009-7の甥、拓也が通う大学の国際関係学部で、ある教授が頭を抱えていた。 「もったいない」 研究室で机の上にはコーヒー、論文、そして壁に貼られたニュース記事。 『中東自由連邦元首009-7』 『紛争終結に尽力』 『国際会議で演説』 『ノーベル平和賞候補』 教授は思った。 「なんで身内が普通にうちの大学にいるんだ」 しかも、普通に授業を受けて、普通に学食にいる。彼女とイチャイチャしている。国家元首の親戚とは思えない。 「これは教育機会の損失では?」 学者としての血が騒いだ。
教授は拓也に声をかけた。 「お願いがある」 「はい?」 「009-7さんを講師として呼べないか?」 拓也「電話します?」 教授「え?」 拓也はスマホを取り出した。数秒後『もしもし?』 009-7だった。 教授は頭が真っ白になった。 「伯父さん」 『どうした?』 「大学の教授が特別講義してほしいって」 『いいよ』 即答だった。 教授「えええええ!?」 こうして特別講義が決定した。情報は瞬時に広まった。ギルモア邸で、「大学で講義?」 003。 「そうみたい」009-7。 003は考えた。 「心配」 「何が?」 「あなた」 「大丈夫よ」 「大丈夫じゃない」 003は断言した。 「絶対何か起きる」 「起きないよ」 すると004が「私も行く」 009-7「なんで?」 「警備だ」 「大学の講義だよ?」 「お前の周囲では何が起きても不思議ではない」 説得力があった。 さらに002「面白そうだから俺も行く」 「お前は帰れ」 004。 「ひどい」 最後009「003が行くなら俺も行く」 003は少し嬉しそうだった。 「ありがとう」 002「俺への扱いと違わない?」 違っていた。
講義当日の大学は異常事態になっていた。学生、教員、卒業生で満席だった。さらに、記者、評論家、外交官、シンクタンク研究員、テレビ局、大学広報も来た。講義室に入りきらないのだ。 「なんでこうなった」教授。 「先生が呼んだからですよ」助教。その通りだった。009-7が入場した。大歓声。003、009、004、歓声が上がった。002、一番歓声が大きかった。002「人気者だな俺!」 004「黙れ」 講義が始まり、009-7は壇上に立った。静かになった。 「国際政治は教科書だけでは理解できません」 穏やかな声「なぜなら、現場には人間がいるからです」 会場は静まり返った。実体験だった。外交、戦争、停戦交渉、難民、国家建設、国際社会。教科書に載らない話ばかりだった。学生たちは夢中になった。教授も夢中だった。評論家は必死にメモを取っていた。記者も書き続けていた。
問題は別の場所で起きていた。003も講義を聞いていた。すると、「フランソワーズさん!」「003さん!」 「握手!」 「サイン!」 「写真!」 囲まれた。003「え?」困惑した。009-7を心配して来たのに自分が包囲された。 「助けて」 009を見た。009も女子学生に囲まれていた。 「助けて!」 目で訴えていた。 お互いに無理だった。004は男性教員に囲まれていた。 「戦場とは」 「危機管理とは」 「組織運営とは」 逃げられない。そして002は機嫌が良かった。女子学生たちが「002さん!」 「格好いい!」 「映画見ました!」 「CM見ました!」 002は満面の笑みだった。 004は遠くから見ていた。 「殴ってやりたい」 009「すごく分かる」 講義は大成功だった。大学史に残る特別講義。学生たちは学んだ。国際政治、平和とは何か。そして、世界を救った英雄たちも結局は人に囲まれて困る普通の人間なのだということも。
002は最後まで嬉しそうだった。それを009-7は帰りの車で笑った。 「あなた、本当にブレないね」 002は胸を張った。 「当然だ!」 「何が?」 「モテるのは男の夢だからな」 車内では全員ため息をついた。平和な一日だった。