初めは全ての血鬼が満足していた。生存戦略としても申し分ない。血液バーの味について多少の不満があれど、みんなが良く働き楽しんでいた。
人間も段々と警戒を解いていき、今では有名な遊園地になっていた。
ドンキホーテ様やサンチョ様も帰って来ると遊園地の近況を聞いてきた。
二人がまた冒険に出かけた頃には幸せな夢にヒビが入っていった。
「第三眷属様、血鬼達の不満が多くなっています。」
「もう少し耐えてください。お父様が帰ってくるまで。」
血液バーの味が相当ひどい。血鬼の本能である欲望が満たされていない。大量の血液バーを貪り耐えているのが現状だ。特に下の血鬼になるほど酷くなる。
「早く帰ってきてください。お父様、サンチョ様。」
遊園地の客が血を流した。事故で血もかなり多かった。それは長く飢えている血鬼にとってはご馳走に映っただろう。近くにいた血鬼達が我先にと這いずり血を舐めた。それを見た血鬼が血の匂いを感じ取り数多の血鬼が血に向かっていった。その事がドンキホーテ様の耳に入り、犯人探しが始まったが結局見つける事はできなかった。ほぼ全ての血鬼がその血を貪ろうとしたから。
そのようなこともあり、サンチョ様から名前を授かる事ができなかった。
血鬼が自分たちの親の意向に歯向かう度胸はない。ご馳走を知り、とても飢えているがパレードは続けなければならない。顔は老いてひび割れ、欲望と恐怖が入り混じった血鬼の声は笑い声に似た叫び声だった。そのような醜い自分を隠すように血鬼は仮面を縫い付けてパレードを行なっていった。
ドンキホーテ様が帰ってきた。謎の仮面をつけて。それを見た自分はドンキホーテ様が第三眷属のように思えた。しかしいつものように出迎え、血液バーなどをどうにかしようと相談しようとした。しかしドンキホーテ様はバリは来ているかとボク達を無視した様な有様だった。
(何故此方を向いてくれないのですか。)
ラ・マンチャランドに入ったドンキホーテ様はとても驚いていた。自身が目指した人間との共存がこんな形になっていたのだから。
ドンキホーテ様に気づいた他の血鬼はとても震えたと同時に武器を作り、ドンキホーテ様に向かっていった。謀反だ。何故か血鬼の本能を無視して動く事ができていた。ボクは呆然とし、ただそれを眺めていることしかできなかった。
ドンキホーテ様とサンチョ様が他の血鬼を殺していく。仲間を大切にするはずの血鬼が身内同士で殺し始めるとは。圧倒的な力を持つドンキホーテ様だったが、サンチョ様と少し話していた。突然サンチョ様が走り出し、ラ・マンチャランドを出ていった。
ドンキホーテ様の力が何故か弱まり段々と血鬼に追い詰められ、そして攻撃が届いた。切られ、貫かれ、砕かれ、裂かれた。まるで今までの恨みを込められたように。
「…………。」
ドンキホーテ様に攻撃を血鬼が続けていた時、ラ・マンチャランドに揺れが走った。辺りを見回すと空が覆われていた。ドンキホーテ様はラ・マンチャランドを閉じていた。ドンキホーテ様が倒れた。
自分たちが閉じ込められたと気づき、血鬼達は察した。自分たちは二度と血にありつけないと。血鬼として生きる事はできないのだと。
倒れたドンキホーテ様は観覧車の柱に括り付けられ、数多の血鬼に杭を打たれた。血鬼達は外に出してもらえるよう、血を貪りたいといったことをドンキホーテ様にぶつけた。
ボクはただ見ていた。狂乱した血鬼達が杭を打ち、飢えに苦しみ、殺してくれと懇願しているところを。
(サンチョ様はお許しにならない、サンチョ様はお許しにならない……。)
髪が伸び、体つきは女性らしく成長するほど永く、ひたすらに耐えた。殺してくれと懇願した血鬼を介錯し、家族を殺した罪悪感と共に。
長く、永くラ・マンチャランドに閉じ込められていた時、ドンキホーテ様に光が差したかと思えば、胸に黄金に輝く枝が生えてきた。
「腹が…空いたな。」
そう呟くと同時にラ・マンチャランドが開いた。ドンキホーテ様は子供たちを許したと同時に夢から覚めた。何も知らない人間が入ってくる。しかし遂に親から許された血鬼は今までの欲望を解放し、人間を殺し、眷属を増やし、血を貪っていった。
ある時、ドンキホーテ様がボクに話しかけた。
「お前は何故パレードに参加しない?何故腹を満たさないんだ。」
「……サンチョ様からお許しが出ていません。」
ある時、ドゥルシネーア様がボクに話しかけた。
「あなた、少しいいかしら。」
「はい、如何しましたか。」
「王子役の血鬼が逃げ出したわ。今、あなたには役割が何もないでしょう。」
