千年後のグルメ時代   作:鳩夜(HATOYA)

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文明の差

 IGO宇宙戦艦団。

 本艦、艦橋。

 

 赤い宇宙図の上に、三つの巨大な反応が映し出されていた。

 どれも母艦級。

 

 そのうち二機が前方。

 一機が後方。

 こちらの進路を正面から塞ぐように並んでいる。

 

「岩剛総司令」

 

 オペレーターが報告する。

 

「そのまま二機、突っ込んできます。一機は後方に配置されています」

 

「ふむ」

 

 岩剛はスクリーンを見つめた。

 

 前に二機。

 後ろに一機。

 前衛が敵を止める。

 後衛が援護する。

 

 あるいは、前の二機でこちらを削り、最後の一機を地球へ通す。

 

「分かりやすい陣形だ」

 

 岩剛は葉巻を口から離した。

 

「だが、我々は数を減らしたい」

 

 敵母艦は最低でも十機。

 そのうち三機は、Aサイトの爆発で消失したと予測されている。

 目の前に三機。

 ここで削れるなら、地球側はさらに有利になる。

 

「そのまま乗ってやろう」

 

「はっ」

 

「最初から全力で行く」

 

 艦橋の乗員たちが岩剛を見る。

 岩剛は笑った。

 

「わしの機体を出す!」

 

「……!」

 

 空気が変わった。

 

「着家(ちゃくや)を出すぞ」

 

「分かりました!」

 

 古参の乗員たちは、すぐに動き出す。

 

「本艦の指揮を副司令へ移行!」

 

「専用格納区画、開放!」

 

「着家、接続準備!」

 

 巨大な本艦の内部。

 通常の戦闘機格納庫とは隔離された区画。

 

 分厚い扉が、ゆっくりと開いていく。

 その奥に。

 

 一軒の家があった。

 家。

 

 そうとしか見えない。

 

 巨大な屋根。

 窓のように並ぶ観測口。

 玄関を思わせる正面装甲。

 煙突のように上へ伸びる複数の推進器。

 

 だが、その外壁を覆う素材は住宅に使うようなものではない。

 

 宇宙航行装甲。

 美食物質複合材。

 食欲エネルギー伝導路。

 全身を巡る無数の機構。

 

 スペースパントリーから溢れ出した情報。

 

 その中に記録されていた、家の形をした獣。

 生物でありながら住処。

 住処でありながら肉体。

 

 その構造思想から生まれた、岩剛専用宇宙戦闘機。

 

 着家。

 チャクヤ。

 

 岩剛は白い軍服の上着を整えた。

 

「総司令、本当にもう出撃を?」

 

「最初から全力と言ったはずだ」

 

 岩剛は振り返らない。

 

「相手は九百年前に地球まで来た連中だ」

 

 葉巻を噛む。

 

「舐めてかかる理由がない」

 

 そして、そのまま艦橋を出ていった。

 

・・・

・・

 

 

 第七部隊母艦。

 

 指令室。

 

「グリブラン隊長!」

 

 オペレーターが声を上げる。

 

「前方に、こちらの母艦に匹敵する敵勢力が二機!」

 

「二機か」

 

 第七部隊隊長。

 グリブラン。

 

 大柄なグリーントロル。

 太い首。

 横に広い体。

 

 頭部には左右非対称の角が伸びている。

 彼は正面スクリーンを見ながら、腕を組んでいた。

 

「このまま進行シマスカ?」

 

 部下が尋ねる。

 グリブランは少し考える。

 

「第五部隊は動けん」

 

 大型槍兵器。

 星穿ち。

 

 センター捕獲のための最重要兵器。

 第五部隊は、その運搬と護衛が最優先。

 

 前線へ出すわけにはいかない。

 

「つまり、こちらは第六、第七」

 

 グリブランは指を二本立てる。

 

「敵も二機」

 

「同じ数で当たることになりマス」

 

「ああ」

 

 グリブランはニヤリと笑った。

 

「だがな……」

 

 指令室の部下たちが注目する。

 

「宇宙での戦いは、個の強さじゃねえ」

 

「……」

 

「技術が進んでいる方が勝つ」

 

「つ、つまり我々は負ケル!」

 

「馬鹿かお前!」

 

 バシン!

 グリブランが隣にいた部下の頭を叩いた。

 

「イタイ!」

 

「なんでそうなる!」

 

「技術が進んでいる方が勝つと……」

 

「だから俺たちの方が進んでんだよ!」

 

「ナルホド!」

 

「本当に分かってんのか?」

 

 グリブランは呆れた顔をする。

 そして、ふと思い出したように言った。

 

「お前、カルダシェフスケールって知ってるか?」

 

「シラナイ……」

 

「馬鹿かお前! 攻める星の情報は入れとけ!」

 

 バシン!

