第二宇宙研究所。
秘匿調査資料。
閲覧権限――第二宇宙研究所所長、宇宙戦艦団総司令官、IGO上層部指定者のみ。
対象者。
アマジン。
十五歳。
美食屋候補。
現在までに確認された地球のフルコース摂取履歴。
エア。
ペア。
アトム。
アナザ。
ニュース。
調査開始理由。
ニュースビオトープにおけるグリーントロル下位戦士との接触。
同区域における第二部隊隊長格個体との接触。
当該個体消失後の空間転移現象。
黒き饗宴による観測不能事例。
並びに、対象者周辺に見られる外宇宙由来グルメ細胞反応の疑い。
出生時記録照会。
対象者アマジンは、通常の出生記録を有する。
父母ともに一般市民。
出生時の身体的異常なし。
成長過程における重大疾患なし。
グルメ細胞ワクチン接種記録あり。
ただし、出生直後の初期グルメ細胞適合検査において、一瞬のみ原因不明の異常値を記録。
記録時間、0.02秒未満。
数値は即座に正常範囲へ復帰。
当時は測定機器の瞬間的誤作動、または新生児特有の細胞揺らぎとして処理。
再検査結果、異常なし。
以上により、当該記録は医療監査対象から除外されていた。
追加照会。
対象者出生時期と同時期。
同地域内で出生した複数の新生児に、類似する微弱反応を確認。
反応はいずれも極短時間。
ほとんどは初回検査時のみ記録。
再検査では消失。
該当者の大半は現在も一般生活を送っており、特異な戦闘能力、異常食欲、外宇宙由来反応の継続は確認されていない。聞き取り調査も追加で実施予定。
共通点。
当時、同地域の妊婦に対して推奨されていたグルメ細胞安定処置。
および、新生児向けグルメ細胞ワクチン素材の一部ロット。
対象者アマジンの母体も、同処置の対象者であった。
また、対象者アマジンにも該当ロットの関連処置記録が存在。
現時点で、当該処置および素材に違法性は確認されていない。
IGO認定基準を満たしており、当時の検査体制では異物混入、外宇宙由来因子、未知のグルメ細胞反応は検出されていない。
しかし、対象者アマジンの現在値は、出生時の一瞬の反応とは比較にならない。
反応は拡大。
安定。
かつ、対象者本人の食欲エネルギーと深く結合している。
外部から植え付けられた異物としてではなく、対象者の身体機能の一部として振る舞っている可能性が高い。
所見。
出生時に記録された異常値と、現在の対象者に確認される反応が同一系統である可能性あり。
同時期・同地域における複数反応との関連性あり。
妊婦向けグルメ細胞安定処置、ならびにワクチン素材ロットとの関連性について、追加調査を要する。
なお、対象者の両親への聞き取りでは、出生および育児過程における意図的な隠蔽、外部組織との接触、特殊な食材投与等は確認されなかった。
母親証言。
「普通に生まれて、普通に泣いて、普通にお腹を空かせていました」
父親証言。
「よく食べる子ではありました。でも、私たちにとっては普通の息子です」
以上の証言に矛盾なし。
対象者アマジンは、戸籍上、医学上、家庭環境上、両親の実子である。
ただし、対象者のグルメ細胞形成過程において、何らかの未知因子が混入した可能性は否定できない。
第二宇宙研究所所長メリスタ所見。
「十五年前の異常として処理するには、反応の性質が古すぎる」
「これは新しい病ではない」
「もっと深い。もっと遠い。地球の食材循環そのものに潜っていた何かだ」
調査方針。
一、当時の妊婦向けグルメ細胞安定処置の全記録確認。
二、該当ワクチン素材ロットの製造履歴確認。
三、素材供給元の食材流通経路確認。
四、同時期・同地域出生者の追跡調査。
五、対象者アマジンのフルコース摂取後数値推移の継続観測。
六、グリーントロル由来反応との照合。
七、外宇宙悪魔因子との関連性について、黒き饗宴を含む観測手段の再検討。
ただし、現時点で対象者本人への告知は保留。
理由。
対象者は現在、地球のフルコース捕獲任務中。
グリーントロル軍勢の再侵攻予定時期まで猶予なし。
精神的負荷を与える情報開示は、時期を慎重に判断する必要あり。
補足。
対象者アマジンの反応は、食材摂取のたびに増幅している。
エア以降、呼吸機能の異常向上。
ペア以降、基礎身体能力の上昇。
アトム以降、美食物質感知能力の拡張。
アナザ以降、無味・鉱物・圧力への味覚反応。
ニュース以降、裏の世界入口への感覚反応。
推定。
対象者は、未知因子を排除しているのではない。
食べることで育てている。
以上。
調査継続。
次回照会対象。
該当ワクチン素材ロット。
妊婦向けグルメ細胞安定処置の原材料。
ならびに、その供給源。
記録者注記。
この反応が、何に由来するものかはまだ断定できない。
だが一つだけ、現時点で言えることがある。
対象者アマジンは、単なる異常値ではない。
食卓を得て育った結果である。