「ヤンデレられてみたい」と実はヤンデレだったマスターの前で言ってしまっただけの話 作:藤丸立香”に”ヤンデレられたい
「んー……そうだなぁ……後は『あなたのことが大大大好きな愛の重いヤンデレ青年に愛を囁かれるシチュエーションボイス』を聞くとかかなぁ」
一瞬、部屋の空気が固まった。まずい。今のは確実に答えを間違えた。
今は幼馴染の藤丸立香君のマイルームで元の世界に戻ったら何がしたいかを話し合っていたところだ。とはいえ私たちは歴戦のデミ・サーヴァントと人類最後のマスター。「家族に会いたい」とか「あの子とまた話がしたい」といった重い話題はあえて挙げずに、どちらかといえばくだらない「あのチェーン店に久しぶりに行きたい」とか「あのシリーズの本の続きが読みたい」といったようなちょっとした願望を挙げていたのだ。
そんな中私の口からポロッと溢れたのは、幼馴染である彼すらも知らない私の密かな趣味についての話。そう、私はヤンデレな異性に愛されるのが好きなのだ。世界がこうなる前からそういう漫画やシチュボはよく買っていたし、何なら理想の展開を自分で書いてみたこともある。筋金入りのヤンデレ好きと呼んで差し支えないだろう。
「あ、えっと、ち、違うの!今のはそういう意味じゃなくて……」
ならばどういう意味なのか。自分でも理解不能の言い訳を連ね、どうにかこの話題を打ち切ろうとした私に降り掛かったのは、更なる試練だった。
「……ねえ今のってどういう意味?」
「いや、その……」
私が何かしましたか神様!?……いやヴリトラさんならこういうことしてきそうだな。じゃなくて!
「へぇ、
「うぅ……墓場まで持っていこうとしてた秘密だったのにぃ……」
友人にも、それこそ家族にすらも秘密にしていた私のヤンデレ好きを立香君に知られてしまった。その事実に私は顔から火が出るという慣用句の意味を実感していた。
「あはは!いいじゃん、オレたちの仲でしょ?別に誰かに言いふらしたりしないからさ。オレだけの秘密にしたいし」
「ありがとうございます……」
「それにしてもヤンデレか……オレはあんまり詳しくないけど、そんなにいいものなの?」
立香君の何気ないその言葉に、私のオタクスイッチが反応してしまった。
「……だよ」
「ん?」
「それはもういいものだよ!だってカッコいい男の人が私だけを見て、私のことだけを愛してくれるんだよ?そりゃその愛情の出力の仕方は色々だし、人によっては怖いと感じるような方法で私のことを愛してくれる人もいるけど、それも全ては愛故なんだよ!私のことが好きだからこそ、私のために狂ってくれるの!それも傍目からみたら最高に魅力的でカッコいい男の人が!現実離れしたそんなシチュエーションが味わえるシチュボはまさに神コンテンツなんだ……よ……?」
早口でまくし立てる私をポカンとした目で見る立香君を見て、私はまた自分がやってしまったことを自覚した。
「あああああああ!またやっちゃった……」
「久しぶりに聞いたなあ。楓のそのオタクトーク」
「忘れてください……なんでもしますから……」
「なんでも、ね。そんなこと簡単に言っちゃ駄目だよ?楓だって女の子なんだから」
「誰にでも言うわけじゃないしいいでしょ?」
こんなこと立香君なんかの信頼できる人にしか言わないよ。私だってオタクだよ?この言葉の恐ろしさは知ってるんだから。
「……ならもういいかな」
「ん?何か言った?」
「ううん。それよりそんなにそういうのが聞きたいなら、オレがやってあげようか?」
立香君がやってくれる?ヤンデレシチュエーションボイスを?
