猫は狼と遊びたい   作:酢酢酢酢酸エチル豆腐

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ゲームで言うところの"ウィッチャーへの依頼"風の回です。
ウィッチャー1のリメイクも楽しみですね。ウィッチャー3同様オープンワールドになるらしいので、ウィッチャーサーガがより追いやすく…


猫は狼と遊びたい7

シントラ方面からブロクリオンの森を避けアメル山脈の峠を南下し、ナザイル北部に入る。道中、ニルフガードの斥候隊とすれ違うが、猫のような敏捷さで回避。国境付近の村で最初の仕事を得た。

 

村の長老の言うところでは、「帝国軍が去った後、夜な夜な屍鬼が出る。戦死したナザイル兵とニルフガード兵の骸をまとめて燃やさず放置したせいだ」とのことだった。焼け出されていて報酬は少ないが、干し肉や保存食の類と馬の飼料がもらえるとのことだったのでタデウスは戦場跡で大規模な群れを相手に銀剣を振るい、イグニで骸を焼き、供養代わりに簡素な祈りを捧げることになった。国境付近の村でこれでは小競り合いどころではない。噂が届くよりも早くニルフガード帝国が進撃しているのだ。

 

ここで彼は地元の噂を聞く—「旧都アッセンガルド近郊のヤレナ谷で古い墓所が暴かれ、幽鬼や悪しきものが目覚めている」

 

タデウスがヤレナ谷の谷間の村落に着いた夕方。村長のヴォルテク・オブ・ヤレナが、村の広場で彼を呼び止める。

 

ヴォルテクは恰幅の良い男で、ニルフガード帝国の目が厳しい中でも比較的裕福に暮らしているようだが、顔色は悪く、目が落ち窪んでいる。

 

「背中に2本の剣、あんたウィッチャーだろう。怪物退治の依頼がある」

 

「聞こう」

 

「シントラとの戦いで亡くなられた以前の御領主様や一族の方々が埋葬されている古い墳墓群で、夜な夜な幽鬼が出るようになった。今や村にまで近づき、子供を怯えさせ、家畜を狂わせている。帝国の巡回部隊も見て見ぬふりだ!頼む、退治してくれ。報酬はノヴィグラド・クラウンとフロレンスで合わせて50枚と出来の良い葡萄酒を樽で出す」

 

場所を村長の家に移し、木のテーブルを挟んで、タデウスと土豪の村長ヴォルテクが向かい合っていた。村長は羊皮紙に書いた簡単な依頼状を差し出しながら言った。

 

タデウスは銀のメダルを指で軽く弾きながら、依頼状を一瞥した。猫のような瞳が細められる。彼はゆっくりと首を振り、乾いた笑いを漏らした。

 

「話にならん」

 

ヴォルテクの眉がぴくりと上がる。タデウスは鞍袋から取り出した干し肉を齧りながら、淡々と続けた。

 

「ドラウナー1匹で、普通は30クラウン前後というのが相場だ。腐った水辺で蠢く怪物一匹の値段だ。今回は 幽鬼の群れ—しかも村にまで降りてきているんだろう?単なる屍鬼の群れとはわけが違う」

 

テーブルに肘をつき、身を乗り出す。

 

「少なくとも100は欲しい。葡萄酒は樽とは言わないから持ってる革袋全てに満杯詰めてくれ。それと、仕事が終わった後、馬の飼料と干し肉、保存の効く食料を十分に支給しろ。命に比べれば安いはずだ」

 

ヴォルテクの顔が赤らむ。土豪らしい恰幅の良い体を揺らして、声を潜めた。

 

「100だと…!? 村の今年の税を払った後で、そんな金は出せん。帝国の巡回部隊がまた来れば余計な金があるのかと嗅ぎ回られる。70に葡萄酒一樽分でどうだ? これ以上は本当に…」

 

タデウスはため息をつき、立ち上がりかけた。

 

「なら結構。俺はメティナ方面へ行く。幽鬼どもが村にまで溢れ出して、家畜が何匹かと女や子供が行方知れずになるのを待てばいい。その後に帝国兵に泣きついてみるんだな。俺には関係の無いことだ」

 

彼が本当に背を向けると、ヴォルテクが慌てて手を伸ばした。

 

「待て! わかった。80までなら何とか、他は言うとおりにしよう。だが絶対に成功してくれ。失敗すれば村は…」

 

タデウスはゆっくりと振り返り、薄く笑った。

彼は右手を差し出し、固く握手を交わした。ヴォルテクの手は汗ばんでいた。

 

