ある日のことだった。急に妹のルラが倒れた。
「ルラ! 大丈夫かルラ!」
ルラに持病などというものはなかった。医者に診せても、原因がわからないというばかり。だから、兄であるシュロは途方に暮れて、知り合いの回復術師に診せた。
「これは・・・・・・悪魔憑き、だね」
悪魔。悪魔とは人に仇なす存在だ。その存在が、どういうわけか知らないが人に取り憑いて悪さをするという話を聞いたことがある。
「もう終わりだ。人に取り憑いた悪魔を離れさせることなんて出来ない。君の妹は遠からず亡くなってしまうだろう」
回復術師はそう言った。
「そんな・・・・・・なんだっていいんだ! どんなに難しい手段だっていい! 妹を助ける手段は、何かないのか!?」
「・・・・・・一つだけ、あるにはある」
回復術師はちょっと考えたが、やがて言いにくそうにそう言った。
「本当か!?」
「いや、でも根本的な解決にはならない・・・・・・」
「それでもいい! 教えてくれ!」
回復術師はシュロを真っ直ぐに見て言った。
「シュロ、お前が身代わりになるんだ。お前が妹の代わりに悪魔憑きになる。それが、今出来る唯一の治療法だ」
シュロはそれを聞いて、こともなげに言った。
「なんだ、そんなのなんでもないことじゃないか。ルラのためなら、悪魔ぐらい、いくらでも代わりに受ける!」
「・・・・・・君なら、そういうと思ってたよ」
これは、シュロが中学生になりたての頃の話である。
◇
この世界に、『悪魔』というものが現れてからもう40年ほど経った。今まではおとぎ話とか神話の中にしか存在しなかった『悪魔』という存在が、突然実在するものとして姿を現した。
悪魔たちは人間社会に混乱をもたらした。ある悪魔は魔物を引き連れ都市を襲った。ある悪魔は国の指導者を洗脳して戦争を起こそうとした。ある悪魔は、ダンジョンを創造して宝物を餌に多くの人間を誘い込んで殺した。
しかし、人類も負けてはいない。悪魔の出現に対応するかのように超能力を使える人間やら魔術を使えるようになった人間やらが続々出現し、悪魔に対抗し始めたのだ。中には、天使と契約して魔法少女になる人間なんていうのも現れた。
こうして、人類は悪魔たちに対抗することでなんとかその社会を維持してきたのである。
さて、そんな世界に1人の男子高校生がいた。名前は時井シュロ。この物語の主人公である。
その時井シュロは今──
「おい! 何やってんだてめえ!」
「舐めてんじゃねえぞコラァ!!」
絶賛絡まれ中だった。
屋上のベンチの上でカバンを枕にして寝っ転がっていたシュロは、自分に絡んできた人相の悪い男2人を見上げながら言った。
「何って・・・・・・寝てるんだよ」
「だからよお! 俺たちが聞いてんのは!」
「なんで授業中に屋上で寝てんのかって聞いてんだよ!」
人相の悪い男たちの右腕をよく見ると、『風紀委員』という腕章がつけられている。
この男2人はものすごく意外なことだが、風紀委員。そして、シュロはただ寝ているわけではなく授業をサボって寝ていたのである。
シュロは男たちに大声でそんなことを言われても、悪びれる風もなくこう返した。
「いやいや、理由なんて聞かなくてもわかるでしょ。授業中にわざわざ人気のない屋上で寝てんだ。サボりに決まってる」
「てめえなあ・・・・・・!」
風紀委員Aは拳を握りしめて怒りの表情を浮かべたが、風紀委員Bはそれを止めた。
「まあまあ。怒らず冷静に行こうぜ。・・・・・・おい、劣等生時井。俺らは何も説教しようとしてここに来たわけじゃないんだ。お前とちょっとした交渉をしたいと思ったから来たんだよ」
「交渉?」
シュロは首を動かし、男たちの方を見た。男たちはニヤニヤ笑っている。
「そうだ。まあといっても難しいものじゃない至極単純なものだ」
「そうだ。単純なものだ。単純に・・・・・・お前を病欠ってことにしといてやるから、金を出してほしいんだよ」
「な、いいだろ?」
何かと思えば、風紀委員とは名ばかりのクズの提案だった。
シュロはため息をつく。
「なんだ、くだらない・・・・・・」
当然シュロとしてはそんな提案に乗るつもりはない。
