優雅ではない戦い、優雅な結末   作:折無堂

22 / 22
22. 夢を裂かず、王を問う

 橋の上に、黄金の王が立っていた。

 朝の光が、まだ薄く川面に残っている。

 ギルガメッシュは、橋の中央でライダーを待っていた。

 その少し後ろに、時臣がいる。

 

 ウェイバーは、ライダーの戦車の上で顔を引きつらせた。

「な、なんで普通に待ってるんだよ……」

「当然であろう」

 ライダーは笑った。

「向こうも王だ。余が来ることくらい、分かっておる」

 ギルガメッシュは腕を組んでいた。

「遅いぞ、征服王」

「朝に呼び出しておいて遅いとは、相変わらず勝手な男よ」

「呼んだ覚えはない」

「戦の匂いを変えておいて、黙って見ていろとは言うまいな」

 

 ギルガメッシュの目が細くなる。

 楽しげだった。

「ほう。そこまで嗅ぎつけたか」

「聖杯戦争は勝者を決める戦ではなくなった。違うか」

 

 時臣の表情がわずかに動いた。

 ライダーはそれを見逃さない。

「遠坂の魔術師も、どうやら腹の底が変わったらしいな」

「腹の底というより、見ていなかったものを見ただけです」

「ふん。よい返しだ」

 ライダーは笑った。

 そして、ギルガメッシュを見た。

 

「英雄王。貴様はこの戦をどう終わらせるつもりだ」

「腐った杯を勝者に渡す価値はない」

「ならば奪ってから裁け。王とはそういうものだ」

「我はすでに裁いている」

「そこが気に食わん」

 ライダーの声が太くなった。

「戦場に立つ前から、戦場の外へ立った顔をしておる。王ならば、まず己が道を示せ」

 

 ギルガメッシュは笑った。

「示してほしいなら、まず貴様が示すがいい」

「よかろう」

 ライダーの笑みが、獰猛なものに変わった。

 ウェイバーが息を呑む。

「おい、ライダー……!」

「何だ、坊主。今さら止めるつもりか?」

 

 ウェイバーは、ライダーを見上げた。

 止められるはずがない。この男が王として戦うというのなら、自分にできることは一つしかなかった。

 右手を掲げる。

「令呪をもって命ずる」

 赤い紋様が光った。

「ライダー。この戦に勝て」

 

 一画が消える。

 赤い光が、イスカンダルの身体へ吸い込まれた。

 ライダーはしばらく黙っていた。

 やがて、歯を見せて笑う。

 

「命じられるまでもないわ!」

 その声はいつもと変わらない。

 だが、戦車を包む雷は一段強くなり、王の足元から溢れた魔力が、まだ見えぬ軍勢へまで広がっていく。

「見るがいい、坊主」

 ライダーは手綱を握りしめた。

「これが王だ。これが、余の歩いた道だ」

 

 風が変わった。橋の上の朝風が消える。川の匂いが遠のく。

 空が開け、砂が舞い、果てのない地平が広がった。

 そこに、兵たちがいた。無数の兵。ただの兵ではない。王と共に走った者たち。王の夢を見て、王の背を追い、王の名を叫んだ者たち。

 ライダーは戦車の上で立ち上がる。

 その声が、砂漠に響いた。

 

「見よ、英雄王!」

 兵たちが槍を掲げる。

「これが余の王道! 余が奪い、余が駆け、余と共に果てを目指した者どもの夢よ!」

 ライダーは剣を掲げた。

「我が朋友たちよ! 今一度、余と共に駆けよ! 相手は最古の王、英雄王ギルガメッシュ!」

 軍勢が沸き立つ。

「この戦、ただ勝つためではない! 王が王に問うための戦ぞ!」

 

 ウェイバーは震えていた。

 恐怖ではない。圧倒されていた。

 これが、ライダーの王。これが、征服王イスカンダルの世界。

 

