第二宇宙研究所。
長い食卓の上には、乗り切らないほどの料理が並んでいた。
肉。
魚。
野菜。
スープ。
菓子。
地球各地から集められた食材を使い、研究所の料理人たちが朝から作り続けたらしい。
ブラウスも最初は手伝っていたが、落ち着いたので一緒に卓へついている。
「うまい!!」
俺は大きな肉へかぶりついた。
「アマジン、まだ食べるんですか!?」
隣に座るブラウスが驚いた顔をする。
「当たり前だろ! あれだけ戦ったんだぞ!」
「そうですけど、もう百人前以上食べてますよ!」
「まだ腹八分目にもなってない!」
「絶対に嘘です!」
久しぶりだ。
こんな風に、何も考えず飯を食うのは。
グリーントロルとの戦いは終わった。
宇宙戦艦団も帰還した。
損害は大きい。
帰ってこなかった人もいる。
ヘイセン隊長。
他にも。
たくさん。
食卓の少し離れた場所には、誰も座っていない席がいくつか用意されていた。
料理だけが置かれている。
岩剛総司令官は、その席を見ながら大きな葉巻を噛んだ。
「食え!」
突然、大声を出す。
「生きて帰った奴は食え!!」
研究所の人たちが岩剛総司令官を見る。
「食って! 飲んで! 笑え!!」
岩剛総司令官は笑った。
「それが生き残った者の仕事だ!!」
「……せやな」
ガウンさんがグラスを持ち上げる。
「ほな、改めて」
周囲を見る。
「いただきますや!」
「いただきます!!」
声が重なる。
俺も。
「いただきます!」
肉を食う。
うまい。
『これうまいな!』
頭の中からグリドの声が聞こえた。
『ミルカも好き』
『わらわには少々味が薄いのじゃ』
『お前文句多いねん!』
『うるさい! わらわは九百年以上食を追求してきた存在じゃぞ!』
『追求ちゃうやろ! 奪ってただけや!』
『なんじゃと!!』
『妹。喧嘩はだめ』
『誰が妹じゃ!!』
「……」
「アマジン?」
「いや」
俺は肉を食べる。
「気にするな」
「また何か増えました?」
「……」
鋭い。
「アマジン?」
「ブラウス! これうまいぞ!」
「話を逸らしましたね!?」
俺は笑った。
本当に。
うまい。
みんなで食う飯は。
やっぱりうまい!
・・・
・・
・・
・・
・
・
・
・
それから――
五年後……俺は二十歳になった。
「でかい……」
俺は目の前の船を見上げた。
本当にでかい。
宇宙研究所の大型格納区画を一つ、ほとんど丸ごと使っている。
黒と白を基調にした船体。
長距離航行用の大型食糧庫。
食材保存区画。
調理区画。
研究室。
居住区。
小型探索船まで積んでいる。
宇宙のフルコースを探す。
そのためだけに作られた大型戦艦。
俺専用。
……いや。
「俺たち専用だな」
「キュイ!」
足元。
はむまるが胸を張っている。
「アマジン」
ブラウスが船を見る。
「本当に船の名前、変えなくていいんですか?」
「なんで?」
「いえ……」
ブラウスが少し困った顔をする。
「大型戦艦ですよ?」
「うん」
「宇宙探索用の最新鋭大型戦艦です」
「そうだな」
「それが……」
船体側面。
大きく書かれている。
宇宙探索大型戦艦。
はむまる号。
「はむまる号……」
「いい名前だろ!」
「悪いとは言ってませんけど……」
「はむまるが船長だからな!」
「キュイ!!」
はむまるが勢いよく鳴いた。
「船長なんですか!?」
「そうだ!」
「初めて聞きました!」
「今決めた!」
「今!?」
「キュイ!」
「本人もやる気だ!」
「操縦できませんよね!?」
「細かいこと言うなよ!」
「船長として一番大事な部分ですよ!」
ブラウスが頭を抱える。
「ええ名前じゃのぉ」
声。
振り向く。
「フワ爺!」
「ほっほっほ」
フワ爺が小さな荷物を持って歩いてくる。
「船長がはむまるなら、わしらも安心じゃな」
「そうだろ?」
「いや、フワ爺まで……」
「名とは案外、その程度で良いのである」
その後ろ。
背筋を真っ直ぐ伸ばした老人。
「トキサダ!」
「久しいな、アマジン」
「久しぶり!」
「うむ」
トキサダは、はむまる号を見る。
「良き船である」
「だろ?」
「名も良い」
「ほら!」
「僕がおかしいんですか……?」
ブラウスが自信をなくしている。
「記録しました」
さらに後ろ。
長い金髪。
黒と白の服。
大きな本を抱えている。
「アールシ!」
「正式名称」
アールシは本へ文字を書く。
