孤高のディザード、吸血鬼の築く理想郷   作:うまみちゃん

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16.敗残兵の到来と、アステロイドベルトの地殻変動

宇宙世紀0080年3月。

地球連邦軍とジオン公国軍の間で「グラナダ条約」が締結され、一年戦争は公式に終結した。しかし、それは地球圏における戦火の一時的な消火に過ぎず、宇宙の深淵では新たな不穏な火種が燻り始めていた。

ジオンの敗戦に伴い、ギレン派やドズル派の残党、そして本国を追われた数万人規模の軍人や民間人が、地球圏を脱出。彼らが目指した安住の地は、かつてジオン公国がアステロイドベルトに築いていた採掘小惑星――「アクシズ」だった。

 

「お姉様。ついにお出ましです」

 

エリュシオンの情報解析室で、リリィが冷淡な声で告げた。

諜報部「黒の触手(ウーブラ・テンタクル)」のモニターには、ボロボロに傷ついたチベ級重巡洋艦やムサイ級軽巡洋艦、そして数多の徴用船からなる巨大な船団が、エリュシオンの「生体デブリ防衛網」から僅か数光秒しか離れていない宙域へ滑り込んでいく光景が映し出されていた。

 

数万人の難民を乗せた小惑星アクシズの到来。

それは、おっさんが数十年かけて築き上げてきた「静かな生存圏」のすぐ隣に、武装した巨大な軍事国家の卵が突如として引っ越してきたことを意味していた。

 

「やれやれ、むさ苦しい敗残兵どもが、こんな田舎(アステロイドベルト)に大挙して押し寄せてくるなんてね。気弱なおっさんとしては、そのまま通り過ぎてほしかったんだが」

 

ディザードのコックピットで合成血液を啜りながら、ルクレツィアは溜息をついた。

アクシズの指導者であるマハラジャ・カーン、そしてその娘である幼きハマーン・カーン。彼らは生き延びるために、周囲の小惑星やデブリ帯の再調査と資源採掘を必ず再開する。そうなれば、エリュシオンの防衛網との接触(衝突)は時間の問題だった。

 

「先手を打つわよ。外交官、あの『狐(マ・クベ)』が遺してくれた最高の一枚を持って、本家アクシズの御一行様にご挨拶に伺いなさい」

 

アステロイドベルト。小惑星アクシズの管制ブリッジ。

指導者マハラジャ・カーンと、まだ10代前半の少女でありながら卓越したプレッシャーを放つハマーン・カーンは、連邦軍の追手なき新天地に安堵しつつも、周囲のデブリ帯の過酷さに険しい表情を浮かべていた。

 

「父上、周辺のデブリ帯のスカウト部隊から通信が入りました。……奇妙な、岩塊を発見したと」

 

ハマーンが呟いた、その瞬間だった。

ブリッジのメインスクリーンに映し出されていた「ただの細長い宇宙デブリ」が、突如として不気味な金属音を立てて滑らかに変形・延伸を始めた。

 

「な、何だ!? デブリが……変形している!?」

 

マハラジャが驚愕の声を上げる。

彼らの眼前に現れたのは、ムーバル・フレームを応用してデブリ形態から完全な戦闘形態へとトランスフォームした、エリュシオンの隠密輸送艦『レムレス』だった。

さらに、アクシズの周囲に漂う数千の鉄屑や小石が一斉に真紅に発光。息を潜めていた下位眷属(従僕)たちが、宇宙空間を生身で跳躍し、アクシズの外壁警備を行っていたザクIIの全身に文字通り「肉の壁」となって取り付いた。

 

「通信が途絶! 外壁のザク部隊、沈黙! 爆発音も熱源もありません!」

 

「バカな、何が起きているのだ! 連邦の新型か!?」

 

パニックに陥るブリッジ。まだニュータイプとして覚醒しきっていないハマーンは、その背筋に、宇宙の物理法則を無視した「冷酷な、おぞましい捕食者のプレッシャー」を感じて息を呑んだ。

その混乱の極みの中に、レムレスから放たれた1条の通信回線が、アクシズのブリッジへ強制的に割り込んできた。

 

「ジオン公国残党、アクシズの皆様。……突然の無礼をお許しいただきたい」

 

スクリーンに映し出されたのは、連邦の軍服を脱ぎ捨て、エリュシオンの格式高い漆黒の礼服を纏った老外交官の姿だった。

 

