千年後のグルメ時代   作:鳩夜(HATOYA)

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グリドの匂い

 エリア0。

 以前来た時と変わらない。

 

 静かだ。

 空気も。

 景色も。

 

 ここだけは地上で戦いが始まっているなんて、まるで知らないようだった。

 

「……あれか」

 

 だが。

 一つだけ。

 

 明らかに違うものがある。

 巨大な槍。

 地上へ突き刺さったはずの槍は、エリア0まで届いていた。

 

「本当にここまで刺したのかよ……」

 

 無茶苦茶だ。

 入口から来れば、食欲を吸われる。

 

 なら、地球そのものを貫く。

 考え方が力技すぎる。

 

「アールシ!」

 

 俺は周囲を見る。

 

「アールシ! いるか!?」

 

 返事はない。

 本棚。

 小さな机。

 以前話した場所。

 だが、姿が見えない。

 

「留守なのか……?」

 

 どこへ行ったんだ。

 その時。

 

 ゴゴゴゴゴ……。

 巨大な槍が振動した。

 

「……!」

 

 俺は構える。

 槍の先端。

 

 そこに線が入る。

 金属が動き。

 

 先端部分がゆっくりと開いていく。

 中は暗い。

 その奥から。

 

 一体。

 

 グリーントロルが降りてきた。

 

「……ふぅ」

 

 大きく息を吐く。

 

「槍の中とはいえ、かなり持っていかれるな……」

 

 大きい。

 

 グリドよりも。

 グリガードか?

 

 いや。

 

「違う……」

 

 俺のグルメ細胞が反応している。

 グリガードじゃない。

 

 それ以上。

 

「グリーントロル……!」

 

 俺が声を上げると、そいつはこちらを見た。

 

「……?」

 

 一瞬。

 首を傾げる。

 

「こんなところに、なぜ子供がいる」

 

「子供じゃない!」

 

 こいつ……俺は眼中にないって感じだ。

 

 グリーントロルは俺から視線を外した。

 

 耳元。

 何か通信機のようなものへ触れる。

 

「こちらグリドーズ」

 

 グリドーズ。

 名前か。

 

「槍を越えられそうな者は?」

 

 少し待つ。

 

「……」

 

 返事はない。

 

「聞こえているか?」

 

 さらに待つ。

 

「……返事がないな」

 

 グリドーズは槍を見る。

 

「やはり、下位の者ではここまで来られんか」

 

 食欲を吸う。

 槍の内部も完全に防げるわけではない。

 

 こいつだけが。

 ここまで来た。

 

「地球は奪わせないぞ!」

 

 俺は両腕を上げる。

 考えている暇はない。

 

「星芯番重!」

 

 黒銀色の番重。

 

 一枚。

 二枚。

 三枚。

 十枚。

 

 グリドーズの真上。

 

「落ちろ!!」

 

 一気に落とす。

 ドォォォン!!!

 

 エリア0の大地が揺れた。

 土煙。

 

 十枚の星芯番重。

 重い。

 

 以前の俺なら、こんな数を同時に出すだけでも苦しかった。

 今は違う。

 

「……やったか?」

 

「随分重いな」

 

「!」

 

 番重が動く。

 下から。

 グリドーズが押し上げている。

 

「だが」

 

 十枚の番重をどかしながら立ち上がる。

 

「その程度か」

 

 まずい。

 本当に強い。

 

 なら。

 

 俺は両拳を構えた。

 

「星芯番重!」

 

 小さな番重を拳へ重ねる。

 

 一枚。

 二枚。

 三枚。

 

 拳を覆うように。

 重さを乗せる。

 

「おおおおお!!」

 

 地面を蹴る。

 グリドーズの顔面へ。

 

 殴る。

 

「遅い」

 

 避けられた。

 

「そんなもの」

 

 グリドーズが横へ動く。

 

「当たらないぞ」

 

 分かってる。

 もう一発。

 

 右。

 避ける。

 

 左。

 避ける。

 

「無駄だ」

 

 拳が空を切る。

 グリドーズは速い。

 俺より速い。

 

 回避も正確。

 だったら。

 

「おおっ!!」

 

 右拳。

 

「またか」

 

 グリドーズが半歩左へ避ける。

 その瞬間。

 

 ドン!!

 

「ぐっ!?」

 

 拳が頬へ入った。

 

「……?」

 

 グリドーズの顔が歪む。

 俺は止まらない。

 

 左。

 ドン!!