「宇宙探索大型戦艦、はむまる号」
「正式記録に残った!!」
ブラウスが叫ぶ。
「もう変更できませんね」
「最初から変える気ないぞ!」
「キュイ!」
はむまる船長も満足そうだ。
「さて」
アールシが本を閉じた。
「そろそろ行きましょうか」
「おう!」
俺たちは船へ乗り込む。
五年。
長かった。
美食屋になった。
グリーントロルと戦った。
マザーグリードを食った。
それから。
本当に色々あった。
宇宙へ出る準備。
船。
食材。
航路。
俺自身も修行した。
ブラウスも、さらに料理人として腕を上げた。
そして。
ずっと待っていた。
この日を。
・・・
はむまる号。
指令室。
「船長!」
「キュイ!」
はむまるが中央の椅子に座っている。
いや。
座っているというより。
丸くなっている。
「寝てません?」
「船長は出航前だから精神を集中させてるんだ」
「寝てますよ」
「キュイ……」
「寝言言ってますよ!」
「静かにしろブラウス! 船長が起きる!」
「僕が悪いんですか!?」
フワ爺が笑う。
トキサダも僅かに口元を緩めていた。
アールシはいつものように本を開く。
「では」
俺たちの前に宇宙図が表示された。
地球。
太陽系。
さらに。
遥か遠く。
一つの星が光る。
「まずは私がいた星」
アールシが指さす。
「レコル星へ向かいましょう」
「レコル……」
「はい」
アールシは少し懐かしそうに星を見る。
「私が生まれた星です」
食が。
記録から消えた世界。
アールシが見た終末。
「そして」
アールシが笑う。
「宇宙のフルコース」
俺は宇宙図を見る。
「そのスープが眠っています」
「……!」
スープ。
宇宙のフルコース。
「いいな……!」
腹が減ってきた。
「ただし」
アールシが言う。
「かなり遠いですよ」
「そうだな!」
俺は頷く。
「途中でうまそうな場所があったら寄り道するからな!!」
「……」
ブラウスが笑った。
「相変わらずですね。アマジン」
「そりゃそうだろ!」
俺も笑う。
「この日をどれだけ待ってたと思ってるんだ!!」
やっと。
始まる。
ずっとやりたかったこと。
宇宙を飛ぶ。
まだ見たことのない星へ行く。
知らない食材を探す。
食う。
ブラウスに料理してもらう。
宇宙のフルコースを集める。
そして。
俺だけのフルコースを作る。
『楽しそうやな、アマジン』
グリド。
『ミルカも食べる』
ミルカ。
『わらわの口にあうものがあれば良いが』
マザーグリード。
「当たり前だろ」
俺は前を見る。
「全部食おうぜ!」
『全部は無理やろ!』
「食えるだけ!」
『言い直した!』
「アマジン行きますよ」
「ああ!」
地球。
父さん。
母さん。
ガウンさん。
メリスタさん。
岩剛総司令官。
たくさんの人。
俺が帰る場所。
だから。
安心して行ける。
「よし!」
俺は前を指さした。
「はむまる船長!!」
「キュイ!」
はむまるが飛び起きた。
「出発だ!!」
「キュイイイ!!」
はむまる号の巨大な推進器が動き始める。
船体が震える。
ゆっくり。
格納区画を離れる。
空へ。
さらに。
宇宙へ。
青い地球が少しずつ遠ざかっていく。
俺は前を見る。
星。
星。
星。
数え切れない。
あのどこかに。
まだ知らない味がある。
まだ知らない食材がある。
俺のフルコースに入る一皿があるかもしれない。
腹が減った。
最高だ。
さぁ。
次は何を食おう――
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
『千年後のグルメ時代』第一部は、これにて完結です。
ここまで130話という長い物語にお付き合いいただき、多くの感想や評価、お気に入り登録をいただけたこと、心より感謝しております。
実は「ここで終わった方が綺麗なのでは……?」と思う気持ちもありました。
それでも、この世界でもう少し描きたいことがあるため、第二部についても少しずつ制作を進めています。
ただ、現時点では投稿時期は未定です。
また第一部のように、ある程度書き溜めてから投稿を始められたらと思っています。
その間は、以前から進める予定だった自作小説のリメイクをのんびり進めつつ、
楽しみながら執筆していく予定です。
(よろしければ、そちらも読んでいただけると嬉しいです。)
改めまして、本当にありがとうございました!