千年後のグルメ時代   作:鳩夜(HATOYA)

146 / 146
ワープロードで!

「ワープロード、ワープキッチンはめちゃくちゃカロリーを消費するんだ」

 

「きゅ!」

 

 はむまるが元気よく鳴いた。

 今のは返事なのか。

 食べ物の話に反応しただけなのか。

 正直、判断が難しい。

 

「だから頼むから、マジで勝手に食うなよ? 計算がおかしくなったら終わりだ」

 

「きゅ!」

 

「……分かってるのか、本当に」

 

「大丈夫ですよ、きっと」

 

 ブラウスが苦笑しながら言った。

 

「はむまるも危険なのは分かるでしょう」

 

「そうだな……」

 

「きゅ!」

 

 はむまるは大きな姿のまま、どこか誇らしげに鳴いた。

 今回、はむまるのサイズはこのままで行く予定だ。

 

 理由は単純。

 荷物持ち。

 いや、正確には食糧庫だ。

 

 地球のフルコースデザート、アース。

 それを、はむまるの頬袋に詰められるだけ詰めている。

 グルメの園で大量に捕獲させてもらった。

 

 もちろん、必要以上に荒らさないように気をつけた。

 はむまるの頬袋は便利だ。

 

 大きな姿になれば、かなりの量を保管できる。

 問題は、たまに中身が減ることだ。

 

「本当に食うなよ?」

 

「きゅ!」

 

「その返事が一番信用できないんだよな……」

 

 俺は少し不安になりながらも、すぐ横にある穴を見た。

 老いの洞穴。

 

 入口というべきか。

 出口というべきか。

 

 グルメの園から、老いの洞穴へ入る。

 

「別に、こちらから探索してもいいですもんね」

 

 ブラウスが洞穴を見ながら言う。

 

「そうだな。任務は人の探索だ」

 

 俺はグルメデバシーを取り出した。

 正式名称は、グルメデバイスシリンダー。

 IGOから届いた任務資料がそこに表示されている。

 

「対象者は最上位ライセンスの美食屋であり……」

 

 画面に名前が出る。

 

「IGO副会長、林膳」

 

「りんぜん……」

 

 ブラウスの表情が少し引き締まる。

 資料にはこう書かれていた。

 

 IGO副会長、林膳。

 

 アースへの道をより簡略化できるか調査している最中に失踪。

 最後に確認された座標は、老いの洞穴。

 

「副会長って、かなり偉い人ですよね」

 

「ああ」

 

 しかも、ただ偉いだけじゃない。

 林膳は実力者だ。

 強さだけで言えば、メリスタ所長を上回ると言われている。

 

「メリスタさんより強いって……」

 

 ブラウスが小さく呟いた。

 

「手加減は難しいかもしれない」

 

「負ける気はないんですね」

 

「まぁな!」

 

 俺は笑った。

 

「俺は宇宙を目指してんだ。まだまだ強くならねーと!」

 

「僕も置いて行かれないように頑張ります!」

 

「おう!」

 

 林膳は、悪魔共食を使わない。

 

 いや。

 正確には使えない。

 

 林膳は黒き饗宴の悪魔に拒否され契約に至らなかったらしい。

 だが、それでも最強格。

 悪魔共食なしで、最上位の中でも頂点に近い男。

 

 資料によると、林膳は食欲エネルギーで木べらを作り出す。

 それを攻撃へ転用するのだという。

 

「木べらって……」

 

 俺は首を傾げる。

 

「料理道具だよな?」

 

「はい。普通は炒めたり混ぜたりする道具ですね」

 

「料理器具で戦うのにメリスタ所長より強いのか……」

 

「アマジンも番重使ってますけどね」

 

 林膳の食欲で作られた木べらは、見た目からは想像できないほどの強度と力を持つらしい。

 

 殴る。

 受ける。

 押し返す。

 料理道具でありながら、武器。

 

「さて」

 

 俺は洞穴を見る。

 

「入るぞ」

 

「はい。とりあえず僕がワープキッチンを開きます」

 

「任せた」

 

 ブラウスが前へ出る。

 両手に食欲エネルギーを込めていく。

 料理人らしい、綺麗な食欲の流れだ。

 すると、俺とはむまるの周囲に、シャボン玉のような空間が広がった。

 

 薄い膜。

 透明。

 

 でも、しっかりと俺たちを包んでいる。

 

「これがブラウスのワープキッチンか」

 

「はい」

 

 ブラウスは集中したまま答える。

 

「あまり早くは進めません。老いの洞穴は時間がかなりぐちゃぐちゃですから、都度調整しなければなりませんので」

 

「おう! 分かってるよ」

 

「きゅ」

 

「はむまるも動かないでくださいね」

 

「きゅ!」

 

「本当にお願いしますよ」

 

 ブラウスが念を押す。

 はむまるは分かっているような顔をしている。

 

 たぶん。

 

「では、いきましょう」

 

 俺たちは老いの洞穴へ入った。

 

・・・

・・

・

 

「うわ……」

 

 入った瞬間、ブラウスが顔をしかめた。

 

「なんだか時間に酔いそうな場所です」

 

