橋の上に、黄金の王が立っていた。
朝の光が、まだ薄く川面に残っている。
ギルガメッシュは、橋の中央でライダーを待っていた。
その少し後ろに、時臣がいる。
ウェイバーは、ライダーの戦車の上で顔を引きつらせた。
「な、なんで普通に待ってるんだよ……」
「当然であろう」
ライダーは笑った。
「向こうも王だ。余が来ることくらい、分かっておる」
ギルガメッシュは腕を組んでいた。
「遅いぞ、征服王」
「朝に呼び出しておいて遅いとは、相変わらず勝手な男よ」
「呼んだ覚えはない」
「戦の匂いを変えておいて、黙って見ていろとは言うまいな」
ギルガメッシュの目が細くなる。
楽しげだった。
「ほう。そこまで嗅ぎつけたか」
「聖杯戦争は勝者を決める戦ではなくなった。違うか」
時臣の表情がわずかに動いた。
ライダーはそれを見逃さない。
「遠坂の魔術師も、どうやら腹の底が変わったらしいな」
「腹の底というより、見ていなかったものを見ただけです」
「ふん。よい返しだ」
ライダーは笑った。
そして、ギルガメッシュを見た。
「英雄王。貴様はこの戦をどう終わらせるつもりだ」
「腐った杯を勝者に渡す価値はない」
「ならば奪ってから裁け。王とはそういうものだ」
「我はすでに裁いている」
「そこが気に食わん」
ライダーの声が太くなった。
「戦場に立つ前から、戦場の外へ立った顔をしておる。王ならば、まず己が道を示せ」
ギルガメッシュは笑った。
「示してほしいなら、まず貴様が示すがいい」
「よかろう」
ライダーの笑みが、獰猛なものに変わった。
ウェイバーが息を呑む。
「おい、ライダー……!」
「何だ、坊主。今さら止めるつもりか?」
ウェイバーは、ライダーを見上げた。
止められるはずがない。この男が王として戦うというのなら、自分にできることは一つしかなかった。
右手を掲げる。
「令呪をもって命ずる」
赤い紋様が光った。
「ライダー。この戦に勝て」
一画が消える。
赤い光が、イスカンダルの身体へ吸い込まれた。
ライダーはしばらく黙っていた。
やがて、歯を見せて笑う。
「命じられるまでもないわ!」
その声はいつもと変わらない。
だが、戦車を包む雷は一段強くなり、王の足元から溢れた魔力が、まだ見えぬ軍勢へまで広がっていく。
「見るがいい、坊主」
ライダーは手綱を握りしめた。
「これが王だ。これが、余の歩いた道だ」
風が変わった。橋の上の朝風が消える。川の匂いが遠のく。
空が開け、砂が舞い、果てのない地平が広がった。
そこに、兵たちがいた。無数の兵。ただの兵ではない。王と共に走った者たち。王の夢を見て、王の背を追い、王の名を叫んだ者たち。
ライダーは戦車の上で立ち上がる。
その声が、砂漠に響いた。
「見よ、英雄王!」
兵たちが槍を掲げる。
「これが余の王道! 余が奪い、余が駆け、余と共に果てを目指した者どもの夢よ!」
ライダーは剣を掲げた。
「我が朋友たちよ! 今一度、余と共に駆けよ! 相手は最古の王、英雄王ギルガメッシュ!」
軍勢が沸き立つ。
「この戦、ただ勝つためではない! 王が王に問うための戦ぞ!」
ウェイバーは震えていた。
恐怖ではない。圧倒されていた。
これが、ライダーの王。これが、征服王イスカンダルの世界。
ギルガメッシュの背後で、空間が軋んだ。エアが、蔵の奥で低く唸る。
世界を裂く剣。この固有結界を断つなら、それが最も早い。
だが、ギルガメッシュは振り返らなかった。
「退がれ、エア」
王は静かに言った。
時臣が、思わずギルガメッシュを見る。
ライダーもまた、目を細めた。
「使わんのか」
「貴様の夢を裂くのは容易い」
ギルガメッシュは、砂漠の地平を見た。
