孤高のディザード、吸血鬼の築く理想郷   作:うまみちゃん

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2.遭遇、そして「おっさん」の交渉術

「目指すべきは、たった一人、あるいは最小限の理解者だけで完結する『絶対的な聖域』だ」

 

コロニーの暗い隔壁を進みながら、彼はディザードのコックピット内で、自身の遠大な生存戦略――「孤立無援の自己完結型拠点」の建設を思い描いていた。

 

宇宙世紀0010年。あと数十年もすれば、地球圏は一年戦争、グリプス戦役、第一次・第二次ネオ・ジオン抗争という、逃げ場のない戦火の渦に巻き込まれる。連邦にもジオンにも属さず、真祖の幼女という異形であり、修理不能なヘビーメタルを駆る自分が生き延びる道は一つしかない。

 

小惑星、あるいは放棄された未登録の密閉型コロニーを確保し、外部からの補給を一切必要としない、文字通りの「城」を築くことだ。

彼にはそのための絶対的なアドバンテージが揃っていた。

 

* メンテナンスフリーの乗機:ナノマシンによる自己修復パーツにより、ファクトリー(工場)やドック、交換部品の備蓄が不要。

* 真祖の肉体:通常の人間が必要とする「莫大な食料」「酸素」「膨大なバイオマス維持システム」がほぼ不要。必要なのは、定期的な「血(あるいはそれに代わるエネルギー)」のみ。

* おっさんの現実的な視点:ロマンや大義名分に踊らされず、徹底して「生存コストの削減」と「隠蔽」にリソースを割く。

 

「まずは、この目の前の熱源だ。拠点の『土台』となる情報と初期物資を、彼らから毟り取る」

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ディザードのライトが、コロニー内部の退色したエアロックを照らし出す。そこに係留されていたのは、連邦軍の旧式作業艇だった。船体に描かれた識別番号は削り取られ、いかにも「軍の横流し品」といった佇まいを見せている。

 

「……おい、嘘だろ。あれはなんだ?人型のロボット!?」

 

作業艇のオープンチャンネルから、取り乱した男の声がスピーカーに響いた。

彼らが驚愕するのも無理はない。宇宙世紀0010年において、まだ全高18メートル級のモビルスーツは一般に普及していない。ましてや、細身でありながら禍々しい威圧感を放つディザードのシルエットは、この世界の住人から見れば「未知のバケモノ」だった。

 

「……こちら、ディザード」

 

彼は、喉のチャイルド・ボイスを意識して低く、しかしおっさんとしての冷静さを失わないトーンで回線を開いた。

 

「驚かせてすまない。私は……ただの迷子だ。機体の性能に関しては、機密につき答えられない。要求は二つ。そちらの『不要な血液パック』を分けてほしい。それと、この海域(宙域)の正確な航路データだ」

 

「子供……!? ガキがそんなもん乗ってんのか!」

 

作業艇の乗員は、スピーカーから流れる6歳児の声と、目の前に佇む巨大人型兵器のギャップに混乱している。

だが、彼らはプロの密輸業者、あるいは軍の汚職グループだ。すぐに「高く売れる機体」という強欲が勝り、作業艇のクレーンアームが不穏な動きを見せた。

 

「ガキがハッタリ言ってんじゃねえぞ! その機体、大人しく置いていきな!」

 

「はぁ……。これだから、まともな対話は期待できないんだ」

 

コックピットの中で、幼女の顔をしたおっさんが深くため息をついた。

気弱な彼は暴力が嫌いだ。しかし、それ以上に「自分の生存を脅かされること」を嫌悪していた。

 

ディザードの操縦桿を、小さな白い手が滑らかに押し込む。

『スーパーロボット大戦』仕様。それは、通常の物理法則を超えた「システム的な絶対性」を意味する。

作業艇が放った牽引ワイヤーが、ディザードの右腕に絡みついた。火花が散る。だが、その瞬間にはすでに、ナノマシンが装甲の摩擦傷をリアルタイムで融解・再結合し、無傷のまま弾き返していた。

 

「何っ!? 傷一つ付かねえぞ! どんな装甲してやがる!」

 

「無駄だ。この機体の装甲は、君たちの世界の熱線兵器でもなければ融けもしない」

 

ディザードの前腕部に装着されたパワーランチャーの銃口が、作業艇の「推進ノズルだけ」を正確に捉えた。

スパロボ仕様の補正が入ったシステムは、驚異的な命中精度を弾き出す。

 

ズサァァァン!

 

宇宙空間のため音は響かない。だが、閃光と共に作業艇のメインスラスターだけが綺麗に蒸発した。

完璧な無力化。爆発に巻き込まず、中の人間を殺さず、ただ「逃げも隠れもできない肉塊」へと変える。

 

「ひ、ひぃぃっ!」

 

「言ったはずだ。私はただの迷子で、交渉がしたいだけだと。……さあ、ハッチを開けて、血液パックを持ってきてくれないか? 私の我慢強さは、これでもう限界なんだ」

 

モニターに映るディザードのカメラアイが、冷酷に赤く明滅する。

それは同時に、彼女の肉体が限界を迎えているサインでもあった。犬歯が疼き、視界が血の赤色に染まりかけている。

生存圏を築くための、最初の人材と物資の確保。

気弱な真祖のおっさんは、静かに、そして冷徹に、作業艇へとその小さな足を踏み出そうとしていた。

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