滅びの怪物が光に飲まれ、完全に消滅した瞬間――
紅魔館全体を包んでいた黒い霧が、ふっと薄れた。
歪んでいた廊下はゆっくりと形を取り戻し、
未来の断片がちらついていた空間も、静かに収束していく。
紅魔館が、息を吹き返した。
レミリアは肩で息をしながら、美鈴の手を握った。
「美鈴……やったのね……!」
美鈴は微笑んだ。
「はい……お嬢様と一緒だったから……」
その笑顔は確かに強く、しかしどこか儚かった。
影が静かに近づく。
「滅びの未来は弱まった。
だが――まだ完全には消えていない」
レミリアが影を睨む。
「まだ何かあるの?
美鈴は未来を選んだわ。
紅魔館は救われる未来に向かっているはずよ」
影は首を振った。
「未来は“選んだだけ”では変わらない。
選んだ未来を“確定”させる必要がある」
美鈴は息を呑んだ。
「確定……?」
影は美鈴を見つめた。
「紅美鈴。
お前が選んだ未来を現実にするには――
お前自身の“未来”を差し出さねばならない」
レミリアの顔色が変わった。
「やめて……!
そんなの、絶対にダメよ!」
美鈴は影に向き直る。
「……どういう意味ですか?」
影は淡々と告げた。
「未来を変える力は、運命に“反動”を生む。
お前が紅魔館の未来を救うほど、
お前自身の未来が削られる」
レミリアが美鈴の腕を掴んだ。
「美鈴、聞いちゃダメ!
そんな未来、受け入れる必要なんてない!」
美鈴はレミリアの手をそっと握り返した。
「お嬢様……私は大丈夫です」
「大丈夫じゃない!
あなたの未来が削られるって言ってるのよ……!」
レミリアの声は震えていた。
影は続ける。
「滅びの未来は弱まったが、まだ“残滓”が紅魔館に残っている。
それを完全に消すには――
お前が未来の流れを“固定”しなければならない」
美鈴は静かにうなずいた。
「つまり……最後の一押しが必要なんですね」
影はうなずいた。
「その通りだ。
だが、その代償は大きい」
レミリアが叫ぶ。
「美鈴! 絶対にやらせない!
紅魔館が滅びても……あなたが生きていれば……私は……!」
美鈴はレミリアの肩に手を置いた。
「お嬢様。
私は……紅魔館が好きです。
ここで過ごした時間も、みんなも……
そして、お嬢様も」
レミリアの瞳が揺れた。
美鈴は続ける。
「だから……守りたいんです。
未来が削られても……私は後悔しません」
レミリアは首を振った。
「嫌よ……そんなの……!
あなたがいなくなる未来なんて……絶対に嫌……!」
美鈴は微笑んだ。
「いなくなりませんよ。
私は……ちゃんと戻ってきます」
その言葉は、未来を見た者の覚悟だった。
◆
影が静かに言った。
「紅美鈴。
最後の選択だ」
美鈴は影を見つめた。
「……どうすればいいんですか?」
影は魔力炉の中心を指した。
「紅魔館の“未来の核”に触れろ。
お前が選んだ未来を、そこに刻むのだ」
レミリアが美鈴の腕を掴む。
「美鈴……お願い……行かないで……」
美鈴はレミリアの手を握り返し、優しく微笑んだ。
「お嬢様。
私は……お嬢様の未来を守りたいんです」
レミリアの目から涙がこぼれた。
「美鈴……!」
美鈴はレミリアの手をそっと離し、魔力炉の中心へ歩き出した。
その背中は、
門番ではなく――
未来を選ぶ“守護者”の姿だった。