孤高のディザード、吸血鬼の築く理想郷   作:うまみちゃん

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18.深淵からの視線、そして「本質」への回帰

「拠点が完璧に盤石となった今、次に私たちが目を向けるべきは、この宇宙世紀の歪みの根本――地球(テラ)だ」

 

宇宙世紀0080年代中期。地球圏がティターンズとエゥーゴの泥沼の抗争(グリプス戦役)へと突き進む中、ルクレツィアはエリュシオンの玉座で、手元に浮かび上がる青い地球のホログラムを冷徹に見つめていた。

エリュシオンの自給自足システムは限界まで完成し、福利厚生の整った楽園で、数千人の人間たちが幸福な亡霊として暮らしている。

しかし、おっさんの頭脳は、さらに100年、200年先を見据えていた。

 

「吸血鬼という種族は、人間がいてこそ成り立つ。そして人間という種族は、地球という揺りかごが死に絶えれば、いずれ宇宙のどこかで摩耗して全滅する」

 

ギレン・ザビが叫んだ選民思想も、シャア・アズナブルがのちに掲げる「地球の強制休息(コロニー落とし)」も、おっさんから見れば「人間の生存コストをただ引き下げるだけの、短絡的で無能な自殺行為」に過ぎなかった。

人間を絶滅させては、真祖の血を引く自分たちの未来もない。ならば、誰にも知られぬ裏側から、戦争で汚れきった地球環境の再生と、人間を「最高品質の家畜(あるいは同胞)」として維持するための土壌を作らねばならない。

 

「エレン、研究チーム。単独で大気圏を突入・離脱できる、連邦のホワイトベースを凌駕する『強襲極秘揚陸艦』の建造計画を始動しなさい。……私たちが、秘密裏に地球へ降り立つための翼よ」

 

隠密揚陸艦『レムレス・テラ』の建造

 

ルクレツィアの命令を受け、エレン率いる技術部門、そして一年戦争の激戦から「収穫」された超一流の宇宙世紀の造船学者たちは、HMの技術をさらに極限まで応用した新型戦艦の設計に没頭した。

彼らが5年を費やして組み上げたのは、ホワイトベースのような白亜の巨体ではない。大気圏突入時の摩擦熱を完全に吸収・歪曲する、漆黒の複合装甲で覆われた、不気味なトビエイのようなシルエットを持つ巨大艦だった。

 

エリュシオン級隠密重揚陸艦『レムレス・テラ』

 

1. 大気圏突入・離脱を可能にする「ムーバル・フレーム構造」

船体全体が巨大なムーバル・フレームで構成されており、大気圏突入時には、可変機構によって船体を極限まで流線型の「エアロ・ダイナミクス形態」へと変形させる。宇宙世紀の戦艦が耐熱フィルムやバリュートを必要とするのに対し、この艦はHMの骨格理論に基づいた熱量分散システムにより、完全に単独で、しかも「摩擦の光すら出さずに」大気圏を突破することが可能だった。

 

2. 地球上での隠密飛行と「熱源完全遮蔽」

地球降下後は、ミノフスキー・クラフト(一年戦争時に連邦から盗み出したV作戦のデータをベースに、エレンたちが独自に小型・超効率化させたもの)を展開。

大気圏内での推進には、従来の熱核ジェットのような凄まじい排気音や熱線を放つエンジンではなく、大気そのものを艦内に吸入し、電磁的に超高圧噴射する「冷式電磁推進(MHDドライブ)」を採用した。これにより、地球上のいかなるレーダー、熱源探知にもかからない、完璧なステルス性能を手に入れた。

 

艦内には、地球環境を再生するための「高分子テラフォーミング物質(水質浄化剤や特殊植物の種子)」の大量貯蔵庫と、ルクレツィアのディザード、そして独自のMS部隊が完全に配備されていた。

 

地球降下作戦:亡霊、神話の土地へ

 

宇宙世紀0087年。ティターンズがコロニーに毒ガスを注入し、地球圏が最大の狂気に沸き立っているその瞬間。

アステロイドベルトから放たれた『レムレス・テラ』は、誰のセンサーに引っかかることもなく、音もなく地球の影へと滑り込んだ。

 

「これより大気圏突入。変形機構、正常。熱量分散、問題なし。……お姉様、いつでもいけます」

 

ブリッジでリリィが冷徹に報告する。

コックピットではなく、戦艦の豪華な司令席に腰掛けた6歳の真祖の幼女は、窓の外で真っ赤に燃え上がるはずの大気圏の摩擦熱が、漆黒の装甲によって「ただの冷たい波紋」のように吸収されていく光景を見て、深く満足そうに頷いた。

 

「素晴らしいわね、エレン。連邦軍が総力を挙げて開発したペガサス級(ホワイトベース)ですら、これほどの静寂(サイレンス)は実現できなかったわ」

 

レムレス・テラは、摩擦の閃光も、ソニックブームの爆音も一切立てず、深夜の太平洋上空へと「音もなく溶けるように」降下を完了した。

 

ルクレツィアたちが目指したのは、連邦政府の利権が渦巻くジャブローでも、ティターンズの拠点でもない。戦争の汚染が最も激しく、連邦からも見捨てられた「アマゾン奥地の不毛の地」や「重金属で死に絶えたかつての海洋」だった。

 

夜陰に乗じ、レムレス・テラの底部ハッチが静かに開く。

 

発艦したのは、エリュシオン独自の黒いMS部隊、そして彼らを前線で指揮するルクレツィアのディザードだった。ディザードは装備された強化パーツのスパロボ的恩恵により、地球の重力下であっても関節の摩耗やエネルギーの減衰を一切起こさない、完全なトップパフォーマンスを維持している。

 

「MS各機、テラフォーミング・カプセルの散布を開始。抵抗する野生動物や、連邦のパトロールが万が一接近した場合は確実に撃墜しなさい。絶対に熱源戦(ビームの応酬)は起こさないこと」

 

おっさんの指示の下、黒いMSたちは巨大なシリンダーを大地に突き刺していった。

カプセルから放出されたのは、エリュシオンの遺伝子工学者たちが開発した「宇宙世紀の汚染物質を分解する特殊ナノ菌床」と、砂漠化した土地を数ヶ月で緑化させるクローン植物の種子だった。

 

さらに、ルクレツィアは諜報部「黒の触手」を使い、連邦の横暴によって地上で餓死寸前になっていた「孤児の子供たち」や「貧民層の人間」を、誰にも気づかれぬように夜の闇から数十人ずつ『レムレス・テラ』の艦内へと収容(救出)していった。

彼らは、エリュシオンの福利厚生の整った楽園へと運ばれ、新しい「エリュシオンの民間人(最高品質の人間)」として育成される。

 

「ふふ、人間は地球を汚すことしかしないけれど……私たちが適切に管理し、育て直してあげれば、これほど甘美で、優秀な『果実』はないわね」

 

隣に立つリリィが、真紅の瞳を妖しく光らせて微笑む。ルクレツィアもまた、自分たちが生き延びるための「牧場(地球)」を裏から手入れする悦びに、小さな口元を緩めていた。

連邦とジオン(アクシズ)が、宇宙世紀という狭い箱庭の中で覇権を巡って醜い殺し合いを演じているその真下で。

 

スパロボの遺物たるディザードと、単独で地球を往復する幽霊戦艦を手に入れた真祖の幼女は、地球そのものを自分たちの「揺りかご」として裏から作り替えるという、あまりにも壮大な『真の絶対聖域化計画』を着実に進めていくのだった。

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