「否。ひ、人と……は、は、話す……」
――――この世は言語という1つのルールに従って作られた。
――――その言語というルールは本来は万人を平等に縛りつけなければならないもの。
「ふぅ……乙」
――――そのルールに|障害《ハンデ》を負わされたものは敗者というレッテルを張られ、地に落ちる。
――――この世は言語がルールの世界だ。
「話す……嫌い」
――――生まれる世界を間違えた。
吃音障……それが俺がこの世にオギャーと叫んだ瞬間から授かってしまった是非とも神様にご返却したい宝だ。
結局、俺はその最悪なお宝を貰ってしまったがために俺以外の人間と話すのが嫌になり、こうやって部屋の明かりを深夜の3時にもかかわらず、光孝とつけながらゲームをするほどのヒッキーになってしまったわけだ。
『死んだ(泣)』
『マジであそこどうやるの』
インターネットは良い。喋らずとも相手と意思疎通ができ、世界中の人間と楽しくお喋りができる。ゴミを投げつけられたり、絡まれたり、真似をされたりすることなんて一切ない。
何度ゲームの世界へ飛び込めれたらと思ったもんだ。某ゲームに突入する小説は全部買って10回は見たし、アニメも円盤も全部見たし買ったし、その二次創作も書いた。 ま、その二次創作は俺の黒歴史となり、即刻削除したがな。
『俺もわかんね(笑)。でもパターンは何となく読めたから装備整えて行こうぜ』
『悪い。明日も昼からバイトだから今日は落ちるわ』
『俺も。明日、バイトの面接だから。じゃ、また明日な』
そう言い、次々と画面にログインしているプレイヤーの名前が消えていき、最終的に俺一人の名前が残るだけになってしまった。
「……い……………………く」
言葉を苦労しながら出しながら俺は再び、攻略できないクエストに参加し、ボスバトルへと突入する。
いつだって吃音障は俺の幸せライフを邪魔する。
……世界はいつだって俺に残酷だ。俺だってバイトもしたいし、面接だって行きたい……行きたいんだよ! でもこの障害のせいで面接に行けば面接官に真似されるはそこの店に客としていけば店員に真似されるわ! 世界はいつだって俺を絶望させてくる!
『CLEAR!』
「ハァ…………ハァ…………」
その文字が画面に現れた時にはすでに攻略できなかった……という風にしていたボスモンスターの体力ゲージは尽きており、報酬がアイテムボックスへと流れていく。
……いつだってこうさ。インターネットで金儲けして暮らしている俺と普通の学生生活をしているあいつらではゲームの進行具合に大きく差が出る。
「……ふぅ」
何度ゲームの世界へ行きたいと思ったか……なんど超能力で相手の頭に自分の思っていることを話せたらと考えたか……なんど自分の自分の命を絶てたら楽と考えたか!
「…………?」
その時、机の上から何かが震える音が聞こえ、床に散らばっているゲームディスクを踏まない様に細心の注意を払いながら進んでいき、さらにそこからゲームパッケージの山を丁寧に床に置きながら震えているものを探すと机の一番下に一月前に買ったスマホが姿を現した。
『君は現実と娯楽を逆にしたいんだね』
メールにはそう書かれていた。
現実と娯楽を逆……ま、確かに娯楽……つまり、何かしらの決闘が含まれているゲームがこの世界のルールであるならばそれほど生きやすい世界はない。
だが、それはあり得ないから俺は今こうして絶望している。
『したいさ。したいけどあり得ないから俺は絶望している』
おふざけ程度に俺は初めてスマホでメール文を作成し、送られてきたメールアドレスへメールを送信し、ゲームに戻ろうとした時に再び、スマホが震えた。
『君を絶望から救ってみせよう。それが全知全能の神の仕事だ』
「っっ! な、な、な、な、なん」
突然、後ろからバキュームで吸い込まれているかのような風が部屋中に吹き荒れ、ゲームディスクがいとも簡単に宙を舞い、部屋を回る。
何が起きてるんだ! 何で窓を閉めている部屋に風が起こる!
