人間を殺しても再生し、こちらが消耗する。そしてサンチョ様の蹴りが体を吹き飛ばす。壁にぶつかった衝撃で兜が欠ける。
「…お前なのか。」
何故その様な目をしているのですか。
「お久しぶりでございます。」
ドンキホーテ様と共にバリの話を聞き、冒険をしていた様な輝いている目ではなく、生きる意味を見出せない時の様な目を。
「サンチョよ。」
ドンキホーテ様がサンチョ様に話しかけた。
「お前が外を彷徨い、吾に体験した冒険をすると楽しみにしていたが、今のお前は…。」
ラ・マンチャランドが動き出す。茨が巻き付いた無機質な建物が現れ、赤い薔薇が咲き誇る。
「吾らと変わらぬ…血を欲する赤い目の病人に過ぎないのだな…。」
私のいる場所がサンチョ様と離れていく。
「…っ!待て!」
「残念ですが、また会うことになるでしょう。」
そしてサンチョ様は見えなくなった。
・ダンテ視点
様々なドンキホーテ…いや、サンチョの記憶が流れてきた。血鬼と人間の戦争、聞いてきた物語の数々…、そしてドンキホーテ、サンチョと共にドゥルシネーアや神父の服装をした血鬼、赤いドレスを見に纏った血鬼、そして1番幼く見える血鬼との会話が流れてきた。
<……。>
ドンキホーテの話を聞いたサンチョは無表情に見える顔に僅かな哀しみが見えた。
「我々は同族に排斥され、人間に醜いとされた存在だ。だが認めよう。ラ・マンチャランドは最初は皆が笑っていたと。少量の血と血液バーで生きられると思っていたから。」
襲って来る血鬼や血袋、大罪を倒しつつ歩みを止めないサンチョについて行く。
突然、幻想体が襲ってきたりもした。
<そういえば、よく見てみると壁にロボトミー社のロゴが見えるね。…どうしてラ・マンチャランドに?>
しかし確信的なものはなく、後回しにすることにした。
またサンチョの記憶が流れてくる。笑い声や愉快な音楽で溢れるラ・マンチャランドが。
「ラ・マンチャランドは我々にとって慣れるものではなかった。食べ物だけでなく幸せとつながる全てが奪われたのだから。」
「そうして…、二人でラ・マンチャランドを出て、冒険に出られたんですね。」
しばらく進むと顔に薔薇を咲かせた血鬼がやってきた。自分たちは笑わないからどの区域にも属さず、収容室に入れられたと話した。
<この収容室、ロボトミー社の隔離室に似ている…。>
イサンが納得した様に話した。
「ならば矢張り、この空間はラ・マンチャランドの封印されし後、その上にロボトミィ社が建設されしと思う。」
だからこそ様々な幻想体が出てきたのだろう。
「なぜ私たちを置いて行かれたのですか。」
薔薇の咲いた血鬼がサンチョに悲痛に聞いた。それを聞いたサンチョは無表情を崩し顔を歪めた。血鬼が集まって来る。まるでサンチョが二度と出て行かない様に。
<みんな、来るよ。>
血鬼を倒し、サンチョについていると角から見覚えのある人物が見えてきた。
「あれって…カミーユさんとポーラさんじゃないですか!?」
二人の顔にはラ・マンチャランドに生えている薔薇と同じものが咲いていた。
「おそらく連続する血鬼との戦闘を切り抜けるためにE.G.Oを使い、侵食されたのでしょう。」
「ただ喰われてしまったのかもしれないが…、栄誉ある戦いだったのかもしれないということには同意する。」
栄誉ある戦いという言葉を聞き、サンチョの方を向いたがなんの感情も込められていない顔で二人をバラバラにして進んでいった。
「うぇー、容赦なー…。」
サンチョの後をついていくと見覚えのある三人の血鬼が見えてきた。
「理髪師…ニコリーナ…。」
「父上は私たちを見ていらっしゃったけどぉ、目はいつも遠いところを見ていらっしゃったのぉ。だから…あれほど行きたがっていた冒険に出ろって言ったのぉ。」
「我々はあの方を誰よりも愛さなければならない存在だった。」
若干の怒りを染み込ませた言葉にニコリーナは叫んだ。
「あんただけじゃない!私たちも愛してたんだってぇ!あんただけじゃない。私たち全員があの方の高貴な子供なのよぉ。」
「お前たちのあの行動は…不孝行だ。」