「だが今、我が裁くのは夢ではない。王だ」
ライダーは、一瞬だけ黙った。
そして、大笑した。
「よい! ならば正面から受けよ、英雄王!」
軍勢が動く。地平が震える。
王の軍勢が、黄金の王へ向かって突撃した。
砂が跳ね、空気が震え、無数の足音が一つの波となって押し寄せる。
王の軍勢。それは、ただの兵ではなかった。数ではない。質でもない。あれは、征服王という男の夢そのものだった。王が行く。兵が続く。その背を信じた者たちが、死してなお同じ地平を駆ける。
時臣は、息を呑んだ。
魔術師として見れば、これは固有結界である。だが、その理解はあまりに浅い。
これは世界だ。一人の王が、生涯をかけて他者に見せた夢が、世界として成立している。
その軍勢が、黄金の王へ向かっていた。
ギルガメッシュは、動かなかった。
背後で、また低い唸りが響く。蔵の奥で、エアが不満を示していた。
世界を裂く剣。この固有結界を断つためなら、それ以上ない答え。
だが、ギルガメッシュは振り返らない。
「黙っていろ」
王は、短く言った。
「これは、貴様の出る戦ではない」
その声に、エアの唸りがわずかに遠のく。
ライダーは戦車の上で笑った。
「世界を裂く剣を退けるか、英雄王!」
「貴様の夢を裂くのは容易いと言ったはずだ」
ギルガメッシュの背後に、黄金の波紋が開いた。
一つではない。十、百。さらにその奥まで、光の輪は地平を埋めていく。
だが、そこから無秩序に剣が降ることはなかった。
盾が前へ並び、その間から槍が穂先を覗かせる。背後には弓と投槍が控え、さらに外側を戦車と騎兵のために作られた武具が固めた。
宝物庫そのものが、一つの軍陣を敷いていた。
「ほう」
戦車の上で、ライダーが目を細めた。
「軍勢には、軍勢で応じるか」
「貴様の兵と同じものと思うな。これは我が蔵に納められた、人の戦の原型だ」
ギルガメッシュが指を上げる。
黄金の陣から、一斉に矢が放たれた。狙われたのは兵そのものではない。旗手が射抜かれ、伝令の馬が倒れ、戦車の軸へ槍が突き立つ。先頭の勢いを殺し、命令が後方へ届く前に道を断つ。
軍勢の足並みが乱れた。
だが、ライダーは笑った。
「右へ寄せよ!」
王の軍勢が、斜めに進み始めた。
右翼の騎兵が前へ出る。中央は歩調を落とし、左翼は黄金の陣を正面に捉えたまま、その場に踏みとどまる。
数で勝る敵を横へ引き延ばし、その中央に生まれた裂け目へ、王自らが楔となって突入する。かつて、ガウガメラの平原でペルシアの大軍を破った進軍だった。
ギルガメッシュは笑った。
「貴様の手の内など知っておるわ」
黄金の陣は動かなかった。イスカンダルの右翼が前へ出ても、盾の列はそれを追わない。騎兵を迎え撃つだけの槍が向けられ、その奥では別の宝具が中央を固めている。
伸びない。裂けない。
黄金の王は、征服王が待つ隙間を作らなかった。
「ぬう」
イスカンダルが目を細める。
それでも前へ出る。
神威の車輪が雷をまとい、黄金の陣の中央へ向かう。
盾が割れた。その奥に道が見える。
だが、イスカンダルはすぐに気づいた。
道ではない。左右から閉じるために残された、狭い空間だった。
「なるほど。誘うか!」
「同じ戦で二度勝てると思ったか、征服王」
黄金の盾が動き始める。
左右から迫り、楔形に進んだ軍勢を挟み込もうとする。上空では無数の波紋が開き、逃げ場を塞ぐように剣と槍が並んだ。
進めば包囲される。
退けば、勢いを失う。
王の軍勢が、初めて足を止めた。
固有結界の後方で、ウェイバーは戦場を見ていた。
何が起きているのか、すべてを理解できたわけではない。
兵の名も、陣形の意味も知らない。
ただ、違和感があった。
