作られたから、お姉さんと同じように、それが無理でも仲良くして欲しいな?」

 

 姉と同じように。そう言われても代わりなんて無理だ。アンドロイドへの差別なんかじゃなく、姉は手の届かないところに行ったのがわかっているし俺の感情としても同じようには扱えない。

 

「……あぁ、わかったよ。こっちもはじめは対応が変になると思う」

 

 俺の態度に困惑しながら言ってくるのは姉そっくりで、さっきまで不審に思っていたが一瞬でかわいいと思う感情が一気にやってくる。

 それゆえにこれからどう対応していいか悩む。姉扱いか、友人扱いか。姉からは婚約者にしてと言われたが。

 そんなことを考えるため、部屋の片隅に置いてある椅子に座り、ナツキを見ながら考える。

 難しい顔で悩んでいるとナツキは俺の前まで来て、膝を曲げて俺の目線と同じにしてきた。

 

「ごめんね、悩ませちゃって」

 

 申し訳なさそうに俺の頭をなでてくる。

 その力加減はアンドロイドではなく、まるで本物の人間のような。

 でも体温や肌の質感は違っていて。このさわりかたはなんと言えばいいんだろう。

 姉にとても近いけど、別人のような。でも姉よりもさわりかたが上手。

 

 それにうっとりしてしまう。

 本物の姉なら言葉だけで滅多にやることのない身体接触。

 この時点で姉そっくりではなく、姉によく似ただけのアンドロイドと認識できるようになる。

 データやAIの思考、見た目は姉と同じように設定しても実際の状況はアンドロイド自身が考える。

 

 時間が経つほどに新しい学習をし、ちょっとずつ変わっていくんだろう。

 そう思うと胸の奥底からトキメキが感じられそうだ。

 

「大丈夫だよ、これからよろしく、ナツキ」

 

 そう声をかけると、ぱぁっと明るく笑顔を浮かべてきた。

 姉さんと同じだけど違う。だからこそ、それがすっごくかわいい。

 こんな子なら、恋愛できそうなんじゃないかと考え、今日からの生活が明るくなりそうだ。


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