そのまま無視しようとしたのだが、しかし、男たちはニヤニヤしながらこんなことを言ってきた。
「まあ、俺たちの提案に乗ってきてくれなくても、別にいいぜ?」
「どっちにしろ、お金はもらうつもりだからよ。嫌がるなら力づくでもな」
「知ってるぜえ〜。お前は戦闘学のテストでビリなんだってな。俺らは上から数えて四十番以内には入っている! 抵抗してもムダだぜ!」
ますますくだらないな・・・・・・とシュロは思った。
戦闘学というのは悪魔たちが出現してから学校に組み込まれた授業だ。文字通り、戦い方を教える授業で、実技の授業やテストがある。この2人の言っているのは戦闘学の実技のテストことである。
(こいつら他の教科はボロボロなのに、戦闘実技のテストがいいってだけで鼻にかけやがって・・・・・・戦闘民族がよ・・・・・・)
時々いるのだ。戦闘力が高いというだけで何してもいいと勘違いをしている連中が。
シュロはため息をつく。
「全く、くだらないな・・・・・・」
「なんだとてめえ!」
「覚悟しろよ。今から俺らの鉄拳が火を吹くぜ!」
男たち2人がシュロに殴りかかろうとした時だった。
「何をやってるんだ?」
凛とした声が響く。2人が振り向くと、そこに立っていたのは声と同じく凛とした雰囲気を持つ、銀髪碧眼の少女だった。
「い、委員長!」
「いや、これは・・・・・・そう! 授業をサボってた奴がいたんで、注意してたんですよ!」
「ほう・・・・・・なら、それは私が引き継ごう。君たちは授業に出ていいぞ」
「え? で、でも・・・・・・」
委員長は2人をじろっと睨みつけて言った。
「いいから。君ら2人はとっと教室へ戻りなさい」
2人はそそくさと教室へと去っていった。
「なあ風紀委員長、ああいう奴らはちゃんと取り締まった方がいいんじゃないか?」
シュロは寝ながら風紀委員長に向かって言う。
「ああ。全く、風紀委員ともあろうものがあんなことをしているとはな・・・・・・よく指導しておこう。だが」
委員長はシュロに向かって言った。
「それと君のサボりとは話が別だ。君もとっとと自分の教室に戻って真面目に授業を受けるんだ」
「はあ・・・・・・わかったよ・・・・・・」
「それと──」
委員長はシュロが枕にしているカバンを指差して言った。
「そういうのは、出来れば学校に連れてきてほしくはないな」
「・・・・・・」
委員長が指差したカバンの隙間から、にゅっと半透明の、ゼリー状のプルプルしたものが出てきた。
「スライム。魔物を学校に持ち込んでほしくはないものだ」
スライムはシュロのペットなのだ。
「いや、いいじゃないか。ちゃんと許可証はあるんだ。政府が発行してるちゃんとしたヤツなんだぞ」
魔物は悪魔たちとともに世界に現れたものだ。基本は悪魔の言うことを聞くのだが、弱い魔物は人間の言うことを聞くこともある。だから、弱い魔物限定で許可証をもらえば飼うことが出来るのだ。
「まあ、確かに許可証を持っているなら別にいいのかもしれないが・・・・・・しかし、弱くても魔物。万が一ということもある。出来れば控えてほしいのだが・・・・・・」
「・・・・・・わかった。出来れば控えることにするよ」
「うむ。すまないな」
シュロは起き上がり、ベンチの上に普通に座る。
「とりあえず、授業には出るよ。すぐに教室に行くから、風紀委員長は先に帰って大丈夫だ」
「本当か?」
「本当だよ」
「ふむ・・・・・・じゃあ私は先に帰るとしよう」
風紀委員長は言われた通り先に帰っていった。
「さてと・・・・・・」
シュロは宣言通りに自分の教室へ戻ろうとした。しかし──
「ぐっ・・・・・・」
視界が揺らぐ。立ち上がろうとしたシュロの体が揺らぎ、
「げほッ・・・・・・がはッ」
シュロは咳をした。思わず手で口を押さえる。
「げほッ、げほッ・・・・・・」
一頻り咳が終わって、押さえていた手を離してみると、それはべっとりと血で汚れていた。
「うーん、こんな状態で教室に帰るわけにはいかないよなあ・・・・・・大事になったらマズいし」
シュロはやっぱり教室に戻るのはやめて、落ち着くまでしばらく待つことにした。