黄金の陣の左側では、盾と槍が絶え間なく動いている。中央も、イスカンダルを呑み込むために形を変え続けていた。
だが、反対側。ライダーから見て左にある黄金の右翼だけが、動きを止めている。
攻撃を終えた武具が引き、次の宝具がまだ前へ出ていない。
ほんの一瞬、軍勢が息を継いでいるようにも見えた。
「ライダー!」
ウェイバーが右手を掲げる。
赤い紋様が光った。
「令呪をもって命ずる!」
声が、軍勢の轟音を突き抜けた。
「王よ――左を見てくれ!」
令呪が消える。
イスカンダルの顔が、強制されたように左へ向いた。
「どうした?」
黄金の陣の右翼。
そこだけが、次の攻撃へ移るまでのわずかな間、静止している。
ギルガメッシュがガウガメラの進軍を封じるため、反対側から武具を引き抜いた結果だった。
イスカンダルの目が光る。
「なるほど」
次の瞬間、征服王は大剣を掲げた。
「全軍、左へ回れ!」
兵たちが一斉に応えた。
敵の中央へ向かっていた巨大な楔が、進軍を止めることなく向きを変えていく。
先頭の騎兵が左へ駆け、歩兵がその後へ続く。包囲しようとしていた黄金の盾を擦り抜け、軍勢全体が戦場を横切った。
かつては、敵陣に生じた裂け目を突いた。
今度は違う。
裂け目がないのなら、自ら作る。 ギルガメッシュの目が、わずかに見開かれた。
「我の読みを外したか、征服王」
「余一人で戦っておると思うたか!」
イスカンダルが笑う。
「余が征服したものを、いつまでも同じ形で使うと思うたか!」
神威の車輪が、黄金の右翼へ突入した。
次の武具を展開しようとしていた波紋が、雷によって吹き飛ばされる。盾が並ぶ前に騎兵が駆け込み、槍が穂先を上げる前に歩兵が押し倒した。
黄金の陣が、初めて大きく崩れる。
「進め!」
イスカンダルの声に、軍勢が吠えた。
「ガウガメラはとうに征服した! 今ここにあるのは、余たちの新しい戦よ!」
ギルガメッシュは、崩れていく右翼を見た。
そして、戦場の後方にいる少年へ一度だけ目を向けた。
「……小僧め」
不快そうな声だった。
だが、その口元には笑みがあった。
「やはり越えるか、征服王」
「当たり前だ!」
ライダーが大剣を掲げる。
「余を誰だと思っておる!」
「ハッ。知っておるわ」
ギルガメッシュが、上げていた指を下ろした。
その瞬間、左右へ引き裂かれた黄金の陣が崩れた。
否。
崩れたのではない。
盾が重なり、壁となった。槍はその上に並ぶ胸壁へ変わり、巨大な青銅の門がライダーの正面へ落ちる。石塔が左右にそびえ、その間を鎖と柵が結んでいく。
つい先ほどまで軍であったものが、一つの城塞へ姿を変えていた。
「軍勢を破る術は見事だった」
城壁の向こうから、ギルガメッシュの声が響く。
「ならば次は、軍勢が守り、帰り、再び出征する場所を越えてみせよ」
ライダーが大きく笑った。
「城を見せて、征服王が止まると思ったか!」
神威の車輪が加速する。
雷をまとった戦車が青銅の門へ突き刺さり、轟音とともに門扉を内側へ吹き飛ばした。
兵たちが歓声を上げ、破られた門へ殺到する。だが、その先に真っ直ぐな道はなかった。
壁は幾重にも折れ曲がり、狭い通路が軍勢を分けていく。塔から降る宝具が足を止め、横合いから突き出した槍が隊列を削る。城塞は兵を拒むだけではなく、敵がどこを通り、何人ずつ前へ出るかまで決めていた。
破られた壁の内側に、次の壁が現れる。
それもライダーは破った。
戦車が柵を踏み砕き、兵が盾を重ねて矢を防ぎ、倒れた者を乗り越えて進む。
さらに次の門も砕けた。
「止まるな!」
ライダーが吠える。
「城とは、落とされるためにある!」
兵たちが王の名を叫ぶ。
