NARUTO 甲蟲伝   作:ヘビトンボ

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幕間『蛇と根』

幕間1

 

気を失ったマユは、二度と暴走せぬよう暗部たちの手によって厳重にチャクラを縛る呪符を貼られ、頑丈な拘束具で身動きを封じられていた。

 

「マユ、おい、目を開けろよマユ……ッ!!」

 

ボロボロになりながらも、アンコはマユの傍らに付き添い、その白いガスマスクに涙をボタボタと落としながら泣き叫んでいる。シクロに連れられ、暗部たちの集団が重苦しい足取りで木ノ葉の里へと引き返していく──その様子を、月明かりの届かない森の最深部から、じっくりと凝視している「影」があった。

 

「ククク……」

 

闇に溶けるような、低く、ねっとりとした不気味な笑い声。

 

「呪印は、随分と早くあの子に馴染んだようね。あの子たちのチャクラを感じて、少しばかり寄り道してみたけれど……思いがけず良い収穫があったわ」

 

太い大樹の根元に、まるで最初からそこにあったかのように、影と同化して佇むその男──大蛇丸の姿がそこにあった。

 

その切れ長の瞳は、かつての愛弟子であるアンコの涙には目もくれず、ただ、呪印の力を受けて異形の変貌を遂げたマユの、その残滓だけを妖しく見つめている。一族の血に縛られ、実験体に過ぎなかった少女が、自らの仕込んだ『呪い』によって木ノ葉の精鋭を蹂躙したのだ。その事実が、里を抜けたばかりの科学者を酷く愉悦させていた。

 

「油女の蟲と、私の呪印。状態2の局所変化にあれほど早く至るとは……やはり、あの子を拾い上げて正解だった。これからが実に楽しみね……ククク……」

 

大蛇丸は長い舌でペロリと自身の唇を湿らせると、連行されていくマユの背中に向けて、冷酷で、どこか温かさを孕んだ独り言をぽつりと言い残した。

 

「──もう、私の影を追うのは止めなさい」

 

それは、決してあの子の耳には届かない、冷たい突き放し。あるいは、この先に待つ狂気の世界への、彼なりの発破だったのかもしれない。

 

大蛇丸の姿は、音もなく大樹の闇へと沈み込んでいく。

あとに残されたのは、ただ静まり返った夜の森と、遠ざかっていくアンコの泣き声だけだった。

 

幕間2

 

木ノ葉の光が届かぬ奈落の底、暗い暗部──『根』の一室。

 

冷たい石壁に囲まれ、蝋燭の火だけが不気味に揺れるその部屋の奥で、志村ダンゾウは渋い面持ちで椅子に座っていた。その眼光は、ただでさえ昏い部屋の闇をさらに深く染め上げるかのように鋭い。

 

「大蛇丸を逃がしただと。……まあ、致し方ないか」

 

ダンゾウの口から漏れたのは、里の大罪人、それも禁術に手を染めた最高危険人物をみすみす取り逃がしたことに対する言葉としては、いささか軽すぎるものだった。激昂するでもなく、落胆するでもない。

 

「はっ……申し訳ありません」

 

その前に跪く狐面の暗部が、深く頭を垂れる。

 

ダンゾウの口調には、任務の失敗を咎めるような気配は微塵もなかった。まるで、最初からそうなることが決まっていたかのような──あるいは、大蛇丸が里を抜けることすらも自身の予測の範疇であり、既定の事実をただ淡々と再確認しているだけのような、奇妙な響きが部屋の中に冷たく満ちていた。

 

「……もうよい、下がって良いぞ」

 

ダンゾウは短く手を振った。その声には、狐面の暗部に対するこれ以上の追及をする意志がないことがありありと示されていた。

 

「はっ……」

 

男は静かに一礼すると、まるで最初から存在しなかったかのように、音もなく部屋の闇へと溶け去り、退出していった。

 

重い扉が閉まり、完全な静寂が室内に戻る。

一人残されたダンゾウは、深く一つため息をつくと、包帯の巻かれていない側の手で自身の眉間を強くもみほぐした。その脳裏に浮かんでいるのは、先ほど報告にあった油女マユ──大蛇丸の呪印を受け、異形へと変貌した少女の暴挙だ。

 

「アヤツめ、とんでもない爆弾を残していきおったな……」

 

大蛇丸が里を去り際に見せた、呪印という不気味な技術。そして、それにあまりにも早く適合し、暗部を蹂躙したマユの力。それは里にとって明白な脅威であり、同時にダンゾウにとっては、この上なく魅力的な「素材」でもあった。

 

(先ずは……あの娘の手綱をどう握るか、か)

 

ダンゾウは椅子の背にもたれかかり、昏い思考を巡らせていく。

大蛇丸ほどの化け物(三忍)とまではいわずとも、上忍を複数人同時に翻弄し、圧倒できるほどの強力な『兵器』。それが自分の手元にあれば、木ノ葉の影の抑止力としてこれ以上ない価値を持つ。

 

(呪いに呑まれ、完全に壊れてしまっては使えんが……。油女の血と大蛇丸の呪印、上手く飼い慣らし、有用に使えれば、必ずや『木ノ葉の為』になる)

 

闇の中で、ダンゾウの唇が醜く歪む。

実験体の少女にこれからの過酷な運命が待ち受けていることなど、里の闇を統べる男にとっては些事。利用できるものは、その魂の最後のひと搾りまで利用し尽くす。

 

揺れる蝋燭の炎に照らされたダンゾウの顔には、マユという新たな駒を手に入れた、冷酷で黒い笑みが浮かんでいた。

 

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