「…やめて。」
二人の問答にドゥルシネーアが声をかけた。
「この者は、一生理解できない。あなたがロシナンテと一緒に、あれほど夢見ていた冒険に出かけている間、私たちはいた父上と一緒にここに閉じ込められた。」
「ラ・マンチャランドを…閉じられたのだな。」
神父の格好をした血鬼が言う。
「その後は、闇が続いたがゆえに、いくら遺物で禁忌を抑えたとしても父上の胸に杭を打ち込む我々の苦痛は…誰にも分からないでしょう。」
サンチョは怒りを隠さずに話す。
「どけ。あの方と話を付けなければ。」
襲いかかってくる血鬼を退けた。
「この天性を完全に消す方法など存在しなかった。ロシナンテで途方もない夢を見ていただけだった。私は今、目覚めた、裸足で。」
「そうだ、こうして…ラ・マンチャランドは、再び扉を開けたのだよ。」
磔にされているドンキホーテが現れると共に三人の血鬼が再び現れる。
「父上、あの者たちを殺してからぁ、その血をあなたに食べさせてあげましょう。ご存知でしょう、生かしてくれと足掻く人間たちより、私たちを殺そうとする人間たちの血の方がはるかに熱いことをねぇ。」
「君たちの言う通りだ。あの者たちを打ち負かし、ラ・マンチャランドを夢の祭りへと導くのだ。」
ドンキホーテの言葉とともに三人の血鬼は襲いかかってきた。
何度も殺され、蘇り、削り、削られを繰り返してようやく三人にの血鬼を倒した。
「彼らほど力の限り、吾を愛してくれた者たちが他にいただろうか。」
ドンキホーテはそう言うとサンチョの方を向いた。
「サンチョよ、今から突撃するのだ。昔…、巨人たちを打ち破った時の様に。」
サンチョは悟った様な顔でいた。
「私は馬に乗って駆けているかと思っていたが、その場を回っているに過ぎなかった。」
サンチョがこちらを向く。
<駄目だ、ドンキホーテ。あの者の命令を聞いちゃ駄目だ。君は…。>
「もしかすると…『ドンキホーテ』は、私のことを忘れてくれることを望んでいたのかもしれない。だが私はこうしてまた訪れた。」
・とある血鬼視点
遠くからサンチョ様たちを見ていた。ドゥルシネーア様、ニコリーナ様、クリアンブロ様が亡くなった。サンチョ様が仲間である人間に武器を向けて戦っている。容赦なく殺してはまた殺している。
「お仲間すら、家族すら容赦なく殺すのですね。」
しかし私はサンチョ様を害そうとは思っていない。私はまだ夢を見ているから。
(貴女様はまだすべきことがあります。)
人間とサンチョ様の戦闘の途中、人間が何かを語りかけている。その度サンチョ様の顔が歪んでいる。しかしそれは苦しみではなく、期待をしている様に感じた。そして…。
「サンチョ様、貴女は決めたのですね。」
サンチョ様がドンキホーテ様に立ち向かう。ドンキホーテ様も決意した様に、哀しそうにサンチョ様と仲間たちに武器を振る。
観覧車が動き出す。中から血鬼が飛び出し、血を飲もうとサンチョ様たちに襲いかかる。
ドンキホーテ様が地面に足をつけた。そこからの攻撃は激しさを増していった。このラ・マンチャランドはドンキホーテ様の血で作られている。どこからでも血を出し、人間を飲み込んでゆく。その度に復活しては攻撃を再開して行く。
「どちらにも譲れないものがあるのですね…。」
しかし腐ってもドンキホーテ様は第一眷属。巨大な血の塊を作り出し、それをサンチョ様たちにぶつけた。残ったのは時計頭の義体とサンチョ様だけだった。
ドンキホーテ様が義体に向けて血の槍を放つ。
「…っ!」
それをサンチョ様が受け止める。ドンキホーテ様より人間たちの方を庇ったのだ。血鬼としてではなく、人間の仲間として。
(それが貴女様の決意なのですね…。)
しかしだんだんとサンチョ様が押されていく。私はそばにある双剣を繋げて弓とした。そして血で矢を作り、血流によって勢いを増す。
「ドンキホーテ様、多くの不孝行をお許しください。そして…。」
「これが最後です」
・ダンテ視点
どこからともなく赤い閃光がドンキホーテの槍にぶつかり、槍が弾けた。
「お前もそちらに付くのか。」