「クラスメイトに心配かけて、大事にするわけにはいかない。バレるわけにはいかないからな・・・・・・」
シュロはしばらく休んでから、教室に行った。
◇
「はー、やれやれ」
学校が終わって、シュロは通学路の途中にある喫茶店チェーンに寄ってクリームとミルクをたっぷり入れた甘いコーヒーを買って飲んだ。
道端にあったベンチに座ってそのコーヒーを飲んでいると、隣のベンチに座っていた女子小学生たちが話している内容が聞こえてきた。
「ねえねえ、みんな魔法少女の中で誰が好き?」
小学生の1人が、そんなことを友達全員に聞いた。
魔法少女・・・・・・というのは悪魔に対抗するために生み出された存在だ。天使と契約し、悪魔と対抗しうる力をその身に宿すに至った存在である。
一人一人、自分の好きな魔法少女の名前を述べていく。
「私はマグちゃんかな!」
「私はリアちゃん!」
「私はアヤちゃん!」
今いる魔法少女は三人だけだ。誰か1人に人気が偏るものだと思っていたが、どうやら均等にファンがいるみたいだ。
シュロは何気なくそれを聞きながら甘々コーヒーを飲んでいたが、やがて聞こえてきた名前に思わず咽せそうになってしまった。
「私は・・・・・・レイスちゃんかな!」
シュロは思わず吹き出しそうになった。
「あ、確かに! レイスちゃんもすっごくかっこよくていいよねー!」
「ミステリアスだし!」
さっき言った通り、魔法少女は三人組だ。・・・・・・基本的には。
しかし、この魔法少女には、謎に包まれた四人目・・・・・・というのが存在する。基本的には三人だけで悪魔に対処するのだが、三人だけでは到底対処できない難敵にのみこの四人目が出てきて対応するのである。
それがレイス。異質でミステリアスな、『四人目の魔法少女』である。
「レイスちゃん、どんな天使と契約してるんだろー!」
「きっとすごくかっこ良くて素敵な天使だよ!」
しばらく、その小学生たちは自分の推し魔法少女たちを褒め称え続けた。もちろん、そのレイスという四人目の魔法少女も言葉を尽くして褒め称えられた。
(なんだか少し照れくさいな・・・・・・)
シュロは少し照れたが、顔には出さずにそのまま甘々コーヒーを啜っていた。
「いやー、ほんとにこのコーヒーは甘々だなー。これはコーヒーの赤ちゃんプレイや」
・・・・・・いや、動揺を隠しきれなくて変なことを言ってしまった。
幸いにも小学生たちは話に夢中になってこちらには無頓着だったので、そのままシュロは甘々コーヒーを啜った。
と、そんなふうにのんびりしている時のことだった。
「うわあああああ!!」
「悪魔が出た! 悪魔が出たぞー!」
その声に振り向くと、そこには──
《ヒャハハハハハァ! 皆殺しだあ!》
悪魔がいた。角と尻尾を生やした、オーソドックスな悪魔である。
「やばいな・・・・・・」
「誰か! 誰か助けを──!」
助けを求める叫びが、上がるか上がらないかのうちに。
「「「こらーっ!!」」」
オレンジ、紫、緑の某ニチアサ女児向けアニメ風の可愛らしいザ・魔法少女な衣装に身を包んだ少女三人組が空を飛んで登場した。オレンジがマグ、紫がリア、緑がアヤである。
「頼むから、今回は三人だけでなんとかしてくれよ・・・・・・」
シュロは祈るようにそう呟いた。
その呟きに応えるかのように三人は善戦した。まあ、頑張ったのだ。
「「「「頑張れー!」」」」
先ほどの小学生たちもそんな風にして応援してたし、その応援に応えようと頑張ったことは頑張ったのだが・・・・・・。
「ぐっ・・・・・・」
三人は残念ながらその悪魔に負けそうになっていた。
《グハハハハハ! この俺の毒霧に手も足も出ないようだな!》
悪魔が高笑いする。そう、このセリフの通りにこの悪魔はいつの間にか毒霧を撒いていたのだ。それを知らずに吸い込んでいた三人組は気がついた時には毒が体に回っていて窮地に陥ってしまっていたのである。
「何をやっているんだよ・・・・・・」
シュロははあ、とため息をつく。
そしてこう思った。
(俺が出るしかないか・・・・・・)