「はい。」
「だからあなたには騎士の役割をしてほしいの。」
なんとまあ運命の悪戯だ。あれだけ騎士などに憧れていたドンキホーテ様やサンチョ様より先に騎士の役割を被るとは。ドゥルシネーア様がコーディネートした衣装はまるでバリの服装だった。違うところと言えばその衣装は血のように赤いところだろう。
「あなたもパレードに参加するのよ。」
「…わかりました。」
パレードに来る人間は一般市民からサンチョ様やドンキホーテ様が憧れていたフィクサーと呼ばれる人間が来るようになった。家族を殺されつつ、フィクサーを殺していった。バリがしていた様な攻撃もだいぶ身についてきた。何度も、何度も何度も血を貪ろうとした。しかしボクは血の一滴すら飲めなかった。
(サンチョ様はお許しにならない、まだ…名前を授かっていない…。)
パレードは終わることを知らない。
・ダンテ視点
パレードが開かれていた。一見すると華やかで楽しそうだが、血の匂いが蔓延っていた。血鬼が襲って来るので対応をしていた。
<あれって。>
曲がハイライトに入ると大きな乗り物に大きな傘を持った血鬼とその血鬼より背の小さい、ドンキホーテの劇でシンクレアが来ていた服に似たものを着ている血鬼が目に入った。それぞれ仮面と鎧の兜をつけていた。
「この区域を訪れたフィクサーは全滅したのか…?」
「いいえ、全滅ではなく行列に参加したの。」
日傘の血鬼…ドゥルシネーアが此方を向いて言った。
「血鬼を…私たちを殺すことだけを人生の指標にした者たち。醜くて、哀れね。」
ドゥルシネーアは心底不愉快そうに話した。
「私たちがしようとしたのは再現に過ぎないのに。」
「聞いていて不快感を抑えられぬな。」
ドゥルシネーアの話が終わるや否やドンキホーテが割り込んだ。
「血が飲みたいという些細な欲望で人の命を奪えるのだ!」
「…私は心底あなたが羨ましかったのかもしれない。そして、やっぱり気に入らない。」
その言葉を皮切りに血鬼たちが集まって来る。隣にいる騎士が動こうとするのをドゥルシネーアが制した。
「あなたはまだ動かなくていいわ。」
「…分かりました。」
ドゥルシネーアが乗り物から降り、血鬼を従えてこちらに向かってきた。
<戦うしかないよね。>
「無論である。」
いくつもの血鬼を殺し、遂にドゥルシネーアに傷を負わせる事ができた。
「答えてもらおう。私が何を持っているか、この名前にいかなる重みがあるのか!」
ドンキホーテがドゥルシネーアに尋ねる。
「…この区域にいる血鬼は望んでいるの。私たちが前に進んでいるのではなく…、同じ場所を循環しているということを、忘れるための。そして…あなただけが持っている…。」
「忘却。」
突如、何処からともなく青い血鬼…サンソンが現れた。
「クソッまたかよ。」
サンソンはドンキホーテが冒険談を語ることを望んでいた。
「…今はしたくない。」
「いいえ、それを語るのが貴女の役割でしょう。」
ドンキホーテの冒険談が進むにつれて、私とファウストはサンソンの狙いが明確にわかっていた。ドンキホーテの記憶を忘却の川から引き上げようとしているのだ。
<ドンキホーテ、ダメだ…。やめて…。>
「ダンテ、この流れは必然です。」
他の囚人たちも勘付いてきたのだろう。そしてドンキホーテ自身も。
ドンキホーテの記憶がなんの干渉もなく見える様になった。
「…。」
ドンキホーテの目は赤く光り、周囲にいる他の血鬼を卑しいものを見る様な目つきで見下ろしていた。
「…うん。これでこのカーニバルに必要なすべてのシーンが…全部完成した。」
閉じていた扉が開いていく。錆びた鉄…いや濃い血の匂いが漂う。黄金の枝のオーラと共にドンキホーテの記憶の中で聴き慣れた声が聞こえてきた。
「帰ってきたんだな、吾がサンチョ。さあ今から話しておくれ、君が見た…吾の夢について…。」
その言葉と共に自我心道が現れ、ドンキホーテ…は歩いていった。
<…私たちも行こう。>
ドンキホーテ…は前を塞ぐ血鬼や血袋を瞬く間に彼らを倒して歩いていく。
<…!>
次の瞬間、騎士の血鬼がドンキホーテ…に武器を向けた。
「……親不孝であるぞ。」
「…家族を守るためです。貴女様がいない間、世話をしていたのはドゥルシネーア様と私です。彼らを守る義務があります。」
騎士の血鬼の声は少し震えていた。
「ならば止めて見せよ。」
ドンキホーテ…と騎士の血鬼は武器を出し、戦闘を始めた。
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