タデウスは当初、危険度はともかく話は単純とばかりに依頼を引き受けた。村人たちにも幽鬼が現れる方角や時間帯などを確認していくが1つ気になる話があった。「最近、帝国兵が墓所を荒らしたらしい」「村外れに住む寡婦が時期を同じくして行方知れずになった」というぼんやりした噂だ。村長はタデウスに話していないことがある。

 

夕暮れのヤレナ谷、近くの湖から立ち上る霧が木々の間に這い始めていた。タデウスは廃墟となった元は夏の別荘と思しき残骸に腰を下ろし、鞍袋から錬金道具一式を取り出した。小さな鉄の臼と杵に鍋、ガラス瓶、そしてわずかに残った材料の包み。

 

「幽鬼か〜俺イャーデン苦手だからな〜せめてオイルは用意するか…」

 

彼は独り言を呟きながら、まず熊の脂肪を手に取った。依頼を引き受けた後、森に分け入って仕留めた野熊から採った新鮮なものだ。猫流派のウィッチャーとして、キャラバンで学んだ実利的な調合術を今も忠実に守っている。

 

臼の中に熊の脂肪を入れ、乾燥させたノミノツヅリの花と葉を4つ分、ヤドリギ、狼の肝臓、以前討伐した幽鬼のエッセンスをガラス瓶から注ぎ、丁寧にすり潰す。ノミノツヅリはナザイルの岩場や荒れ地にも自生しており、頑丈かつ生育の良い草で、幽鬼のような魔力体に刃を「通りやすく」する触媒として古くから使われてきた。今回は良い材料を揃えることが出来たので、上質なオイルを作ることができそうだ。

 

リズミカルに杵を動かす音が、静かな谷に響く。タデウスは火打石で小さな焚き火を熾し、鉄の小鍋で混合物を弱火で温め始めた。油が溶け、草の精油が混ざり合う独特の、わずかに甘く土臭い匂いが漂う。

 

「これを刃に塗れば、幽鬼の核を少しはまともに斬れるはず…こいつが命綱だ」

 

彼はクェンの印を軽く切って自分の周囲に薄い防御膜を張り、集中を保った。印の扱いは得意だが、調合中は油断が命取りになる。混合物が適温に達すると、彼は銀の剣を膝に横たえ、布きれに油を染み込ませて丁寧に刃全体へ塗り込んでいった。油が銀の表面に薄く膜を張る。かすかに青みがかった光沢が、夕陽を反射した。

 

「良い材料が手に入ってラッキーだった〜」

 

タデウスは剣を軽く振り、油の付き具合を確かめた。メダルが微かに震える—すでに近くに幽鬼が蠢いている証拠だ。彼は残った油を小瓶にしまい、腰のポーチへ。

 

立ち上がり、モヒカンを撫で付けながら谷の奥を見つめる。白髪が霧に濡れ、猫のような鋭い瞳が細められた。

 

彼は剣を鞘に収めず、右手で軽く構えたまま霧の中へ歩き出した。塗布したオイルのおかげで、刃は幽鬼の魔力体をより深く切り裂く準備ができていた。銀の剣が油によってさらに研ぎ澄まされるはずだ。

 

霧の中を進むにつれ、ウィッチャーのメダルは小刻みに震え続けた。

 

「一匹や二匹じゃないな…」

 

タデウスは低く呟いた。

 

谷の奥には苔むした石造りの墳墓群があった。崩れた円柱と風化した紋章。かつてナザイル北部を治めた領主家の墓所だろう。だが何かがおかしい。

 

墓石の周囲には最近掘り返された土の跡があった。タデウスはしゃがみ込み、指先で土を擦る。まだ数週間も経っていない。さらに近くには鉄製の鏨(たがね)と円匙、そして折れた槌。加えて、恐らくニルフガード軍の軍靴の足跡。

 

「墓荒らしか」

 

猫流派のウィッチャーは鼻を鳴らした。その時だった。霧の向こうから女の泣き声が聞こえた。すすり泣くような、喉を裂くような悲鳴。タデウスは即座に銀剣を構えた。現れたのは白い喪服をまとった女の幽鬼だった。顔は青白く、首には縄のような黒い痣が残っている。

 

しかし、その姿は普通の夜女ではない。周囲の霧そのものが彼女に引き寄せられていた。

 

「厄介だな…」

 

女は突然絶叫した。次の瞬間、墓地中の霧が渦を巻く。

あちこちの墓から青白い影が立ち上がった。

 

男。

 

女。

 

老人。

 

子供。

 

領主一族の亡霊たちだ。

 