 ギルガメッシュの背後で、空間が軋んだ。エアが、蔵の奥で低く唸る。

 世界を裂く剣。この固有結界を断つなら、それが最も早い。

 だが、ギルガメッシュは振り返らなかった。

「退がれ、エア」

 王は静かに言った。

 時臣が、思わずギルガメッシュを見る。

 

 ライダーもまた、目を細めた。

「使わんのか」

「貴様の夢を裂くのは容易い」

 ギルガメッシュは、砂漠の地平を見た。

「だが今、我が裁くのは夢ではない。王だ」

 ライダーは、一瞬だけ黙った。

 そして、大笑した。

「よい! ならば正面から受けよ、英雄王!」

 軍勢が動く。地平が震える。

 王の軍勢が、黄金の王へ向かって突撃した。

 

 砂が跳ね、空気が震え、無数の足音が一つの波となって押し寄せる。

 王の軍勢。それは、ただの兵ではなかった。数ではない。質でもない。あれは、征服王という男の夢そのものだった。王が行く。兵が続く。その背を信じた者たちが、死してなお同じ地平を駆ける。

 

 時臣は、息を呑んだ。

 魔術師として見れば、これは固有結界である。だが、その理解はあまりに浅い。

 これは世界だ。一人の王が、生涯をかけて他者に見せた夢が、世界として成立している。

 その軍勢が、黄金の王へ向かっていた。

 

 ギルガメッシュは、動かなかった。

 背後で、また低い唸りが響く。蔵の奥で、エアが不満を示していた。

 世界を裂く剣。この固有結界を断つためなら、それ以上ない答え。

 だが、ギルガメッシュは振り返らない。

「黙っていろ」

 王は、短く言った。

「これは、貴様の出る戦ではない」

 その声に、エアの唸りがわずかに遠のく。

 ライダーは戦車の上で笑った。

「世界を裂く剣を退けるか、英雄王!」

「貴様の夢を裂くのは容易いと言ったはずだ」

 

 ギルガメッシュの背後に、黄金の波紋が開いた。

 一つではない。十、百。さらにその奥まで、光の輪は地平を埋めていく。

 だが、そこから無秩序に剣が降ることはなかった。

 盾が前へ並び、その間から槍が穂先を覗かせる。背後には弓と投槍が控え、さらに外側を戦車と騎兵のために作られた武具が固めた。

 宝物庫そのものが、一つの軍陣を敷いていた。

「ほう」

 戦車の上で、ライダーが目を細めた。

「軍勢には、軍勢で応じるか」

「貴様の兵と同じものと思うな。これは我が蔵に納められた、人の戦の原型だ」

 ギルガメッシュが指を上げる。

 黄金の陣から、一斉に矢が放たれた。狙われたのは兵そのものではない。旗手が射抜かれ、伝令の馬が倒れ、戦車の軸へ槍が突き立つ。先頭の勢いを殺し、命令が後方へ届く前に道を断つ。

 軍勢の足並みが乱れた。

 だが、ライダーは笑った。

「右へ寄せよ!」

 

 王の軍勢が、斜めに進み始めた。

 右翼の騎兵が前へ出る。中央は歩調を落とし、左翼は黄金の陣を正面に捉えたまま、その場に踏みとどまる。

 数で勝る敵を横へ引き延ばし、その中央に生まれた裂け目へ、王自らが楔となって突入する。かつて、ガウガメラの平原でペルシアの大軍を破った進軍だった。

 

 ギルガメッシュは笑った。

「貴様の手の内など知っておるわ」

 黄金の陣は動かなかった。イスカンダルの右翼が前へ出ても、盾の列はそれを追わない。騎兵を迎え撃つだけの槍が向けられ、その奥では別の宝具が中央を固めている。

 伸びない。裂けない。

 黄金の王は、征服王が待つ隙間を作らなかった。

 

「ぬう」

 イスカンダルが目を細める。

 それでも前へ出る。

 神威の車輪が雷をまとい、黄金の陣の中央へ向かう。

 盾が割れた。その奥に道が見える。

 

