勝利をこの手に掴むまで   作:槇緇櫓把

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見切り発車です

※注
本作はシルヴァリオサーガ(新西暦サーガ)に登場する光の奴隷成分を多分に含んでいるつもりですので、呪術廻戦における一部キャラのテンションがおかしくなる予定です。



名も無き英雄

 

 「では、いずれまた会おう。我が宿敵よ」

 

 平安時代、呪術全盛の時代において一人の男が契約に基づき呪物と化す。

 

 それは羂索と呼ばれた男にとっての生涯をかけた宿敵であり、平安時代出身の術師の中では()()()であった。

 

 何せ男は術師であるにもかかわらず、術式を持たぬ。

 腕っ節は立つものの、いつも命からがらの重症で何故生きているのかよく分からぬまま、また鬼の首を獲ろうと山へ向かう。

 

 権謀術数渦巻く魔境、平安において物珍しい気性の持ち主で、堅物であるものの、驕らず真摯であった。

 天涯孤独の下人でありながら、勤勉であり、肉壁代わりに連れて行かれた戦場で幾度命を落としかけてもなお、決して逆らう事はなく従順であった。

 

 そんな男はその生涯の全てを闘争に費やし、数多の呪いを祓ってきた。

 それがたまたま羂索という男の目についた。

 

 羂索にとって男の存在は正しく光のようであった。

 樹木が如く、干涸びるように活力を失うかつての友柄とは相反するように、その男は苛烈で太陽すら霞むような雄々しさを有する。

 決して立ち止まる事なく、無才であるにも関わらず愚直に歩み進める男に羂索は恋をしたかのように錯覚を覚えるほど、その存在に焦がれた。

 

 術式も扱えず、呪力の操作すらままならなず、鍛錬の光景ですら常に命懸け。

 羂索にとってすればその所業は、常に頭部に刃を押し付けながら反転術式を流し込むような荒業に大差はなかった。

 

 故に呪術の師として彼の前に姿を現したのは当然であった。

 

 だが男はこの上なく凡才であった。

 いやそれ凡才にすら値しない、正しく凡愚だ。

 

 その事実は彼を認める羂索でさえ、激しく肯定するほどだろう。

 

 何せ一年あれば十分習得に事足りる、基礎的な呪力操作ですら彼はその習得に二十余年を費し、その生涯を終えたのだから。

 

 羂索の生涯において最も生産性のない二十余年。

 だがその生涯において最も輝かしく、愚かで、尊い日々であった。

 

 「世話になった。だがまた相見えた時、貴様を打ち斃すの俺である事を忘れるな」

 

 無謀極まる呪力行使により、既に全身が消し炭に等しい状態でなお闘志を滾らせながら、齢四十に満た主身でこの世を去ろうとした男は、その契約を果たすべく、その血肉を変じさせる。

 

 その様を見つめながら、一時の夢を見送った女は日々を懐かしむように微笑みながら、胸に抱いた野望の火をより一層強め、己の勝利を胸に刻んだ。

 

 

 

 これより運命の歯車は動き始め、千年が経過した。

 時代は平安から平成へ。

 

 無名の英雄は時を渡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ふむ、あれから千年か」

 

 呪物は産声を上げる。

 

 突如として脳内に流れ込む無数の情報。

 歴史、倫理観、世界情勢、インターネット、人間関係、思い出。

 

 その全てを瞬時に反芻し、己の受肉により命を失った一人の若者の未来を悔やみ、黙祷。

 受肉の影響か、20代半ばも行かぬ筈のその表情は、壮年の男性を思わせる風貌を有しており、男の表情はひどく重々しい。

 己のような人間が、前途有望な若者の命を奪い、現世に再誕したことを本気の悔いている。

 

 そして

 

 「すまない。だがその命、決して無駄にはせん」

 

 故にこそ、報いなければならない。

 彼の犠牲を無駄にしてはならない。

 慚愧の念に駆られ、心を痛める事は許されない。

 それこそ彼の尊く短い生涯の、命の輝きに対する冒涜に他ならないのだから。

 

 若者の名はクリストファー・ヴァルゼライド。

 今この時より、死滅回遊の泳者(プレイヤー)として登録された名も無き英雄である。

 

 「"勝つ"のは、俺だ」

 

 さあ、今こそ勝利をその手に掴み取ろう。

 

 平成の世に、時代外れの英雄譚の幕が切って落とされた。

 




結末だけは決めてるので、狂い哭きます。
僕の末路は完結です。
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