 

「なっ!」

 

 腹。

 右。

 肩。

 左。

 顎。

 

 次々と拳が当たる。

 

「な……!」

 

 グリドーズが後退する。

 

「回避は絶対にできている!」

 

 また殴る。

 

「なぜ当たる……ッ!!」

 

 グリドーズの目が動いた。

 

 俺。

 拳。

 

 そして。

 

 足元。

 

「……番重」

 

 気づいたか。

 

 そう。

 

 俺の足元。

 小さな番重。

 

 グリドーズが右へ避ける。

 俺が拳を振る。

 

 同時に。

 

 足元の番重を地面へ押しつける。

 反発。

 

 俺の体が右へずれる。

 拳の軌道ごと。

 

 回避先へ。

 合わせに行く。

 

「貴様……!」

 

「避けるなら!」

 

 左拳を振る。

 グリドーズが後ろへ。

 

 足元の番重。

 斜め前へ押す。

 

 俺の体が一気に前へ進む。

 

「避けた先を殴ればいい!」

 

「無茶苦茶な戦い方を……!」

 

 最後。

 両足。

 

 番重。

 地面へ。

 

 一気に押しつける。

 俺の体が弾かれる。

 

 拳。

 

 星芯番重。

 全体重。

 

 食欲。

 

「おおおおおお!!」

 

 ボゴ!!!

 拳が。

 グリドーズの腹部へ直撃した。

 

「ぐっ……!!」

 

 グリドーズの体が吹き飛ぶ。

 大地を跳ね。

 岩を砕き。

 遠くで止まった。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 俺は拳を下ろす。

 

「まだ死んでないんだろ……?」

 

「……当然だ」

 

 グリドーズが立ち上がる。

 服についた土を払う。

 

 腹部。

 

 少しだけ凹んでいる。

 血も出ている。

 

 だが。

 

 立っている。

 

「お前が近づいて」

 

 グリドーズが言う。

 

「一つ、気になったことがある」

 

「なんだ?」

 

 グリドーズは俺を見る。

 

 いや。

 

 嗅いでいる。

 鼻。

 匂い。

 

 次の瞬間。

 

 表情が変わった。

 

「……なぜだ」

 

「?」

 

「なぜ貴様から」

 

 グリドーズの食欲が膨れ上がる。

 

「グリドの匂いがする!!」

 

「……!」

 

「まさか……」

 

 目が見開かれる。

 

「食ったのか!!」

 

 空気が震えた。

 さっきまでとは違う。

 

 怒り。

 

 本物の怒り。

 

「貴様!!」

 

 グリドーズが吠える。

 

「グリドを食ったのかァァァァ!!」

 

・・・

・・

 

 センター入口付近。

 

「さすがに数が多いな」

 

 メリスタが空を見上げる。

 小型機。

 

 次々と。

 そこからグリーントロルが降りてくる。

 

 一体。

 十体。

 数十体。

 

 まだ増えている。

 

「メリスタ」

 

 ガウンが扇を肩へ乗せた。

 

「最初から行くか?」

 

「ああ」

 

 メリスタは腕を構える。

 

「もちろんだ」

 

「しゃーない」

 

 ガウンが笑う。

 

「付き合うわ」

 

 二人。

 並ぶ。

 グリーントロルの下位戦士たちが走り出す。

 

「ニンゲン!」

 

「コロセ!」

 

「センターヲ奪エ!」

 

 メリスタとガウンは同時に構えた。

 

「悪魔共食――」

 

 黒い食欲。

 そして。

 山を思わせる巨大な香気。

 

「黒き饗宴!」

 

 ブラック・バンケット。

 

「山神供宴!」

 

 さんじんくえん。

 

 ドン!!

 

 メリスタが地面を蹴った。

 

「……!」

 

 一体目。

 

 拳。

 腹部へ。

 

 グリーントロルの巨体が折れる。

 そのまま二体目の顔を掴む。

 

 地面へ。

 叩きつける。

 

「がっ!」

 

 三体目。

 

 蹴り。

 吹き飛ばす。

 その先の四体をまとめて巻き込んだ。

 

「……相変わらずやな」

 

 ガウンが笑う。

 メリスタは止まらない。

 

 黒き饗宴。

 食の記憶を燃やす。

 

 その分。

 力へ変える。

 

 下位戦士。

 一体。

 また一体。

 圧倒的なパワーで次々と倒していく。

 

「ほな」

 

 ガウンも扇を開く。

 

「オレも働くか」

 

 天狗羽団扇。

 大きく振る。

 

「雷颪!!」

 

 かみなりおろし。

 

 ゴォォォォォ!!

 

 風。

 雷。

 空から。

 

 いや。

 

 山そのものが吹き下ろしてくるような突風。

 

「ギャアアア!!」

 

 雷を纏った風が、グリーントロルの軍勢を飲み込む。

 

 一体。

 二体。

 

 次々と吹き飛ぶ。

 地面へ叩きつけられる。

 

「メリスタ!」

 

 ガウンが叫ぶ。

 

「パワー、桁違いになってるな!」

 

 メリスタはグリーントロルを殴り飛ばしながら答える。

 

「ガウン!」

 

「なんや!」

 

「お前もな!」

 

「そらどうも!!」

 

 二人。

 最上位ライセンス美食屋。

 

 センター入口。

 その前で。

 

 グリーントロルの軍勢を迎え撃つ。

 

 一方。

 エリア0。

 

 俺は。

 グリドーズの怒りを真正面から受けていた。

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