 だが、イスカンダルはすぐに気づいた。

 道ではない。左右から閉じるために残された、狭い空間だった。

「なるほど。誘うか!」

「同じ戦で二度勝てると思ったか、征服王」

 

 黄金の盾が動き始める。

 左右から迫り、楔形に進んだ軍勢を挟み込もうとする。上空では無数の波紋が開き、逃げ場を塞ぐように剣と槍が並んだ。

 進めば包囲される。

 退けば、勢いを失う。

 王の軍勢が、初めて足を止めた。

 

 固有結界の後方で、ウェイバーは戦場を見ていた。

 何が起きているのか、すべてを理解できたわけではない。

 兵の名も、陣形の意味も知らない。

 ただ、違和感があった。

 

 黄金の陣の左側では、盾と槍が絶え間なく動いている。中央も、イスカンダルを呑み込むために形を変え続けていた。

 だが、反対側。ライダーから見て左にある黄金の右翼だけが、動きを止めている。

 攻撃を終えた武具が引き、次の宝具がまだ前へ出ていない。

 ほんの一瞬、軍勢が息を継いでいるようにも見えた。

 

「ライダー!」

 ウェイバーが右手を掲げる。

 赤い紋様が光った。

「令呪をもって命ずる!」

 声が、軍勢の轟音を突き抜けた。

「王よ――左を見てくれ!」

 令呪が消える。

 

 イスカンダルの顔が、強制されたように左へ向いた。

「どうした?」

 黄金の陣の右翼。

 そこだけが、次の攻撃へ移るまでのわずかな間、静止している。

 ギルガメッシュがガウガメラの進軍を封じるため、反対側から武具を引き抜いた結果だった。

 イスカンダルの目が光る。

 

「なるほど」

 次の瞬間、征服王は大剣を掲げた。

「全軍、左へ回れ!」

 兵たちが一斉に応えた。

 敵の中央へ向かっていた巨大な楔が、進軍を止めることなく向きを変えていく。

 先頭の騎兵が左へ駆け、歩兵がその後へ続く。包囲しようとしていた黄金の盾を擦り抜け、軍勢全体が戦場を横切った。

かつては、敵陣に生じた裂け目を突いた。

 

 今度は違う。

 裂け目がないのなら、自ら作る。 ギルガメッシュの目が、わずかに見開かれた。

「我の読みを外したか、征服王」

「余一人で戦っておると思うたか!」

 イスカンダルが笑う。

「余が征服したものを、いつまでも同じ形で使うと思うたか!」

 

 神威の車輪が、黄金の右翼へ突入した。

 次の武具を展開しようとしていた波紋が、雷によって吹き飛ばされる。盾が並ぶ前に騎兵が駆け込み、槍が穂先を上げる前に歩兵が押し倒した。

 黄金の陣が、初めて大きく崩れる。

「進め!」

 イスカンダルの声に、軍勢が吠えた。

「ガウガメラはとうに征服した! 今ここにあるのは、余たちの新しい戦よ!」

 ギルガメッシュは、崩れていく右翼を見た。

 そして、戦場の後方にいる少年へ一度だけ目を向けた。

「……小僧め」

 不快そうな声だった。

 だが、その口元には笑みがあった。

 

「やはり越えるか、征服王」

「当たり前だ!」

 ライダーが大剣を掲げる。

「余を誰だと思っておる!」

「ハッ。知っておるわ」

 

 ギルガメッシュが、上げていた指を下ろした。

 その瞬間、左右へ引き裂かれた黄金の陣が崩れた。

 否。

 崩れたのではない。

 盾が重なり、壁となった。槍はその上に並ぶ胸壁へ変わり、巨大な青銅の門がライダーの正面へ落ちる。石塔が左右にそびえ、その間を鎖と柵が結んでいく。

 つい先ほどまで軍であったものが、一つの城塞へ姿を変えていた。

 

