最近の009-7の服装はかなり改善されていた。003の長年の努力の成果であった。以前はひどかった。ジャージ、ジャージ、またジャージ。たまに作業着、以上、という状態だった。しかし現在は違う。世界的高級ブランドと契約していた。季節ごとに服が送られてくる。専属スタイリストもついている。003が選ぶ必要すらない。 「便利だなあ」 009-7は感心していた。なにしろ、朝起きる、送られてきた服を着る、終わり。003も満足、ブランドも満足。誰も不幸にならない。しかも快適だった。ジャージやTシャツもある。パーカーもある。 「結局ジャージじゃん」 002に言われた。 「違うよ」 「どこが」 「高級ブランドのジャージ」 「同じだろ」 「違うらしい」 本人もよく分かっていなかった。
問題は別にあった。外出するたびに若い女性が騒ぐのだ。 「あれ新作じゃない!?」 「可愛い!」 「欲しい!」 「写真撮って!」 009-7は困惑していた。 「なんで?」 本当に分からないのだ。今日着ているのも黒いジャージ。白いラインに小さなワンポイント。本人の感覚ではジャージである。 「違いが分からん……」 元おっさん研究者としては真剣な悩みだった。
ある日、コンビニに立ち寄った。飲み物を選んでいると、近くで女子大生らしき集団がざわざわしていた。 「あれ新作だよね」 「可愛い……」 「やっぱり着こなしが」 009-7は首を傾げた。気になったので気軽に聞いてしまった。 「あのさ」 女子大生たちは振り向いた。 「そんなにすごいの?」 完全に固まった。なにしろ噂していた本人が突然話しかけてきたのである。 「えっと」 「その」 「いや」 全員がパニックになった。009-7は不思議そうだった。 「これただのジャージじゃないの?」 女子大生の一人が舌を噛んだ。 「いひゃっ!」 痛かったが頑張った。 「ち、違います!」 009-7はびくっとした。 「そうなの?」 「ブランドの世界観と歴史とデザイン哲学がですね!」 突然プレゼンが始まった。 「その色彩設計が!」 「ラインの配置が!」 「シルエットが!」 「素材感が!」 009-7は困惑した。そんなものがあったのか、知らなかった。送られてきたから着ていただけだった。さらに、「それを自然に着こなせるのがすごいんです!」 「え?」 「普通の人だと負けるんです!」 「負ける?」 「服に!」 意味が分からなかった。しかし女子大生たちは真剣だった。
結局、写真撮影になった。コンビニ前で女子大生たちと真ん中に009-7。全員大興奮だった。 「ありがとうございます!」 「一生の宝物です!」 「頑張ってください!」 009-7は笑顔で手を振った。 「勉強頑張れよー」 完全に近所のお姉さんだった。その夜、写真はSNSに投稿されて爆発した。 「どこのコンビニ!?」 「ここ行きたい!」 「聖地!」 「009-7遭遇スポット!」 翌日、コンビニ店長は首を傾げた。 「なんか客が多くない?」 普段の三倍だった。どんどん増えて店員が悲鳴を上げた。なぜか売上が急上昇した。そして一週間後、SNSでは『009-7が現れるコンビニ』 として有名になっていた。当の本人は知らなかった。再び買い物に来た時、駐車場に人だかりができていて驚いた。 「なにごと?」 店長が遠い目をして言った。 「たぶん……あなたが原因です」 009-7は数秒考えた。 「なんで?」 そしてその日の夜、003に報告したところ頭を抱えられた。 「あなたはどうして毎回、自分から騒動の中心に飛び込むの?」 「買い物しただけなんだけど」 「それが問題なのよ」 009-7は最後まで納得できなかった。そのコンビニは後に売上全国上位に入った。店長は感謝していた。003は頭を抱えていた。009-7本人は理解していなかった。