タデウスはすぐさまクェンを纏い、全周囲にイグニを放つ。迫る影を吹き飛ばす。だが妙だった。通常であれば一体の強力な幽鬼が周囲の霊を従える。しかしここでは霊たちが互いに争うように唸っていた。まるで別々の怨念が同じ場所に押し込められているようだった。

 

幽鬼を何体か切り捨てて村に戻ったタデウスは聞き込みを始めた。

 

酒場で口の軽い中年男が語った。

 

「帝国兵どもが来たんだよ。二十人ほどだったかな」

 

「何をしに?」

 

「巡回とついでの墓荒らしさ。どこで聞いたのかは知らないが」

 

中年男は周囲を気にして声を潜める。

 

「昔のご領主様方は墓に金細工やら宝石を入れて埋葬されたって話だ」

 

さらに話を聞くと、兵士たちは墓の場所を知らなかった。そこで村に住む寡婦マルヴァを案内役として連れていったという。夫を戦で失い、幼い娘も病で亡くした女だった。

 

「その女は?」

 

中年男の顔色が変わった。

 

「帰ってこなかった」

 

話はそこで終わらなかった。墓荒らしを手伝わせた後、兵士たちは口封じのために女を殺したらしい。遺体も埋葬されず谷に捨てられた。さらに副葬品を運び切れなかった兵士たちは、数日後に再び谷へ戻った。

そして―全員消えた。村長はこれを隠していたのだ。

 

「女物のブレスレット…奪うために腕を切り落としたのか…遺体を燃やして埋葬してやらないと」

 

タデウスは夕刻、再び墳墓群へ向かった。ウィッチャーの感覚で血痕を追って行くと真相はすぐに分かった。墓所のほど近くにまだ新しい腐乱したマルヴァの死体、墓所の奥には干からびたニルフガード兵の死体が散乱しているのを発見した。

 

最初に生まれたのは寡婦マルヴァの幽鬼だった。家族を失い、兵士たちに利用され、辱められ、殺され、弔われもしなかった女。その怨念は彼女を通常の幽鬼を遥かに超える強力な幽鬼へと変貌させていた。

 

彼女は戻ってきた兵士たちを一人残らず惨殺した。そして殺された兵士たちもまた、新たな幽鬼となった。だがそこで終わらなかった。墓を暴かれ、副葬品を奪われた領主家の死者たちまでもが目覚めたのだ。

 

今や谷には三つの怨念が存在する。

 

辱められた寡婦。

殺されたニルフガード兵。

墓を穢された領主一族。

 

それぞれが互いを憎みながらも、生者への怒りだけは共有していた。タデウスは墓地を見渡しながら苦々しく呟く。

 

「まるで"ウィッチャーへの依頼"だな。クエスト名は『三つ巴』推奨レベルは20くらいか?」

 

銀剣を抜く。

メダルが激しく震えていた。

 

最初に現れたのは、若い女性の幽鬼—マルヴァだった。粗末な村の衣服を纏った青白い姿が霧の中で揺らめき、首筋に深く刻まれた斬傷が黒く浮かび上がっている。生前の恐怖と死後の激しい怒りが、その眼に宿っていた。片腕しかなく、爪は霧を切り裂くように異様なほど鋭く長く伸び、恨みの叫びが谷全体に響き渡る。

 

タデウスは即座にクェンの印を切った。橙色の魔力の盾が身体全体を厚く包み込む。得意とする印だけに、防御は安定していた。彼は低く身を沈め、猫流派特有の滑らかな足捌きで横へ移動しながら銀剣を斜め上方から振り下ろした。

 

オイルを塗布した銀の刃が、マルヴァの左肩を深く切り裂いた。魔力体に刃が食い込む感触が手に伝わる。マルヴァの姿が一瞬歪み、悲痛な叫びを上げたが、すぐに霧の中で形を回復させる。

 

タデウスは舌打ちを漏らし、イャーデンの印を試みた。しかし地面に浮かび上がったはずのルーンは弱々しく歪み、すぐに霧に掻き消されてしまった。期待していなかったとはいえ、わずかな苛立ちが胸をよぎる。

その隙を突かれ、マルヴァが再び迫ってきた。タデウスはアードを放ち、空気の爆発で霧を晴らし、幽鬼を後方へ吹き飛ばした。視界が一瞬開けたところで全速力で間合いを詰め、流れるような連続斬撃を浴びせる。右から左へ、回転を交えた斜め斬り、跳躍しての袈裟斬り。猫のように軽やかでありながら、確かな重みを持った剣捌きが、マルヴァの魔力で形成された半実体を着実に削っていく。

 