「軍勢を破る術は見事だった」

 城壁の向こうから、ギルガメッシュの声が響く。

「ならば次は、軍勢が守り、帰り、再び出征する場所を越えてみせよ」

 ライダーが大きく笑った。

「城を見せて、征服王が止まると思ったか!」

 

 神威の車輪が加速する。

 雷をまとった戦車が青銅の門へ突き刺さり、轟音とともに門扉を内側へ吹き飛ばした。

 兵たちが歓声を上げ、破られた門へ殺到する。だが、その先に真っ直ぐな道はなかった。

 壁は幾重にも折れ曲がり、狭い通路が軍勢を分けていく。塔から降る宝具が足を止め、横合いから突き出した槍が隊列を削る。城塞は兵を拒むだけではなく、敵がどこを通り、何人ずつ前へ出るかまで決めていた。

 

 破られた壁の内側に、次の壁が現れる。

 それもライダーは破った。

 戦車が柵を踏み砕き、兵が盾を重ねて矢を防ぎ、倒れた者を乗り越えて進む。

 さらに次の門も砕けた。

 

「止まるな!」

 ライダーが吠える。

「城とは、落とされるためにある!」

 兵たちが王の名を叫ぶ。

 

 一枚の壁を越えるごとに、軍勢は少なくなった。

 ある者は塔を押さえるために残り、ある者は閉じようとする門を支えた。別の者は後続の道を守り、王を先へ送るために黄金の武具へ飛びかかっていった。

 それでも、ライダーの進軍は止まらない。

 王が走る限り、道は前へ続いていた。

 

 最後の城門が見えた。

 その向こうに、ギルガメッシュが立っている。

 神威の車輪が門へ突っ込んだ。

 一枚目の扉が砕ける。二枚目がひしゃげ、三枚目が弾け飛ぶ。

 そして戦車そのものも、限界を迎えた。

 車軸が折れ、牛が光となって消える。雷が四方へ散り、砕けた車輪が砂へ突き刺さった。

 

 だが、征服王は飛んだ。

 戦車を失ってなお大剣を掲げ、最後の壁を自ら越える。

 その背後で、軍勢が叫んでいた。

 王の名を。

 征服王の名を。

 ライダーは一人ではない。

 だが、黄金の王へ届く最後の一歩だけは、一人で踏み出した。

 

 最後の城壁が崩れ、砂塵の向こうから、征服王が現れる。

 戦車はすでになく、軍勢もほとんど残っていない。それでも、その足は止まっていなかった。

 イスカンダルは大剣を掲げ、ギルガメッシュへ向かって走る。

 

 黄金の王は、天の鎖を出さなかった。

 蔵の奥で、エアが低く唸る。

 それにも応えない。

 一本の剣だけを手に取り、自ら前へ出た。

「ここまで来たか、征服王」

「待たせたな、英雄王!」

 二人の王が、互いへ踏み込む。

 

 その瞬間だった。

「ライダー!」

 ウェイバーの声が、砂漠を貫いた。

 掲げられた右手に、赤い光が燃え上がる。

「令呪をもって命ずる!」

 イスカンダルが、わずかに目を見開く。

 ウェイバーは震えていた。恐怖ではない。声を途切れさせまいと、全身に力を込めていた。

「持てるすべてを――次の一撃に懸けろ!」

 

 令呪が消えた。

 赤い光が、イスカンダルの身体へ流れ込む。

 大気が鳴った。枯れかけていた軍勢の地平が、再び震える。消えゆく兵たちの声が重なり、征服王の背を押した。

 イスカンダルが笑う。

「心得た!」

 

 大剣が振り上げられる。

 先ほどまでとは比較にならない魔力だった。

 

 時臣の手が動いた。

 懐の宝石を掴み、魔術回路へ火を入れる。

「王よ――」

「いらぬわ」

 ギルガメッシュは振り返らなかった。

「これは我の戦いぞ」

 迫るイスカンダルを見据えたまま、剣を構える。

「見届けよ、時臣」

 

 時臣の手が止まった。

 ほんの一瞬、迷った。

 それから宝石を握ったまま、腕を下ろした。

「――御意」

 

