「何をしているんだ。」
そう言われて顔を上げてみると、長い銀髪の貴族らしい人が自分の近くに立っていた。
「寝ようとしただけです。」
「そうか。しかしそこに居たままだと凍え死ぬだろう。」
「…。」
全くなんでこの人はこちらに構うのだろうか。しかしあちらの言い分も尤もである。
それもそのはず、自分はこの世から消えようとしているのだ。産まれた時から自分の親は分からなかった。運良く拾われたかと思えば劣悪な環境下で暮らさなければならなかった。しかしここではそのような事は日常茶飯事。だけど自分は何もかも疲れてしまったのだ。
「気にしないでください。貴方もモタモタしていると夜になりますよ。」
「ふむ…。そうだな、では俺の元に来ないか?」
突拍子も無いことを言われ、耳を疑った。
「…貴方はボクが何か企んでいるか考えていないんですか…?」
「なに、心配するな。いざという時はどうにかするさ。」
呆れてしまうと同時にこの人なら今の自分を変えてくれるのではないかと、突拍子も無い考えが出て来た。
「…わかりました。貴方に着いていきます。」
「そうか。では早速行こう。しっかり捕まってくれよ。…そういえば自己紹介を忘れていたな。俺の名前はキホーテ、そこに高貴なという意味をつけてドン・キホーテと言うんだ。」
そういうとドンキホーテは自分を抱えてあっという間に飛んでいった。
「ここだ。ここが俺たちの家なんだ。」
そう言われて見たのは見上げるほどの大きな城だった。貴族が中に入って行ったので自分も城の中に入って行った。
「サンチョ、ドゥルシネーア、戻ったぞ。」
ドンキホーテさんがそういうと、奥から二つの人影が見えてきた。
「全く一体どこで道草を食ってきたのですか。」
「何、父上様…って何故人間がここにいるの?」
「俺が連れて帰ってきた。新しい家族になるんだ。」
自分たちがまるで人間ではないような言い草だった。
「失礼ですが…貴方達は何者ですか?」
そういうと貴族は答えた。
「俺たちは『血鬼』と呼ばれるものだ。」
『血鬼』…人の血を飲み、仲間を増やしていく者たち。噂話しか聞いたことがなかった。
「なるほど…という事はボクは食料という事ですか。」
「いや、違う。さっきも言ったが家族になるんだ。」
家族、自分とは全く無縁だったもの。
「簡単になれるものですか?」
「ああ。」
「…わかりました。」
「よし、ではサンチョとドゥルシネーアのどちらが眷属にするか…。」
「私は既に二人の子供がいます。」
「そうか、ではサンチョ。君だな。」
「嫌です。」
「何故だ?」
「一人が好きですので。それに、私は前を向いて生きていきたいのですから後ろには誰もいない方が良いです。」
「だがそろそろ眷属を作るべきだ。」
「…ならばあまり私と関わらせないでください。」
「ふむ、仕方ないが良いだろう。」
かなり嫌々決まった感じだ。サンチョと呼ばれた人の元に向かった。
「少し痛むが我慢しろ。」
そう言うと同時に首に痛みが走った。噛みつかれているのだ。
「ッ……!」
何かが消える感じがする。それと同時に今いる人たちに家族の情と欲望が芽生えた。血の欲望だ。
「終わったぞ。」
「……はい。お母…。」
言い終わる前にふと思った。あまり関わりを持たないようにと言われた。ならばお母様と言うとよく思われないだろう。
「…失礼しました。サンチョ第二眷属様。」
「よし、新しい家族も増えた。…しかし君、少し汚れているな。新しい服も必要だ。」
「ならば父上様、ニコリーナに服を作らせますわ。」
しばらくしてニコリーナと呼ばれる人が自分の元にやって来た。
「あら、あなたが新しい家族ですの?」
「はい、これからよろしくお願いしますニコリーナ様。」
「ではまずは採寸ですわね!」
そう言われて服を脱いでいく。するとニコリーナの方から驚いた声が聞こえた。