「いいえ、私はどちらにも付きません。」
飛んできた銀髪の血鬼…服装からしておそらくあの騎士の血鬼だろう。しかしどちらにも付かないのならなぜやってきたのだろう。
「サンチョ…俺…良いアイデアが思い浮かんだ…。」
「…なんでしょうか。」
「今度はまた…何ですか…。」
サンチョと騎士の血鬼は哀しそうに、だけど嬉しそうに聞いた。
「吾と共に槍をぶつけるのだ…力の限り。」
「審判は…私めが。」
「あの時の様ですね…。必ずそうしなければならないのですか…?」
「ああ、吾の天性の力と君の夢、どちらが強いか…。」
そしてドンキホーテはバリの冒険談を聞いた時の様な目でサンチョを見つめた。
「君の夢がどれほど強大でより大きいのか、吾にも見せておくれ。」
「では…始め。」
・とある血鬼視点
決闘はサンチョ様の夢が勝った。主人が力尽きようとしているためラ・マンチャランドは崩れていき、それに伴い血鬼も死んでゆく。私も例外ではない。体のあちこちに血の結晶が生えてくる。
サンチョ様はドンキホーテ様に自分が体験した冒険を語っていた。
(おめでとうございますサンチョ様。貴女様の夢は叶い、そして続いていくのですね。)
父親とその子供の最期の挨拶だ。邪魔してはいけないだろう。
<チクタク、チクタク。>
「…貴女はドンキホーテに…、サンチョに会わなくて良いのかと管理人は聞いています。」
義体の者が聞いてきた。
「冒険談は登場人物と読者がいれば良い。私はその中にいないだけですよ。それでは、サンチョ様をこれからもよろしくお願いします。」
「あぁ…、寒いですね。」
どこかの裏路地へと身を寄せる。自身から生える血の結晶も増えてきた。きっとそろそろなのだろう。視界が暗くなってくる。
ふとキィッと車のブレーキの音が聞こえた。裏路地の住人だろうか。まあもう終わる命だ、どうでも良いか。
流れに身を任せる様にしていると聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「…ここにいたのか。」
声の主を見て思わず息がこぼれた。
「……サンチョ様。よろしいのですか、お仲間が待っているはずです。」
「他の者には話をつけてある。問題ない。」
サンチョ様がこちらに近づいてくる。
「私を…処罰しに来たのでしょうか。」
「違う。」
そう言うとサンチョ様が私の目線に合わせてくる。
「お前にあの時の約束を…名前を付けに来た。」
「……!」
サンチョ様はあの時の約束を忘れてはいなかった。私の…ボクの夢、ボクの生きる意味。
「あの時の冒険ですでに決めていた。」
しっかりと考えてくれていた。ロシナンテを履いた後でも忘れていなかった。その事実で今までの時間が報われた気がした。
「では、お前の名前は……"エトワール"だ。'星'を意味する。」
「…とても…素敵な名前でございます。」
ボクの夢は叶った。だけど長く現実を見てもいた。もう少しだけ…寝ても良いのだろうか。
「エトワール。」
「なんで…ございましょう。」
「最期に'母'と…呼んでくれるか。」
最初は関わりを断とうとしたサンチョ様に自分が母と呼べる日が来るとは。
「…お母…さん。」
「エトワール…。」
いつのまにか寒さが消えて胸の奥に僅かだがしっかりと残る暖かさを感じた。
「最期に…贈り物をしてもよろしいですか。」
・囚人番号3番 ドンキホーテ視点
<話はついた?>
「うむ!感謝するぞ管理人殿。」
唯一の娘の亡骸を埋め、バスは出発した。
「にしても驚いちゃったなー。急にヴェルギリウスにこんな場所に行けって言うんだもん。」
「…ご褒美の様なものだと受け取るといい。」
なんてない話を聞いていると管理人殿が話しかけてきた。
<その赤い薔薇はどうしたの。>
「これか?これは家族の…いや、私の唯一の子供からの贈り物だ。」
赤い一輪の薔薇…『あなたしかいない』
これで本編は終わりとなります。かなり話が飛んだりして状況や感情移入などが難しいと思います。これが限界ですのでご了承ください。
評価、感想待っています。