 イスカンダルの一撃が落ちる。

 ギルガメッシュは避けなかった。

 黄金の剣で受ける。

 剣と剣が触れた瞬間、ギルガメッシュの手にした宝具が砕けた。

 それでも止まらない。

 大剣は黄金の鎧へ叩きつけられた。

 鐘を打ち鳴らしたような音が、砂漠全体に響いた。

 

 ギルガメッシュの足が砂へ沈む。

 一歩。

 さらに半歩。

 黄金の王が、押し下げられる。

 

 時臣は自分の拳を握りしめる。

 ウェイバーは声もなく、その光景を見つめていた。

 鎧は砕けなかった。だが、無傷でもなかった。

 胸甲が大きく陥没し、その中央から細い亀裂が走っている。大剣の刃は黄金へ深く食い込み、その下の肉へ届く寸前で、ようやく止まっていた。

 

 ギルガメッシュの口元から、一筋の血が落ちた。

 その赤い瞳が、初めてわずかに見開かれる。

「……見事」

 イスカンダルが吠える。

「まだだ!」

 残るすべての力を込め、大剣をさらに押し込む。

 

 黄金の鎧が軋んだ。

 亀裂が、もう一筋伸びる。

 だが、破れない。

 ほんの指一本。

 その厚みだけ、刃はギルガメッシュの命へ届かなかった。

 

 ウェイバーは右手を握る。そこにはもう、赤い紋様は一つも残っていなかった。

 ギルガメッシュは踏みとどまり、そして、懐へ入る。

 黄金の波紋から落ちてきた槍を掴み、そのまま征服王の胸へ突き入れた。

 イスカンダルの身体が揺れる。

 それでも、大剣から手を離さなかった。

 二人の王は、互いの武器を相手へ突き立てたまま、向かい合っていた。

 

 先に笑ったのは、イスカンダルだった。

「……堅い鎧だ」

「我の財を侮った貴様の落ち度だ」

「違いない」

 イスカンダルは大きく息を吐いた。

「だが、少しは肝を冷やしたであろう」

 ギルガメッシュは、胸元へ食い込んだ刃を一瞥した。

「ハッ」

 口元の血を拭い、笑う。

「抜かせ。十分に愉しんだわ」

 

「……なるほどな」

 その声は、低く、満足げだった。

「貴様は、軍を持たぬ王ではない」

 ギルガメッシュは答えない。

「軍を必要とせぬ王か」

「違うな」

 ギルガメッシュは言った。

「必要なら持つ。だが、我が立つ時、軍勢は後ろではなく蔵の中にある」

 

 ライダーは、喉の奥で笑った。

「つまらん王だ」

「そう思うなら、貴様の負けだ」

「そうだな」

 ライダーは頷いた。

「余の負けだ」

 

 その背後で、兵たちが消え始める。

 一人。また一人。彼らは悲しんでいない。王を見ている。

 最後まで前へ進んだ王を見ている。

 ライダーは、振り返らなかった。

 

「ウェイバー」

 声が届く。

 固有結界の端で、ウェイバーが震えていた。

「見たか」

 ウェイバーは、声を出せなかった。

「これが王だ」

 ライダーは笑った。

「そして、あれもまた王だ」

 

 ウェイバーの目から、涙が落ちた。

「ライダー……」

「泣くな。いや、泣いてもよい。だが、見ることをやめるな」

 ライダーはギルガメッシュを見た。

「英雄王。余は貴様を気に食わん」

「知っている」

「だが、貴様がこの戦を裁くというなら、見届けてやれ。余の坊主も、騎士王も、殺し屋も、遠坂の魔術師も。皆、まだ迷っておる」

「貴様に命じられる筋合いはない」

「命じてはおらん。王として言っておる」

 

 ギルガメッシュは、少しだけ目を細めた。

「ならば聞くだけは聞いてやる」

「十分よ」

 ライダーの身体が薄れていく。

 それでも、最後まで笑っていた。

「よい戦だった、英雄王」

「悪くはなかった、征服王」

 その言葉を聞いて、ライダーは大きく笑った。

 

