テレビでは神野の映像が流れ続けていた。その音だけがやけに遠く聞こえる。
「……灰斗」
仁の声が低くいつもの軽さがない。灰斗は端末を見たまま続ける。
「モールだけじゃ足りない」
画面へ設計が並ぶ。《遠隔支援用簡易複製》《同時操作補助》《救助支援増員》。まるで作業の延長みたいに淡々と言う。
「だから、自分を増やす」
「やめろ」
あまりにも強い声。
「でも」
「やめろ」
今度はもっと強かった。
「それは軽く使っていい個性じゃねぇ」
部屋の空気が張りつめる。
「叔父さんは使ってた」
テレビの音だけが流れる。
《避難誘導継続》
《負傷者多数》
現場はまだ混乱している。
「……だからだよ。」
「俺は……あれで壊れかけた……」
「増えた自分が本物か分かんなくなる」
「お前、まだ分かってねぇ」
「増えた奴ら普通に喋るぞ。」
「普通に考える」
「普通に生きてる」
「なのに、消えて泥になる」
「……俺は、あれを何回も見た」
「笑ってた奴が消える」
「喋ってた奴が消える」
「自分なのに消える」
とても重い言葉に部屋の空気が冷える。灰斗は端末を見る。
複製、便利で効率的。人数不足も解決。今までそう考えていた。でも叔父は違う顔をしている。
ニュース映像は崩落現場、瓦礫の下から助けを求める声、搬送遅延、人手不足を流し続けている。
「……でも、今足りてない。助ける側が……間に合ってない。」
その言葉に仁は何も返せなかった。仁がゆっくり座り直し頭を抱える。
「……クソ」
小さく悪態。
「一つ約束しろ」
「増えた奴を“道具”みたいに扱うな」
「消えるとしても」
「そいつは、お前だ」
灰斗にその感覚はまだ分からない。でも叔父にとってそれがどれだけ重いかは伝わった。
神野は今も続いている。灰斗は静かに立ち上がり、モール達が一斉に起動。
カサカサ……整列、待機。
そして
灰斗は初めて人間複製を使うために立ち上がった。端末を閉じる。モールの状態は全部確認済み。
「……行くのか」
仁が言う。声が重い。
「モールだけでも出せる。でも現場判断必要」
「だからってお前が行く必要は」
「ある」
ニュース映像の崩落地帯、搬送遅延、避難誘導不足、灰斗にはそこばかり見えてしまう。戦闘じゃなく支援不足。
それが分かる仁は頭を掻く。
「……クソ」
止めたい。でも必要性も理解してしまう顔だった。
「複製は?」
「なるべく使わない」
「よし……」
仁は立ち上がり帽子を掴む。
「もちろん俺も行く」
「危ない」
「お前に言われたくねぇ」
「……勝手にして」
「する」
いつもの軽さを無理やり戻した笑い方で仁が笑う。
仁がふと振り返り部屋を見る。静かな工房みたいな空間、生活感、守ってきた場所。
「……何も起きなきゃいいんだけどな」
その声だけは少し本音だった。
扉が開く
夏の夜気
神野は、まだ燃えていた。