煙の匂いが濃い神野
夜なのに街全体が騒がしかった。複製された仁達が走り回っている。
「担架こっち!!」
「避難誘導頼む!!」
「そこの瓦礫動かすぞ!!」
全員うるさいけど全員ちゃんと働いている。モール達も連携する。
カサカサ……
搬送、照明、瓦礫固定と支援速度は明らかに上がっていた。
それでも足りない。
「東側崩れた!!」
「人が残ってる!!」
警察の怒鳴り声にそちらを見る。距離があってモールだけでは対応が遅い。
「……っ」
モールを向かわせるのも現場判断する人間が足りない。
別方向でモールが一機転倒。瓦礫が直撃し通信が乱れる。灰斗が反射的に走ろうとすが別の場所でも悲鳴が上がる。処理が追いつかない。
「クソッ!!」
「手が足りねぇ!!」
仁達の言葉で考えてしまう。もし、もう一人、自分がいれば……灰斗は自分の胸へ手を伸ばした。が、
ガシッと強く掴まれる。見ると本体の仁だった。
「やめろ」
「でも足りない」
「やめろ!」
二回目は怒鳴る。周囲は騒がしいのに二人の周囲だけ妙に静かだった。
「もう一人いれば回る」
合理的に考えての事実。仁の顔が歪む。
「必要だからって、超えちゃいけねぇラインがある!!」
珍しく感情的に
「お前、簡単に使いそうだから怖ぇんだよ!!」
仁は叫ぶ
「便利だから!!効率いいから!!それで人格増やしてたら、いつか壊れる!!」
過去の自分へ言ってるみたいに。
灰斗は複製仁達を見る。笑ってる。喋ってる。人を助けてる。でも消える。
「……叔父さんは、怖いのに使ってる。助けるために」
仁は否定できなかった。ゆっくり手を離す。諦めと恐怖が半分半分の苦い顔で。
「……一体だけだ……絶対、道具みたいに扱うな」
本気の重い声に灰斗は小さく頷き、そして……
自分の胸へ手を置き、個性を発動した。
ボコッ
泥みたいな塊が膨らみ人型をつくり……もう一人の灰斗が現れた。
複製灰斗は数秒瞬きをし、周囲を見る。
「……うわ。現場終わってる」
「かなり」
複製灰斗は即座に端末を見る。モール通信確認も被害状況把握も理解が速い。自分だから当然だ。
「東側行ってモール二号回収する」
「頼む」
自分との会話は速い。そのまま複製灰斗は走り出しモール数機が追従する。
カサカサ…………
仁はその背中を見続ける。顔が重いのは、あれはただの便利な分身じゃなく“生きている”と知っているから。
ヒーロー達が駆け回る中、モール達も走り回っている。
「何だあれ!?」
「サポート装備か!?」
ヒーロー側も困惑していたが止める余裕がない。現場は今一人でも手が欲しい。
一方複製された仁達は各所で救助活動を続けていた。
「そっち支えろ!!」
「避難誘導頼む!!」
「ガキ優先!!」
全員うるさいけどかなり有能だった。灰斗はその様子を見る。普通に動いて喋って人を助けている。
複製仁の一人が瓦礫を持ち上げながら笑う。
「お前のモール便利だな!!」
「そう?」
「めちゃくちゃ助かる!!」
普通の人間みたいに会話する。
だが次の瞬間近くで爆発が起き瓦礫が崩落した。複製仁の一人が咄嗟に避難民を庇い、大量の瓦礫が直撃する。
「っ!!」
灰斗が目を見開くが複製仁は笑ったまま叫ぶ。
「避難続けろォ!!」
その身体が泥みたいに溶け始める。叔父は言っていた、“壊れる”と。複製仁は崩れかけながらも人を押し出す。
「走れ!!止まんな!!」
子供を抱えた避難民が逃げる。
ドロッ…
身体が崩れる。最後に複製仁は灰斗を見て、笑った。
「後頼むぞ」
軽い声の後、複製仁は完全に泥になって崩れた。
周囲のヒーロー達も少しだけ動きを止めていた。
「……今の、誰かの個性か?」
誰かは知らないが異様さだけは理解できた。
灰斗は泥を見る。さっきまで喋って笑って人を助けていた。なのにもういない。本体の仁が少し離れた場所から低く言った。
「……壊れた複製は戻ってこねぇ」
仁は知っている。壊れれば終わる。だから増える事は怖い。増えた自分が壊れる瞬間を何度も見てきたから。
灰斗はその泥を見つめたまましばらく動けなかった。
その感覚は
自分の複製とはまるで違っていた。