《終わりだ魔法少女! ヒャハハハハ! 仲間に自慢出来るなあー! 魔法少女を倒したってよおー!!》
悪魔の手の中に膨大な魔力が集まっていく。トドメとして魔力砲を撃つつもりなのだ。
「ぐ・・・・・・!」
魔法少女たちは悔しそうな表情をするが、動けない。そのまま、吹き飛んでしまうかに思えた──その時だった。
「待て」
制止の声が響く。それとともに、悪魔が手に集めていた魔力の塊は、小さな魔力の玉に寄って散らされてしまった。
《な・・・・・・!》
驚いた悪魔は、慌てて魔力の玉が飛んできた方に顔を向ける。
そこには──
「そこまでだよ、悪魔。私が出てきたからにはね」
青色の美しい、長いストレートの髪を靡かせた少女がいた。髪の毛と同じ青く美しい目のその少女は、耳から雫型のイヤリングをぶら下げていて、肩出しの黒いトップスにショートパンツといった格好である。
一見すると彼女はただの一般美少女に見える。服装からしてただの休日の一般美少女でしかない。しかし、彼女はこう見えても、れっきとした『魔法少女』なのだ。そう──
《魔法少女、レイスか・・・・・・!》
魔法少女レイス。三人がピンチの時にのみ現れる、四人目の魔法少女。そして──
(全く、三人が不甲斐ないから、俺が出ることになったじゃんか)
魔法少女レイス、その正体は一般男子高校生、シュロなのだ。
◇
四人目の魔法少女の登場に、観衆たちはザワザワする。
「す、すごい・・・・・・あれがレイスちゃんか! 初めて見た!」
「かっこいい!」
「レイスちゃん、初めて見たけど、なんか・・・・・・えっちだな・・・・・・」
(1人良くない目で見てるやついるな・・・・・・)
シュロは恥ずかしくなったものの、仕方がない。三人の魔法少女が負けてしまったらもうシュロが出るしかないのだ。
「気をつけて! あの悪魔は毒霧を撒いてくるわ!」
シュロへ魔法少女の1人、マグが言った。
「大丈夫」
シュロは笑いながらそう言って悪魔と対峙した。
《まさかお前が出てくるとはな・・・・・・だが! 俺の毒霧に対抗する手段なんて存在しないぜ!》
悪魔はそういうと再び毒霧を撒いてきた。毒霧は観衆のところへは行かない。魔法少女の防御担当、リアが何かおかしいと悟ってまずは観衆を守るように結界を張ったからだ。ただ、そのせいで自分たちの方へ結界を張るだけの魔力がなくなって負けてしまったのだが・・・・・・。
《ふはははは! 終わりだ! レイス、お前の使う魔法は水と氷! 結界を張れないお前には毒を防ぐ手段はない! ついでにここには水もないしなあ!》
シュロは焦ることなく、肩出しトップス(長袖)の袖の中に潜ませたスライムに水を吐き出させると、巨大な氷の剣を作り出した。
《な、何!? 今、どこから水を出したんだ・・・・・・!?》
「ふふ、さあどこからだろうね?」
シュロは水と氷の魔法を使うが、そのためには水を持ち運ばねばならないのだ。空気中にある水分を集めるとか、ゼロから水を作り出したりは出来ないので。だから、スライムを飼って、その胃のなかに大量の水を入れて持ち運びしているのだ。普通のスライムならそんなことは出来ないけど、ある力によって能力を底上げされたスライムならそれが可能なのである。
《くっ・・・・・・だが! この俺の毒霧に対抗する策はあるまい!》
「それはどうかな?」
シュロは氷の剣を構える。悪魔は爪を伸ばして、それを迎え撃った。
悪魔の爪と氷の剣が打ち合うたび、音を立てる。お互いの攻撃を避けては防ぎ、しばらく、拮抗した勝負が続いた。だが、その均衡はやがて終わる。
「よっ」
シュロの氷の剣が悪魔の爪を切り落とし、その体へ傷をつけたのである。
《くっ》
悪魔は斬られた痛みに顔を歪める。しかし、次の瞬間、ニヤリと笑った。
《やはり強いな、レイスよ。しかし、この俺の毒霧から逃れる術はない! もうそろそろ体に毒が回ってきたはずだ!》
悪魔はそう言って得意げな顔でシュロのことを指差した。しかし──
「残念ながら、そうはなっていないよ」
シュロはけろっと平気そうな顔をしてそう言った。
《な・・・・・・!?》