一枚の壁を越えるごとに、軍勢は少なくなった。
ある者は塔を押さえるために残り、ある者は閉じようとする門を支えた。別の者は後続の道を守り、王を先へ送るために黄金の武具へ飛びかかっていった。
それでも、ライダーの進軍は止まらない。
王が走る限り、道は前へ続いていた。
最後の城門が見えた。
その向こうに、ギルガメッシュが立っている。
神威の車輪が門へ突っ込んだ。
一枚目の扉が砕ける。二枚目がひしゃげ、三枚目が弾け飛ぶ。
そして戦車そのものも、限界を迎えた。
車軸が折れ、牛が光となって消える。雷が四方へ散り、砕けた車輪が砂へ突き刺さった。
だが、征服王は飛んだ。
戦車を失ってなお大剣を掲げ、最後の壁を自ら越える。
その背後で、軍勢が叫んでいた。
王の名を。
征服王の名を。
ライダーは一人ではない。
だが、黄金の王へ届く最後の一歩だけは、一人で踏み出した。
最後の城壁が崩れ、砂塵の向こうから、征服王が現れる。
戦車はすでになく、軍勢もほとんど残っていない。それでも、その足は止まっていなかった。
イスカンダルは大剣を掲げ、ギルガメッシュへ向かって走る。
黄金の王は、天の鎖を出さなかった。
蔵の奥で、エアが低く唸る。
それにも応えない。
一本の剣だけを手に取り、自ら前へ出た。
「ここまで来たか、征服王」
「待たせたな、英雄王!」
二人の王が、互いへ踏み込む。
その瞬間だった。
「ライダー!」
ウェイバーの声が、砂漠を貫いた。
掲げられた右手に、赤い光が燃え上がる。
「令呪をもって命ずる!」
イスカンダルが、わずかに目を見開く。
ウェイバーは震えていた。恐怖ではない。声を途切れさせまいと、全身に力を込めていた。
「持てるすべてを――次の一撃に懸けろ!」
令呪が消えた。
赤い光が、イスカンダルの身体へ流れ込む。
大気が鳴った。枯れかけていた軍勢の地平が、再び震える。消えゆく兵たちの声が重なり、征服王の背を押した。
イスカンダルが笑う。
「心得た!」
大剣が振り上げられる。
先ほどまでとは比較にならない魔力だった。
時臣の手が動いた。
懐の宝石を掴み、魔術回路へ火を入れる。
「王よ――」
「いらぬわ」
ギルガメッシュは振り返らなかった。
「これは我の戦いぞ」
迫るイスカンダルを見据えたまま、剣を構える。
「見届けよ、時臣」
時臣の手が止まった。
ほんの一瞬、迷った。
それから宝石を握ったまま、腕を下ろした。
「――御意」
イスカンダルの一撃が落ちる。
ギルガメッシュは避けなかった。
黄金の剣で受ける。
剣と剣が触れた瞬間、ギルガメッシュの手にした宝具が砕けた。
それでも止まらない。
大剣は黄金の鎧へ叩きつけられた。
鐘を打ち鳴らしたような音が、砂漠全体に響いた。
ギルガメッシュの足が砂へ沈む。
一歩。
さらに半歩。
黄金の王が、押し下げられる。
時臣は自分の拳を握りしめる。
ウェイバーは声もなく、その光景を見つめていた。
鎧は砕けなかった。だが、無傷でもなかった。
胸甲が大きく陥没し、その中央から細い亀裂が走っている。大剣の刃は黄金へ深く食い込み、その下の肉へ届く寸前で、ようやく止まっていた。
ギルガメッシュの口元から、一筋の血が落ちた。
その赤い瞳が、初めてわずかに見開かれる。
「……見事」
イスカンダルが吠える。
「まだだ!」
残るすべての力を込め、大剣をさらに押し込む。
黄金の鎧が軋んだ。
亀裂が、もう一筋伸びる。
だが、破れない。
ほんの指一本。
その厚みだけ、刃はギルガメッシュの命へ届かなかった。
ウェイバーは右手を握る。そこにはもう、赤い紋様は一つも残っていなかった。
ギルガメッシュは踏みとどまり、そして、懐へ入る。
