神野の戦いは夜明け前まで続いた。
街全体がずっと悲鳴を上げているみたいだった。
灰斗はもう一人の灰斗との同時作業を続けていた。複製灰斗は本体とほとんど同じ速度で動く。
「東側搬送終わり」
「了解、次西」
「バッテリー減ってる」
「交換持ってく」
短い会話で判断も速い。モール達も完全に連携している。支援効率は一気に上がっていた。
だが灰斗はもう理解してしまっていた。隣にいる“自分”はただの道具じゃない。普通に疲れて考えて人を助けている。
一方仁も、複数の自分を増やして救助を続けていた。
「担架こっち!!」
「ガキ優先!!」
「逃げろ逃げろ!!」
増えた仁達は最後まで人を助け続けた。その中には瓦礫を支えたまま崩れて消えた複製もいた。避難民を庇って、崩れた複製もいた。
それでも最後まで笑っていた。
灰斗はその光景を忘れられなかった。
そして夜明け前にようやく長かった神野が終わる。
現場には疲弊したヒーロー達が座り込んでいた。警察も救急も限界で誰も余裕がない。
灰斗も壊れたモールを回収していた。何機かは完全に破損している。その横で複製灰斗が最後の搬送補助を終えた。
「……終わったか」
「多分」
複製灰斗は少し空を見る。夜明けの薄明るい空は煙だらけだった。
「便利だったな、これ」
灰斗は答えられない。
「でも、叔父さんが嫌がるの分かる」
複製灰斗は苦笑しながら
「じゃ」
と、まるで帰るみたいに軽い声で崩れ始める。時間切れが来た。
灰斗は見つめる。喋って、動いて、考えていた。なのに消える。
「後よろしく」
そして全身が泥になって静かに崩れた。灰斗はその泥を見下ろし、しばらく動かなかった。
仁が隣へ来る。ボロボロで疲れ切っていた。仁は泥を見て小さく言った。
「……慣れるなよ」
「これに慣れたら、駄目だからな」
灰斗は答えないが、その言葉はかなり深く残った。
数時間後のニュースは神野事件一色になった。
《未確認支援者の存在》
《蜘蛛型支援機》
《複製個性使用者》
映像の端にモール達が映っており増えた仁達も映っている。さらに灰斗自身も、少しだけ映っていた。
数日後
夏休み中だというのに社会はまるで休んでいなかった。テレビ、ネット、全部が同じ話をしている。
《平和の象徴引退》
《神野事件の余波続く》
《治安悪化への懸念》
画面中央には限界を越えたオールマイト 。
『次は君だ』
その映像が何度も流れる。街の空気は変わっていた。
防災用品売り切れや避難用品特集。警備会社の株価上昇まで。
ネットでは「もう安全じゃない」という声が増えていた。
分倍河原家ではテレビの光だけが部屋を照らしている。灰斗は神野で壊れたモールたちを黙々と修理していた。
カサッ
修理済みモールが起動、問題なし。
だが灰斗の手は止まり神野を思い出す。明確に足りなかった。モールがいても、複製がいても、現場全体は回り切らなかった。
「……増やすか」
「嫌な言い方すんな」
ソファから仁が、テレビを見ながら低い声で言う。オールマイト引退特集がずっとやってる。
「社会終わりそうだな」
冗談みたいに言うが半分本気だろう。実際、神野後から治安は悪化していた。“オールマイトがいない”現実が嫌でも実感できる。
「戦うヒーローはいる。足りてないのは別の方」
神野で見た支援不足。戦闘だけでは回らない。
「……お前らしいわ」
その時スマホ通知、送り主は発目明。
《分倍河原さん!!!!》
《学校来れます!?》
《神野版モール改修案できました!!》
《あと試作機暴走しました!!》
「最後なんだ」
《来れば分かります!!》
翌日
夏休み中の雄英高校は普段より人が少ない。だがサポート科実習棟だけは別だ。工具音、爆発音、煙、いつも通り。
「夏休みなのに来てる……」
「サポート科だしな……」
一般科生徒に少し引かれながら実習棟へ入る。
「分倍河原さーーーーん!!!!」
埃まみれの発目が突っ込んできた。目だけは輝いている。
「社会不安!!つまり支援需要増加です!!」
「うるさい」
発目は大量の設計図を広げる。
自律避難誘導型
搬送補助型
通信中継型
瓦礫探索型
「あと爆発機能!!」
「なんで付けた」
「ロマンです!!」
いつものをスルーし灰斗は設計図を見ると神野で足りなかった物ばかり。発目はニヤニヤ笑う。
「足りないなら!!作ればいいんですよ!!」
神野以降社会は不安定になった。
でもだからこそ
必要な物も、少しずつ見え始めていた。