捕獲レベル。
それはかつて、食材や猛獣の危険度、希少性、捕獲難度を示す指標として広く用いられていた。
大昔の捕獲レベルは、現在のように分かれていなかった。
希少性。
強さ。
生息地の危険度。
捕獲に必要な技術。
調理の難易度。
それらをまとめて一つの数値で表していた。
人間界での最大捕獲レベルは100。
グルメ界での最大捕獲レベルは10000。
当時の美食屋たちは、その数字を一つの目安として食材に挑んでいた。
捕獲レベルが高いほど危険。
捕獲レベルが高いほど希少。
捕獲レベルが高いほど価値がある。
分かりやすい指標だった。
少なくとも、時代が変わるまでは。
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グルメ細胞が一般化してからもしばらくは、この旧来の指標で運用されていた。
生まれた時からグルメ細胞を持つ世代。
ワクチンによって細胞を活性化された世代。
グルメ細胞を持つことが特別ではなくなった時代。
それは人類全体の底上げを意味した。
以前なら危険だった猛獣に、一般人でもある程度は対抗できるようになった。
以前なら一部の美食屋しか入れなかった場所へ、訓練を受けた者なら踏み込めるようになった。
グルメ時代は、さらに豊かになった。
だが同時に、別の問題も生まれた。
なまじグルメ細胞を手に入れた人々は、己を過信するようになったのである。
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捕獲レベル50だから倒せるだろう。
その判断は、以前同じ捕獲レベル50の猛獣を倒したという自信から来ていた。
数字が同じなら、危険度も同じ。
数字が同じなら、自分は勝てる。
そう考える者が増えた。
しかし、捕獲レベルは万能ではない。
同じ捕獲レベル50でも、食材によって中身はまるで違う。
希少性が高いために数値が上がっているもの。
生息地が過酷なために数値が上がっているもの。
戦闘力そのものが高いもの。
群れで行動するため危険なもの。
毒を持つもの。
速度に優れるもの。
硬すぎるもの。
知能が高いもの。
匂いで獲物を誘うもの。
気配を消すもの。
単純な力だけでは測れない危険が、食材にはいくつも存在する。
にもかかわらず、数字だけを見て挑む者が増えた。
匂いを見ない。
動きを見ない。
気配を見ない。
生息地を調べない。
自分との相性を考えない。
ただ、数値だけを見る。
それは、レストランに入る時に口コミの星数だけを見て店を決める行為に等しい。
星が高ければ、自分の舌に合うとは限らない。
有名店だからといって、今日の自分が食べたい味とは限らない。
同じように、捕獲レベルが同じだからといって、同じように捕獲できるとは限らない。
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結果、事故が増えた。
捕獲レベル50の食材を倒した経験のある者が、別の捕獲レベル50の猛獣に挑み、敗北し、喰われた。
捕獲レベル70の植物食材を採取した経験のある者が、同じ数値の肉食猛獣に挑み、跡形もなく消えた。
捕獲レベル40の希少食材を手に入れた料理人が、同じ数値の毒虫を軽視し、治療不能の毒に倒れた。
旧来の捕獲レベルは、戦闘力に比重が高く置かれていた。
しかし、完全に戦闘力だけを表すものではなかった。
その曖昧さが、グルメ細胞を得た現代人の過信と相まって、多くの事故を生んだ。
IGOはこの状況を重く受け止めた。
そして、捕獲レベル表記の見直しを決定した。
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新基準では、希少性と戦力が分離された。
数字は主に希少性、捕獲難度、流通難度、生息環境などを示す。
アルファベットは、対象そのものの戦闘能力、危険度、対処難易度を示す。
これにより、食材の価値と戦闘上の危険性を別々に判断できるようになった。
例えば、数値が高くても強さが低い食材がある。
極めて希少だが、戦闘能力は低い食材。
環境が特殊で見つけにくいが、見つけてしまえば捕獲は容易な食材。
一方で、数値が低くても強さが高い猛獣もいる。
個体数は多いが、極めて危険な生物。
珍しくはないが、並の美食屋では歯が立たない猛獣。
これらを同じ数字だけで扱うことは、もはや危険であった。
新基準の導入により、美食屋たちは数字だけでなく、アルファベットを見るようになった。
希少性を見る。
強さを見る。
自分との相性を見る。
生息地を見る。
そのうえで挑むかどうかを判断する。
この変更により、捕獲事故は大幅に減少した。
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この新基準は、地球上の食材だけでなく、宇宙由来の猛獣や外宇宙生物にも適用されている。
ただし、宇宙由来の存在は解析が難しい。
地球の食材とは構造が違う。
グルメ細胞の反応も違う。
食欲の方向性も違う。
そのため、IGOは取得したデータを元に解析し、暫定的な数値とアルファベットを当てはめている。
この暫定評価は、一般公開されない場合が多い。
理由は単純である。
情報が独り歩きする危険があるからだ。
未確定の数値を見た者が、勝手に安全だと判断する。
あるいは、危険度を過小評価する。
その結果、無用な接触事故が起こる。
特に宇宙由来の猛獣、外宇宙勢力、未確認グルメ細胞生物については、一般向けの情報公開には慎重な判断が求められる。
そのため、こうした情報はまず宇宙食材鑑定キットに反映される。
宇宙食材鑑定キットは、一般の簡易鑑定キットよりも高度な解析機能を持つ。
未識別の食材や猛獣をスキャンし、IGOデータベースと照合する。
照合できない場合は未識別として記録される。
だが、後にIGOの判断により、未識別状態から更新され、データが表示されるようになることもある。
ある時点では不明だったものが、後の解析により名称、分類、捕獲レベル、強さを与えられる。
その情報は、必要な者へ、必要な範囲で開示される。
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捕獲レベルは便利な指標である。
だが、それは食材そのものではない。
数字は味ではない。
アルファベットは匂いではない。
表示された情報は、あくまで入口にすぎない。
食材を見るのは目である。
匂いを感じるのは鼻である。
気配を読むのは経験である。
食べるかどうかを決めるのは、美食屋自身の食欲である。
旧来の捕獲レベルは、人類に多くの食材との出会いを与えた。
同時に、多くの過信も生んだ。
新基準は、その反省から生まれた。
希少性と強さを分けて示すことで、人々はようやく思い出したのである。
数字だけで食材を見てはいけない。
食材は、一皿ごとに違う。
同じ数値の中にも、まったく違う危険がある。
同じ強さの中にも、まったく違う味がある。
捕獲レベルとは、食材を知るための道具であって、食材そのものではない。
それを忘れた時、美食屋は数字に食われる。
そして、それを理解した時、捕獲レベルは初めて美食屋の助けとなる。
――『美食屋を目指す者たちへ』
著:メリスタ