孤高のディザード、吸血鬼の築く理想郷   作:うまみちゃん

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14.歪む兵站と、ジオンの猜疑

「……おかしい。いくらなんでも、計算が合わなすぎる」

 

宇宙世紀0079年10月。ジオン公国軍のオデッサ鉱山基地司令、マ・クベ大佐の執務室には、1枚の奇妙なアステロイドベルト(小惑星帯)の資源採掘報告書が広げられていた。

 

ジオン公国が地球連邦に対して物量で劣りながらも互角以上に戦えているのは、小惑星アクシズを拠点としたアステロイドベルトからの資源採掘、および地球圏の暗礁宙域に漂うデブリ(宇宙ゴミ)の徹底的な回収・再利用ルート(リサイクル)が確立されているからだ。

 

しかし、ここ数ヶ月、ジオン軍の資源採奮船団や、デブリ回収を専門とする作業部隊からの「行方不明」および「原因不明の通信途絶」の報告が、統計学的な許容範囲を遥かに超えて急増していた。

 

「事故? あるいは連邦の伏兵か? ……いや、違うな。ミノフスキー粒子の散布下だとしても、戦闘が行われれば何らかの熱源や救難信号の断片が残るはずだ。だが、彼らはまるで、最初からそこに存在しなかったかのように『煙のように消えている』」

 

マ・クベが訝しむのも当然だった。

ジオン軍が資源を求めてアステロイドベルトの未開拓宙域や、サイド4の凄惨なデブリ帯に深く足を踏み入れるたび、彼らはエリュシオンの「生体デブリ防衛網」の絶対不可侵圏に無自覚に接触し、音もなく、光も残さず、丸ごと「収穫(下位眷属化・資材化)」されていたからだ。

 

地球圏の半分を焼き尽くす大戦の裏で、ジオンの兵站を支えるアステロイドベルトの採掘効率が目に見えて低下し始めていた。ジオン上層部は、この未知の「資源のブラックホール」の正体を突き止めるため、ついに本格的な調査部隊の派遣を決定する。

 

 

「お姉様、ジオン公国軍の動きに異変があります」

 

エリュシオンの情報解析室で、リリィが険しい表情でモニターを見つめていた。

諜報部「黒の触手」がジオン本国の通信を傍受した結果、アステロイドベルトの採掘ルート周辺の不審な消失事件を調査するため、ゲルググを中核とした強襲偵察小隊が、エリュシオンの防衛外縁部に向け発艦したことが発覚したのだ。

 

「……流石に気づかれたか。ジオンの兵站を締め付けすぎたわね。気弱なおっさんとしては、ジオンの技術力(ゲルググ)には極力触れたくなかったんだけど」

 

ルクレツィアはディザードのコックピットに滑り込み、シートのホールドベルトを小さな身体で締め直した。

相手は一年戦争最強クラスのモビルスーツ、ゲルググ。

これまでの汚職兵や民間難民のように、生体デブリの奇襲だけで「目撃者ゼロ」で片付けるのはリスクが高い。

 

「エレン、レムレスのフレームを展開しなさい。リリィ、下位眷属たちに『網』を絞らせて。……私たちの城の存在をジオンに持ち帰らせたら、明日にはギレン・ザビが艦隊を率いてここを消しにくるわよ」

 

「了解、お姉様。亡霊の本当の恐怖を、彼らに教えてあげましょう」

 

暗黒のアステロイドベルト。

3機のジオン軍のゲルググが、ミノフスキー粒子を濃密に散布しながら、静かに岩塊の隙間をすり抜けていく。

 

「隊長、やはり何も映りません。連邦の待ち伏せという線は薄いかと……」

 

「油断するな。レーダーが使えん以上、目視の警戒を怠るな。この宙域には『何か』がいる」

 

ジオンのパイロットの直感が、背筋に冷たいものを走らせていた。

次の瞬間、彼らの眼前にあった「直径数百メートルの巨大な岩塊(宇宙デブリ)」が、不気味な金属音を立てて滑らかに変形・延伸を始めた。

 