『希望を捨てるな。君は輝く人生を手に入れられるんだから』
「うわぁぁぁぁ!」
画面から眩い輝きが発せられたかと思えば体が何かに吸い寄せられるように宙に浮かび、そのまま画面めがけて体が吹き飛んでいき、画面に飲み込まれるかのように吸い込まれ、俺の視界に数字の羅列が凄まじい速度で通過していく。
結んでいた髪が解けてしまうほどの爆風が俺の全身に打ち付け、底が見えない穴に落ちているかのような錯覚に陥りながらも今この状況を理解しようとフルで頭を回転させていく。
俺は落ちてるのか!? 俺はいったいどこへ落ちていくっていうんだ!
すると目の前に光が漏れている小さな穴が見え、そこに手を伸ばした途端に穴が大きく開き、その穴から投げ出され、数分ぶりに地面に着地できた。
……イテテ……いったい何がどうなっ
風が吹いた……それだけならいつもあることだ。でも、ただ風が吹いたんじゃない……目の前に……目の前に巨大なドラゴンが横ぎった!
大きな2対の翼をはやした巨大なドラゴンが空に向かって咆哮を上げながら空を縦横無尽に飛んでいる!
ついに……遂に叶ったんだ! 俺の夢が!
『楽園だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』
…………なに、この鍵括弧つきの吹き出し。
思いっきり心の中で叫ぶと同時に俺の左端の所に鍵括弧付の吹き出しのようなものが現れた。
『ま、良いや! こんなもんあんな世界と比べたら些細なことだ! いやっほぉぉぉぉぉぉ!』
歓喜の声を上げながら急斜面を駆け出し、大きな岩や木などを避けながらすごいスピードで急斜面を駆け下りていき、地面が近づけば思いっきり高く飛んだ。
叶ったんだ! ゲームの世界に! いや、生まれるべき場所だった世界に!
『…ん―――――っしゃぁぁぁぁぁぁ!』
「い、いきなり叫ぶなよ」
『っっ!』
後ろからそんな声が聞こえ、慌てて振り返ってみると背中に巻木を担ぎ、左手に小さな斧を持った筋骨隆々の優しそうなおっちゃんが立っていた。
「珍しいな。お前、言語魔法使ってんのか」
『……言語魔法?』
「なんだ、しらずに使ってたのか。ていう事はお前、まだ魔法習ってねえな? 色々とこの先困るだろうから40年生きているおっちゃんがお前に色々なこと教えてやるよ。ま、座れ」
とりあえず、おっちゃんの言うことに従ってその場に座り込んだ。
「言語魔法っていうのはな、自分の心の言葉を魔法で相手に見えるように鍵括弧付の吹き出しで表示する魔法だ。ま、日常的に使っている奴なんてほとんどいないがな。他に何が知りたい」
『いろいろ全部。俺、全然知らないから』
「よし、俺に任せろ! まずはこの世界のことについて話すか。この世界はすべてが正統なる決闘で決まる。戦争・略奪は禁じられてるんだ。で、何故かというとこれまた不思議なもんでな。
『ふんふん。それで?』
「そう慌てるな。そんでだ。その制約魔法のおかげでこの世界は平和になったってわけよ。で、こっからが重要だ。正統なる決闘には3種類ある。1つはミニバトル。こいつは互いにかけるもののランクが低い、かつ互いの命は賭けることができないんだ。あ、そうそう。決闘の際は互いに賭けなきゃならない。んでミニバトルで主に賭けられるのはこの銅貨であったり、衣服、食物なんかだ」
おっちゃんはポケットから胴で作られた10円玉のように丸い硬貨を取り出してそう言った。
『つまり、バトルが上がれば上がるほど賭けられるものもランクが上がる』