 また叩く。

 

「イタイ!」

 

「カルダシェフスケールってのはな」

 

 グリブランは胸を張った。

 

「文明が、どれだけのエネルギーを扱えるかっていう目安だ」

 

「ホウ」

 

「惑星規模」

 

 指を一本。

 

「恒星規模」

 

 二本。

 

「さらに、その先」

 

 三本。

 グリブランは正面スクリーンに映る敵艦を見る。

 

「地球人類は、まだ完全にタイプⅡ恒星文明まで届いてねえ」

 

「タイプⅡ……」

 

「恒星一個分のエネルギーを完全に扱う段階に、まだ達してねえってことだ」

 

「ナルホド」

 

「対して俺たちは、いくつの星を回ってきたと思ってる」

 

 グリブランは笑った。

 

「星を渡る」

 

「食材を奪う」

 

「文明を潰す」

 

「母艦を作り替える」

 

「何百年も宇宙で戦ってきた」

 

 指令室のグリーントロルたちが頷く。

 

「そんな文明レベルに負けるわけねーだろ!」

 

「オオ!」

 

「カルダシェフスケール!」

 

「カルダシェフスケール!」

 

「カルダシェフスケール!」

 

「うるせえ!」

 

 グリブランが怒鳴った。

 

「さっさと終わらすぞ!」

 

「オオオオ!」

 

 第七部隊母艦は速度を上げる。

 第六部隊も並ぶ。

 

 二機の巨大母艦。

 正面には、地球側の艦隊。

 

 数は同じ。

 だが、グリブランに迷いはなかった。

 

 文明差。

 技術差。

 宇宙戦経験。

 

 その全てで、自分たちが上だと信じている。

 

「主砲、準備!」

 

「ハイ!」

 

「敵の防御圏に入った瞬間、一気に潰す!」

 

「ハイ!」

 

「小型戦闘機も全部出せ!」

 

「了解!」

 

 母艦の側面が次々と開く。

 無数の小型戦闘機が飛び出していく。

 赤い宇宙に、黒い群れが広がる。

 グリブランはそれを見て笑った。

 

「恒星文明にも届いてねえ連中が」

 

 口元を歪める。

 

「宇宙で俺たちに勝てると思うなよ」

 

 その時。

 

「グリブラン隊長!」

 

「なんだ?」

 

「敵艦から、一機が突出!」

 

「一機?」

 

 スクリーンが拡大される。

 敵の本艦から、何かが飛び出している。

 グリブランは目を細めた。

 

「小型戦闘機か?」

 

「……」

 

 オペレーターが黙る。

 

「どうした?」

 

「訂正シマス」

 

「なんだ」

 

「家デス」

 

「は?」

 

「家が飛んできマス」

 

 グリブランはスクリーンを見る。

 

 屋根。

 窓。

 壁。

 煙突。

 

 どう見ても家。

 だが、その家が。

 赤い宇宙を凄まじい速度で進んでいる。

 

「……」

 

 グリブランはしばらく黙った。

 

「何言ってんだ、お前」

 

「映像ノ通リデス!」

 

「いや、家だろ!」

 

「家デス!」

 

「なんで家が飛んでんだよ!」

 

「シラナイ!」

 

「馬鹿かお前!」

 

 バシン!

 

「イタイ!」

 

 飛来する家。

 着家。

 

 その内部。

 岩剛は中央に立っていた。

 

 操縦席はない。

 操縦桿もない。

 

 無数の管。

 壁を走る食欲エネルギー。

 

 床。

 天井。

 柱。

 

 家そのものが、岩剛の肉体と繋がっている。

 

 岩剛は右腕を上げた。

 着家の外壁が動く。

 

 窓のような観測口が一斉に敵を捉える。

 岩剛が腰を落とす。

 

 着家全体が沈むように姿勢を変える。

 岩剛が一歩踏み出した。

 

 ドン。

 

 巨大な家が、宇宙を蹴った。

 加速。

 一瞬。

 

 着家が無数の小型戦闘機の正面へ飛び込む。

 

「さて」

 

 岩剛は葉巻を噛んだ。

 

 正面には、敵母艦二機。

 無数の小型戦闘機。

 

 圧倒的な数。

 

 それを前にして。

 岩剛は笑った。

 

「わしが宇宙戦を教えてやる」

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