クェンの盾が何度もマルヴァの爪を受け止め、砕け散りそうになるたびにタデウスはアードの小爆発を挟んで距離を調整した。剣技と印の連携が、彼の最大の強みだった。ついに激しいイグニの炎を浴びせ、銀剣でマルヴァの胸を深く貫く。青白い姿が激しく燃え上がり、長い哭き声を残して霧の中に散っていった。

 

しかし、それで終わらなかった。

マルヴァに殺されたニルフガード兵の幽鬼が、次々と姿を現した。黒い甲冑を纏ったまま、首や胸に致命的な傷を負った姿で浮遊している。目が赤く輝き、屈辱と怒りが濃密に漂っていた。

 

二体は連携して襲いかかってきた。一体が正面から、もう一体が側面から回り込む。タデウスはクェンを張り直して正面の攻撃を受け止め、即座にアードを側面へ放った。爆風で体勢を崩した隙に回転しながら銀剣を横薙ぎに振るう。オイルの効果で刃が深く入り、一体目の幽鬼が魔力の核を断たれて霧に溶けた。

 

残る一体が背後を取ろうとするが、タデウスは素早い後ろ宙返りで回避し、着地と同時にイグニを連続で噴射した。炎の奔流が幽鬼を包み込み、オイルとの相乗効果で激しく燃え上がらせる。タデウスは冷徹な動きで間合いを詰め、最後に銀剣を深く突き刺した。二体目も断末魔とともに消え去った。

 

額に汗が滲み、息がやや荒くなっていた。魔力と体力の消耗を感じながらも、タデウスは剣を構え直し、何度もニルフガード兵の幽鬼を切り伏せた。

 

墳墓の最奥から、強大な気配がゆっくりと浮かび上がってきた。旧領主一族の幽鬼—タデウスが知る由も無いが、シントラとの戦いで戦死したアルドリク男爵とその息子たちと三体の騎士姿の亡霊である。古式の鎧を纏い、墓を暴かれた怒りと領地を失った無念が、冷たい霧をさらに凍てつかせていた。特にアルドリク男爵の姿は大きく、兜の奥の眼窩が真紅に輝いている。

 

タデウスはクェンの盾を最大限に厚く張った。

男爵の亡霊が強力な一撃を放ってくる。彼はアードで衝撃を斜めに逸らし、紙一重で躱した。息子たちの幽鬼が左右から同時に襲いかかり、爪と魔力の剣がクェンの盾を激しく叩く。盾が限界を迎える寸前、タデウスは低く滑るように前進し、アルドリク男爵の脚部を銀剣で薙ぎ払った。オイルが効き、刃が深く食い込む。

 

イグニを広範囲に放ち、三体を一時的に押し返す。イャーデンをもう一度試みるが、やはりルーンはほとんど展開できずに霧に飲み込まれた。彼は自嘲するように小さく息を吐き、猫流派の予測不能な剣技で攻勢に転じた。

 

右から左へ翻るような連続斬撃を浴びせ、アードを小刻みに織り交ぜて敵の動きを乱し、クェンで耐えながらイグニでダメージを蓄積させる。アルドリク公の巨大な攻撃が迫った瞬間、タデウスは全力で跳躍し、体を捻りながら剣を頭上から叩きつけた。刃が兜ごと魔力の核を深く抉る。

 

息子たちの幽鬼が悲痛にのたうちながら迫ってくるのを、クェンで受け止め、アードの爆発で吹き飛ばし、即座にイグニを叩き込んだ。炎の中で銀剣が舞い、息子たちの幽鬼を回転しながら胴体を両断する。

 

最後に膝をついたアルドリク男爵の前に立ち、切先を相手に向けてタデウスは静かに右側の側頭部へと剣を構えた。雄牛の構えである。クェンの盾を維持したまま、最後のイグニを至近距離で放ち、全身で突っ込むような鋭い突きで、銀剣を胸の深くへ突き刺した。

 

男爵の亡霊が大きく仰け反り、激しい炎に包まれて消滅した。谷全体を覆っていた冷たい霧が、急速に晴れ始めていく。タデウスは剣を地面に突き立て、荒くなった息を整えた。身体中に疲労が重くのしかかっていた。クェン、アード、イグニを駆使した激しい戦いは彼の得意分野だったが、イャーデンの不得手が最後まで戦いを長引かせた。

 

彼は銀のメダルを指で軽く弾き、焼け残ったニルフガード兵や墓から暴かれたと思しき骸を集めてイグニの火を放った。掘り返された箇所もできる限り元通りに直していく。墓所を直す作業に汗を流すタデウスを横目に供養の煙が夜空にゆっくりと昇っていく。

 