「あら、女の子でしたの!?」
「ええ、まあそうですが…。」
体は成長しきっておらず、一人称もボクだが自分は女だ。
「では服は豪華な感じのドレスにしましょうかねぇ。」
「いえ、サンチョ様のような服で大丈夫です。」
「あら、そうですの?残念ですわ。」
服装は動きやすい方が良いだろう。自分にはあまりドレスも似合わないだろうし。
ドンキホーテ様から時々サンチョ様との関係をどうにか持たせようとされつつ長い時がたった。サンチョ様は眷属を自分以外作らず、自分もまた作らずにいた。城の中で暮らし、時々街に降りては罪人を襲い、サンチョ様やドゥルシネーア様が飲み終わった搾りかすを飲んでいた。そうして変わらぬ毎日を過ごしていると城の外で他の血鬼たちが騒ぎ出していた。
「何かあったのでしょうか。」
どうやら人間がここに向かって来ているらしい。どうするかと考えていると人影が見えてきた。
「血鬼の狩人か。他の子供たちが簡単には通さないはずだが、ここまで来た腕前は認めよう。それで、人間が何の用だ。」
城に乗り込んできた人間は青い髪に青い上着を羽織り、大きな箱を背負っていた。
「私は…あなたと決闘をするために来た。」
話を聞くとどうやら人間と血鬼が争っているらしい。そのどちらにも属さないこちらの勢力を取り込むか討伐をしに来たとのことだった。そして彼女はこちらが必要なものを知っていると言う。
「こちらはそんなくだらない事に付き合う気はないのだが。」
「もしあなたがこの提案を断り眷属に私を殺させたなら、あなたは何も変えることができずに一生を暮らし、私が訪れた日を思い出して後悔することだろうね。」
「あの者は私が静かに処理いたします。」
サンチョ様が人間に向かおうとしていた。
「俺と対等に戦える者はそういないのだが…、その自信に興味が湧いてきた。」
ドンキホーテ様と人間は互いに武器を取り、三日に渡って戦闘を続けた。しかし互いに実力が拮抗し、勝負は決まらずにいた。
「父上様〜、そろそろ休まれては如何ですかぁ。」
「ええ、もう三日は過ぎています。」
ニコリーナ様とクリアンブロ様がドンキホーテ様に言った。
「勝負はまだ決まっていないのだがな。」
「…仕方ない。」
そう言うと人間は武器をしまった。
「こういう時は互いに休息をとってから再戦しなければならない。だからまた来るよ。」
「そのような決まりがあるのか。誰が決めたものだ。」
「フィクサーの規則だ。」
その後、ドンキホーテ様は人間を帰した。
「よろしいのですか?そのまま帰してしまって。」
「…規則と言っていたではないか。」
その後、何度も人間は訪れてはドンキホーテ様と戦い、戦っては帰っていくのを繰り返していた。
「サンチョよ、今は忙しいから会う事はできないと帰らしといてくれ。」
「直接言ってきてください。私もうんざりしています。」
サンチョ様が此方を向いた。
「お前、あの人間に帰れと伝えてこい。」
「何度も言いましたが、少しでも扉を開けると無理矢理にでも入ってきたではありませんか。」
あの人間はこちらが扉を開けない限り帰らずにいるのだ。
「はぁ、そろそろ決着をつけるべきではありませんか?正直に申し上げますが、あなたは人間と長く戦う存在ではないでしょう。」
「そうか?」
「他の子供たちが噂しています。」
確かに他の血鬼やドゥルシネーア様もうんざりしていた。
「…サンチョ、君の子供としっかりと話し合い、仲良くなればいずれわかるだろう。子供が親を悩ます気持ちについてね。」
「分かる気はありません。」
残念だがサンチョ様は自分と関わる気は全く湧かないらしい。
「だが、そろそろ終わらせようとしていたところだ。」
「ボクやサンチョ様、他の子供たちが手伝えばすぐにおわらせることができるのでは…。」
「大丈夫だ。」
そう言うドンキホーテ様の目は前よりも少し輝いているように見えた。
