映画『戦場の天使』公開から数週間たった。映画は歴史的大ヒットとなった。そして、一人の女優が悩んでいた。映画で009と共演した若手実力派女優であった。撮影中は平気だった。問題は撮影後だった。 「……」 自宅のソファでぼんやりしていた。撮影現場を思い出していた。爆発音と砂煙。その中を平然と歩く009。監督の「カット!」の声がかかっても、どこか本物の兵士のような雰囲気をまとっていた。そして、あの笑顔である。 「大丈夫ですか?」 撮影中に転びそうになった時、自然に手を差し伸べてくれた。ただそれだけ。それだけなのに。 「うわああああ!」 女優はクッションに顔を埋めた。完全に重症だった。
数日後のテレビ番組で司会者が質問した。 「映画出演の感想をお願いします」 普通なら「素晴らしい経験でした」とか「監督や共演者に感謝しています」とか、そういうコメントになる。ところが、女優は真顔だった。 「009さんが素敵でした」 司会者「え?」 「本当に素敵でした」 スタジオが静まり返った。女優は止まらなかった。 「優しいし」 「格好いいし」 「頼りになるし」 「顔もいいし」 「笑顔もいいし」 「声もいいし」 司会者「ちょっと待ってください」 「待てません」 全国放送だった。翌日のニュース、SNS、動画サイト。トレンド一位は【女優、009愛を語る】だった。002は爆笑した。 「ジョー!」 「なんだい?」 「テレビ見ろ!」 009は見た。青ざめた。 「なんで!?」 004は新聞を閉じた。 「お前がモテるからだ」 「理不尽だ!」 その時、003は無言だった。009は見なかったことにした。
数日後のギルモア邸。郊外の静かな屋敷で久しぶりの平穏のはずだった。インターホンが鳴った。007が出た。数秒後「おい」 「なんだ」 「女優がいる」 全員「は?」 門の前に例の女優がいた。帽子、サングラスで変装していたが本人だった。009は頭を抱えた。 「なんでここが分かったの?」 女優は少し考えた。 「気合いです」 004「絶対違うだろ」 002「怖えよ」 009-7は呆れていた。「どうやったんだ本当に。」 結局、誰も分からなかった。女優は真剣だった。 「会いたかったんです」 009は後ずさった。003が前に出た。さらに後ずさった。女優はようやく気づいた。 「あ」 003、世界的有名人。そして009の隣に立っていた。女優は数秒考えた。そして、深々と頭を下げた。 「申し訳ありませんでした」 009「え?」 003「え?」 女優は真顔だった。 「私、完全に空気読めてませんでした」 002は吹き出した。007は肩を震わせた。004は珍しく笑った。009-7はコーヒーを飲みながら呟いた。 「まともな人だったな」 しかし、帰り際に女優は009に向かって言った。 「でもファンなのは本当です」 009は硬直した。003は笑顔だった。 それも非常に綺麗な笑顔。009は悟った。今日は長い夜になる。その直後、002と007は全力で逃げた。004は地下研究室へ避難した。ギルモア博士は事情を察して外出した。009-7だけがソファに座り、静かにコーヒーを飲んでいた。屋敷の奥から「ジョー?」という003の声と「誤解なんだ!」という009の悲鳴が聞こえてきた。009-7はため息をついた。 「やはり、モテる男が悪いんだな」