悪魔は驚愕の表情を見せる。
《なぜだ! なぜ俺の毒霧が効かない!! さっきから見ていたが、お前は確かに霧を吸い込んでいた! 吸い込んでいたはずだぞ! なのになぜ効かない!?》
「さあ、なんでだろうね?」
《お前・・・・・・!》
シュロは────シュロには毒は効かない。そういう体質とかではない。きちんと毒対策をしてあるからだ。
シュロは何があってもいいように、奥歯の一部を削ってその中に、極小まで体を小さくさせたスライムを入れているのだ。スライムは伸縮自在なのでこんなことも出来るし、どこまでも分裂していくことだって出来るので、袖の中と奥歯の中、両方にスライムを置くことも可能なのだ。
さらに、今回は万が一の場合も考慮して、鼻の奥にも入れておいたし、皮膚の全面にも粉のようになったスライムを散りばめておいた。
これらはシュロが毒を吸収してしまう前に代わりに吸い込んでくれて、消化してくれる。あらかじめそういう風にするように命令しておいたのだ。だから、シュロに毒は効かないのである。まあ、普通のスライムなら毒を吸い込んだら消化する前に確実に死ぬわけだけど・・・・・・ある力によって極限まで強化されたスライムは平気なのだ。
「まあ、敵である悪魔にはどうやってるか教えてあげないけど、俺・・・・・・いや私には毒は効かないんだ」
《バカな・・・・・・!》
「そして、毒を以て毒を制す。毒使いの君には、私から毒のプレゼントだ」
《はあ? 何を言って・・・・・・》
何を言っているんだ、そう言いかけた悪魔の体が、ぐらっと傾いた。
《な・・・・・・!?》
「私が、毒をプレゼントしておいたよ。君の体の中にね」
《な・・・・・・い、いつの間に・・・・・・!?》
シュロの氷の剣は、ただの水ではなく毒入りの水を氷にしたものなのだ。
そして、この剣は魔法によって氷にされたものだということを忘れてはならない。普通の氷と違って、魔法を解除することで瞬時に水とすることも可能なのである。
だから、悪魔の体を斬った瞬間に、剣の一部を氷から水に変えて悪魔の体の中においてきたのである。その毒が今効いてきたのだ。
(まあ、これも敵である悪魔に教えるつもりはないけどね)
シュロはそう思いながら、苦しむ悪魔を見下ろした。
「まあ、悪魔がこの毒で死ぬのは時間がかかるとは思うけどね。どうせ人とかいっぱい殺してるんだろうし、いっぱい苦しみなよ」
《くっ、くそが・・・・・・!》
と、その時悪魔が何かに気づいたような顔をした。
《ん? 待てよ・・・・・・この雰囲気・・・・・・どこかで感じたことあると思ってたけど、まさか・・・・・・!》
何かに気づいた悪魔が、それを言おうとする。
(やばい!)
それに危機感を覚えたシュロは、毒で息絶えるまで待つのをやめて、氷の剣で即座に首を刎ねた。
「本当は相応の報いとして苦しんで死んで欲しかったんだけど・・・・・・仕方がない」
シュロは悪魔の首を引っ掴んで振り返ると
「じゃあね。また君たちに危機が訪れた時にでも会おうよ」
手を振りながらそう言うと
「あ、ま、待って!」
魔法少女マグの制止の声も聞かずに近くのビルの屋上まで一気に飛び上がると去っていった。
「すげえ、魔法少女三人が苦戦した悪魔をあんなにあっさりと・・・・・・」
「かっこいいな・・・・・・」
「うん。かっこ良かった。それになんかちょっとエロかったよね」
観衆の声を背に、シュロは走り去っていく。
(言えるわけがない・・・・・・! 俺が何者かなんて・・・・・・!)
男子高校生が魔法少女も兼任でやってますなんて言えるわけがないのだ。それに・・・・・・
(実は天使とじゃなくて、悪魔と契約して力をもらってますなんて言えるわけもないんだ)
そう、人類の敵対存在である悪魔と契約したということも言えない。スライムを強化してるのも悪魔の力のおかげだし、シュロの体がボロボロなのは体の中に悪魔を眠らせているせいなのだ、なんてことを知られたらどんなことになるかわかったもんじゃない。
だから、魔法少女レイスという存在は一切が謎に包まれたまま、活動していくのであった。