その時、009-7の正体が世界に知られた。元は五十七歳の日本人研究者だった。それが今では銀髪赤眼の美少女サイボーグで中東自由連邦の元首。世界中が驚愕した。だが、各国の情報機関が本当に注目したのは別のことだった。他の00ナンバーサイボーグたちは何者なのか、ということであった。
調査は徹底的に行われた。古い失踪記録、警察資料、新聞記事、冷戦時代の機密文書、ブラックゴースト関連の断片的情報。その結果、001から009までの出自がおおよそ判明した。 そして世界は二度目の衝撃を受けた。彼らの多くは1960年代から1970年代に失踪した人間だったのである。しかも見た目はほとんど変わっていない。サイボーグは歳を取らないのか。その事実は世界中の研究者を震え上がらせた。
各国の情報機関は考えた。――利用できないか。祖国、家族、故郷。そうしたものを利用して、00ナンバーサイボーグたちを自国側へ引き寄せられないか。そのため、彼らの肉親探しが始まった。結果として、ほとんどの場合ケースで見つかったが、時間が経ちすぎていた。
ロンドンの007の家でリビングに集まったサイボーグたちが話していた。004がコーヒーを飲みながら言った。 「東ドイツ政府の後継組織から連絡が来た」 002が吹き出した。 「東ドイツってもう無いじゃねえか」 「その通りだ」 004は淡々としていた。 「遠い親戚らしい」 「会うのか?」 009が尋ねた。 004は肩をすくめた。 「何を話すんだ」 誰も答えられなかった。 「私は1970年頃にさらわれた。向こうから見れば五十年以上前の行方不明者だ」 窓の外を見た。 「仮に会ったとしても」 少し笑った。 「私より年下の親戚に昔話を聞かせるだけだ」 沈黙。 004は部屋を見回して言った。 003、009、002、005、006、007、008、009-7。 「お前たちだ」 それだけ言った。
003は少し違った。フランス政府の仲介で遠縁の親族が見つかった。写真も送られてきた。若い女性だった。どこか自分に似ていた。003は長い間その写真を見ていた。009が隣に座った。 「会いたい?」 003はしばらく答えなかった。 「……会いたかった」 小さく言う。 「もっと早く」 目を伏せた。 「家族が私を探していた頃に」 さらに小さくなる。 「帰れたらよかった」 009は何も言わなった。 「でも、もう違うの」 写真をそっと閉じた。 「その人たちは悪くない」 「うん」 「でも私の時間は止まっていて、向こうの時間は進み続けた」 静かな涙だった。
005も同じだった。006、007、008も、みな複雑だった。故郷への愛着はある。だが、帰るには年月が長すぎた。人生が別の場所で積み重なっていた。そんな中、唯一、完全な形で家族との関係を取り戻した人物がいた。009-7であった。本人は苦笑していた。 「いや、俺の場合は特殊だから」 リビングで言った。 「何しろ死んだと思われてから2,3年だし」 002が笑った。 「十分特殊だろ。元おっさんが美少女になって帰宅だからな」 「やめろ」 003も笑った。 004まで口元を緩めた。009-7は頭をかいた。 「まあ」 少しだけ真面目な顔になる。 「運が良かったんだと思う」 妻、娘、妹、甥。みんな残っていた。みんな受け入れてくれた。銀髪赤眼の美少女になっても、中東の国家元首になっても、家族でいてくれた。004が言った。 「羨ましいな」 珍しい言葉だった。009-7は答えに困った。004が続けた。 「だから大事にしろ」 静かな声だった。 「二度と失うな」 009-7は真面目に頷いた。
各国の情報機関がまとめた報告書には、こう記されていた。00ナンバーサイボーグを家族や祖国で取り込むことは困難。彼らの帰属意識は国家ではなく相互に向いている。最大の弱点であり、最大の強みでもある。彼らは故郷を失ったが、代わりに家族を作った。