第二部隊。
グリガードの母艦。
「主……」
グリガードは、少し離れた場所に座るマザーグリードを見る。
「なぜ、これ以上地球へ近づかないのですか?」
母艦は地球からかなり離れた位置で停止していた。
第一部隊はセンターへ向かっている。
下位戦士たちも次々と地上へ降りている。
だが。
マザーグリードを乗せた第二部隊母艦だけは、一定の距離を保ったまま動かない。
「本来なら」
マザーグリードが静かに答えた。
「私が降りて、すべてを食う予定でした」
「では……」
「ですが」
マザーグリードは自分の腕を見る。
緑色の皮膚。
左右で少し違う太さ。
無理やりグリーントロルを食らって作った仮の器。
「今の私は万全ではありません」
「……」
「八王が万が一介入してくれば、無事では済みません」
「八王……」
グリガードの顔が少し強張る。
九百年前。
地球。
あの怪物たち。
今もどこかにいる。
「本来の姿なら問題ないのですか?」
「器を食べれば負けることはありません」
器。
自分のもの。
本来戻るべき器。
「グリド……奴のせいで計画はめちゃくちゃです」
「グリド……!」
「本来であれば育ててから食いたかった……ですがそんな暇はありません」
繭から消えた器。
それを食う。
取り戻す。
そうすれば。
「主!」
その時。
一体のグリーントロルが指令室へ駆け込んできた。
「グリガード隊長!」
「なんだ!」
「下位戦士が次々と殺されています!」
「何?」
「地上部隊! とても対処できません!」
グリガードが立ち上がる。
「なに……」
信じられないような顔。
「人間相手にか……?」
「ハ、ハイ!」
「何人いる!」
「確認できているのは二人!」
「二人!?」
グリガードの顔が歪む。
下位戦士とはいえ。
数は多い。
それを。
たった二人で。
「グリガード」
マザーグリードが言った。
「あなたも加勢しなさい」
「……はっ!」
グリガードはすぐに頭を下げる。
「小型機を出せ!」
「ハイ!」
「俺も出る!」
「了解!」
グリガードはそのまま指令室を出ていった。
マザーグリードは一人。
静かに。
遠く離れた地球を見る。
「……器。この際一つ目でもよい……」
口元が少しだけ上がった。
・・・
・・
・
・
・
エリア0。
グリドーズはまだ死んでいなかった。
上半身。
下半身。
星芯鋏によって真っ二つになっている。
普通なら。
どう考えても死んでいる。
でも。
グリーントロル。
しかもグリドーズ。
食欲の反応はまだ残っていた。
「……」
俺はグリドーズの上半身を持ち上げる。
「何を……している」
「ちょっと待ってろ」
下半身。
近くへ。
なるべく元の位置へ合わせる。
そして俺は持ってきたセンターを見る。
少しだけ。
まだ残っている。
「これでいいのか……?」
考えても仕方ない。
俺はセンターを持ち上げた。
そして。
「えい」
グリドーズの切断面へぶっかけた。
「……」
「……」
一瞬。
何も起きない。
「だめか? 根本は療水と同じはずだけど……」
だが。
次の瞬間。
「……!」
グリドーズの体が動く。
上半身。
下半身。
切断面からグルメ細胞が伸び始める。
肉。
骨。
血管。
繋がる。
「おお……」
俺は思わず見入った。
すごい。
センター。
本当に何でもありだな。
みるみるうちに、グリドーズの体が元へ戻っていく。
完全ではない。
傷も残っている。
でも。
もう真っ二つではない。
「なぜ助ける……」
グリドーズは倒れたまま聞いた。
「ん?」
「貴様は俺に勝った」
「うん」
「俺は貴様を殺そうとした」
「そうだな」
「なら、なぜだ」
俺は少し考える。
でも。
答えはもう決まっていた。
「お前、グリドの知り合いだろ?」
「……」
「グリドは必死に隠してたけど」
九百年。
空けていた席。
戻ってこい。
昔の約束。
「分かったんだ」
俺はグリドーズを見る。
「グリドにとって、お前は大事な奴だって」
「……グリド」
グリドーズの目が少しだけ動いた。
「お前の言う通り」
俺は続ける。
「俺はグリドを食べたよ」
「……」
「おしりの肉だけだけど」
「……何?」
「臀部の肉」
そして俺は胸に手を当てる。
「そんで、俺の中にいるよ」
グリドーズはしばらく黙る。
そして。
「……ふ」
小さく笑った。
「逃げ道を作っていたのか」
「逃げ道?」
「支配の線から外した肉を残していたのだろう」
「たぶんそうなのかな……?」
「……さすがだな」
グリドーズが目を閉じる。
「グリド……」
その声は。
少しだけ穏やかだった。
「グリドーズ」
「……なんだ」
「お前に、こんなことを聞くのは違うかもしれない」
俺はグリドーズを見る。
敵。
グリーントロル。
地球へ来た。
宇宙のフルコースを集めるために。
でも。
「グリドは俺の大切な師匠だ。仇を討ちたい」
「……」
「マザーグリードを倒したい」
その言葉に。
グリドーズの体が。
ほんの少し。
震えた。
食材を得るために戦う。
強い相手と食い合う。
そして。
死ぬ。
それなら本望。
グリーントロルにとって。
少なくとも、かつての彼らにとって。
それは自然なことだった。
だが。
主の腹を満たすためだけに死んでいった仲間。
食欲を奪われ。
自分の意思を失い。
ただ食われるために集められた兵士たち。
そして。
グリド。
九百年。
主の支配から逃げ続け。
最後には。
自分の意思で主へ刃を向けた。
グリドーズも。
思いは同じだった。
マザーグリードを許してはいない。
許せるはずがない。
「……支配の線がある」
グリドーズが言った。
「線?」
「我らは全員主に繋がっている」
「……」
「絶対に倒せないようになっている」
「そんなものが……」
「攻撃しようとすれば、食欲が止まる」
グリドーズは拳を握る。
「体が動かなくなる」
「……」
「俺では無理だ」
静かな声。
悔しさ。
怒り。
全部。
押し殺している。
グリドーズは俺を見る。
本気ではなかった。
全ての技を出したわけでもない。
それでも。
自分に勝った男。
アマジン。
「マザーグリードは第二母艦にいる」
「……!」
「地球から少し離れた場所だ」
「なんで?」
「八王に気づかれないためだろう」
「八王……」
「今の主は万全ではない」
グリドーズはゆっくりと上体を起こす。
「これを使え」
何かを投げた。
「うわっ」
俺は慌てて受け取る。
小さなデバイス。
「なんだこれ」
「帰還装置だ」
「帰還?」
「第二母艦への帰還座標に設定してある」
「……」
「これで第二母艦へ?」
「行ける。槍の中で使え」
俺はデバイスを見る。
敵の母艦へ行ける。
マザーグリードはそこにいる。
「お前はどうするんだよ」
「……」
グリドーズはしばらく黙った。
そして。
「俺は敗者だ」
「……」
「何もしない」
静かに。
それだけ言った。
俺はグリドーズを見る。
本当に何もしない。
それは。
マザーグリードを助けないということでもある。
「……そうか」
俺はデバイスを握る。
まだ疲れている。
グルメウェアも使った。
体も重い。
でも行く。
「戻るか」
俺は立ち上がった。
センターの入り口。
そして。
第二母艦。
マザーグリード。
俺は槍の内部に移動。
デバイスを起動し、その場から消えた。