「な、何だ!? 岩が……変形しているのか!?」

 

彼らが見たのは、ムーバル・フレームを応用してデブリ形態から戦闘形態へとトランスフォームした、隠密輸送艦『レムレス』の禍々しい姿だった。

 

さらに、周囲に漂う数千の鉄屑や小石が一斉に真紅に発光する。息を潜めていた数千の下位眷属たちが、宇宙空間を生身で跳躍し、ゲルググの全身に文字通り「肉の壁」となって取り付いた。

 

「うわあああ! 人間が、人間がモビルスーツの関節に挟まって……! 駆動系が、油圧が効かねえ!」

 

どれだけビームナギナタを振り回そうとも、熱源も出さずに闇から無限に湧き出る不老不死の兵士たちの物量に、ジオンのエースたちは完全に動きを封じられた。

 

「……チェックメイトね」

 

その混乱の極みの中に、赤色のヘビーメタル――ディザードが音もなく滑り込んできた。

ビームコートにより、ゲルググのビームライフルを浴びても不気味にその光を歪ませ、傷一つ付かない。

 

ルクレィアが操縦桿のトリガーを引く。

『スーパーロボット大戦仕様:パワーランチャー、射程・命中補正最大』。

 

ガンダム世界の物理法則やミノフスキー粒子のジャミングを完全に無視し、システム的に「確定」された極太のビームが、宇宙の闇を裂いた。

1歩も動けないジオンのゲルググの四肢と頭部メインカメラが、爆発すら起こさせない驚異的な精密さで一瞬にして消し飛ばされる。

 

「バ、バカな……! ミノフスキー粒子の中で、これほどの超長距離から、ピンポイントで駆動系だけを狙撃したというのか……!?」

 

ダルマにされたゲルググのコックピット内で、ジオンの隊長は絶望に白目を剥いた。

科学の粋を集めた彼らの最新鋭MSは、スパロボのシステム的暴力と、吸血鬼のオカルトによって、文字通り「子供の手遊び」のように無力化されたのだ。

 

レムレスの地下ドックに、五体不満足に破壊された3機のゲルググと、気絶したジオンのパイロットたちが収容された。

 

「お姉様、素晴らしい戦果です。ジオン最新のビーム兵器のジェネレーターと、高機動スラスターの現物が、傷一つない状態で手に入りました」

 

エレンが興奮を隠せない様子で、ゲルググの解体作業の指示を出す。

だが、おっさんはコックピットから降りると、険しい顔のままリリィを見つめた。

 

「笑っていられないわ。ジオンのトップクラス(マ・クベやギレン)が、アステロイドベルトの資源不足を本格的に疑い始めた。この調査隊が未帰還になれば、次は偵察ではなく『威力偵察の艦隊』が来る」

 

徹底的な隠蔽主義は、ジオンの兵站を脅かしたことで、限界を迎えつつあった。

おっさんの中の冷静な魂が、生存のための「次のフェーズ」への移行を告げていた。

 

「リリィ。捕らえたジオンのパイロットたちの脳に、あなたの『精神暗示(絶対遵守)』を深く焼き付けなさい。彼らには、偽造した偵察データをジオン本国に報告してもらうわ。『該当宙域は連邦軍の極秘の機雷原であり、接近は不可能』とね」

 

そして、おっさんは傍らに控える、元連邦の老外交官の顔を見た。

 

「外交官。ついに、あなたが数十年かけて準備してきた『ハッタリの外交書類』を使う時が来たみたいよ。ジオンがこれ以上アステロイドベルトの私たちの領域に踏み込んでくるなら……私たちはジオンの背後を突き、連邦軍と手を組んでジオン公国を挟み撃ちにする用意があるという『亡霊の脅迫状』を、彼らの喉元に突きつける準備を始めなさい」

 

一年戦争の終盤。連邦とジオンが地球圏で血で血を洗う中、アステロイドベルトの暗闇の中で、ジオンの猜疑心を逆手に取ったおっさんの「第三の国家」が、ついにその巨大な影を世界に現そうと、静かに冷酷な牙を剥き始めていた。

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