千年後のグルメ時代   作:鳩夜(HATOYA)

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深海オスミウム隕石・一次調査報告

 IGO第二宇宙研究所

 特殊鉱物・宇宙食材複合素材研究班

 一次調査報告書 一部抜粋

 

 対象名。

 

 深海オスミウム隕石。

 

 分類。

 宇宙由来高密度金属食材。

 

 暫定捕獲レベル。

 希少度測定不能。

 危険度、環境依存。

 

 採取地点。

 

 エリア六、ブラックトライアングル深度三万メートル級海底。

 旧ブルーグリル跡地周辺、特殊磁場異常領域内。

 

 概要。

 

 深海オスミウム隕石は、かつて小惑星、あるいはそれに類する高密度天体の中心核であったと推測される宇宙由来鉱物である。

 主成分はオスミウム、イリジウム、ルテニウムなどの超重金属類。

 ただし、通常の金属鉱物とは異なり、長期間にわたりブラックトライアングル深海三万メートル級の超高圧環境に晒され続けたことで、周辺の旨潮、深海グルメ細胞性微粒子、食材化した金属成分と複雑に融合している。

 これにより、単なる鉱物ではなく、食材としての性質を持つ金属塊へ変化したと考えられる。

 

 過去の採取記録。

 

 当該鉱物に関しては、過去にIGO調査隊が複数回採取を試みている。

 しかし、以下の理由により、いずれも失敗している。

 

 一、採取地点が深海三万メートル級であること。

 

 二、周辺水圧が通常装備の限界を大きく超えること。

 

 三、付近の特殊磁場により潜水艦、探査機、キャンピングモンスターの制御系に重大な異常が発生すること。

 

 四、鉱物本体の密度が極端に高く、見た目以上に重量があること。

 

 五、通常切削装備では表面に傷をつけることすら困難であること。

 

 六、強引な破砕を行うと、内部の食材構造が崩壊し、調理器具素材としての価値が著しく低下すること。

 

 したがって、これまでIGOが保有していた深海オスミウム隕石は、海底泥や周辺岩盤に混じって偶然剥離した微小粒子のみであり、拳大以上の塊として採取された記録はない。

 今回提出されたサンプルは、現時点で確認されている中では最大級の採取個体である。

 

 評価。

 

 提出者。

 調査員扱い、美食屋候補アマジン。

 

 同行者。

 料理人ブラウス。

 

 提出物。

 深海オスミウム隕石片、拳大。

 

 重量。

 通常の金属塊と比較して極めて重い。

 

 詳細重量は測定器異常のため再測定中。

 

 食材反応。

 あり。

 

 ただし極めて低活性。

 通常の調理器具、包丁、火力、圧力鍋、分解酵素では反応せず。

 グルメ細胞由来の食欲エネルギーを通した場合のみ、表層に微弱な応答を確認。

 

 特記事項。

 

 提出者アマジンは、当該鉱物を直接摂食し、味および構造を自身のグルメ細胞へ記憶させたと証言している。

 この証言の真偽は現在検証中である。

 通常、当該鉱物を経口摂取する行為は推奨されない。

 歯牙、顎骨、消化器官、グルメ細胞流路の損壊が予想されるためである。

 

 ただし、提出者の食欲エネルギーには深海オスミウム隕石に類似した波形が一部確認されており、証言が事実である可能性は否定できない。

 

 価格評価について。

 本サンプルの市場評価額は、現時点で拳大一個あたり約四千万円とする。

 なお、この価格は素材として完成した場合の価値ではなく、未精錬・未加工・未脱圧状態の研究用原石としての一次評価額である。

 深海オスミウム隕石は、そのままでは調理器具にも武器にも使用できない。

 

 使用可能な素材へ変換するためには、以下の工程が必要となる。

 

 一、深海圧力記憶の安定化。

 

 二、特殊磁場の除去または調律。

 

 三、金属食材としての毒性検査。

 

 四、グルメマテリアル合金との馴染ませ処理。

 

 五、調理器具化に耐える形状加工。

 

 六、使用者の食欲エネルギーとの相性調整。

 

 特に一と二の工程に莫大な費用がかかる。

 深海オスミウム隕石は、通常の金属鉱石と異なり、海底三万メートルの圧力を内部に記憶している。

 これを無理に加工すると、加工器具が破損するだけでなく、素材内部の旨味構造が崩れ、ただの重い金属塊へ劣化する。

 

 そのため、専門設備による長期安定化処理が必須である。

 

 また、特殊磁場を帯びたままでは、現代調理器具、保存ケース、グルメデバイス、研究所機器に異常を及ぼす危険がある。

 これを安全な状態まで落とすには、高額な中和処理が必要となる。

 

 以上の理由から、未加工状態での買取価格は、希少性に対して低く抑えられている。

 

 これは価値が低いという意味ではない。

 

 むしろ、加工後の価値は計算不能である。

 ただし、加工に成功するまでの費用、時間、失敗リスクが極めて大きいため、原石段階では研究機関向けの限定価格として扱われる。

 

 補足。

 

 料理人フワ爺の見解によれば、当該鉱物はグルメマテリアル合金へ少量混ぜることで、通常の包丁、鍋、砥石、圧力調理器具とは別次元の強度と食材親和性を生む可能性がある。

 ただし、混合比率を誤ると、完成品が重くなりすぎ、通常の料理人では扱えない。

 したがって、実用化には素材そのものの価値だけでなく、使用者側の力量も問われる。

 

 総評。

 

 深海オスミウム隕石は、現時点では金属、鉱物、食材、宇宙物質のいずれにも完全分類できない。

 採取難度、加工難度、食材としての扱い、いずれも極めて高い。

 今回の拳大サンプル採取は、単なる鉱物回収ではなく、ブラックトライアングル深海三万メートル級における、初の実用サイズ回収事例である。

 

 評価額四千万円。

 

 ただし、これはあくまで未加工原石としての価格である。

 加工に成功した場合、その価値は数十倍、あるいは数百倍に跳ね上がる可能性がある。

 

 追記。

 

 提出者アマジンは、当該鉱物片を複数回にわたり追加採取した。

 本人は「フワ爺にあげる」「ブラウスも使えるかもしれない」と発言していたとのこと。

 担当研究員所感。

 

 価値を理解しているのか、していないのか判断に困る。

 ただし、食材への感謝と提供者への礼を優先する姿勢は、美食屋候補として高く評価すべきである。

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