7月31日
あの日はひどく晴れた日だった。君はいつものように僕のいる屋上に足を運んだ。
僕は目をつむってその日も一日を終えた。
5月10日
僕はいたって普通の高校生だ。中学の頃は運動しなくたってある程度のスポーツはこなせて、ある程度の勉強なら何もしなくても解けて、なんでみんなできないんだろうとさえ思っていた。
いつもの帰り道、冬になると夕日がぴったり沈む時間になるけど、今は夏。まだまだ暑い。
高い空は暑がっている僕をおちょくっているみたいに涼しそうなのに。
まいにち暑い帰り道を歩くのもおっくうになってきて、僕はいつもとちがうことをしてみようと思って足を向けた。学校の屋上、青春の代名詞に。
学校の屋上には南京錠がかかっていて、普段は立ち入ることが出来ない。でも南京錠のかかっている扉はめったに人が来なくて、僕が手をかけてから外しきるのにそう問題はなかった。
風が階段を吹き荒らす。僕の目を乾かしてくる。々とした屋上には誰もいなかった。
学校の喧騒から少し離れた気がして、僕は冷たい屋上の空気を一身に受けた。
その日から、僕は昼休みになったら屋上に来るようにした。いつものように崩れている南京錠を少し解いて、肺を屋上の涼しい空気でいっぱいにする。それから温かい太陽を浴びて、最近のうっぷんを心の中で空にさけぶ。
─国語の授業で予習をしてこいって言われてやってきたら、ノートを使えって先生に叱られた。僕はルーズリーフじゃないとやる気が出ないんだ。─
─親に勉強しろと言われた。たしかにまだ僕は本気で勉強をしていないし、僕ももっと勉強しないといけないのはわかっている。でもだからって宿題の精読をしているときに言わなくたっていいじゃないか─
青い空は何も言わずに僕の気持ちを受け止めてくれる。雲は僕の気持ちをわかってくれるみたいに、もこもこと空に昇って入道雲になる。そんな空の変わりようをぼんやりと僕は観察していた。
僕はめいっぱいに伸びをして、高校の屋上で仰向けになる。今日はまだ昼休みなのにもう疲れてしまった。あとの時間をどうやって過ごそうかと考え始めたとき、めずらしく屋上に僕以外の足音が聞こえてきた。
屋上の階段に顔を傾けると、その子はスマホで何かゲームをしていた。僕たちの学校は進学校なのによくゲームできるな、と思っていると、その子が僕に気が付いたようだ。
──────────────────────────
6月21日
僕が屋上で青い空を見ていると、君がやってきた。
君はゲームをしていて、僕に気が付いたらスマホを仕舞って話しかけてきた。
授業がつまらなくて、僕も君も同じだから、屋上でサボることにした。
梅雨が明けたばっかで雲がちりじりに浮かんでいた。
7月 4日
次の日の朝、学校の皆はいつも通り僕を無視している。
君は学校で見たことないけど、どのクラスなんだろう。
僕のバックにかけている、安っぽい猫のキーホルダーをいじりながら、そう思いふける。
誰もが僕を見ないふりだ。
そんな周りが僕は穏やかですごく好きだった。
夏に差し掛かり、冗談じゃない熱さになっても君は屋上に来ていた。
僕もなんとなく屋上にいた。蝉がやかましいほどに鳴いている。
君が僕の好きなことに合わせて話してくれた。青い空は雲をかためて、おおきな入道雲を作っていた。
7月10日
夜、僕は懐かしい夢を見た。
去年の夏だ。中学生の頃は、多くの友達と一緒に弁当を食べていた。
僕が気になっていたあの子はいつも教室で弁当を食べなかった。気になって僕はあの子を付けてみた。
そうしたら南京錠をじゃらりと外し、屋上に入っていくあの子をみた。
僕はそのままついていって、その日はあの子と弁当を食べた。
夏の、おおきな入道雲が空に浮かんでいる日だった。
7月31日
僕は今日、屋上に行かなかった。
教室の隅で弁当を食べていたら、中学の時に話していた人たちが、僕の周囲に近づいてきた。
気がちょっと向いてここで食べただけなのに、すごく煩かった。
君のホーム画面に映った猫が、雲の巣を張って黒く塗りつぶされた。
きみはもともといなかった。ぜんぶぼくがつくったまぼろし。きょうもべっどのうえでめをさました。いやだ。もうなにもみたくない。しろいへやも、むきしつなびょうじつも。ぜんぶ、ぜんぶ。
僕は目をつむって今日も一日を終えた。