「……え?本気?」
「ほら、オレってそういう人たちと縁があるでしょ?それなりの演技はできると思うんだ」
まあ確かに彼は頭バーサーカーな人たちに好かれてるはいるけど……
「楓も聞きたかったんでしょ?マスターとしてサーヴァントのしたいことくらい聞いてあげないとね」
「別にそういう関係は望んでないけど……」
いやでも実際気にはなる。立香君が私にヤンデレてくれるとしたらどんな感じになるのか。すっごく興味はある。正直めちゃめちゃ聞いてみたい。
「……じゃあ、お願いしちゃおっかな」
「オッケー!……じゃあ、とりあえず逃げられないようにするね」
「え?」
雰囲気を百八十度変えた立香君が取り出したのはどこにでもある……はずのない手錠。それで自分の手が拘束される光景をただぼうっと見ていた私に、彼はいつもの優しげで親しみやすい声とは全く違う、重くドロドロとした愛情の込もった声で語りかけてきた。
「ちょ、ちょっと立香君?どこからこんなものを……」
「……楓が悪いんだよ?オレの前で何回も
誰だ、この男は。いや、知っている。彼は藤丸立香君。私の幼馴染で、本物の私を含めたみんなを救ってくれる人。そんな人が、私だけを見ている。私を愛するがあまりその目からは光を失い、私の細腕を握る力は段々と強さを増していく。
「知らないよね。だってこんな風に無防備にオレの部屋に一人で来るくらいだもん。でももう逃さないよ。オレの大好きな楓」
ボスンと軽い音を立てて私は彼にベッドに押し倒される。咄嗟に抵抗しようとするも、体が上手く動かない。手錠の拘束によるものだけじゃない。これは……
「あ、気付いた?それ、着けたサーヴァントの身体能力をその人の生身くらいにできるんだって。だから今の楓はただの可愛い女の子。オレに何をされても逃げられないよ」
ここに来てから感じたことのなかった、立香君との力の差をありありと感じる。いつもは筋力Eとはいえ私の方が上だった力が、この場ではただのか弱い女の子のものに成り下がっているのだ。
「怖い?逃げ出したい?でももう遅いよ。ぜーんぶ楓が悪いんだから。オレはこんなにも君のことが好きなのに、君は素知らぬ顔でみんなに優しくするんだもん。そんなの駄目だよ?君はオレを見ていればいいんだから。オレだけを、ね」
ゾクゾクとした興奮を覚える。立香君の私のことが好きで好きでたまらないという声色も、彼の気分一つで私がめちゃくちゃにされてしまうというこの状況も、私に快感を与える。
「わかった?楓」
「ひゃ、ひゃい……!」
「ふふっ、いい子だね。楓。これからはずっと一緒だよ」
彼に頭を、頬をなでられる。それは子供に、己の所有物に対してするように優しく、そして決して逃さないという意思の込もった愛撫だった。
「じゃあ何をしようか。いつも通りの他愛ないおしゃべりでもいいけど、せっかく楓がオレのものになったんだ。オレの証だってことを、その体に刻み込まないとね。……んぁ」
「……ッ!」
彼が私の首筋に噛みつく。甘咬みなんて優しいものではない。貪るように、喰らい尽くすように、刻み込むように押し付けられるその犬歯が肌に食い込む。
「……ふふっ。これで楓はオレのってすぐわかるよね」
「そう、だね」
これはマーキングだった。これで私は名実ともに立香君の所有物になった。その事実を認識しただけで、私は背筋にゾクゾクとしたものが走るのを止められない。
「じゃあ後は、楓の初めてだけだね。唇、もらっちゃうね」
「……!」
彼が優しく私の頭を抱き起こし、そのまま己のものと唇を触れさせようと……
「……なーんてね。どうだった?オレのヤンデレ」
……した直前で彼は動きを止め、私に向かってそう囁いた。
「え、あっ、その、すっごくよかったよ!まるで本物みたいだった!」
実際の肉体的接触を伴うヤンデレシチュエーションボイスは、今まで私が経験したものの中でもドンピシャで私の性癖と合致していた。
「ほんと最っ高だったよ!立香君!」
「それならよかったよ」
「これならまた頼んじゃうかも……なんちゃって」
実際この快楽を何度も味わってしまったら、もう戻れなさそうだ。きっとヤミツキになってしまうだろう。そうならないためにも自分を自制しなければ。今は人理を取り戻す旅路の最中だ。趣味に心血を注ぎすぎるのはよくない。
「いつでも歓迎だよ。だって今の、
「……え?」
今彼はなんと言った?演技じゃない?さっきの私への愛が溢れて止まないセリフたちも、ドロドロに煮込まれた蜂蜜のようにドロっとした声音も、全て本心から来るものだと?そう宣ったのか?
「清姫とかキャストリアでも連れてこようか?みんな嘘じゃないって言ってくれると思うよ」
彼が挙げたのは、我らがカルデアの嘘を見抜けるサーヴァントたち。そこまで言うのなら、彼は本気なのだろう。本当に私を愛しているのだろう。
「なん、で……あ」
理解できない現実を目の当たりにして混乱した私は、ふとまだ両手に手錠が着いていることに気付いた。……そして先程彼がなんと言っていたか思い出した。
『オレに何をされても
今の私は一般女子高生程度の身体能力しかない。そんな状態で鍛え上げられた肉体を持つ立香君から逃げ切ることは不可能だろう。つまりそれは……
「じゃあ楓、さっきの続き、しよっか」
彼に何をされても抵抗できないということを意味する。とびっきりのヤンデレな彼に、どんな目にあわされるのか。
「……うん♡」
そう考えただけで心がキュンとしてしまう私はきっと、どうしようもなく手遅れなのだろう。
「いっぱい愛してね?立香君♡」
「もちろん。もう遠慮なんてしないから」
楓
ぐだ男の幼馴染が依り代となって召喚されたデミ・サーヴァント
ヤンデレ好き
この後めちゃくちゃに愛されることになるが、本人的には間違いなく幸せ
藤丸立香(ぐだ男)
カルデアに来る前から楓のことが好きだったが、自分を守ってボロボロに傷付いていく姿や終章でマシュを庇って死んだ(なおその後マシュも死んだ)姿を見て彼女に病んだ愛情を向けるようになる
「楓はオレのものだよ。……誰にも渡さない」
感想の力でついに完全新規のお話を書きました
ちなみに皆さんはぐだ男とぐだ子のどっちにヤンデレられるのが好きですか?
ちなみに作者はぐだぐだ両方派です