魔導産業革命 ~エネルギーシフトと覇権通貨「エン」がもたらす軍事なき支配~   作:Camel おさ

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Phase6-2 動く写真への渇望

ノヴァリアの新聞社。

デスクに座るシン・ワーナベは、バハルス帝国産の葉巻を燻らせていた。最近のお気に入りだ。自動車の生みの親、キーロ・タヨトも愛煙している――そんな逸話が、両国の貿易活発化と共に伝わってきた。その辛味のある豊かな香りを、シンはゆっくりと紫煙と共に吐き出す。

 

目の前には今日の新聞。完璧な記事と、鮮明な写真が並ぶ。

シンは自らが発行する新聞に誇りを持っていた。

しかし、文字と静止した写真だけでは、伝えきれない「何か」がある。

その渇望が、シンの胸を焦がしていた。

 

「係長、お昼どうします?」

「……もうそんな時間か。クルト、悪いが、何か買ってきてくれないか」

シンは財布から千エン札を取り出した。

ふと、そこに描かれた、魔導国が誇る天才発明家、ンフィーレアの肖像が目に留まる。

(……そうだ……彼なら、この渇望を理解してくれるかもしれない。話してみる価値は、大いにある!)

シンは椅子を蹴って立ち上がった。

「うわっ、どうしたんですかっ」

「出かける。今日は戻らない。後は任せた」

「え? えええーっ?!」

 

◇ ◇ ◇

 

数時間後、シンが運転するタヨト自動車は、エンジンの唸りを上げてカルネ村に到着した。

「これが……村? 都市の間違いだろ……」

広大な敷地を囲むのは、高くそびえる無骨な城壁。

その上には、いくつもの見張り台が等間隔に配置されている。

「ウソだろ……なんだこの広さは……。正門はどこなんだ……」

シンは焦燥に駆られながら、舗装されていない道を走り続けた。

 

ようやく正門らしき門にたどり着き、自動車を停めた。

門の前には、剣を携えたゴブリンたちが立ちはだかる。

「誰だ、お前は。なにか用か」

「私は新聞記者のシン・ワーナベという者だ。ンフィーレア殿にお会いしたい」

 

「新聞記者? 取材か?」

「怪しい奴だな」

「引き取ってもらった方がいい」

「追い返すべきだ」

 

ゴブリンたちがひそひそと話し合っていると、

「どうしたんすか」いつの間にか現れたルプスレギナが声をかけた。

シンは飛び上がった。

「い、いつからそこにっ?!」

「そんなことより、何の用なんすか」

「ンフィーレア殿にお会いしたい」

「ここにはいないっす」

「どこに行けば会えるのでしょうか」

「それは教えられないっす。最重要機密エリアっすから」

 

シンは懐から、アインズから授かった懐中時計を取り出した。

「この懐中時計が目に入らぬか。私は魔導王陛下より『特別取材権』を拝領している」

「え……? どっしぇえええーっ!」

 

驚愕したルプスレギナは、すぐにシンを液状魔力精製 第一工場へと案内した。

 

◇ ◇ ◇

 

「……こ、こんなところに、これほどの広大な敷地が……。しかも、なんだ、この工場群はっ……」

 

トブの大森林の奥深く。結界に守られた工場群は、外部からその姿を見ることはできない。ルプスレギナに案内された第一工場の前で、シンは呆然と立ちつくした。

 

第一工場の前には、アウラとマーレがいた。

その時、ルプスレギナの腰に下げた『魔導ケータイ』が、けたたましい共鳴音を鳴らした。

「はいはいっすー。……あ、エンリちゃん? ……わかったっす、すぐ戻るっす」

ルプスレギナは「後はよろしくっす。ホウレンソウは大事っす」と、どこか楽しげに言い残すと、瞬時にその場から姿を消した。

 

シンがアウラとマーレに事情を話すと、すぐにンフィーレアを呼んでくれた。

 

工場から姿を現したンフィーレアに、シンは魂を削るような思いを吐露した。

「ンフィーレア殿。私は、躍動感を伝えたいのです。活字や止まった写真では、それが伝えられないのです」

ンフィーレアは、シンの熱を帯びた眼差しを真っ向から受け止め、その言葉に耳を傾けた。

 

「なるほど……。音声つきの、動く写真……ですか」

「はい。魔導カメラで景色を捉え、魔導ケータイで音を送る。この二つを組み合わせ、映像として一斉に全土へ飛ばすことはできないでしょうか」

 

ンフィーレアは手元の魔導電池をいじりながら、思考の海へと潜っていった。

(……音声を魔力波に乗せる技術はある。魔導カメラの感光技術もある。でも、連続した動きをどうやって定着させ、瞬時に復元するか……)

何かのアイデアが閃きそうな感覚がある。しかし、あと一歩のところで形を成さない。

「そんなに難しいの?」

アウラの問いに、ンフィーレアは困ったように笑った。

「仕組みの欠片は見えているんです。でも、それらをどう繋ぎ合わせれば『放送』という形になるのか、僕の想像力が追いつかなくて……」

「ンフィーレア殿でも、無理ですか……」シンが肩を落とす。

「……そうですね。でも……もしかしたら……アインズ様なら……」

 

彼らの視線は、地平線の向こう、ノヴァリア王宮へと向けられた。

 

「じゃあ、アインズ様にお願いしてみるね」

アウラがアインズに<メッセージ>を送る。

 

『アウラか。何かあったか』

『はい、アインズ様。いまここに新聞記者の……』

「あっ! お姉ちゃん、ズルいよ! 僕だってアインズ様とお話ししたいのに!」

『ちょっと、マーレ! 黙ってて!』

「僕もお話ししたい!」

『やめて! 引っ張らないでよ!』

『アウラ、そこまでだ』

「お姉ちゃん! 僕もアインズ様と」

『だからやめてってば!』

『アウラ、待て!』

がすっ! 「ふえーん」

 

『……全員まとめて、今すぐ王宮へ来い』

 

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