「貴様らは何者だ! 連邦の狗か!」

 

マハラジャが怒声を浴びせる。しかし、老外交官は微動だにせず、1枚の電子暗号書類をホログラムとして空中へ投影した。

そこには、一年戦争中にオデッサのマ・クベ大佐、そしてジオン公国突撃機動軍司令であるキシリア・ザビ少将の「公式な電子署名と血判」が刻まれた、最高機密の裏協定書が映し出されていた。

 

「……ッ!? キシリア様の、署名……!?」

 

マハラジャとハマーンの動きが止まる。

 

「ご存知の通り、このアステロイドベルトの該当宙域は、一年戦争以前よりジオン公国突撃機動軍より『永久の不可侵領域』として我が国――エリュシオンに割譲されています。これは、ギレン総帥の目を盗み、キシリア少将がジオンの未来のために我が国と結んだ、絶対の血の盟約です」

 

老外交官の声は、冷徹で、寸分の隙もなかった。

 

「大戦に敗れ、行き場を失った貴方たちの境遇には同情します。小惑星アクシズでの居住も、私たちの領域を侵さない限りは黙認しましょう。……ただし」

 

老外交官の背後のハッチが開き、赤色のヘビーメタル――ディザードがその姿を現した。

ジーン・プラスチックの装甲が鈍く光り、スパロボ仕様のシステムが放つ、ガンダム世界の物理法則から逸脱した圧倒的な命中・破壊のオーラが、アクシズのセンサーを狂わせる。

 

「もし、飢えに狂って私たちの領域(デブリ帯)に1歩でも採掘船を入れ、あるいはこの存在を地球連邦軍へ密告しようとするならば……我が主(真祖の幼女)は、キシリア少将との約束を破棄。このディザード、独自のMS部隊、そして周囲に眠る数万の『不死の軍勢(眷属)』を以て、小惑星アクシズを内部から完全に『捕食・解体』します」

 

沈黙が、アクシズのブリッジを支配した。

ハマーン・カーンは、老外交官の横で静かに佇むディザードの圧倒的なオーラと、宇宙空間に漂う無数の「紅い眼(下位眷属)」を見つめ、これがハッタリではないことを本能的に理解していた。

彼らジオン残党は、今や補給もままならない敗残兵だ。ここで正体不明の「オーパーツ(HM)」と「不老不死の怪物たち」を敵に回せば、アクシズはネオ・ジオンとして産声を上げる前に、宇宙の藻屑となる。

 

「……分かった。キシリア少将の遺志、そして先遣の協定は尊重しよう。我々は、そちらの領域には一切手を付けん」

 

マハラジャは苦渋の決断を下し、不可侵の継続を承認した。

 

「賢明なご判断です。お互い、静かな老後(生存)を望む者同士、仲良くやりましょう」

 

老外交官は優雅に一礼すると、通信を遮断。『レムレス』は再び滑らかに変形し、ただの巨大なデブリ塊へと姿を変え、アクシズのセンサーから音もなく消え去った。

 

「ふぅ……。ハマーン・カーンのあのジロリとした目、怖かったわねぇ。さすがは未来の女帝だわ」

 

エリュシオンの最深部、玉座に座る6歳の真祖の幼女(おっさん)は、無事に交渉を終えた報告を聞き、合成血液のパックを置いて安堵の息を漏らした。

 

「アクシズ」の到来という最大の危機を、マ・クベとキシリアの遺産(外交カード)を使って完璧にコントロールし、アステロイドベルトにおける「絶対的な隣人関係(冷戦構造)」を構築することに成功した。

 

エリュシオンの諜報部「黒の触手」は、これからハマーンたちがアクシズの内部で進めるモビルスーツ開発(ガザCやキュベレイなど)や、地球圏への復讐計画を、特等席からすべて「盗み見」し、その技術をエレンたちにノーリスクで回収・解析させ続けることができる。

 

「本家アクシズが地球圏を引っかき回して、連邦とティターンズ、エゥーゴが潰し合っている間……私たちはここで、さらに完璧な自己完結型国家を成熟させるわ」

 

宇宙世紀0080年代の幕開け。

二つの「宇宙要塞」が並び立つ暗黒のアステロイドベルトで、気弱なおっさんのサバイバルは、世界の誰一人として気づかぬまま、神の領域の静寂へと、さらにその根を深く張り巡らせていくのだった。

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