黄金の波紋から落ちてきた槍を掴み、そのまま征服王の胸へ突き入れた。
イスカンダルの身体が揺れる。
それでも、大剣から手を離さなかった。
二人の王は、互いの武器を相手へ突き立てたまま、向かい合っていた。
先に笑ったのは、イスカンダルだった。
「……堅い鎧だ」
「我の財を侮った貴様の落ち度だ」
「違いない」
イスカンダルは大きく息を吐いた。
「だが、少しは肝を冷やしたであろう」
ギルガメッシュは、胸元へ食い込んだ刃を一瞥した。
「ハッ」
口元の血を拭い、笑う。
「抜かせ。十分に愉しんだわ」
「……なるほどな」
その声は、低く、満足げだった。
「貴様は、軍を持たぬ王ではない」
ギルガメッシュは答えない。
「軍を必要とせぬ王か」
「違うな」
ギルガメッシュは言った。
「必要なら持つ。だが、我が立つ時、軍勢は後ろではなく蔵の中にある」
ライダーは、喉の奥で笑った。
「つまらん王だ」
「そう思うなら、貴様の負けだ」
「そうだな」
ライダーは頷いた。
「余の負けだ」
その背後で、兵たちが消え始める。
一人。また一人。彼らは悲しんでいない。王を見ている。
最後まで前へ進んだ王を見ている。
ライダーは、振り返らなかった。
「ウェイバー」
声が届く。
固有結界の端で、ウェイバーが震えていた。
「見たか」
ウェイバーは、声を出せなかった。
「これが王だ」
ライダーは笑った。
「そして、あれもまた王だ」
ウェイバーの目から、涙が落ちた。
「ライダー……」
「泣くな。いや、泣いてもよい。だが、見ることをやめるな」
ライダーはギルガメッシュを見た。
「英雄王。余は貴様を気に食わん」
「知っている」
「だが、貴様がこの戦を裁くというなら、見届けてやれ。余の坊主も、騎士王も、殺し屋も、遠坂の魔術師も。皆、まだ迷っておる」
「貴様に命じられる筋合いはない」
「命じてはおらん。王として言っておる」
ギルガメッシュは、少しだけ目を細めた。
「ならば聞くだけは聞いてやる」
「十分よ」
ライダーの身体が薄れていく。
それでも、最後まで笑っていた。
「よい戦だった、英雄王」
「悪くはなかった、征服王」
その言葉を聞いて、ライダーは大きく笑った。
砂漠が消えた。
橋の上に、朝風が戻る。
ライダーの姿はもうない。
ウェイバーは、膝をついたまま動けなかった。
泣いていた。声も出せず、ただ肩を震わせていた。
ギルガメッシュは、その少年を一瞥した。
「立て」
ウェイバーは顔を上げた。
「……え」
「征服王は、貴様に見届けよと言った。ならば、そこで潰れているな」
ウェイバーは何も言えなかった。
ギルガメッシュは、もう興味を失ったように視線を外した。
「我は、あの男の臣下まで裁く趣味はない」
黄金の波紋が、一つ開く。
時臣がわずかに身構える。
だが、出てきたのは剣ではなかった。
小さな杯だった。
ギルガメッシュはそれをウェイバーの足元へ投げた。
「飲め」
ウェイバーは顔を上げた。
「……え?」
「倒れられては目障りだ。貴様は見届ける役を命じられたのであろう」
ウェイバーは、震える手で杯を取った。
ギルガメッシュはもう見ていなかった。
時臣は、橋の上に立ち尽くしていた。
エアを使わなかった。それでも、王の軍勢を破った。
夢を裂かず、軍を解体し、王を正面から受けた。
時臣は、自分がまた一つ、知らなかったものを見たのだと理解した。
「王よ」
「何だ」
「なぜ、エアを使われなかったのですか」
ギルガメッシュは、つまらなそうに言った。
「言ったであろう。これは世界を裂く戦ではない」
そして、少しだけ笑った。
「王を問う戦だった」
時臣は深く頭を垂れた。
朝風が、橋の上を抜けていった。