タデウスは独り、霧の晴れたヤレナ谷の闇の中に静かに佇んでいた。

 

戦いが終わった後も、谷には重い静寂が残っていた。タデウスは剣の油を拭い、荒れた息を整えながらマルヴァの骸が横たわる浅い穴の傍らに近づいた。他の幽鬼たちとは違い、彼女の遺体だけは干からびても朽ちてもおらず、腐乱し、首の傷が暗く残った状態で放置されていた。

 

彼は腰のポーチから小さな銀の女物のブレスレットを取り出した。それは戦闘前に霧の中から見つけた、マルヴァが生前に身につけていたものだった。タデウスはそれを骸の胸の上にそっと置き、イグニを放った。

 

青白い炎が静かに骸を包み込む。ブレスレットごと、ゆっくりと灰になっていく。タデウスは炎が収まるまで黙って見守った。その後、彼は平たい瓦礫を何枚も集め、墓所の外の地面を深く掘り返した。土を掻き分け、十分な深さの穴を作り上げる。灰になったマルヴァの残骸を丁寧に納め、再び土を被せた。最後に瓦礫で簡素な塚を築き、イグニで小さな火を灯して供養の煙を上げた。派手な祈りは唱えなかったが、跪き両手を組み短い言葉だけを低く呟いた。

 

「安らかに眠れ」

 

霧がすっかり晴れた頃、タデウスは馬を引いて村へと戻った。夜明け前の薄明かりの中、村長ヴォルテクの家に到着した。村長はすでに起きていて、緊張した面持ちで彼を出迎えた。テーブルの上に約束の金貨が、その近くに保存食や干し肉、葡萄酒の樽が置かれていた。タデウスは無言で金貨の山を数え、保存食や干し肉共々それぞれを鞍袋に収めた。

 

ヴォルテクがやや早口で言った。

 

「無事に終わったようだな、ウィッチャー。村はこれでようやく平穏を取り戻せる…報酬は約束通りだ」

 

先程まで金貨を数えていたタデウスはゆっくりと顔を上げた。猫のような瞳が村長を射抜く。ヴォルテクの視線がわずかに泳いだ。

 

「…マルヴァのことを最初から知っていたな」

 

静かな、しかし重い一言だった。ヴォルテクの肩がびくりと震える。

 

「帝国の巡回部隊が彼女を連れていったこと、墓荒らしの道案内を強要したことも…お前は黙っていた。依頼のときに一言も触れなかった」

 

ヴォルテクは汗を浮かべ、声を低く抑えた。

 

「言えばお前は依頼を引き受けなかったかもしれん。征服されたばかりで小競り合いがある土地では帝国の目が厳しいんだ。余計なことを言えば、詮索すれば、村全体が罰せられる可能性が…」

 

タデウスは小さく息を吐き、テーブルの端に指を置いたまま動かない。口調は淡々としているが、声の底に冷たい不快感が滲んでいた。

 

「そちらの事情は知らん。だが、幽鬼を生んだ原因を伏せてウィッチャーを呼ぶのは虫が好かん。時に土地に縛られた強力な幽鬼を解放するためには十分に供養し、原因を取り除かねばならない場合がある。それが出来なければ死ぬのは俺だ。それにマルヴァは無力な、ただの寡婦だった。お前は彼女を見殺しにした」

 

部屋に重苦しい沈黙が落ちた。ヴォルテクは額の汗を拭い、必死に言い訳を並べようとしたが、タデウスは片手を軽く上げて制した。

 

「もういい。報酬は受け取った。これで契約は終わりだ」

 

彼は最後に一瞥をくれ、背を向けた。

 

「次に同じことが起きたら…自分たちでどうにかするか、ニルフガードの兵士に泣きつくんだな。被占領地域の民のためにニルフガード兵が命を懸けてくれるかは分からないが」

 

ヴォルテクは何か言いかけたが、結局言葉を飲み込んだ。タデウスは葡萄酒を満たした最後の革袋を馬に固定し、金貨の重みを感じながら村を後にした。朝陽がヤレナ谷を照らし始めていたが、彼の表情は変わらず冷めていた。

 

「この後味の悪さ最悪だな。俺はゲラルトじゃねえんだぞ」

 

独り言を呟きながら、タデウスはメティナ方面へと馬を進めた。銀のメダルが、朝の光の中で静かに揺れていた。

 




ウィッチャー1といえば、ジャック・ド・アルテスベルクは天才なのに3で出てくる炎の薔薇騎士団の残党の体たらくは何?何で麻薬密売組織兼盗賊にまで落ちぶれてるの?Aにごめんなさいして?

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