 砂漠が消えた。

 橋の上に、朝風が戻る。

 ライダーの姿はもうない。

 

 ウェイバーは、膝をついたまま動けなかった。

 泣いていた。声も出せず、ただ肩を震わせていた。

 ギルガメッシュは、その少年を一瞥した。

「立て」

 ウェイバーは顔を上げた。

「……え」

「征服王は、貴様に見届けよと言った。ならば、そこで潰れているな」

 ウェイバーは何も言えなかった。

 ギルガメッシュは、もう興味を失ったように視線を外した。

「我は、あの男の臣下まで裁く趣味はない」

 

 黄金の波紋が、一つ開く。

 時臣がわずかに身構える。

 だが、出てきたのは剣ではなかった。

 小さな杯だった。

 ギルガメッシュはそれをウェイバーの足元へ投げた。

「飲め」

 ウェイバーは顔を上げた。

「……え?」

「倒れられては目障りだ。貴様は見届ける役を命じられたのであろう」

 

 ウェイバーは、震える手で杯を取った。

 ギルガメッシュはもう見ていなかった。

 時臣は、橋の上に立ち尽くしていた。

 エアを使わなかった。それでも、王の軍勢を破った。

 夢を裂かず、軍を解体し、王を正面から受けた。

 時臣は、自分がまた一つ、知らなかったものを見たのだと理解した。

 

「王よ」

「何だ」

「なぜ、エアを使われなかったのですか」

 ギルガメッシュは、つまらなそうに言った。

「言ったであろう。これは世界を裂く戦ではない」

 そして、少しだけ笑った。

「王を問う戦だった」

 

 時臣は深く頭を垂れた。

 朝風が、橋の上を抜けていった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

パ リ ピ 時 臣(作者:融合好き)(原作:Fate/)

信じて送り出した夫がキラキラなギャルにどハマりして夜な夜な怪しげな場所で遊び呆けているなんて…


総合評価:5562/評価:8.55/完結:8話/更新日時:2026年06月03日(水) 06:28 小説情報

Metalnova(作者:アグナ)(原作:Fate/Zero)

もう何番煎じか分からないFate/Zeroのハッピーエンドを目指すオリ主の話。なお何を以てハッピーエンドとするかは人による模様。


総合評価:3435/評価:8.51/連載:22話/更新日時:2026年06月20日(土) 14:52 小説情報

Fate/hollow adaptation――異戒の華は冬木に咲く​(作者:りー037)(原作:Fate/)

十年前の冬木。第四次聖杯戦争の裏側で、大聖杯のシステムすら想定し得なかった「致命的なバグ」が産声を上げた。▼魔術師たちの野望と妄執が渦巻く中、地獄のような環境から一人の少女が解放される。▼間桐桜。彼女の足元に広がる「虚数」の影は、マスターを失い世界から消滅するはずだった理外の怪物――あらゆる事象に適応し破壊する『異戒の神将』と奇跡的な融合を果たしていた。


総合評価:3614/評価:8.61/連載:29話/更新日時:2026年06月16日(火) 12:39 小説情報

第二次聖杯戦争から少しだけズレた平行世界での一幕(作者:ささのき)(原作:Fate/)

▼とある冬木の聖杯戦争でこっそり勝利した陣営がいました。▼その子孫(転生者・魔眼持ち)が第4次や時計塔であれやこれやと画策していく様子をお届けいたします。▼ ────────▼僕はね、セイバーを救いたかっただけなんだ…▼


総合評価:3208/評価:8.62/連載:9話/更新日時:2026年05月10日(日) 19:00 小説情報

もしエウリュステウスの側近にヘラクレス並の化物がいたら(作者:名無しのマネモブ)(原作:Fate/)

ただし強いだけのバカである。


総合評価:4525/評価:8.69/連載:45話/更新日時:2026年06月21日(日) 15:30 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>