「分かる」

 

 俺も思わず眉を寄せる。

 

「なんか気持ち悪いな……」

 

 老いの洞穴。

 

 名前だけは何度も聞いていた。

 だが俺たちはトキサダの抜け道を使った事しかない。

 正面から入るのは初めてだ。

 

 中は普通の洞穴ではなかった。

 壁の色が場所によって違う。

 古く乾いた石のすぐ隣に、まだ濡れたばかりの岩肌がある。

 

 地面には、何十年も前からそこにあったような苔が生えているかと思えば、そのすぐ横に生まれたばかりの芽が出ている。

 空気も変だ。

 

 一歩進むだけで、朝と夕方と真夜中が混ざったような感覚がある。

 

「これ、普通に歩いてたら迷うどころじゃないな。でたら一気に歳を取るのかな?」

 

「とります。ワープキッチンなしで進むのはかなり危険です」

 

 ブラウスは慎重に周囲を見ている。

 シャボン玉のような空間が、洞穴の歪んだ時間を滑るように進んでいく。

 

「とはいえ……」

 

 ブラウスが少しだけ息を吐く。

 

「思っていたよりは、何とかなりそうです」

 

「頼もしいな」

 

「ただ、猛獣とはなるべく戦いたくないですね」

 

「なんで?」

 

「間違ってワープキッチンの外へ出たら終わりです」

 

「……それは嫌だな」

 

 老いの洞穴の中では、場所によって時間の流れが違う。

 外へ出た瞬間、急激に老いるだろう。

 

 逆に、体の一部だけ時間がずれる可能性もある。

 考えただけで怖い。

 

「まぁでも」

 

 俺ははむまるの背の上で腕を組んだ。

 

「大体の猛獣はフェイク・プレデターで追っ払えるはずだ。安心しな!」

 

「その自信はどこから来るんですか?」

 

「グリドの技だからな!」

 

「ふふ。それは確かに頼もしいですね」

 

「きゅ」

 

 はむまるまで頷くように鳴いた。

 お前は食糧を食わないことを第一にしてくれ。

 

 洞穴の奥から、低い鳴き声のようなものが聞こえた。

 俺たちは一度動きを止める。

 

 時間の歪み。

 濃い気配。

 

 どこかに猛獣がいる。

 だが、まだ姿は見えない。

 

「行けるか?」

 

「はい。少し右へ回ります」

 

「分かった」

 

 ブラウスがワープキッチンを慎重に操作する。

 シャボン玉のような空間が、洞穴の壁沿いをゆっくり進む。

 はむまるも大人しくしている。

 

 俺は周囲を見ながら、いつでも番重を出せるように食欲を整えた。

 

 林膳。

 IGO副会長。

 悪魔共食なしの最強の男。

 

 本当にこの奥にいるのか。

 それとも。

 

 もう。

 

「……行こう」

 

「はい」

 

「きゅ」

 

 俺たちは老いの洞穴の奥へと進んでいった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

その美食屋、転生者につき(作者:苦笑いの妖精)(原作:トリコ)

トリコの世界を便利な3つのチートと共に生きていく。▼息抜きに書いた習作です。


総合評価:7498/評価:6.81/短編:14話/更新日時:2026年06月04日(木) 22:26 小説情報

過労死したから美食屋なろう(作者:ボーイッシュ大好きっ子)(原作:トリコ)

過労死したらトリコの世界に転生した男。色々な事に巻き込まれ最終的にGODを目指すことになる話。


総合評価:10016/評価:8.84/連載:16話/更新日時:2026年09月29日(火) 19:55 小説情報

最強はポットクリン(別題:その無敵性を絞り上げる)(作者:淵岳 月夫)(原作:HUNTER×HUNTER)

死にたくない。▼だが、死なないだけでは終われない。▼日本で死に、スラムに生まれ落とされた男は心に生と死の天秤をかかげながら、綱を渡るように物語を歩む。▼目指すのは、まだ見ぬ物語の続き──暗黒大陸。▼※念能力の考察を中心とした話です。考察を元にした独自設定もあります▼※おおよそヨークシン編を本編とする短い連載です▼※ sesamer様の『流れ者の考察記録』から…


総合評価:5366/評価:8.64/連載:7話/更新日時:2026年09月04日(金) 18:02 小説情報

グルメ界で、鹿でしかない(作者:産地直送の焼き鳥)(原作:トリコ)

起きたら背中に森が生えているシカだった。▼夢かと思ったが、しかしシカだった


総合評価:9300/評価:8.79/連載:5話/更新日時:2026年06月25日(木) 20:15 小説情報

ハグキ転生(作者:増えるヤバイ奴)(原作:ワンパンマン)

ワンパンマンに登場する怪人、ハグキになっちゃった転生者が生き抜こうと頑張る話。▼ONE版、村田版ともに最新話までのネタバレを含みます。▼原作既読推奨です。▼【挿絵表示】▼↑主人公ハグキの人間擬態形態『タベル』のイメージです。


総合評価:5449/評価:8.62/連載:21話/更新日時:2026年09月13日(日) 17:17 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>