「そういうことだ。2番目のハーフバトルは硬貨で言えば銀貨クラスのものをかけられる。家だったり土地だったり。そして3番目のマキシバトル……こいつだけはヤバい。ここまで来ると一国の王が主権をかけた戦いに挑むようなもんだ。ほぼ全てのものを賭けることができ、それは自分の命も含まれる』
……決闘で自分の命も賭けることができるっていうのかよ……つまり、まさに命を懸けた極限の戦いだな。
「んま、話よりも実際にやってみるか」
『ちょ、ちょっとタンマ! 俺武器なんて何も』
「ん? 良いって。武器無しの戦いもミニバトルじゃ可能なんだ。まあ、手加減するからさ。とりあえず俺はこの巻木一本を賭けよう。こいつは俺の所有していると土地にしかない木を切ったものだ。売れば軽く金貨2枚はくれるだろう」
『い、良いのかよ。金貨ってこの世界で一番価値があるんだろ?』
「良いんだよ。これからこの国を支える若い子供の教育資金にしちゃ、安いもんさ」
……こんなにも良い人を裏切ることなんてできない。俺は確かに性根は腐っていると自覚しているが人間性だけは腐っていないと胸張って言える!
『俺はこの服全部をかける』
「お、良いね。賭けたものはいかなる場合でも帰ってこねえ。良いんだな」
『あぁ、じゃ始めようか』
俺がそう言うとおっちゃんは口角をニヤッとあげ、構えると長年鍛え上げられた筋肉が膨れ上がり、さっきまでの優しそうな雰囲気はどこへ消えたのか刺々しい雰囲気を纏った。
何が手加減するだ……ガチで勝ちに来てるじゃねえか。
生まれて16年、この方一度も喧嘩したことねえけど他人の喧嘩の様子は腐るほど見てきた。その様子は今でも昨日のように思い出せる……思い出すんだ。記憶を自分の体へ染みこませろ!
「行くぞ!」
おっちゃんがその場から駆け出した瞬間、体を右側へ傾けるとさっきまで顔があったところにおっちゃんのでかい拳が通過していく。
よく見ろ! 相手の動き、体、筋肉の動きまでその全てを!
俺はおっちゃんの動きを凝視しながら次々に振り下ろされてくる大きな拳を避けていく。
「避けてばっかりじゃ勝てねえぞ!」
『避けつつも勝さ。こうやって!』
「うぉ! おっ! おっ! おっ!」
おっちゃんが放ってきた拳を避けると俺に集中しすぎていたのか目の前に川があることに気づいておらず、川に落ちるギリギリのところで必死に腕を使って体を川から遠ざけようとする。
残念……といや!
「うおぁ!」
後ろから軽く蹴飛ばすだけで筋骨隆々の体を持つ大男が川にドボンと落ちた。
さらに俺はおっちゃんが背負っていた薪木の束から一本、薪木を取り出して川から上がろうとしているおっちゃんの目の前に立ち、思いっきり薪木を振り上げた。
「…………やるじゃねえか。負けで良いぜ」
おっちゃんがそう言ったので振り上げていた薪木を降ろし、川から上がろうとしているおっちゃんに手を差し伸べ、思いっきり引っ張って川から引っ張り上げた。
「んじゃ、この薪木はお前のもんだ」
一本の薪木を手に入れたは良いもののこれからどうすればいいのやら。この世界の基礎的なことは一部知れたけど全部知ったわけじゃないからこれをどこで売ればいいかもわからないし、宿だってどこにあるかもわからん。
さて、これからどうするか。
「この道をまっすぐ行ったところに小さな町がある。そこに行けば大抵のもんは揃ってるから」
『そっか。ありがとな、おっちゃん』
何から何まで世話になったおっちゃんに礼を言いながら俺は町があるという道をまっすぐ進み始めた。
――――――希望に満ち溢れた世界は今までにないくらい眩しく見えた。