「決闘は公正に行われるべきだと言っていたではないか。」
そう言いつつも決闘は続いて行った。最初はドゥルシネーア様も決闘を見ていたが、いつの間にか見えなくなっていた。
今ではサンチョ様とボクが審判のように時間を測るようになった。
ある時ドンキホーテ様は人間に質問をした。
「フィクサーとは何だ?それがなんだと言ってこんな執拗に面倒くさいことをする必要もないだろう。フィクサーとやらは命を懸けて誓うほどに貴い名誉なのか?」
「…教えてあげようか?」
同時に二人は武器を下ろした。そうして人間はボク達に様々な話を語っては帰って行った。いつしかドンキホーテ様は人間が来るのを心待ちにしていた。
「もはや心待ちにしているのですね。」
「あいつが悪いんだ。あの話をあそこで切られてどうしろと。」
そう話していると扉を叩く音が聞こえた。
「来た、来た。扉を開けておくれ。」
人間が話をしていくたびにドンキホーテ様だけでなくサンチョ様も話に加わっていった。段々とドンキホーテ様と人間が話している場所にサンチョ様が近づいていった。いつの間にかドンキホーテ様は人間を名前で呼び、まるで友達の様になっていた。
「バリよ、君が前に話していた"遊園地"という場所についてもう一回話してくれないか?」
「…これで七回目でございます。」
「仕方ないだろう。お前も見たと思うが英雄譚のどこにも載っていないんだ。」
ドンキホーテ様は特に遊園地という場所やそこにある乗り物についてよく聞いていた。
「俺、良いアイデアが思いついたんだ。」
「なんでございましょうか。」
「…こういう時は聞かなかったフリをしろ。」
「だそうだけど。」
サンチョ様は最近接する様になった気がした。
「俺も作りたいんだ。血鬼と人間が一緒に幸せになる遊園地を。」
そう言うドンキホーテ様はとても輝いた目をしていた。
「名付けるとするなら、『ラ・マンチャランド』だ。」
そう言うとすぐに行動に移すのがドンキホーテ様だった。人間について知るため様々な場所に冒険をする様になった。未だ続いている人間と血鬼の戦争に遭遇すると必ず人間の味方をしていた。最初はドゥルシネーア様やニコリーナ様、クリアンブロ様も連れていったがその内行くのはサンチョ様だけになっていった。
「お疲れ様です。」
「ああ、帰ってきたぞ!」
「ハァ。」
ドンキホーテ様の話し方は以前のような暗さを感じさせない明るくハキハキとした話し方になっていた。サンチョ様は呆れている様子だった。旅から帰ると、旅でしていたことをまとめ、人間…バリが来るのを待っていた。バリが来ると其々が旅で体験したことを話し合っていた。
「サンチョ、そろそろ作る頃合いじゃないか?」
「…もしかして前に話していた遊園地のことですか?」
「そうだとも!」
そうしてこの城を壊し、血液を使って遊園地を建てた。内装や乗り物全てに血液を使った。
「そうだな、人間からはお金ではなく血液を少量もらうのはどうだろうか。」
そうして人間の血を固め、長く保存できる血液バーを開発しそれを遊園地の血鬼のスタッフの食料とした。
遊園地を建てた後もバリは訪れた。新しい冒険談を携えて。それを聞いたドンキホーテ様はさらに冒険に行くようになった。
ボクは遊園地の経営などを担当し、冒険に行く事はなかった。
ある時、ドンキホーテ様と冒険に行く前にサンチョ様がボクと話した。
「お前は名前はあるのか?」
「名前ですか?ありません。不便でしたらどうぞ好きなようにお呼びください。」
サンチョ様とボクはよく話すようになった。しかしボクはまだお母さんとは呼んでいない。サンチョ様が許可を出していないからだ。
「…この冒険から帰ってきたらお前に名前を授けよう。」
「…!ありがたき幸せでございます。」
そうしてドンキホーテ様とサンチョ様は冒険に旅立っていった。